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第1章

第18話、ボクっ娘にはショートパンツ

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 俺は買い物をする際、ある程度色々なものを見たうえで購入に踏み切るタイプである。

 そんなこんなで刃物の類いを取り扱う刀剣屋から始まったウインドウショッピングは、甲冑屋、魔法マジックアイテムショップときて、多種の洋服に靴とバックまでの布製品から革製品までを取り扱っている、最後の訪問先である雑貨屋に来ていた。
 ちなみにここへ着いた頃には陽がだいぶ傾いていた。

 店内はというと、他のお店と同じくらいでそこそこ広いんだけど、置けるだけ商品を置いてるようで通路は明らかに他と比べて狭い。
 また入店してから真琴とは別行動をして見て回っていたのだけど、ちょうどブーツコーナーのところで真琴と合流を果たす。

「やぁ、おかえり!」

「あぁ、ただいま」

 そんな他愛のないやり取りを交わしていると、真琴がニシシッと嬉しそうに笑みを浮かべる。

「で、キミの方は何かめぼしいものでも見つけたかな? 」

「うんにゃ、やっぱり買えるのは靴だけになるかな? 」

「そだね、色々とお店を見て回ったわけだけど、剣や甲冑の類いは安い物で3万ルガからだったからね」

 真琴が目の前に陳列されているブーツのひとつを手に取る。

「靴なら高くてそれぐらいで、安ければこんな感じで2000ルガ台もあるしね」

 つま先から膝下まであるその黒のブーツは、デザインはシンプルだけどガッチリとした作りで、脚に密着固定するための靴紐も太くてしっかりとしている。

「それいいな、俺はそれにしようかな」

「じゃ、ボクはこのワンポイント入ったこれにしよっ」

 真琴が新たに手に取ったのは、先ほどのブーツのくるぶし付近に銀狼の刺繍が入り、黒の生地の一部にこれまた銀色が入った、ちょっとお洒落な感じのブーツである。
 俺のが3280ルガで真琴のが3980ルガで、これらを購入したら残金は8330ルガになるわけか。
 いけるな。

 そこでセールの文字が書き込まれている値札が目に入った。
 安くなって5280ルガとか、どれだけの良品なんだろう——

 何気なく値札の紐を辿るようにして視線をその商品に移すと、それは紺のチェック柄のショートパンツであった。

 ショートパンツ。

 ここでちょっと告白をするけど、俺は女の子が履くショートパンツが大好きだ。
 ただ長さが短すぎてお尻が見えそうなのが良いと言うわけではなく、股下10センチ前後くらいの長さで全体のコーディネイトを崩さずに絶妙なバランスを作り出すショートパンツが、可愛いらしくて大好きなのだ。
 そう、ショートパンツとは女の子の可愛さを引き立たせるアイテムなのである。
 だから決してエロい目線で良いと言っているのではない。

 そしてこのショートパンツ好きは、気が付いた時には既になっていた。
 それは幼い真琴がいつもそれを履いていたからかもしれないし、そうじゃないかもしれない。

 ただこれだけは言える。
 真琴はショートパンツが凄く似合うと思う。
 ここ数年は履いている姿を見たことがないが、脳内では何度もイメージをして確認をしているので間違いなく今も似合うはず。

 どうしたらまた履いてくれるようになるのだろうか?
 そこでヒョコッと俺の視界に真琴の顔が現れる。

「そんなにこのショートパンツを眺めて、どうかしたのかな? 」

「いや、似合うだろうなって思って」

「ふーん」

 そしてしばしの沈黙。
 咄嗟に聞かれたから気負わずに『似合う』って言っちゃったけど、後からだんだん恥ずかしさが込み上げてくる。
 今では真琴の顔がまともに見れない。

「合わせてみようかな? 」

 それはまさしく、神の声であった。

「えっ、いいの? 」

「ヒラヒラのミニスカートでダンジョンに行くのはどうかと思ってたからね。
 蹴りが出来ないのも戦力半減だし」

 そう言いながら値札を確認した真琴が、ショートパンツを手に試着室へと向かう。

 やっ、やったー!
 どうやらいい風が吹いているようだ。

 でも一応パンツが見えるの気にしてたんだ。
 よくクルクル回っているから、そこは気付けなかった。
 あの回転を不意にやられると、見たら失礼だと思ってても目に入ってしまうんだよね。
 これは男の本能みたいなもので、どうしようもないと思う。

 そして試着室から出てきた真琴。

 俺は言葉を失った。
 想像以上だったのだ。
 久しぶりに見たショートパンツ姿の真琴は、最高に可愛かった。

 豊満な胸に胸元のボタンが悲鳴をあげている紺のブレザーの下には、同系色でチェック柄のショートパンツ。
 そして神々しさを感じずにはいられない美しさに満ち溢れた太もも様がきて、膝下から下に伸びる銀色を取り入れた黒のブーツはスタイリッシュで細い脚にフィットしている。

 そこで真琴と目があう。

 しまった、口元が弛緩した状態でジロジロ見てしまっていた。
 どっからどう見ても、可愛さを愛する者ではなく、ただの変態にしか見えてない気がする。
 しかしそれだけ久々に見る真琴のショートパンツ姿は、俺の想像を超え脳内に衝撃を与える程の凄まじい破壊力であったのだ。

「どうかな? 」

 手を後ろで組み、恥ずかしそうに上目遣いで聞いてくる真琴。

 その可愛さに思わずゴクリと喉を鳴らし、身体を固めてしまう。
 そしてまた恥ずかしさが押し寄せてきた。

 だがしかし、俺は、……引かない!
 一歩も引かない!
 俺はショートパンツが大好きなんだ!
 真琴にこれからもずっと履いていて貰いたい!

「凄くいいよ、とても似合ってるよ!
 その格好で冒険しよう! 」

 捲したてるように言った。
 勢いに任せて言った。
 思いの丈を全て吐き出すように言った。

 明らかにショートパンツなんて冒険には必要なさそうだし、使えるブーツと比べておかしいぐらい高い値段設定であったけど、言ってやった!

 そこで真琴がジッとこちらを見つめ、ニヤリと笑みを浮かべる。

「もしかしてキミは、ショートパンツが好きなのかな? 」

 一瞬にしてグラつく。
 うっ、やっぱり恥ずかしい。
 でもここで、今ここで引いたらダメだと思う!
 もうヤケクソだ!

「好きですけど、なにか? 」

 結果超上ずった声になってしまったわけだけど、どうだ!
 開き直ってやったぞ!
 そうだ、好きでなにが悪いというのだ!
 俺は悪くない!
 人として、男として、正常な反応をしているだけなんだ!

「ふーん、それじゃ——」

 真琴が口元まで手のひらを持ってくると、唇を隠すように指を広げる。

「好きなだけ見てみる? 」

 なっ、なんだと!?
 いいの?
 いや、いやらしい気持ちはこれっぽっちも……あるわけなんだけど。
 でもまだ、それは刺激が強すぎるかもしれない。

「ただし、宿に帰ってからね」

「えっ? 」

 真琴はマントを羽織ると前を閉じたため、ショートパンツはおろかブレザーまで見えなくなる。

「それまでは、お・あ・ず・け」

 こうしてブーツ二足とショートパンツを購入した俺たちは、一部始終を遠くから見られていた店員さんの不機嫌な応対を受けて店を後にした。
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