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第1章
第19話、寛容なる闇の姫
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雑貨屋さんを出ると、すぐに扉の内からcloseの札が掛けられる。
もしかしてお店の人、なにか用事でもあったのかな?
店内にはなんだかんだで結構な時間いたので、万が一にでもお店の人が急いでたのなら、かなりの迷惑をかけてしまった事になる。
なので一応、すみません、と心の中で謝っておく。
外はと言うと、陽は完全に沈んでいる代わりに、満天の星空が広がっていた。視線をそのまま下へとズラす。
道の脇に等間隔で設置されている街灯には、赤や青、緑に黄、紫に橙と様々な明かりが灯り、道行く人たちをカラフルに染めていた。
あの街灯の光源って、やっぱり魔法の光なんだろうな。綺麗だなーと見惚れていると、急にお腹が空いてくる。
「よし、酒場に行くとするか」
うんと頷く真琴。
そして並んで歩き始めたのだけど、この街を訪れてから初めて、人前だと言うのに真琴が俺の手に指を絡めてきた。
それで咄嗟に真琴を見てしまったわけなのだけど、真琴は俺が見ている事に気付いていないのか正面を向いている。
ちなみに表情はフードに隠れて見えない。
「まこ——」
「はぐれたらいけないからね、それに暗くなったら手を繋いでても目立たないと思うし! 」
突然こちらを向いた真琴が、言い訳を言うようにして早口で言った。
言われて辺りを見回す。
暗くなって間もないからなのだろう。道行く人はまだまだ多い。
たしかに互いにフードを被ってるわけだし、一度離れてしまうと見失う可能性が高そうだ。
それに急激に気温が低くなってきているようで、柔らかな真琴の手の温もりが心地よい。
えーと、……よし!
気恥ずかしいけど少しだけ、ほんの少しだけ、握る手に力を込めてみる。
するとそれに反応した真琴も少しだけ力を入れてきた。そして今度は真琴が、身体を折って前傾姿勢になると下から覗き込むようにして俺のフードの中へ視線を送ってくる。
俺はそれに気がつかないフリをしながら、目的地である酒場を目指した。
実はお昼を食べた時、その酒場が夜になるとお得なディナーセットをやっているのは確認済みであり、ルルカにもそこが値段が安くオススメであるとお墨付きを貰っていた。
こうして向かう途中、道の両脇に並ぶお店がどんどんと閉まっていき、それに伴い街灯と一緒になって通りを照らしていた明かりが、ポツンポツンと消えていく。
逆に今も爛々と光を放つお店は、遅くまで営業をする飲食関係のお店なのだろう。
人の流れの一部がその光の中に消えていっている。
しかし当たり前の事なんだけど、24時間やっているコンビニみたいなとこはないんだろうな。
やっぱりなんだかんだで日本は恵まれた環境なのだと思う。
「——おかしな存在ね」
突然声がした、上方から。
それはどこか幼さの残る、ハスキーな少女の声。
見上げると民家の屋根の傾斜部分に、小柄な少女が立っていた。
年の頃は日本で言うなら中学生くらいかな?
「どういう事? 肉体は人間のようだし……」
そう独り言を続ける少女。
しかしこの子の格好って。
膝まであるとても長く艶やかな銀髪の頭頂部には、小さな王冠がちょこんと乗っている。
黒を基調とした華美な洋服には随所にリボンやレース、フリルが見られ、控えめのパニエで軽く膨らむ短い丈のスカートには十字架の装飾。
ひざ下丈の黒のハイソックスに、つま先の丸い光沢のある黒の靴。
そしてそれらを覆い尽くすようにして羽織る、漆黒で内側が真紅に染まるマントは夜風になびく。
これはゴスロリと王様をこねくり合わせたようなコーディネートだ。
そしてその服装を着こなして様になっている少女は、抜けるような白肌のため血管が透き出ており、整った顔立ちも相まって浮世離れした美しさを醸し出していた。
さらにその後ろの夜空には煌めく星の海。
少女を中心に広がるその幻想的な光景は、まるで一枚の絵画のようであった。
異世界って凄い!
こんな絵になる人が、普通に建物の上にいるんだ。
服装からして、魔法を使う人なのだろうか?
とその時、周りがザワザワしている事に気がつく。
あれ?
なんか周りの反応がおかしい?
道行く人も俺たちと同じようにその少女の姿を確認しているようだけど、一度見ると視線を逸らしそそくさとこの場から立ち去っていく。
「お母さん、あの人なーに? 」
「良い子は見ちゃいけません! 」
これは親子連れの会話。
「おいっ、あいつって! 」
「あぁ、さっさといくぞ! 」
冒険者風の人たちはもろに血相を変えて走り去って行く始末。
つまりこれって、少女の出で立ちがこの世界でも異質で、また彼女の存在を知っている人もいて、みんな関わり合いたくないから立ち去ってるって事、だよね?
しかも冒険者風の人たちが逃げる時点で、あの少女は触るな危険な存在!?
強者である真琴がいるとはいえ、不要なトラブルは避けたい。
俺たちも他の人たちと同じよう、この場を後にしなければ!
真琴の手を握り直し、強引に引っ張り駆け出そうとするのだが——
次の瞬間、屋根の上にいた少女が俺たちの進行方向上の石畳へと、音もなくふわりと舞い降りた。
そしてこちらへゆっくりと歩み寄ってくると、真琴に向かって語りかけてくる。
「ただの人間じゃないわね? あんた何者? 」
「キミこそ何者だい? と言うか、自己紹介は自分からするものって習わなかったのかな? 」
「バッカじゃないの?
なんで高貴な私があんたみたいな得体の知れないヤツに自己紹介するわけ?
あんたこそ何様よ! 」
「高貴? キミももしかして螺旋のなんたら言う奴なのかな? 」
「螺旋? あー螺旋の王族の血筋とか言ってる奴らの事?
たしかこの星の神もその一人だったわね。
私を群れないと行動できない奴らと一緒にしないで貰えるかしら? 」
とそこで突然少女が俯く。
そうして顔の全てを影で闇色に染め上げると、口をパカッと僅かに開きその口角を釣り上げる。
「それと、その事を知ってるあんた、本当に何者なの? 」
悪寒が走る。
蛇に睨まれた蛙のように、少女から視線が外せない。
しかしそれは一瞬で終わった。
真琴が俺を庇うようにして前に立ちはだかったから。
少女は続ける。
「どうやらこちら側の存在みたいだけど、それならこの私を知らないなんておかしいし——」
真琴がぷっと笑いを漏らす。
「なんでボクがキミの事を知らないといけないんだい? 」
対する少女はフッと鼻で笑う。
「まっ、あんたはその程度の存在って事よね」
そうして互いに互いを見下ろした。
正面同士なのに二人とも胸を反らして。
ある意味凄い光景だ。
「ところでキミは、この星で何をしているのかな? 」
「それは——、あんたには関係ないでしょ!
まっ、そこそこ力を持ってて得体はしれないけれど、奴らの仲間ってわけではなさそうね」
その時閃く。
何者かを知る手助けとしてソウルリストを確認してみてはと。
しかしすぐにその考えを改める。
この確認する行為って、初対面でいきなりするのは失礼に値するらしいのを思い出したから。
「まっいいわ。私は寛容なの。
邪魔さえしなければ生かしておいてあげるわ」
そう言うと少女の背後に闇が発生する。
アメーバーのように増大するその闇は、一瞬にして少女の身体に纏わりつき飲み込むと、次の瞬間には闇が晴れ少女の姿も掻き消えていた。
もしかしてお店の人、なにか用事でもあったのかな?
店内にはなんだかんだで結構な時間いたので、万が一にでもお店の人が急いでたのなら、かなりの迷惑をかけてしまった事になる。
なので一応、すみません、と心の中で謝っておく。
外はと言うと、陽は完全に沈んでいる代わりに、満天の星空が広がっていた。視線をそのまま下へとズラす。
道の脇に等間隔で設置されている街灯には、赤や青、緑に黄、紫に橙と様々な明かりが灯り、道行く人たちをカラフルに染めていた。
あの街灯の光源って、やっぱり魔法の光なんだろうな。綺麗だなーと見惚れていると、急にお腹が空いてくる。
「よし、酒場に行くとするか」
うんと頷く真琴。
そして並んで歩き始めたのだけど、この街を訪れてから初めて、人前だと言うのに真琴が俺の手に指を絡めてきた。
それで咄嗟に真琴を見てしまったわけなのだけど、真琴は俺が見ている事に気付いていないのか正面を向いている。
ちなみに表情はフードに隠れて見えない。
「まこ——」
「はぐれたらいけないからね、それに暗くなったら手を繋いでても目立たないと思うし! 」
突然こちらを向いた真琴が、言い訳を言うようにして早口で言った。
言われて辺りを見回す。
暗くなって間もないからなのだろう。道行く人はまだまだ多い。
たしかに互いにフードを被ってるわけだし、一度離れてしまうと見失う可能性が高そうだ。
それに急激に気温が低くなってきているようで、柔らかな真琴の手の温もりが心地よい。
えーと、……よし!
気恥ずかしいけど少しだけ、ほんの少しだけ、握る手に力を込めてみる。
するとそれに反応した真琴も少しだけ力を入れてきた。そして今度は真琴が、身体を折って前傾姿勢になると下から覗き込むようにして俺のフードの中へ視線を送ってくる。
俺はそれに気がつかないフリをしながら、目的地である酒場を目指した。
実はお昼を食べた時、その酒場が夜になるとお得なディナーセットをやっているのは確認済みであり、ルルカにもそこが値段が安くオススメであるとお墨付きを貰っていた。
こうして向かう途中、道の両脇に並ぶお店がどんどんと閉まっていき、それに伴い街灯と一緒になって通りを照らしていた明かりが、ポツンポツンと消えていく。
逆に今も爛々と光を放つお店は、遅くまで営業をする飲食関係のお店なのだろう。
人の流れの一部がその光の中に消えていっている。
しかし当たり前の事なんだけど、24時間やっているコンビニみたいなとこはないんだろうな。
やっぱりなんだかんだで日本は恵まれた環境なのだと思う。
「——おかしな存在ね」
突然声がした、上方から。
それはどこか幼さの残る、ハスキーな少女の声。
見上げると民家の屋根の傾斜部分に、小柄な少女が立っていた。
年の頃は日本で言うなら中学生くらいかな?
「どういう事? 肉体は人間のようだし……」
そう独り言を続ける少女。
しかしこの子の格好って。
膝まであるとても長く艶やかな銀髪の頭頂部には、小さな王冠がちょこんと乗っている。
黒を基調とした華美な洋服には随所にリボンやレース、フリルが見られ、控えめのパニエで軽く膨らむ短い丈のスカートには十字架の装飾。
ひざ下丈の黒のハイソックスに、つま先の丸い光沢のある黒の靴。
そしてそれらを覆い尽くすようにして羽織る、漆黒で内側が真紅に染まるマントは夜風になびく。
これはゴスロリと王様をこねくり合わせたようなコーディネートだ。
そしてその服装を着こなして様になっている少女は、抜けるような白肌のため血管が透き出ており、整った顔立ちも相まって浮世離れした美しさを醸し出していた。
さらにその後ろの夜空には煌めく星の海。
少女を中心に広がるその幻想的な光景は、まるで一枚の絵画のようであった。
異世界って凄い!
こんな絵になる人が、普通に建物の上にいるんだ。
服装からして、魔法を使う人なのだろうか?
とその時、周りがザワザワしている事に気がつく。
あれ?
なんか周りの反応がおかしい?
道行く人も俺たちと同じようにその少女の姿を確認しているようだけど、一度見ると視線を逸らしそそくさとこの場から立ち去っていく。
「お母さん、あの人なーに? 」
「良い子は見ちゃいけません! 」
これは親子連れの会話。
「おいっ、あいつって! 」
「あぁ、さっさといくぞ! 」
冒険者風の人たちはもろに血相を変えて走り去って行く始末。
つまりこれって、少女の出で立ちがこの世界でも異質で、また彼女の存在を知っている人もいて、みんな関わり合いたくないから立ち去ってるって事、だよね?
しかも冒険者風の人たちが逃げる時点で、あの少女は触るな危険な存在!?
強者である真琴がいるとはいえ、不要なトラブルは避けたい。
俺たちも他の人たちと同じよう、この場を後にしなければ!
真琴の手を握り直し、強引に引っ張り駆け出そうとするのだが——
次の瞬間、屋根の上にいた少女が俺たちの進行方向上の石畳へと、音もなくふわりと舞い降りた。
そしてこちらへゆっくりと歩み寄ってくると、真琴に向かって語りかけてくる。
「ただの人間じゃないわね? あんた何者? 」
「キミこそ何者だい? と言うか、自己紹介は自分からするものって習わなかったのかな? 」
「バッカじゃないの?
なんで高貴な私があんたみたいな得体の知れないヤツに自己紹介するわけ?
あんたこそ何様よ! 」
「高貴? キミももしかして螺旋のなんたら言う奴なのかな? 」
「螺旋? あー螺旋の王族の血筋とか言ってる奴らの事?
たしかこの星の神もその一人だったわね。
私を群れないと行動できない奴らと一緒にしないで貰えるかしら? 」
とそこで突然少女が俯く。
そうして顔の全てを影で闇色に染め上げると、口をパカッと僅かに開きその口角を釣り上げる。
「それと、その事を知ってるあんた、本当に何者なの? 」
悪寒が走る。
蛇に睨まれた蛙のように、少女から視線が外せない。
しかしそれは一瞬で終わった。
真琴が俺を庇うようにして前に立ちはだかったから。
少女は続ける。
「どうやらこちら側の存在みたいだけど、それならこの私を知らないなんておかしいし——」
真琴がぷっと笑いを漏らす。
「なんでボクがキミの事を知らないといけないんだい? 」
対する少女はフッと鼻で笑う。
「まっ、あんたはその程度の存在って事よね」
そうして互いに互いを見下ろした。
正面同士なのに二人とも胸を反らして。
ある意味凄い光景だ。
「ところでキミは、この星で何をしているのかな? 」
「それは——、あんたには関係ないでしょ!
まっ、そこそこ力を持ってて得体はしれないけれど、奴らの仲間ってわけではなさそうね」
その時閃く。
何者かを知る手助けとしてソウルリストを確認してみてはと。
しかしすぐにその考えを改める。
この確認する行為って、初対面でいきなりするのは失礼に値するらしいのを思い出したから。
「まっいいわ。私は寛容なの。
邪魔さえしなければ生かしておいてあげるわ」
そう言うと少女の背後に闇が発生する。
アメーバーのように増大するその闇は、一瞬にして少女の身体に纏わりつき飲み込むと、次の瞬間には闇が晴れ少女の姿も掻き消えていた。
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