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第2章
第5話、給仕人クロネディア、下
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手入れが行き届いた銀色の長い髪。
大きな瞳に長いまつ毛。
椅子に腰掛ける姿は、本当にお人形さんみたい。
「……闇のたゆたいし牙姫」
あっ、またやっちゃいました。
思わず声に出してしまったところで気がついちゃいました。
受付の仕事の癖が抜けきらずに、普段から勝手にソウルリストを見ちゃう癖。
でもこの人ごみの中でなら大丈——
えっ!?
かなりの距離なのに、椅子に座る少女と目が合いました。
それとあれ!?
目が離せない。
少女がこちらから目線を外さずに立ち上がります。少女の顔に影が射し、口がカパッと横に割れました。
「なによ、あんた? 」
そしてお人形さんみたいな少女からは考えられないくらいの、抑揚の無い平坦で底冷えしそうなほどの冷たい声が。
——あれ?
身体も動かない!?
それに私、汗をたくさんかいている?
そこで思い出します。
あの綺麗な少女の姿が、一度ダンジョン内で見かけたことがある、人外の雰囲気を醸し出していたあの美しい存在の後ろ姿、屈強な冒険者も黙るあの黒の魔女に似ていると。
それに尋常では付かなさそうなソウルリスト。
やっぱりすたすたとこちらに歩いてきている少女は、あの時に見た黒の魔女だと思います!
それをただ見ているだけの私は、ヘビに睨まれたカエル状態。
はわわぁ、ゆっくりとですけど、距離は刻一刻と無くなっていっています!
そこでなぜか、黒の魔女が顔をほころばせます。
「あははっ、あんた、ビビりすぎて動けないの? 」
心底嬉しそうにしていた黒の魔女でしたが、それは一瞬だけでまた表情を冷たいものへと戻します。
「でもそれは、私の底知れない力に気付いたって事。あんた中々やるみたいね」
「アズ、急に席を立ってどうしたの? 」
若い男、少年の声がすると、今度は黒の魔女の表情に優しさみたいなものが混じりました。
「この失礼な奴を、今から八つ裂きにするのよ」
「えっ!? 八つ裂き!? ダメだよそんなの!
それに揉め事は極力避けてって何度も言っているだろ! 」
「すぐに終わるけど? 」
「問題はそこじゃない!
って言うか、アズがその気なら、その、……今後アズとは絶対に口を聞かないよ! 」
「ふぅ、あんたは頑固だったわね。
……わかったわ、八つ裂きはやめておいてあげる」
なにかわかりませんけど、どっ、どうやら助かったようです。
そして私、かなり動揺していたのでしょう。
今になってやっと、この少年が新米冒険者のユウトさんだという事に気がつきました。
しかし親しげに話すユウトさんと黒の魔女、二人の間には何があるのでしょうか?
そこで視線を奥のテーブルへ向けます。
恋人である真琴さんの他に、浮世離れをした美しさと過激な露出で男女全てのお客さんたちの視線を集める事になっている女性までいます。
……これはもしかして、三角関係ならぬハーレム状態というものなのでは!
「あははっ、いい事を思いついたわ」
そこで腕を掴まれてしまいます。
見れば小柄な少女、黒の魔女でした。
黒の魔女は無理矢理踏ん反り返ると、口元に笑みを浮かべてから開きます。
「あんた、光栄に思いなさい。
これから私の身の回りの世話をさせてあげるわ」
えっ?
どういう事、なのでしょうか?
「なによ、どうしたのよ? 」
魔女はリアクションが出来なくて固まってしまっている私に対して、容赦なくグイグイきています。
「アズ、なんで君はいつもそう自分を中心に物事を考えるのかな?
それによく見ればこの人、ギルドの受付嬢さんだから、忙しくてアズのお世話なんて出来ないよ」
「大丈夫よ、まずは試用期間として一週間雇ってあげるから」
「そう言う問題じゃなくて——」
「彼女の名前はクロネディア=ルールルゥ。
年齢は21歳で165センチ58キロ、上から87、62、89で妄想癖が強い女性です」
「なっ!? 」
突然の私についての説明。
見ればあの露出が激しい女性が眼鏡をクイクイさせながら私の側に立っていました。
そして彼女はなおも続けます。
「5000万ルガの借金返済のために昼夜働いていて、2年で1000万ルガを返済しています。
それにクロネディアさん、あなたはこの星の色濃く出た人でもありますね」
色濃く出た人?
それよりこの綺麗な人、初めて会ったのになんでこんなにも私の事を知ってるのですか!?
するとまるで頭の中を読まれたかのような返答が、涼しげな声で返されます。
「調べていますので」
もしかしてこの人、どこかの国のスパイさんなのでは!?
そこで黒の魔女が笑い声を上げます。
「あははっ、ならその額で雇ってあげるわ!
それなら文句ないでしょ? 」
黒の魔女は私にではなく、ユウトさんに提案を投げかけました。
それに対してユウトさんが渋っていると、黒の魔女が私に小声で話しかけてきます。
「あんたもあの黒い頑固者になんとか言ってくれないかしら?
一週間ぐらい働けば、4000万だったっけ?
取り敢えずはそれだけ稼げればいいでしょ? 」
「えっ? 」
「これだけあればそれぐらいはあるんでしょ? 」
そう言いながら魔女が私にだけ見えるようにして身体で壁を作り手の平を上に向けると、一瞬だけその上に生まれた闇の中に多くの煌めきが見え隠れしました。
あの闇は見る限り空間魔法なんだと思うのですけど、その中に見えたのは一つ数百万はする宝石の山。
それに今の言い方だと——
「その、一週間後からのお給金は——」
「働き次第だけど、とりあえず頑張ったら一ヶ月にあの中の一つなんてどう? 」
「お嬢様、私の事はクロと呼び捨てにして下さい! 」
私はこうしてギルドの受付嬢とウエイトレスの仕事を、二つ同時に辞める事にしたのでした。
大きな瞳に長いまつ毛。
椅子に腰掛ける姿は、本当にお人形さんみたい。
「……闇のたゆたいし牙姫」
あっ、またやっちゃいました。
思わず声に出してしまったところで気がついちゃいました。
受付の仕事の癖が抜けきらずに、普段から勝手にソウルリストを見ちゃう癖。
でもこの人ごみの中でなら大丈——
えっ!?
かなりの距離なのに、椅子に座る少女と目が合いました。
それとあれ!?
目が離せない。
少女がこちらから目線を外さずに立ち上がります。少女の顔に影が射し、口がカパッと横に割れました。
「なによ、あんた? 」
そしてお人形さんみたいな少女からは考えられないくらいの、抑揚の無い平坦で底冷えしそうなほどの冷たい声が。
——あれ?
身体も動かない!?
それに私、汗をたくさんかいている?
そこで思い出します。
あの綺麗な少女の姿が、一度ダンジョン内で見かけたことがある、人外の雰囲気を醸し出していたあの美しい存在の後ろ姿、屈強な冒険者も黙るあの黒の魔女に似ていると。
それに尋常では付かなさそうなソウルリスト。
やっぱりすたすたとこちらに歩いてきている少女は、あの時に見た黒の魔女だと思います!
それをただ見ているだけの私は、ヘビに睨まれたカエル状態。
はわわぁ、ゆっくりとですけど、距離は刻一刻と無くなっていっています!
そこでなぜか、黒の魔女が顔をほころばせます。
「あははっ、あんた、ビビりすぎて動けないの? 」
心底嬉しそうにしていた黒の魔女でしたが、それは一瞬だけでまた表情を冷たいものへと戻します。
「でもそれは、私の底知れない力に気付いたって事。あんた中々やるみたいね」
「アズ、急に席を立ってどうしたの? 」
若い男、少年の声がすると、今度は黒の魔女の表情に優しさみたいなものが混じりました。
「この失礼な奴を、今から八つ裂きにするのよ」
「えっ!? 八つ裂き!? ダメだよそんなの!
それに揉め事は極力避けてって何度も言っているだろ! 」
「すぐに終わるけど? 」
「問題はそこじゃない!
って言うか、アズがその気なら、その、……今後アズとは絶対に口を聞かないよ! 」
「ふぅ、あんたは頑固だったわね。
……わかったわ、八つ裂きはやめておいてあげる」
なにかわかりませんけど、どっ、どうやら助かったようです。
そして私、かなり動揺していたのでしょう。
今になってやっと、この少年が新米冒険者のユウトさんだという事に気がつきました。
しかし親しげに話すユウトさんと黒の魔女、二人の間には何があるのでしょうか?
そこで視線を奥のテーブルへ向けます。
恋人である真琴さんの他に、浮世離れをした美しさと過激な露出で男女全てのお客さんたちの視線を集める事になっている女性までいます。
……これはもしかして、三角関係ならぬハーレム状態というものなのでは!
「あははっ、いい事を思いついたわ」
そこで腕を掴まれてしまいます。
見れば小柄な少女、黒の魔女でした。
黒の魔女は無理矢理踏ん反り返ると、口元に笑みを浮かべてから開きます。
「あんた、光栄に思いなさい。
これから私の身の回りの世話をさせてあげるわ」
えっ?
どういう事、なのでしょうか?
「なによ、どうしたのよ? 」
魔女はリアクションが出来なくて固まってしまっている私に対して、容赦なくグイグイきています。
「アズ、なんで君はいつもそう自分を中心に物事を考えるのかな?
それによく見ればこの人、ギルドの受付嬢さんだから、忙しくてアズのお世話なんて出来ないよ」
「大丈夫よ、まずは試用期間として一週間雇ってあげるから」
「そう言う問題じゃなくて——」
「彼女の名前はクロネディア=ルールルゥ。
年齢は21歳で165センチ58キロ、上から87、62、89で妄想癖が強い女性です」
「なっ!? 」
突然の私についての説明。
見ればあの露出が激しい女性が眼鏡をクイクイさせながら私の側に立っていました。
そして彼女はなおも続けます。
「5000万ルガの借金返済のために昼夜働いていて、2年で1000万ルガを返済しています。
それにクロネディアさん、あなたはこの星の色濃く出た人でもありますね」
色濃く出た人?
それよりこの綺麗な人、初めて会ったのになんでこんなにも私の事を知ってるのですか!?
するとまるで頭の中を読まれたかのような返答が、涼しげな声で返されます。
「調べていますので」
もしかしてこの人、どこかの国のスパイさんなのでは!?
そこで黒の魔女が笑い声を上げます。
「あははっ、ならその額で雇ってあげるわ!
それなら文句ないでしょ? 」
黒の魔女は私にではなく、ユウトさんに提案を投げかけました。
それに対してユウトさんが渋っていると、黒の魔女が私に小声で話しかけてきます。
「あんたもあの黒い頑固者になんとか言ってくれないかしら?
一週間ぐらい働けば、4000万だったっけ?
取り敢えずはそれだけ稼げればいいでしょ? 」
「えっ? 」
「これだけあればそれぐらいはあるんでしょ? 」
そう言いながら魔女が私にだけ見えるようにして身体で壁を作り手の平を上に向けると、一瞬だけその上に生まれた闇の中に多くの煌めきが見え隠れしました。
あの闇は見る限り空間魔法なんだと思うのですけど、その中に見えたのは一つ数百万はする宝石の山。
それに今の言い方だと——
「その、一週間後からのお給金は——」
「働き次第だけど、とりあえず頑張ったら一ヶ月にあの中の一つなんてどう? 」
「お嬢様、私の事はクロと呼び捨てにして下さい! 」
私はこうしてギルドの受付嬢とウエイトレスの仕事を、二つ同時に辞める事にしたのでした。
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