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第2章
第29話、合体についてヴィクトリアさんとお話し
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屍主を撃破した事で現れた階段、それは天井が高く幅広で、かなり長い下りの階段であった。
そんな石段を慎重に一歩ずつ踏みしめて降りていくのだけど、踏みしめるたび俺の脚には自身と背中にいる真琴の体重がのし掛かっていた。
しかし異世界に来てまだ数日、なんだかんだで俺も鍛えられているようで、背中に女の子一人いても全然苦ではないくらいの体力はついているようだ。
だがしかし、頭から煩悩を消せないでいるのは正直困っている。
ダンジョン内だと言うのに、真琴が疲労困憊でろくに動けずにいると言うのに。
……状況が状況だけに、仕方ないかな?
俺の首に腕を回し力なく全体重を預けてきている真琴は、張りのある双丘を俺の背中に押しつけている。
しかもその双丘は、一段下りるたびに俺の背中にプニュップニュッと引っ付いたり離れたりを繰り返している始末。
心を無にするべく頭の中で経文を唱え始めてみたのだけど、取って付けた脆弱なお経では耳元から聞こえる吐息と、背中に伝わる心地よい熱と感触により簡単に崩れ去ってしまっている。
えぇい、とにかく気を紛らわせないと!
とか考えていると、アズがまた鼻歌を歌い始めた。
アズさん、それは気は紛れるけどね、このダンジョン内だとかなり不気味だから自重してほしいです!
——そういえば先程の真琴の最強モード、ヴィクトリアさんは当然のように知っていたよね。
真琴と合体する直前、たしかまだ早いみたいな事を言っていたし。
おんぶをしながらも、首を捻り後ろを歩くヴィクトリアさんに視線を向ける。
「ヴィクトリアさん、さっきの真琴の最強モードですけど、あの時言った早いとは、どのような意味だったのですか? 」
「言葉の通りです」
ピシャリと言い切ると最後尾にいたヴィクトリアさんが俺の隣にまで来る。
「本来の予定では、幽体離脱をしやすくなっているユウト様の初めては、私が務める予定でした。
それは永きに渡り動きを見てきた私ならば、ユウト様の動き、さらには呼吸から心音まで合わせるのは容易いからです。
また練習のために意図して多少の動きのズレを起こしたとしても、私ならなんら問題ありませんので」
つまりあの合体は誰とでも出来るし、ヴィクトリアさんの思惑では、俺が遅かれ早かれこの特殊能力みたいな不思議な力を使いこなせるようになる予定だった、ってわけなのか。
……そう言えば初めて会った時に必要な時が来れば、みたいな事をヴィクトリアさんが言っていたけど、もしかしてこの合体の事だったのでは?
で多分、幽体離脱の件は——
「俺が幽体離脱しやすくなったって話ですけど、キッカケってやっぱり迷宮核に触れた時ですか? 」
「はい、そうです」
「そのようにお膳立てしたのは俺たちが弱いから、って事ですか? 」
「正確には違います。
悪鬼要塞に現れたユウト様が老紳士と心で呼んだ者、あれらが中々に手強いからです。
元々ダークネスさんが仲間になる予定はありませんでしたので、冒険を楽しむにしても当初真琴さん一人でその場を打開するだけの力は必須でした。
そこで使える力を探した結果、今回の合体しかなかったのですが——」
そう言うとヴィクトリアさんは眼鏡のフレームを摘むと、瞳を閉じ一呼吸を入れたのち口を開く。
「ただしこの合体という方法は過ぎた力、必要以上の強さとなってしまいますし、誰彼問わず使えるわけではありません」
「えっ、そうなんですか? 」
そして言って気がつく。
また心を読まれていた事に。
「あっ、ユウト様、申し訳ありませんでした。
その、凄く分かりやすく伝わってくるもので、つい」
たしかに俺、単純だから強く思ったり心の中で叫んでたりしてますからね。
「あの、読まれたくない気持ちを強くして頂けると、私でも心を読むのは難しくなりますので」
また俺の疑問に思っていた箇所を読んでくれて、きちんと回答をしてくれる。
ヴィクトリアさんって本当に律儀な人——いや、女神様か。
そして、ありがとうございますと心の中で御礼を言うと、ヴィクトリアさんからどういたしましてと同じく心の中で返ってくる。
すぐ隣にいるのに俺たち何やってるんだろ?
不意におかしくなりついつい心の中で喜怒哀楽の喜の部分が強くなっていると、ヴィクトリアさんが少しだけ微笑んだのち眼鏡をクイッと持ち上げる。
「脱線してしまいましたね、話を戻します。
……ユウト様の力を受け入れられるのは、ユウト様の言葉で言うならば我々女神クラスの力を秘めた者となります。
それより弱い力の者、クロネディアさんくらいでは、幽体のユウト様が触れても素通り、何も起こる事はありませんので心配されなくても大丈夫です」
なるほど、間違って他の人に触れた時、その人が激痛でショック死とかなったらやだなと思っていたけど、それなら一安心である。
ただ今の真琴の状態を見るに、危機が迫ったここ一番でしか使えない、超弩級の必殺技みたいな認識をしていたほうがいいだろう。
そうなると俺がその状況を判断して——
とそこでまた別の疑問が生まれてくる。
幽体離脱って、俺が毎回瀕死の状態にならないといけないのかな?
「今回の件もありますので、今のユウト様なら思えば抜け出す事は出来ます。
ただまだまだ咄嗟に抜け出す事は容易ではないですから、いつでも抜け出せるよう多くの練習をしておかれた方がよろしいかと」
「わかりました、ありがとうございます! 」
そして長い階段が終わった。
そこからは少しの通路が延び、さらにその先には開け放たれた部屋の扉が見える。
しかし真琴は相変わらずなので、ここから先はアズを中心に戦いが繰り広げられるのだろうけど——
アズさん、一発放ったら魔力すっからかんとかにならないですよね?
敵から逃げるようにして降り出した階段だけど、途中でアズが自信満々に任せなさいと言うもんだからこの部屋にも行ってみるんだけど。
俺の心配をよそに、アズの横顔は涼しいものである。
そして俺たちは部屋を覗ける、扉のすぐ手前へまできた。
どうやらここも——
かなりの広さの部屋、と言うよりホールと呼ぶに相応しい大きさの空間である。
うわっ……。
真っ先に目につく。
部屋の中、真正面の壁際に置かれた椅子に、研究者っぽい白衣に袖を通した男性の亡骸が座らされている事に。
その亡骸は伸び放題の頭髪にやつれた顔つきなのだが、左半身の上から下まで、至る所で白骨化が進んでいた。
「あれ、どう見ても怪しいわね」
言うと同時に、アズが闇ツララを出現させる。
「皆さん、ソウルリストを! 」
慌て叫ぶクロさんに促され確認する。
『TYPE-007ポルターガイスト、スペクター』
あの亡骸、やっぱり敵だったけどまたポルターガイストって出てるよ!?
とその時、白衣の亡骸に唯一残されたほうの右目が、ギョロリと動きこちらを見据えた。
そしてそいつの足元から青白い煙が次から次へと吹き出し始め、どんどんその煙は床へと広がって行く。
そう言えば、先のポルターガイスト戦で現れた青白いトンネル、たしか下の階から流れて来てたけど。
……もしかしてこいつが出していたのでは!?
そうこうしている内に、あっという間に部屋全体どころか、廊下の先までもが青白い煙に巻かれる。
足元まで!?
そして次の瞬間には部屋が境界線を失い廊下までをも引っくるめ、一つの大きな青白い渦へと変わってしまっていた。
そんな石段を慎重に一歩ずつ踏みしめて降りていくのだけど、踏みしめるたび俺の脚には自身と背中にいる真琴の体重がのし掛かっていた。
しかし異世界に来てまだ数日、なんだかんだで俺も鍛えられているようで、背中に女の子一人いても全然苦ではないくらいの体力はついているようだ。
だがしかし、頭から煩悩を消せないでいるのは正直困っている。
ダンジョン内だと言うのに、真琴が疲労困憊でろくに動けずにいると言うのに。
……状況が状況だけに、仕方ないかな?
俺の首に腕を回し力なく全体重を預けてきている真琴は、張りのある双丘を俺の背中に押しつけている。
しかもその双丘は、一段下りるたびに俺の背中にプニュップニュッと引っ付いたり離れたりを繰り返している始末。
心を無にするべく頭の中で経文を唱え始めてみたのだけど、取って付けた脆弱なお経では耳元から聞こえる吐息と、背中に伝わる心地よい熱と感触により簡単に崩れ去ってしまっている。
えぇい、とにかく気を紛らわせないと!
とか考えていると、アズがまた鼻歌を歌い始めた。
アズさん、それは気は紛れるけどね、このダンジョン内だとかなり不気味だから自重してほしいです!
——そういえば先程の真琴の最強モード、ヴィクトリアさんは当然のように知っていたよね。
真琴と合体する直前、たしかまだ早いみたいな事を言っていたし。
おんぶをしながらも、首を捻り後ろを歩くヴィクトリアさんに視線を向ける。
「ヴィクトリアさん、さっきの真琴の最強モードですけど、あの時言った早いとは、どのような意味だったのですか? 」
「言葉の通りです」
ピシャリと言い切ると最後尾にいたヴィクトリアさんが俺の隣にまで来る。
「本来の予定では、幽体離脱をしやすくなっているユウト様の初めては、私が務める予定でした。
それは永きに渡り動きを見てきた私ならば、ユウト様の動き、さらには呼吸から心音まで合わせるのは容易いからです。
また練習のために意図して多少の動きのズレを起こしたとしても、私ならなんら問題ありませんので」
つまりあの合体は誰とでも出来るし、ヴィクトリアさんの思惑では、俺が遅かれ早かれこの特殊能力みたいな不思議な力を使いこなせるようになる予定だった、ってわけなのか。
……そう言えば初めて会った時に必要な時が来れば、みたいな事をヴィクトリアさんが言っていたけど、もしかしてこの合体の事だったのでは?
で多分、幽体離脱の件は——
「俺が幽体離脱しやすくなったって話ですけど、キッカケってやっぱり迷宮核に触れた時ですか? 」
「はい、そうです」
「そのようにお膳立てしたのは俺たちが弱いから、って事ですか? 」
「正確には違います。
悪鬼要塞に現れたユウト様が老紳士と心で呼んだ者、あれらが中々に手強いからです。
元々ダークネスさんが仲間になる予定はありませんでしたので、冒険を楽しむにしても当初真琴さん一人でその場を打開するだけの力は必須でした。
そこで使える力を探した結果、今回の合体しかなかったのですが——」
そう言うとヴィクトリアさんは眼鏡のフレームを摘むと、瞳を閉じ一呼吸を入れたのち口を開く。
「ただしこの合体という方法は過ぎた力、必要以上の強さとなってしまいますし、誰彼問わず使えるわけではありません」
「えっ、そうなんですか? 」
そして言って気がつく。
また心を読まれていた事に。
「あっ、ユウト様、申し訳ありませんでした。
その、凄く分かりやすく伝わってくるもので、つい」
たしかに俺、単純だから強く思ったり心の中で叫んでたりしてますからね。
「あの、読まれたくない気持ちを強くして頂けると、私でも心を読むのは難しくなりますので」
また俺の疑問に思っていた箇所を読んでくれて、きちんと回答をしてくれる。
ヴィクトリアさんって本当に律儀な人——いや、女神様か。
そして、ありがとうございますと心の中で御礼を言うと、ヴィクトリアさんからどういたしましてと同じく心の中で返ってくる。
すぐ隣にいるのに俺たち何やってるんだろ?
不意におかしくなりついつい心の中で喜怒哀楽の喜の部分が強くなっていると、ヴィクトリアさんが少しだけ微笑んだのち眼鏡をクイッと持ち上げる。
「脱線してしまいましたね、話を戻します。
……ユウト様の力を受け入れられるのは、ユウト様の言葉で言うならば我々女神クラスの力を秘めた者となります。
それより弱い力の者、クロネディアさんくらいでは、幽体のユウト様が触れても素通り、何も起こる事はありませんので心配されなくても大丈夫です」
なるほど、間違って他の人に触れた時、その人が激痛でショック死とかなったらやだなと思っていたけど、それなら一安心である。
ただ今の真琴の状態を見るに、危機が迫ったここ一番でしか使えない、超弩級の必殺技みたいな認識をしていたほうがいいだろう。
そうなると俺がその状況を判断して——
とそこでまた別の疑問が生まれてくる。
幽体離脱って、俺が毎回瀕死の状態にならないといけないのかな?
「今回の件もありますので、今のユウト様なら思えば抜け出す事は出来ます。
ただまだまだ咄嗟に抜け出す事は容易ではないですから、いつでも抜け出せるよう多くの練習をしておかれた方がよろしいかと」
「わかりました、ありがとうございます! 」
そして長い階段が終わった。
そこからは少しの通路が延び、さらにその先には開け放たれた部屋の扉が見える。
しかし真琴は相変わらずなので、ここから先はアズを中心に戦いが繰り広げられるのだろうけど——
アズさん、一発放ったら魔力すっからかんとかにならないですよね?
敵から逃げるようにして降り出した階段だけど、途中でアズが自信満々に任せなさいと言うもんだからこの部屋にも行ってみるんだけど。
俺の心配をよそに、アズの横顔は涼しいものである。
そして俺たちは部屋を覗ける、扉のすぐ手前へまできた。
どうやらここも——
かなりの広さの部屋、と言うよりホールと呼ぶに相応しい大きさの空間である。
うわっ……。
真っ先に目につく。
部屋の中、真正面の壁際に置かれた椅子に、研究者っぽい白衣に袖を通した男性の亡骸が座らされている事に。
その亡骸は伸び放題の頭髪にやつれた顔つきなのだが、左半身の上から下まで、至る所で白骨化が進んでいた。
「あれ、どう見ても怪しいわね」
言うと同時に、アズが闇ツララを出現させる。
「皆さん、ソウルリストを! 」
慌て叫ぶクロさんに促され確認する。
『TYPE-007ポルターガイスト、スペクター』
あの亡骸、やっぱり敵だったけどまたポルターガイストって出てるよ!?
とその時、白衣の亡骸に唯一残されたほうの右目が、ギョロリと動きこちらを見据えた。
そしてそいつの足元から青白い煙が次から次へと吹き出し始め、どんどんその煙は床へと広がって行く。
そう言えば、先のポルターガイスト戦で現れた青白いトンネル、たしか下の階から流れて来てたけど。
……もしかしてこいつが出していたのでは!?
そうこうしている内に、あっという間に部屋全体どころか、廊下の先までもが青白い煙に巻かれる。
足元まで!?
そして次の瞬間には部屋が境界線を失い廊下までをも引っくるめ、一つの大きな青白い渦へと変わってしまっていた。
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