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第2章

第28話、シンクロ率100%

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 俺は怒る真琴に対してひたすら謝罪していた。
 しかしいくら謝っても真琴は許してくれないどころか、耳も傾けてくれない。

 どうしたら許してくれるのか?
 どうしたら耳を傾けてくれるのか?

 俺は考えに考えた。
 が答えは見つからずに時間と共に申し訳ない気持ちで一杯になり、自分で自分を追い込んでいってしまう。
 そして極限にまで心が疲弊した時、俺の思考が自動的にネガティブモードへとシフトしてしまう。
 いかに自分がダメダメなのかと。
 そしてダメダメをあらかた吐き出した時、何故そうなってしまったのかわからないけど、俺の意思に反し思考が暴走を——
 俺の方がいかにエロいのかと、真琴に対して語り始めてしまう。

 クラスにいる時、見ては失礼と思っているにも関わらず、椅子に座る真琴やクラスの女子が脚を組み替えるたびに、自然と視線が動いて太ももをチェックしてしまっていた事。
 体育祭のムカデ競争で後ろの女子が密着してきて彼女の胸が背中に当たってた時、表情には一切出さなかったけど内心喜んでいた事。
 また異世界にくる前、真琴から告白されてからトラックに轢かれるまでずっと、血が滾ってしまっており下半身の背伸びを鎮める事にかなりの労力を費やしていた事を。

 とそこで俺は気がつく。
 自身が恥ずかしさのあまり全身の毛という毛から火を吹き出すくらいの勢いでのたうち回りながら絶叫を上げている事に。

 そこでまた気持ちに変化が起こる。
 急速に元気を失っていく心。
 こんなにエッチな事を考えているのが伝わってしまったから、真琴に幻滅されて嫌われてしまうのではと。
 嫌だ嫌だ、真琴に嫌われたくない!
 でも怖くて顔を上げれない。
 そんな内に内に篭ろうとする閉鎖的な気持ちが次から次へと生まれては、ヘドロのようになりそれが心にへばり付いていく。
 そして胸が締め付けられ苦しみに救いの手を伸ばそうとした時、不思議な映像が流れこんできた。

 静寂に包まれた水面。そこに透き通った一滴の雫が落ちることにより、一つの綺麗な波紋を作る映像が。
 そしてそれと一緒に真琴から思考も流れ込んでくる。
『ボクも——』と。
 しかしその直後、真琴の思考に戸惑い、焦り、羞恥の気持ちが広がりをみせる中、別の映像が強制的に流れ始め——

『あっ、あぁ——』

『真琴! 』

 真琴が悲鳴に近い声を出していた時、俺は咄嗟に真琴の名を叫んでいた。
 そして続ける。

『真琴、本当に今回はゴメン!
 俺がバカすぎた。
 その件に対して言いたいことは色々あるだろうけど、今は戦闘中なんだ。
 今こうしている間も、アズとクロさんが屍と屍の間を高速で移動する敵を倒してくれている。
 俺たちは俺たちの役割を、果たそう! 』

 そう言うと俺は屍主を睨みつける。
 すると一呼吸あいて真琴から、

『——うん』

 と言う返答が暖かな色にのせて伝わってきた。
 こうして不毛な暴露タイムは終わりを告げ、俺たちは動き始める事に。
 真琴、取り敢えず立ち上がろう!

『うん』

『じゃ、ゆっくりいくよ? 』

『うん』

 そこからそろりそろりと、真琴が身体を動かし俺はそれに合わせて同じように動かしていく。
 真琴の動きから少しでもズレてしまうと軽く電流が流れる中、6回目のビリビリの後になんとか立ち上がる事が出来た。
 そして今回も、俺と比べて真琴はかなりの痛みを感じているようである。

『よし真琴、今度は掌底打ちだ! 』

『はぁはぁわかった、はぁはぁ』

『じゃ、いっせーの、せい! でいくよ! 』

『はぁはぁ、うん』

『喰らえ、いっせーの、せい! 』

『ひゃはっ』

 掌底打ちをしようとしたのだけど、痛みで真琴の呼吸が強制的に止まった。
 要は俺と真琴の掌底打ちのフォームやスピードがやってみると完全にバラバラであったのだ。
 結果、腕が伸びきる前に痛みが走り、掌底打ちは失敗に終わってしまった。

 くそっ! 
 こうなったら何度でも挑戦だ!
 しかし2回目も結果は同じであった。
 これ以上は真琴の負担が大きそうだし、あと数回の内に完全にシンクロさせる自信もない。
 いきなり行き詰まった。
 どうするべきか?

 そこで山が本格的に動き出す。
 どのように本格的なのかと言うと、かなりの振動をさせながら突然隆起を始めたのだ。
 いや、よくよく見れば、これは隆起なんてものじゃなかった。
 ただ持ち上げたのだ。
 自身の山みたいな殻を。

 ここにきて、初めて借り暮らしの屍主の正体がわかった気がする。
 あれはとんがっている山を持ち上げる存在、そう、こいつの正体は巨大なヤドカリであったのだ。
 勿論どっからどう見ても普通のヤドカリとはかけ離れすぎているんだけど。
 そしてそんな巨大ヤドカリが、持ち上がった山の下から沢山の脚をガサガサとみせながらこちらに向け動き始める。
 かなり遅いけど。

 しかし追いつめられていく状態は変わらない!
 どうする?
 真琴は先程の失敗の状態、相手に向けて腕を少し曲げている状態で荒い息を吐いている。
 そこで閃く!
 真琴は盗賊相手にどんな攻撃をしていた?
 それにその攻撃だと、動作が簡単なので恐らく互いにかなり近い動きが出来るのではないのか?
 威力が弱くても何発もお見舞いしてやれば良い話だし!

 俺の考えを読み取り、真琴がこれからの動きを理解したようだ。
 腕をそろりそろりと動かして、借り暮らしの屍主である山と真琴の右手を重ね合せるように固定する。

『またいっせーの、せい! でいくから』

『うん』

『じゃいくよ! 』

『うん』

 そこから俺と真琴の声が綺麗にハモる。

『『いっせーの、せい! 』』

 全くの同時に握りこんだ。
 それは今までのドタバタ劇が嘘だったみたいに、全くの同時と言うだけですんなりと身体が動いた。
 またその動作の一体感は、俺と真琴の魂の一体感でもあり、肉体との一体感でもあり、清々しさを感じると共に充足感も与えた。
 これを例えるならば、心地よい風。
 手の平から発生した心地よさを与える優しい風が、腕を伝い肩口まで来ると拡散した分弱まったが全身へも広がりをみせる。
 またその優しい風に吹かれた場所は、今までの痛みを忘れさせてくれた。
 これは例えるなら、戦闘中だと言うのに湯船に浸かっているようなリラックスした気持ちになってしまっている。

 そして俺たちが攻撃を行った相手、借り暮らしの屍主はと言うと、部屋全体の空気を震わす程の破裂を起こしたあと、現在黒い霧となり霧散している最中である。
 そう一撃で倒していたのだ。
 しかも掌底打ちではなく、一回のただの握り込みにより。
 そしてその光景も凄まじかった。
 真琴が右手を握り込むと、重ね合せるようにしてあった借り暮らしの屍主も同じように凹んで行く。
 あんなに硬い屍が外皮としてある山が、それこそ豆腐のようにぐしゃりと、一瞬で。
 しかもそれだけではなかった。
 いびつな形になったあと、その凹んだ箇所から内へ引き摺られるようにして残された部分が吸い込まれ始めた。
 そしてその吸い込みの途中で限界がきたのか、屍主は破裂し黒い霧へと変わっていったのだ。

 圧倒的な攻撃力。

「今の敵に対して、一撃必殺の項目が適用されました」

 ぼーと惚けてしまっている頭にヴィクトリアさんの涼しげな声が響いた。
 すると思考がクリアになった真琴からも、

『——高ポイント獲得か。しかもユウトとの共同作業で、だからね』

 と歓喜の色と共に伝わって来る。
 しかし真琴、凄いな。
 なるほど、これが凄い神であったという真琴の力の片鱗。
 まさにソウルリスト『深淵の覚醒者』に相応しい、とてつもない強さである。

『ユウト様が真琴さんの力を引き出したのです』

 ヴィクトリアさんがそっと添えるように呟いた。

『いえいえ自分は足引っ張ってばかりで、そんな大層な事はしていませんってば』

 そして屍主が完全に消え去ったあと、部屋の反対側である壁の入り口、下へと続く石段があるのが確認出来た。

「あははっ、この先から濃い気配がビンビンするわね」

 つまりアズさん、その言葉の意味は今のやつより強い奴がいるって事ですよね?
 ——とその時、

『ビシャ、ビシャ』

 この部屋の入り口方面から、湿った足跡が複数聞こえ始める。
 見れば入り口のドアにかかっていた霧が消え、行き来が出来るようになっている。

 ここに居たら次から次へと現れる敵と、戦闘になりそうだ。
 今の真琴ならどんな敵が現れても怖いもの無しなんだろうけど、そろそろ真琴の身体にかかる負担も大きくなりそうだし、アズも今の戦闘で魔力消費しているだろうし。
 これから先は見極め、判断しなくていけないだろう。
 無理と判断したら、退却する事も含めて。

 ちなみに真琴との分離は無事成功した。
 俺の方はそんなに痛みは走らなかったんだけど真琴の方は激痛だったらしく、またその直後に襲われた疲労困憊により、真琴は指一本動かすのさえ大変そうな状態になってしまっていた。
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