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第3章

第6話、◆ 宿でヌリヌリ、ヴィクトリアバージョン③◆

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 とっ、とにかく頭が朦朧とする中でも最終確認!
 ヴィクトリアさんはぐったりと横たわっている。ロングドレスは乱れ上半身のほとんど、肩、鎖骨、胸、おヘソが見え隠れしているが、肌に小麦色に焼けたところはなく真っ白だ。仮に塗り残しがあったとしても、誤差の範囲だと思う。
 次は下半身のかくに——

「んん」

 そこでヴィクトリアさんが軽く寝返りを打った。そのためまた腕が乳房、そして更にもう片方の腕がスリットを隠すような位置で止まる。
 ん?
 また?
 そういえばパンティを脱がす時もタイミングよく寝返りを。……もっ、もしかしてヴィクトリアさん、さっきから起きているんじゃないのでは!?
 冷や汗が頬を伝う。
 つまり俺は、嫌がるヴィクトリアさんの腕を強引にどけ——

「うんん」

 するとまたヴィクトリアさんが軽く寝姿を変えたため、今度は逆に乳房やデルタゾーンがさらけ出される形に。俺は呼吸を止めいっときの間静観、固唾を飲みこみつつヴィクトリアさんの次の動向を伺う。しかし視線を送り続けたが、そこからは大きな動きはなかった。

 恥ずかしいのならわざわざもう一度見せるわけがないし、……俺の考えすぎ、気のせいか。
 ほっと胸をなでおろし、確認作業に戻る。
 下半身は同じくドレスが肌を隠すのに一役かっているが、そこから覗くスレンダーであるのにムッチリとした印象を与える太腿を包み込んでいた青紫色のタイツとブルマは、膝上辺りまで下がっている。

 あれ? 冷や汗たらり。
 なんかやってしまった感が半端ない。いや待てよ? このブルマとタイツは元に戻せる、のでは?
 はっ、早く起きないうちに元へ戻さないと!

『コンコン』

 突然のノック音!?
 ヴィクトリアさんのブルマを摘んでそっと上げている俺という人物がいるこの空間の、扉一枚隔てた向こう側に誰かが来てしまったようである!
 その身体を震わすほどの事実に、俺の視線が扉に釘付けとなってしまう。

「ユウトさん、ヴィクトリアさんの具合はどうですか? 」

 扉一枚隔てた向こう側からの声、……この声はクロさん!
 俺は視線を落としヴィクトリアさんの顔色を伺う。あまり大きな声を上げるとヴィクトリアさんが起きてしまうかもしれない。

「あれ? いないのかな? 」

 はっ、早く返答をしないと!

「だ、だいぶ良くなった、みたいです! 」

 俺はベットに横たわるヴィクトリアさんの、ブルマとタイツを摘んだ状態で微動だにせずに声を発した。しかし予想以上に小声になってしまったため、流石に伝わらなかったかもしれない。そこで俺は再度言い直そうとしたのだけど——

「あっ、そうなんですねー」

 え? 予想外に返答があった! そう言えばクロさん、黒猫の神秘獣耳《ケモフィリア》だから、耳が異常に良かったような。
 そこで生唾ごっくん。
 もしここでヴィクトリアさんが艶かしい声なんて出そうものなら、間違いなく聞かれてしまう! それに匂いも嗅がれたら危ない気がする。あとたしかダンジョン内では潜む敵の位置を正確に索敵してたし、隠し持った武器も分かるとか言っていたような——

 心臓の鼓動がバクバク鳴り続ける。焦りで手が震える。それでもやらなければ! 少しずつヴィクトリアさんのブルマとタイツを上げる作業を再開させた。

「あの、良かったら紅茶をいれましょうか? 」

 入室は絶対にダメだ!
 このヴィクトリアさんの状態を見られたら、どっからどう見ても寝ているヴィクトリアさんに俺が悪戯をしているようにしか見えない! なんとしてでも断らないと!

「いえ、大丈夫です! それとごめんなさい! 少し、少し仕上げに入るので、集中したいので、一人にして貰っても良いですか!? 」

 そこでなんとかヴィクトリアさんの下半身、ブルマとタイツは元に戻すことが出来た。
 この調子で次はこの、はだけたロケット型のおっぱいも出来るだけ服を直して布団でも被せておけば誤魔化せるはず!

「あっ、お邪魔してしまいすみませんでした! ——そうそう、みんなで少し街へ出る約束、お嬢様が早く出たいとうるさいので、先に見て回っててもよろしいですか? 」

「わかりました! 俺もすぐ行くので、アズにはそう伝えて下さい! 」

 なんとか、なんとか危機は脱したのか?

「わかりま——」

『んぁっ』

 突然の艶かしい声。
 しまった! ヴィクトリアさんの服を両サイドから引っ張り胸を隠そうとしていたのだけど、元よりその大きな胸を隠しきれず開いているドレスだった。それを無理やり前を閉じようとしたばっかりに、ドレスとぷっくら膨らむおっぱいの頂が擦れてしまい、ヴィクトリアさんが寝ながらにして声を上げてしまったのだ!
 そしてそのヴィクトリアさんの上げた声を後に、この世に静寂が訪れた。
 これはたまたま無言になっているわけではない。希望や勘違いが排斥された、間違いなくヴィクトリアさんの声を受けての無言ワールドである。

 ……。

 …………。

「おっ、お邪魔しました! 」

 その無言を切り裂くようにしてクロさんから発せられた言葉。明らかに何かを察している声色でもある。

「クロさん、これは違うのです! 」

 しかし俺の叫びは彼女には届かなかった。無情にも足音が遠ざかる音だけが響く。
 俺はそっとヴィクトリアさんに毛布をかけたあと、何も手につかずその場で固まってしまう。
 どうしよう? 完全に誤解された。誤解を解かないと。でも半分本当な事であって——

「……ユウト様」

 そのポツリと落とされた言葉により現実に引き戻される。
 そしてベットで仰向け状態で寝ているヴィクトリアさんに視線を向ければ、その瞳はレンズ越しに薄っすら開かれ一人天井を見つめていた。

「回復魔法、ありがとうございました。それともう一眠りしたいのですが、……一人にさせて頂いても宜しいですか? 」

 そして閉じられる瞳。

「わっ、わかりました! 」

 俺は部屋を飛び出ると階段を駆け下り、宿に設置されている井戸水を汲むと顔をバシャバシャと洗うのであった。
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