89 / 132
第3章
第14話、不憫
しおりを挟む
それは同時であった!
クロさんとライトニングが共に地を蹴り、前方に飛び出したのは。
そして二つの陰は、見る見るうちに間合いを詰めてすぐに交わる。
そこでヒュヒュッと、風切り音が連続で鳴り始める。
クロさんが切っ先を向けている左手のナイフを、手慣れた動きで連続突きしているのだ。
しかしライトニングは、それらをことごとく躱していく。
そしてクロさんが何度目かの突きを出した時、ライトニングの左ショートアッパーがクロさんのナイフを握る左手に直撃!
ナイフが真上に跳ね飛ばされた!
しかしクロさんに焦りの色はない。
からてになった左手を引き付けながら、クルリと背中を見せる形で時計回りに回転すると、逆手に持った右手のナイフでライトニングの虚を突く!
しかしライトニングは咄嗟に右腕を上げ、クロさんの死角から迫るナイフを防ごうとする。
「うおぁっ、危ねぇ! 」
ライトニングはクロさんの手首付近を受け止める事により完全にガードをしたのに、悲鳴のような声を上げた。
ん?
これって、……やっぱりそうだ!
クロさんは一見同じに見える二本のナイフを握っているように見えていたけど、実際は左右で長さが違うナイフを握っていたようだ!
つまりクロさん、長い方のナイフを右手で隠すように持ち、今までライトニングにその長さの違いを悟らせないようにしていたのだ。
そのため完全にナイフを受け止めていたはずのライトニングの喉元に、あと少しでナイフが突き刺さるところまで迫っていた。
と受け止められたクロさんの姿が沈んでいく。
そして次は先程と逆回り、反時計周りに回転しながら左脚の踵で地を這うような回し蹴りを放つ。
それをなんとか、狙われていた前足、左の足を上げて躱すライトニング。
そこでクロさんは頭上に上がっていたナイフがちょうど落ちて来たのでパシッとキャッチすると、そこから二本のナイフでの怒涛の連続攻撃を始める。
凄い連撃だ!
切り裂きジャックも舌を巻くであろう、滑らかな動きにこの手数。
しっ、しかしライトニングは、その全てを躱していっている!
「隙あり! 」
そこで防戦一方であったライトニングが動いた!
放たれる手刀。
それらがクロさんの両手首に決まっていく。
『カランカランッ』
溢れた二本のナイフ。
それを拾おうとするクロさんだったけど、そのナイフを踏みつけ立ちはだかるライトニングに邪魔されたため、一度後方へ飛び間合いを取った。
しかし今のライトニングの手刀、確かに早かったけどクロさんもかなりの実力者。
何でこうも綺麗に決まったのか!?
そこで身体を揺らして息をするクロさんに向かい、ライトニングがにこやかに話しかける。
「ムキになりすぎだぜ?
まー呼吸切れの状態でもバックステップ出来たのは、凄かったけどな」
なるほど、ライトニングはクロさんの攻撃が止まる一瞬の隙を突いて手刀をはなっていたのだ。
「で、獲物はなくなったわけだが、まだやるか? 」
と言うかこの軽薄な男ライトニング、言動や立ち振る舞いからは考えられない戦闘能力で、めちゃんこ強いんですけど!
……そう言えば、クロさんはS級冒険者と同等の強さと言っていたけど、つまりS級冒険者の人たちは、みんなこんなに強いという事に!?
汗を拭うクロさんが、ライトニングを睨みつける。
「ルールでは背中を付けたら負けのはず、まだまだです! 」
「精神力も強いか、……惚れ直したぜ」
「えぇい、うるさいです! 」
呼吸を整えたクロさんが、からてのまま駆ける。
おそらく昨日のように組み技を狙うのかも!
『バチバチッン! 』
えっ!
あれ?
今の音は?
——それにどこにいった!?
視界に入っていたライトニングから電流がスパークするような音がした瞬間、今までそこにあった姿が掻き消えてしまった。
いや、もしかして!
首を振りクロさんの姿を確認すると、クロさんは前のめりに倒れている最中であった。
そしてその斜め後方には、クロさんの首筋に手刀を見舞ったライトニングの後ろ姿が!
「これで終わりだぜ、っと」
そしてライトニングは、倒れるクロさんに手を伸ばし、後ろからお腹の辺りを抱きかかえる形で支えた。
「やっ、やりやしたね! 」
小男が歓喜の声を上げる。
「ユッ、ユウト、クロが負けちゃったわよ! 」
「あぁ、……負けた」
そして負けたと言う事実は、クロさんがライトニングの女になると言う事である。
……これって、やっぱりなんか違う気がする。
いくら賭けをした闘いであっても、やっぱりこんな結末は、周りが納得しても、……俺が納得しない!
わがままであると自分でも呆れてしまうけど、今の闘いを無かった事にしてもらわないと!
でもそれは、約束を反故にするわけだから、それ相当の代償は支払わないといけないわけであって——
俺の腕の一本や二本で勘弁して貰えるだろうか?
いや、そもそも俺の申し出を承諾してくれたとしても、再度勝負をして勝てるのだろうか!?
最初の攻防ぐらいのレベルなら、アズなら良い勝負になるかもと思っていたけど、最後のあの全く見えなかった動き、あんなに早く動かれては、流石のアズでもやばいかもしれない。
もし次も負けたら、今度はアズも危険な目にあうかもしれない。
そんな俺たちの心境を知ってか知らずか、ライトニングは苦笑をした。
「安心しな、半刻もすれば意識は回復するはずだ。
あとお前らが騒がなければ、俺はもう何もしないぜ」
「でも、クロさんを無理矢理連れて行くんでしょ! 」
「そりゃルールだからな」
くっ、やるしかないのか!?
俺に、俺に力があれば!
「なんてな、冗談だよ」
「……えっ? 」
「俺は本気でクロに惚れたんだ。
今回のバトルは口実だよ、口実。
だからクロはお前らが連れて帰っていいぜ。
でも俺は絶対に、クロを落としてみせるけどな!
そうそう、お前らの今後の予定と、スライムの木の在り処はちゃんと喋っていけよな」
なんか、このライトニングって人、実はクロさんが言ってたほどの悪い人じゃないのでは?
「うっ、うーん」
「うぉっ、もう目覚めたのかよ!? 」
驚くライトニングの腕の中で、クロさんが目をパチクリさせた。
「えっ、私は……もしかして負け——」
そしてクロさんが動いた事により、ライトニングの手がちょうどクロさん胸を鷲掴みする形に。
「あなたは、なにをしているんですか? 」
「待て、勘違いしてるぞ!」
『ぷにぷに』
俺は考える。
男は手が届くところに、意中の人の胸があればどうしてしまうだろうか?
俺もそこに真琴の胸があれば、同じくそうしてしまったかも知れない。
そう、ライトニングの反応は男の性なのだ。やってはいけないと思いつつも、ついついクロさんの胸を揉みしだいてしまうことは。
「はっ! 柔らかいけど違うんだ!
これは無意識であって——」
そこでクロさんの瞳が光彩を失う。
髪の毛は黒から白へと変わり、それと同時に毛が逆立った。
「いっ、色が変わった!? 」
困惑の声をあげるライトニング。
そして次の瞬間には、ライトニングは凄まじい勢いで、背中から石畳に叩きつけられていた。
「ぐぼぎゃっ! 」
クロさんの一本背負いが炸裂したのだ!
あれ?
これってもしかして——
「あははっ、ユウト勝ったわよ!
ルールでは背中を付けた方が負けだから、クロが勝ったわよ! 」
俺の肩に両手を置き、飛んではしゃぐアズ。
そこでクロさんの髪の色が元に戻り、瞳に光が灯る。
「えっ? これって? 」
目をパチクリさせるクロさん。
そこで事実を述べる。
「クロさんの勝ちです! 」
「わたし、勝ったのですか? 」
「はい! 」
そこでクロさんが、地面にめり込みピクピクしているライトニングに視線を落とす。
すると彼女は再度表情を失い、まるでゴミでもみるかのような視線になった。
「女の敵、最低です! 」
なっ、なんだろうこれ?
アズとクロさんが手を取り合って喜んでいる姿を見ながら考える。
さっきまでは憎い敵であったわけなんだけど、なんか急にライトニングが不憫に思えてきていたりする。
……あとで少し、ライトニングのフォローをしておこうかな。
クロさんとライトニングが共に地を蹴り、前方に飛び出したのは。
そして二つの陰は、見る見るうちに間合いを詰めてすぐに交わる。
そこでヒュヒュッと、風切り音が連続で鳴り始める。
クロさんが切っ先を向けている左手のナイフを、手慣れた動きで連続突きしているのだ。
しかしライトニングは、それらをことごとく躱していく。
そしてクロさんが何度目かの突きを出した時、ライトニングの左ショートアッパーがクロさんのナイフを握る左手に直撃!
ナイフが真上に跳ね飛ばされた!
しかしクロさんに焦りの色はない。
からてになった左手を引き付けながら、クルリと背中を見せる形で時計回りに回転すると、逆手に持った右手のナイフでライトニングの虚を突く!
しかしライトニングは咄嗟に右腕を上げ、クロさんの死角から迫るナイフを防ごうとする。
「うおぁっ、危ねぇ! 」
ライトニングはクロさんの手首付近を受け止める事により完全にガードをしたのに、悲鳴のような声を上げた。
ん?
これって、……やっぱりそうだ!
クロさんは一見同じに見える二本のナイフを握っているように見えていたけど、実際は左右で長さが違うナイフを握っていたようだ!
つまりクロさん、長い方のナイフを右手で隠すように持ち、今までライトニングにその長さの違いを悟らせないようにしていたのだ。
そのため完全にナイフを受け止めていたはずのライトニングの喉元に、あと少しでナイフが突き刺さるところまで迫っていた。
と受け止められたクロさんの姿が沈んでいく。
そして次は先程と逆回り、反時計周りに回転しながら左脚の踵で地を這うような回し蹴りを放つ。
それをなんとか、狙われていた前足、左の足を上げて躱すライトニング。
そこでクロさんは頭上に上がっていたナイフがちょうど落ちて来たのでパシッとキャッチすると、そこから二本のナイフでの怒涛の連続攻撃を始める。
凄い連撃だ!
切り裂きジャックも舌を巻くであろう、滑らかな動きにこの手数。
しっ、しかしライトニングは、その全てを躱していっている!
「隙あり! 」
そこで防戦一方であったライトニングが動いた!
放たれる手刀。
それらがクロさんの両手首に決まっていく。
『カランカランッ』
溢れた二本のナイフ。
それを拾おうとするクロさんだったけど、そのナイフを踏みつけ立ちはだかるライトニングに邪魔されたため、一度後方へ飛び間合いを取った。
しかし今のライトニングの手刀、確かに早かったけどクロさんもかなりの実力者。
何でこうも綺麗に決まったのか!?
そこで身体を揺らして息をするクロさんに向かい、ライトニングがにこやかに話しかける。
「ムキになりすぎだぜ?
まー呼吸切れの状態でもバックステップ出来たのは、凄かったけどな」
なるほど、ライトニングはクロさんの攻撃が止まる一瞬の隙を突いて手刀をはなっていたのだ。
「で、獲物はなくなったわけだが、まだやるか? 」
と言うかこの軽薄な男ライトニング、言動や立ち振る舞いからは考えられない戦闘能力で、めちゃんこ強いんですけど!
……そう言えば、クロさんはS級冒険者と同等の強さと言っていたけど、つまりS級冒険者の人たちは、みんなこんなに強いという事に!?
汗を拭うクロさんが、ライトニングを睨みつける。
「ルールでは背中を付けたら負けのはず、まだまだです! 」
「精神力も強いか、……惚れ直したぜ」
「えぇい、うるさいです! 」
呼吸を整えたクロさんが、からてのまま駆ける。
おそらく昨日のように組み技を狙うのかも!
『バチバチッン! 』
えっ!
あれ?
今の音は?
——それにどこにいった!?
視界に入っていたライトニングから電流がスパークするような音がした瞬間、今までそこにあった姿が掻き消えてしまった。
いや、もしかして!
首を振りクロさんの姿を確認すると、クロさんは前のめりに倒れている最中であった。
そしてその斜め後方には、クロさんの首筋に手刀を見舞ったライトニングの後ろ姿が!
「これで終わりだぜ、っと」
そしてライトニングは、倒れるクロさんに手を伸ばし、後ろからお腹の辺りを抱きかかえる形で支えた。
「やっ、やりやしたね! 」
小男が歓喜の声を上げる。
「ユッ、ユウト、クロが負けちゃったわよ! 」
「あぁ、……負けた」
そして負けたと言う事実は、クロさんがライトニングの女になると言う事である。
……これって、やっぱりなんか違う気がする。
いくら賭けをした闘いであっても、やっぱりこんな結末は、周りが納得しても、……俺が納得しない!
わがままであると自分でも呆れてしまうけど、今の闘いを無かった事にしてもらわないと!
でもそれは、約束を反故にするわけだから、それ相当の代償は支払わないといけないわけであって——
俺の腕の一本や二本で勘弁して貰えるだろうか?
いや、そもそも俺の申し出を承諾してくれたとしても、再度勝負をして勝てるのだろうか!?
最初の攻防ぐらいのレベルなら、アズなら良い勝負になるかもと思っていたけど、最後のあの全く見えなかった動き、あんなに早く動かれては、流石のアズでもやばいかもしれない。
もし次も負けたら、今度はアズも危険な目にあうかもしれない。
そんな俺たちの心境を知ってか知らずか、ライトニングは苦笑をした。
「安心しな、半刻もすれば意識は回復するはずだ。
あとお前らが騒がなければ、俺はもう何もしないぜ」
「でも、クロさんを無理矢理連れて行くんでしょ! 」
「そりゃルールだからな」
くっ、やるしかないのか!?
俺に、俺に力があれば!
「なんてな、冗談だよ」
「……えっ? 」
「俺は本気でクロに惚れたんだ。
今回のバトルは口実だよ、口実。
だからクロはお前らが連れて帰っていいぜ。
でも俺は絶対に、クロを落としてみせるけどな!
そうそう、お前らの今後の予定と、スライムの木の在り処はちゃんと喋っていけよな」
なんか、このライトニングって人、実はクロさんが言ってたほどの悪い人じゃないのでは?
「うっ、うーん」
「うぉっ、もう目覚めたのかよ!? 」
驚くライトニングの腕の中で、クロさんが目をパチクリさせた。
「えっ、私は……もしかして負け——」
そしてクロさんが動いた事により、ライトニングの手がちょうどクロさん胸を鷲掴みする形に。
「あなたは、なにをしているんですか? 」
「待て、勘違いしてるぞ!」
『ぷにぷに』
俺は考える。
男は手が届くところに、意中の人の胸があればどうしてしまうだろうか?
俺もそこに真琴の胸があれば、同じくそうしてしまったかも知れない。
そう、ライトニングの反応は男の性なのだ。やってはいけないと思いつつも、ついついクロさんの胸を揉みしだいてしまうことは。
「はっ! 柔らかいけど違うんだ!
これは無意識であって——」
そこでクロさんの瞳が光彩を失う。
髪の毛は黒から白へと変わり、それと同時に毛が逆立った。
「いっ、色が変わった!? 」
困惑の声をあげるライトニング。
そして次の瞬間には、ライトニングは凄まじい勢いで、背中から石畳に叩きつけられていた。
「ぐぼぎゃっ! 」
クロさんの一本背負いが炸裂したのだ!
あれ?
これってもしかして——
「あははっ、ユウト勝ったわよ!
ルールでは背中を付けた方が負けだから、クロが勝ったわよ! 」
俺の肩に両手を置き、飛んではしゃぐアズ。
そこでクロさんの髪の色が元に戻り、瞳に光が灯る。
「えっ? これって? 」
目をパチクリさせるクロさん。
そこで事実を述べる。
「クロさんの勝ちです! 」
「わたし、勝ったのですか? 」
「はい! 」
そこでクロさんが、地面にめり込みピクピクしているライトニングに視線を落とす。
すると彼女は再度表情を失い、まるでゴミでもみるかのような視線になった。
「女の敵、最低です! 」
なっ、なんだろうこれ?
アズとクロさんが手を取り合って喜んでいる姿を見ながら考える。
さっきまでは憎い敵であったわけなんだけど、なんか急にライトニングが不憫に思えてきていたりする。
……あとで少し、ライトニングのフォローをしておこうかな。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
357
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる