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第3章
第25話、神木二面樹
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全身をヌルヌルに濡らされたアズが地面に横たわる。
その瞳は光彩を失ってしまっており、
「——あははあっ、……あははっ」
と時折笑い声をあげていた。
アズが落ちた先である地面には、くすぐり地獄の後半戦が始まると同時に頭からぶっかけられた黄金に輝く液体が、そのまま落ち葉に阻まれる形で滞留しておりちょっとした水溜りみたいになっていた。
そのため落下の衝撃は緩和されたようだけど、起き上がろうとしているのか、もがくアズの全身は宙吊り状態の時よりさらにベチョベチョになっており、至る所で身体と水溜りの間で糸を引いてしまっている。
「女狐、よく耐えた! 」
握りこぶしを作り健闘を讃える真琴。
「ダークネスさん、お勤めご苦労様です」
眼鏡のブリッジに中指をいつものように当てながら、クールに語るヴィクトリアさん。
そしてアズに声をかけた二人は、既に前進を開始している。
そんな真琴たちのあとを後ろ髪を引かれるようにして歩き始めようとするクロさんが、一度足を完全に止めるとこちらに視線を送った。
「すみませんユウトさん。
これからお二方の案内をしないといけませんので、……お嬢様をよろしくお願いします! 」
「わかりました! 」
そうして俺は足元の落ち葉に隠れ潜むかもしれないトラップに注意をしながら、ゆっくりとだけどアズへ向けて進み始める。
しかしこれは——
時折ピクピクと軽い痙攣を起こしているアズ。
「あうあう、——ユウト? 」
そこでアズが近づく俺に気付いたようだ。
よかった、意識はある!
しかし俺に気付いた彼女は再度立ち上がろうとするも、地面に溜まる液で滑ってしまいその場でバシャンッと突っ伏してしまう。
「いま行くから! 」
そうしてアズの元へたどり着いた俺は、独り言を呟くアズを優しく抱き起こすと白濁球を乗せた手でアズの銀髪や白肌、そして黒のドレスとその中の下着にまで染み込んでしまっていたネバネバを落とすため、順番に直接手で触れていく。
すると他愛のない刺激だろうに、アズは過敏に反応をし身をくねらせた。
——しかしくすぐり地獄がまさかここまでの威力とは。
こんなものを体験したり見せつけられたりしたら、完全にトラウマものだから誰も好き好んでここに来ないのに納得である。
「ユウト、つた怖い、くねくね怖い、つた、怖い、つた、くねくね怖い」
俺にすがるアズは、うわ言を言いながら震えが止まらない。
俺は浄化の手を止めると、艶やかな銀髪の上に手を乗せてそっとアズを抱き寄せる。
「もう大丈夫だから、もう大丈夫だから」
それこそ呪文のように何度も唱え頭をなでなでしていると、不意にアズがこちらを見上げた。
「つた、もういない? 」
「あぁ、もう大丈夫だよ。悪夢は終わったんだ」
「よかっ……た」
そうして精根尽き果てたアズは、俺の胸の中で瞳を閉じた。
一瞬死んでしまったのではと焦ってしまったんだけど、すぐにスヤスヤ寝息をたて出したので安堵する。
しかし伊達に世界で二番目に歴史が長いダンジョンと言われるわけではない。
こんなボスを生み出すダンジョンだから、恐らくここの迷宮核にもそれ相応な物語がありそうである。
とそこで、前進をしている真琴たちが何やら騒がしい事に気付く。
それによく見てみると、ヴィクトリアさんの姿が……見えない!?
と思ってると、真琴とクロさんから少し離れたボスよりのところでヴィクトリアさんがスクリと立ち上がるのが見えた。
んっ?
どうなっているの?
「ヴィクトリア、なんで受け入れなかったんだ! 」
これは真琴の叫び。
「あぁはなりたくありませんでしたので」
振り返りアズを冷ややかな目で見据えながらそう述べたのはヴィクトリアさん。
つまりヴィクトリアさん、ツタを踏んで引っ張られる最中、身体に巻きついてきたツタを攻撃しちゃったっとかなわけ!?
『ビビュン! 』
その時遥か上方で風を切り裂く音が鳴った。
『ビュビュビュビュン! 』
風切り音が複数に増えた!
『ビュン!
ビュビュン!
ビビュビュビュン!
ビュビュビュビュン! 』
音は途切れる事がなくなり、しかも俺たちの頭上、真上からも聞こえ始めている。
嫌な予感がしながらも暗闇の空を見上げてみると、遥か上空にボス方面から伸びる何本ものツタがグネグネ動いているのが見えた。
これって、まじですか!?
つまりそれは、二面樹からここまで伸びる全長数キロにも及ぶ、長すぎるツタが動いている事になる。
確かにダンジョン内にまで根を張り巡らす超が付く程の大木であるけど、しかしこうして目の当たりにしてみると、ただただ圧倒されるばかりだ。
『バチイィィン! 』
突如その内の一本が、まるで中国の軟鞭のようなパワフルかつスピーディーな勢いで、ヴィクトリアさんたちの方へ落ちてきた。
しかし精度は低く、じっとしていてもカスリもしない見当外れの場所で、地面に堆積していた落ち葉が舞い上がるのみ。
それからも数度落ちてきたけど、そのどれもが同じように精度は低い。
闇雲に攻撃をしているのか!?
とそこから、風切り音と共に叩きつけられる音が倍増する。
これは——
舞い上がった落ち葉で視界が悪くなる程のツタの振り下ろし。
いくら精度が低いとはいえ、こんなに攻撃をされたら前進もままならない!
しかも恐らく一度でもその身に受けてしまえば、肉は裂け骨も砕かれてしまうだろう強烈な一撃。
現に個々に別れ各々ステップを踏み避けていっている真琴たちは、中々前進出来ないでいるようだ。
とそこで地鳴りがした。
続いてボスと俺たちのちょうど中間点の地面が少し持ち上がったかと思うと、まるでこのフロアが大海原のようにして地面がこちら側に向かい何度も波打つ。
アズを庇うようにして抱きかかえながら、その場でグッと踏ん張って堪えていると、すぐに地面の揺れはおさまったのだけど——
『ドバンッ! 』
すぐ目の前の地面の土が上方へ吹き飛んだ!
続いてそこから何かが、突き上げるようにして飛び出してくる!
これは、ツタ!
それも何本ものツタが束になり、ぐるぐる渦巻きながら柱のようにして上へと伸びていく。
周囲を見れば、ここからボスの間のガタガタに歪んでしまった地面にも、同じようなモノが次から次へと生えていく!
そしてそれらのツタで出来た柱の頭頂部には、お皿のような花が咲き、その上には緑色の光を放つ液体が染み出してきた。
あれはどこかスライムの木に似ているような気がするけど——
『バキバキッ、バキバキバキィイイ! 』
遥か遠くでけたたましい音が鳴り響いた。
そう、巨大なスライムの木もどきに薄っすらと照らされて、今度はボスの本体、巨木である二面樹の幹に、大きく縦に一本の亀裂が走ったのだ。
そしてその亀裂が開かれ現れたのは、縦長の巨大な一つの瞳。
そしてその瞳は、まるで血に濡れてしまっているかのような真紅に染まっていた。
その瞳は光彩を失ってしまっており、
「——あははあっ、……あははっ」
と時折笑い声をあげていた。
アズが落ちた先である地面には、くすぐり地獄の後半戦が始まると同時に頭からぶっかけられた黄金に輝く液体が、そのまま落ち葉に阻まれる形で滞留しておりちょっとした水溜りみたいになっていた。
そのため落下の衝撃は緩和されたようだけど、起き上がろうとしているのか、もがくアズの全身は宙吊り状態の時よりさらにベチョベチョになっており、至る所で身体と水溜りの間で糸を引いてしまっている。
「女狐、よく耐えた! 」
握りこぶしを作り健闘を讃える真琴。
「ダークネスさん、お勤めご苦労様です」
眼鏡のブリッジに中指をいつものように当てながら、クールに語るヴィクトリアさん。
そしてアズに声をかけた二人は、既に前進を開始している。
そんな真琴たちのあとを後ろ髪を引かれるようにして歩き始めようとするクロさんが、一度足を完全に止めるとこちらに視線を送った。
「すみませんユウトさん。
これからお二方の案内をしないといけませんので、……お嬢様をよろしくお願いします! 」
「わかりました! 」
そうして俺は足元の落ち葉に隠れ潜むかもしれないトラップに注意をしながら、ゆっくりとだけどアズへ向けて進み始める。
しかしこれは——
時折ピクピクと軽い痙攣を起こしているアズ。
「あうあう、——ユウト? 」
そこでアズが近づく俺に気付いたようだ。
よかった、意識はある!
しかし俺に気付いた彼女は再度立ち上がろうとするも、地面に溜まる液で滑ってしまいその場でバシャンッと突っ伏してしまう。
「いま行くから! 」
そうしてアズの元へたどり着いた俺は、独り言を呟くアズを優しく抱き起こすと白濁球を乗せた手でアズの銀髪や白肌、そして黒のドレスとその中の下着にまで染み込んでしまっていたネバネバを落とすため、順番に直接手で触れていく。
すると他愛のない刺激だろうに、アズは過敏に反応をし身をくねらせた。
——しかしくすぐり地獄がまさかここまでの威力とは。
こんなものを体験したり見せつけられたりしたら、完全にトラウマものだから誰も好き好んでここに来ないのに納得である。
「ユウト、つた怖い、くねくね怖い、つた、怖い、つた、くねくね怖い」
俺にすがるアズは、うわ言を言いながら震えが止まらない。
俺は浄化の手を止めると、艶やかな銀髪の上に手を乗せてそっとアズを抱き寄せる。
「もう大丈夫だから、もう大丈夫だから」
それこそ呪文のように何度も唱え頭をなでなでしていると、不意にアズがこちらを見上げた。
「つた、もういない? 」
「あぁ、もう大丈夫だよ。悪夢は終わったんだ」
「よかっ……た」
そうして精根尽き果てたアズは、俺の胸の中で瞳を閉じた。
一瞬死んでしまったのではと焦ってしまったんだけど、すぐにスヤスヤ寝息をたて出したので安堵する。
しかし伊達に世界で二番目に歴史が長いダンジョンと言われるわけではない。
こんなボスを生み出すダンジョンだから、恐らくここの迷宮核にもそれ相応な物語がありそうである。
とそこで、前進をしている真琴たちが何やら騒がしい事に気付く。
それによく見てみると、ヴィクトリアさんの姿が……見えない!?
と思ってると、真琴とクロさんから少し離れたボスよりのところでヴィクトリアさんがスクリと立ち上がるのが見えた。
んっ?
どうなっているの?
「ヴィクトリア、なんで受け入れなかったんだ! 」
これは真琴の叫び。
「あぁはなりたくありませんでしたので」
振り返りアズを冷ややかな目で見据えながらそう述べたのはヴィクトリアさん。
つまりヴィクトリアさん、ツタを踏んで引っ張られる最中、身体に巻きついてきたツタを攻撃しちゃったっとかなわけ!?
『ビビュン! 』
その時遥か上方で風を切り裂く音が鳴った。
『ビュビュビュビュン! 』
風切り音が複数に増えた!
『ビュン!
ビュビュン!
ビビュビュビュン!
ビュビュビュビュン! 』
音は途切れる事がなくなり、しかも俺たちの頭上、真上からも聞こえ始めている。
嫌な予感がしながらも暗闇の空を見上げてみると、遥か上空にボス方面から伸びる何本ものツタがグネグネ動いているのが見えた。
これって、まじですか!?
つまりそれは、二面樹からここまで伸びる全長数キロにも及ぶ、長すぎるツタが動いている事になる。
確かにダンジョン内にまで根を張り巡らす超が付く程の大木であるけど、しかしこうして目の当たりにしてみると、ただただ圧倒されるばかりだ。
『バチイィィン! 』
突如その内の一本が、まるで中国の軟鞭のようなパワフルかつスピーディーな勢いで、ヴィクトリアさんたちの方へ落ちてきた。
しかし精度は低く、じっとしていてもカスリもしない見当外れの場所で、地面に堆積していた落ち葉が舞い上がるのみ。
それからも数度落ちてきたけど、そのどれもが同じように精度は低い。
闇雲に攻撃をしているのか!?
とそこから、風切り音と共に叩きつけられる音が倍増する。
これは——
舞い上がった落ち葉で視界が悪くなる程のツタの振り下ろし。
いくら精度が低いとはいえ、こんなに攻撃をされたら前進もままならない!
しかも恐らく一度でもその身に受けてしまえば、肉は裂け骨も砕かれてしまうだろう強烈な一撃。
現に個々に別れ各々ステップを踏み避けていっている真琴たちは、中々前進出来ないでいるようだ。
とそこで地鳴りがした。
続いてボスと俺たちのちょうど中間点の地面が少し持ち上がったかと思うと、まるでこのフロアが大海原のようにして地面がこちら側に向かい何度も波打つ。
アズを庇うようにして抱きかかえながら、その場でグッと踏ん張って堪えていると、すぐに地面の揺れはおさまったのだけど——
『ドバンッ! 』
すぐ目の前の地面の土が上方へ吹き飛んだ!
続いてそこから何かが、突き上げるようにして飛び出してくる!
これは、ツタ!
それも何本ものツタが束になり、ぐるぐる渦巻きながら柱のようにして上へと伸びていく。
周囲を見れば、ここからボスの間のガタガタに歪んでしまった地面にも、同じようなモノが次から次へと生えていく!
そしてそれらのツタで出来た柱の頭頂部には、お皿のような花が咲き、その上には緑色の光を放つ液体が染み出してきた。
あれはどこかスライムの木に似ているような気がするけど——
『バキバキッ、バキバキバキィイイ! 』
遥か遠くでけたたましい音が鳴り響いた。
そう、巨大なスライムの木もどきに薄っすらと照らされて、今度はボスの本体、巨木である二面樹の幹に、大きく縦に一本の亀裂が走ったのだ。
そしてその亀裂が開かれ現れたのは、縦長の巨大な一つの瞳。
そしてその瞳は、まるで血に濡れてしまっているかのような真紅に染まっていた。
応援ありがとうございます!
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