心からの口付けで解ける呪いって、なんだ、この野郎!

砂山一座

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 三ヶ月はあっという間に過ぎた。

「では、この話は白紙に戻そう。ファウスト王子の見張りご苦労だった」

 強制的にファウストの婚約者として白羽の矢を立てた教会に、労われるいわれはないが、仏頂面で身を屈め、お辞儀をする。

「はい、長いことお世話になりました。今後は、国の狭間の魔女が後継者を探していると聞きましたので、そこに身を寄せようかと思っております。神父様からお許しをいただければすぐにでも参る所存でございます」

 許可をもらおうと、申し出たその瞬間、バンと音がして教会の扉が開いた……というか扉が外れて傾いている。

「異議あり!」

 大きな剣を腰にはいた人影が、靴音高くこちらにやってくる。
 この間の山賊のような恰好ではない。身なりを整えたファウストが神父も目に入らない様子で私の前にひざまずく。

「……ファウスト王子?」
「呪われた。今度はシンプルにお前と結婚しなければ俺が死ぬ呪いだ」

 ファウストは真摯なまなざしでとんでもないことを言い始めた。

「はぁ? ちょっと遅かったわね。婚約はたった今、破棄されたわ」
「なら、もう一度結べ」
「そんなのリンファ聖女に解いてもらいなさいな。神殿で頑張って働いてるみたいだから行ってみなさいよ。あの子、仕事のし過ぎで行き遅れちゃうわ」

 ファウストは私の手を取って丁度いい強さで握りこむ。
 昔はよく骨折させられていたから、この三年で、よほどの訓練を積んだのだろう。

「お前と結婚しなければ死ぬ」
「だいたい誰よ、そんなクソみたいな呪いをかけたのは。何の利益が? 私と王子の婚姻で利権が絡むような事あったかしら……」

 心当たりを思い浮かべてみるが、ちっとも思いつかない。

「俺が死んでも、何とも思わないのか?」

 その瞬間、血だらけで倒れこむファウストの姿が浮かぶ。
 何度も見た光景は、慣れ親しんだ走馬灯の一部だ。

「ファウスト、あなたね、何度も私の目の前で死んだわ。もう慣れちゃったのよねぇ」

 毎回私を選ぶに違いないと思うのに、どのファウストも結局、私を選ばなかった。
 ファウストは必ず、毎回、もれなく、聖女を守って死ぬ。
 今までの私には、その結末を変える力がなかった。
 もういいのだ。ファウストとは縁がなかった。

「お前と結婚しなければ死ぬ」

「ファウスト、よくお聞き。呪いは所詮、強い思いこみよ。呪いをかけた者をぶっ叩けばどうにかなるわ。聖女に犯人を捜す手助けをしてもらいなさい。ぶん殴るのは得意でしょう」

 ファウストは手を離すことなく、ゆっくりと首を振る。

「無理だ。呪いをかけたのは、俺だから」

「ふぁっ!」

 のけぞった。
 
 私はこのおかしな呪いの意味を知る。

「ももも、もしかして、前のも?」

 ファウストが頬を染めてうなずく。

「おどろっ! 驚いた! え、ええ?! それでその態度?」
「そうだ、悪いか!」

「悪いっていうか、うん……なんか、気持ち悪い……気持ち悪いわ」

 今世の出来事が走馬灯のように回る。
 今までとあまりにも違い過ぎて、目が回って吐き気がする。

「お前が国を救っているのだから、手強そうなのは俺がどうにかしようと、国外の敵は俺が潰した。この国を救うのに役に立ったと思う。レアーナは俺に、役に立てとよく言っただろ。言うとおりにしたから、結婚しろ。お前以外に呪いは解けない」

「ファウスト、あなたの気持ちは何となくわかったわ。あ、やっぱ、わからんわ。でもね、残念だけど、どんなに私を想っても、その呪い、私の気持ちを丸っと無視してる」
「え、しかし、それは……」

 ファウストの握力がいつものように万力で締め上げるようなものになる。
 私はこれで何度も手を骨折している。あとどれくらい力を入れたら折れるかぐらいわかる。
  
 ファウストが、死ぬというのなら仕方がない。

「いいわ。結婚してあげる」


「レアーナ!」


「その後、すぐに別れてやればいいわけよね」



*****

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