心からの口付けで解ける呪いって、なんだ、この野郎!

砂山一座

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 私たちは、あっという間に結婚した。
 外堀を埋められていたようで、結婚までの計画はすでに出来上がっていた。
 式も終わり、私は疲れて居間に新しく置かれたソファに身を沈めた。

 ながかった。しかし、これがファウストと顔を合わせる最後だ。

「ファウスト、久しぶりに一緒にお茶を飲みましょうか?」

 ファウストは私の耳の裏に唇を寄せるようにして、ソファにぎゅうぎゅうに寄り添う。

「隣に腰掛けるのやめて」
「レアーナが好きなんだ。城の牢に繋がれていた時に来てくれた時からずっと。ずっと俺を守って側にいた。誓いのキスだけで足りるとは思えない」

 近すぎる顔をぐっと押しのけて、間を作ろうとするが、私の力ではちっとも動かない。

「うるさい。さっさと離縁状書いて聖女といちゃついてこい。騎士に寝取られるわよ」
「聖女に興味はない」
「神はそれを望んでいるわ」

 ファウストは何を思ったか、思い出話を始める。

「お前に崖で脅されながら覚えさせられた呪文があったな――役に立った」

「そうでしょうとも」

「暗い洞窟の奥にある古文書をとりにいかされただろ? 寒いし、びしょ濡れになって、あの後洞窟が崩れ落ちたけれど、俺には傷ひとつなかった。あれは、お前の愛を感じた」

 そうでしょうね、私の命を分け与えて相手を守る魔法だったし。

「はあ、そうですか。私はたまたま知っていたからそうしたまでで、ファウスト様の為じゃないですよぉ」

 私は高く足をくみ上げて、あまり立派ではない作法でお茶をすする。
 ファウストの胸に刻まれた呪いは凶悪だった。本当に私と結婚しなければ死ぬ、恐ろしい呪いだったのだ。
 稚拙にみえるのに、聖女であってもきれいに解呪できたかどうか分からないくらい複雑だった。

「なぜあんな呪いを? 本当に死ぬやつだったわよ」
「レアーナの愛を信じていたから」
 
 ファウストは私の肩に額を寄せて、大きくため息をつく。

「きっも! なんでそんな偏執的に育ってしまったの? そういうの困るんですけど」
「お前のせいに決まっているだろうが! 俺だってお前なんか嫌いだったんだ。それなのにレアーナが俺を愛するから」
「愛してない! 思い込み怖い!」

 私は今夜のうちに魔女の所に行く約束をしている。そうすればもう、私は魔女のものだ。
 夜明けの太陽で魔女と契約を結ぶことになっている。
 どちらにしてもファウストとはお別れだ。

「お前は、俺のせいで命を落とすのだったな……」
「そうよ。だから関わり合いになりたくないの」

 少し違う。
 本当はファウストが聖女を庇って死ぬのだ。

 それで私の心が死ぬ。
 
「その時お前は何を思ったのだ? 俺を呪ったか? 嫌ったか?」
「どうだったかしら、なんとも思わなかったわ」

 好きでしたよ、貴方に殺されても、なお。
 生まれ変わってもなお。
 ファウストだけを愛してた……。

 そうそう、いろいろやってみて、聖女にファウストを生きたまま譲り渡すことでしかファウストを生かせないことが分かりましてね――。

 ――私が望んだのは国でも平和でもなく、あなたの命。


 何度目覚めても、あなたに恋をしてしまうのが変わらなくて、途方に暮れていた。
 私は今夜、ここから去る。
 それできっともう、この世には舞い戻らない。



*****


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