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俺の見た目は普通だし、成績も普通、運動神経も普通。
小中と普通の王道を走ってきた。
もちろん、目立つタイプではなかったが、今みたいに暗くはなく、友達もそれなりにいた。
その中で、蒼は一番の友達だった。
蒼の中で、俺は一番の友達だった。
……はずだ。
そんな俺の人生がガラッと変わったのはあのバース性の診断だ。
それまで他人事のように捉えていた、ヒートや抑制剤といった知識が一気に現実となった。
……でも、本当の意味で人生が変わった瞬間はあの時じゃない。
ヒートが、初めて来た時だ……。
中学でΩだと分かって、俺も家族も大変だった。
家族で俺一人がΩ。
親父はその通知を見て、頭を抱えた。
母はΩに産んでごめんと泣き出し、姉が慰めていた。
兄はスマホでいろいろ検索をし、有名な総合病院で再検査をうけてみたらどうかと言った。
両親に連れられ、その総合病院で再検査を受ける。
結果、Ω。
……だろうな。
その時にはなんとなく自分はΩなんだろうなと諦めの気持ちが強かった。
主治医の先生から説明を受けた。
ヒートの注意、抑制剤、緊急避妊薬の説明……どんどん両親の顔が青ざめていく。
ホルモンを検査してみると、年齢的には珍しくまだ当分ヒートは来ないだろうと言われた。
でも、最初のヒートはキツく、予期せぬタイミングのために、注意が必要だと。
もう、目をそらすわけにはいかない。
家族も俺も。
でも、仲良し家族だった訳でもなかったウチは俺への対応が腫れ物に触るようだった。
ますます仕事で家を空ける両親。
兄も姉も、一人暮らしをしたいと出ていった。
いつも、俺は一人。
……いや、変わらず蒼だけは側にいた。
一番側にいてはいけないαなのに。
「カナ、ちゃんと抑制剤持った?緊急用の強めなのも持った?」
「持ったよ」
高校生になっても、俺のヒートは来なかった。
もっとランクが上の高校に進学できたはずの蒼も、なぜか同じ高校に入学して、登校も一緒だ。
家が近いからって言ってたけど、俺に気を遣ったんじゃないかと思う。
高校生になっても特に俺は変わらなかった。
少し内向的になり、あまり積極的に人と関わらなくなったくらい。
同じ中学の奴以外の高校の同級生は、たぶんβだと思っているだろう。
反対に蒼はめざましい変化があった。
身長や体格が他の男子生徒に比べて成長が早く、雰囲気も大人びていた。
元々性格は温和だったが、顔から幼さが消え、男としての余裕を感じた。
そして、圧倒的なαのオーラ。
そんな二人の関係はバース性が分かった後も特に変わらなかった。
幼馴染みというだけ。
だが、蒼は俺のヒートについては常に注意をしていた。
警戒していた。
……俺よりもずっと。
ヒートのきていない俺は、蒼のαのオーラは感じるが、フェロモンは特に感じない。
蒼も俺からΩのフェロモンは感じないらしい。
むしろ、一生このままでいい。
なのに、その時は訪れた。
「……奏、ちょっとフェロモン出てる」
「え?」
「……ヒートそろそろ来るんじゃない?」
「……っ」
高校三年の冬、明日に大学受験を控えたあの日、蒼は言った。
「気の、せい、じゃないのかよ」
「うん」
「ど、しよ……受験……」
「ヒートの申請すれば再受験できるはずだよ」
「いやだ!」
突然の現実に青ざめながらも、自分のことを、知らない誰かにまで迷惑をかける存在にしたくなかった。
俺は普通なんだから。
「奏……Ωであることは恥ずかしいことじゃないよ?大学受験もヒートの申請が認められてるんだから」
「……なぁ、今日くるとは限らないだろ?受験だけはしたい。普通に」
「……奏。僕は受験会場まで行けないから守ってあげられない。心配だよ……まだ少しだけど、Ωのフェロモン出てるんだよ?」
蒼が俺を優しく諭す。
でも、俺は、何も感じない。
蒼に分かった、と告げた翌日、俺は試験会場に向かった。
抑制剤さえあれば、もしヒートがきても大丈夫。
そこで俺は、運命と出会った。
小中と普通の王道を走ってきた。
もちろん、目立つタイプではなかったが、今みたいに暗くはなく、友達もそれなりにいた。
その中で、蒼は一番の友達だった。
蒼の中で、俺は一番の友達だった。
……はずだ。
そんな俺の人生がガラッと変わったのはあのバース性の診断だ。
それまで他人事のように捉えていた、ヒートや抑制剤といった知識が一気に現実となった。
……でも、本当の意味で人生が変わった瞬間はあの時じゃない。
ヒートが、初めて来た時だ……。
中学でΩだと分かって、俺も家族も大変だった。
家族で俺一人がΩ。
親父はその通知を見て、頭を抱えた。
母はΩに産んでごめんと泣き出し、姉が慰めていた。
兄はスマホでいろいろ検索をし、有名な総合病院で再検査をうけてみたらどうかと言った。
両親に連れられ、その総合病院で再検査を受ける。
結果、Ω。
……だろうな。
その時にはなんとなく自分はΩなんだろうなと諦めの気持ちが強かった。
主治医の先生から説明を受けた。
ヒートの注意、抑制剤、緊急避妊薬の説明……どんどん両親の顔が青ざめていく。
ホルモンを検査してみると、年齢的には珍しくまだ当分ヒートは来ないだろうと言われた。
でも、最初のヒートはキツく、予期せぬタイミングのために、注意が必要だと。
もう、目をそらすわけにはいかない。
家族も俺も。
でも、仲良し家族だった訳でもなかったウチは俺への対応が腫れ物に触るようだった。
ますます仕事で家を空ける両親。
兄も姉も、一人暮らしをしたいと出ていった。
いつも、俺は一人。
……いや、変わらず蒼だけは側にいた。
一番側にいてはいけないαなのに。
「カナ、ちゃんと抑制剤持った?緊急用の強めなのも持った?」
「持ったよ」
高校生になっても、俺のヒートは来なかった。
もっとランクが上の高校に進学できたはずの蒼も、なぜか同じ高校に入学して、登校も一緒だ。
家が近いからって言ってたけど、俺に気を遣ったんじゃないかと思う。
高校生になっても特に俺は変わらなかった。
少し内向的になり、あまり積極的に人と関わらなくなったくらい。
同じ中学の奴以外の高校の同級生は、たぶんβだと思っているだろう。
反対に蒼はめざましい変化があった。
身長や体格が他の男子生徒に比べて成長が早く、雰囲気も大人びていた。
元々性格は温和だったが、顔から幼さが消え、男としての余裕を感じた。
そして、圧倒的なαのオーラ。
そんな二人の関係はバース性が分かった後も特に変わらなかった。
幼馴染みというだけ。
だが、蒼は俺のヒートについては常に注意をしていた。
警戒していた。
……俺よりもずっと。
ヒートのきていない俺は、蒼のαのオーラは感じるが、フェロモンは特に感じない。
蒼も俺からΩのフェロモンは感じないらしい。
むしろ、一生このままでいい。
なのに、その時は訪れた。
「……奏、ちょっとフェロモン出てる」
「え?」
「……ヒートそろそろ来るんじゃない?」
「……っ」
高校三年の冬、明日に大学受験を控えたあの日、蒼は言った。
「気の、せい、じゃないのかよ」
「うん」
「ど、しよ……受験……」
「ヒートの申請すれば再受験できるはずだよ」
「いやだ!」
突然の現実に青ざめながらも、自分のことを、知らない誰かにまで迷惑をかける存在にしたくなかった。
俺は普通なんだから。
「奏……Ωであることは恥ずかしいことじゃないよ?大学受験もヒートの申請が認められてるんだから」
「……なぁ、今日くるとは限らないだろ?受験だけはしたい。普通に」
「……奏。僕は受験会場まで行けないから守ってあげられない。心配だよ……まだ少しだけど、Ωのフェロモン出てるんだよ?」
蒼が俺を優しく諭す。
でも、俺は、何も感じない。
蒼に分かった、と告げた翌日、俺は試験会場に向かった。
抑制剤さえあれば、もしヒートがきても大丈夫。
そこで俺は、運命と出会った。
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