運命なんていらない

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目を覚ますと、心配そうな蒼の顔。

「カナ、大丈夫?」

蒼の顔が不安げで、垂れた犬耳が見えるようだった。

「ばーっか、俺が頼んだんだろ。なにしょぼくれてんだよ」

俺は大型犬·蒼の頭を、力が入らない腕をようやく持ち上げてわしゃわしゃとなでくりまわした。

「無理、させちゃったから……」

カッと顔が赤くなる。
蒼の豹変っぷりには驚いた。

「野獣だったな?」

照れ隠しに茶化してみる。

ヒートってすごい……後半はほぼ意識がなかった。
俺は蒼に翻弄されるがままで、こんな俺をあんなに求めてくれるんだなって、正直嬉しかった。

それでも、俺のヒートに蒼を付き合わせてしまったという罪悪感は薄れなかったが。

「僕も初めてだったし……抑えがきかなくて。項、咬まなくて良かった……」

俺の項を優しく撫でる。

あぁ、項の確認すらしてなかった。
そんなに大事じゃないしな、こんな項。
ヒートのΩとのセックスも初めてだったのか……なんか、俺相手で悪かったな。

「あれから、何日たってる?」

「最初のヒートから三日だよ。ずっと抑制剤も飲ませてたし、ヒート、軽かったみたいで良かった」

全然記憶にない。
そういえば、あんなにドロドロだったのに、身体もシーツも綺麗だ。
身体も拭いて、シーツも新しい物に代えてくれたんだろう。

「わりぃ。全部やらせて……」

「いや、僕が加減しなかったせいだから……ちゃんと、避妊薬も飲んでるから」

ヒート時のセックスは妊娠する確率がほぼ100%だと医者に聞いた。

そりゃあんなに射精されたら……とぼんやりと思い出しかけて、真っ赤になった。

「は、早く、続きやらなきゃな!」

勢いよく立ち上がろうとして、激痛が走る。
ぐっと奥歯を噛みしめ、なんでもないかのように立ち上がると、ふらふらの足取りで作業部屋に戻ろうと歩き出す。

「無理しないで。とりあえず、水分とご飯。うどんなら食べられるよね」

ひょいっと俺をお姫様抱っこすると、リビングまで運ばれた。
リビングのソファーに壊れ物を扱うようにそっと降ろされる。

「蒼!俺のタブレット持ってきてくれ!ちょっとでもここでやりたい」

ちょっと顔をしかめ、渋々といった感じでタブレットを持ってきてくれた。

幼馴染みだからってヒートを治めるためにセックスに付き合わせてしまった。
完成させない訳にはいかない!

俺は燃えていた。

複雑そうな瞳で俺を見ている蒼にも気づかずに。



結果。

俺のイラストは選ばれなかった。

でも、気分は晴れ晴れとしていた。
自分の納得がいく作品に仕上げることはできたからだ。

それも全部、蒼のおかげだ。
もしあのままヒートで仕上げきることができなかったら、もう前を向けなかったかもしれない。

俺はイラストレーターになりたい。

人生での、夢が、希望ができた。

『運命の番に会って、幸せになる』
それにすがって生きてきた。
そんな他力本願の自分じゃダメだ。
Ωとしての幸せだけじゃない。

佐倉奏として、生きよう。


世界が少し、開けた気がする。
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