運命なんていらない

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太郎編4*

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思ってたのと、違う……。

海里さんと恋人として過ごすと言ってからもうすぐ約束の一ヶ月が過ぎようとしている……。

この一ヶ月、とにかく甘かった。

期間限定の恋人として過ごすと決め、海里さんに告白してスタートしたが、とりあえずまた会う予定を決めて帰ろうとした俺に対して海里さんはとんでもないことを言い出した。

「え?恋人なんだから、一緒に暮らすでしょ?」

当然のように言い放つ。
いや、世の中のほとんどの恋人は別々に暮らしていると思うが。

やんわり断る俺に対して海里さんはにっこり笑うと
「一、ここにこのまま二人で住む。二、タロの部屋に二人で住む。三、どこかホテルに二人で住む。さぁ、タロに選ばせてあげるよ」
と、選択を迫る。

俺に選択権を委ねた言い方をしたが、一ヶ月一緒に暮らすことは大前提だった。

誰かと付き合ったこともないのに、いきなり同棲!?
ハードルが高すぎる!
「タロの部屋で過ごすのもいいなぁ」
いやいや、無理だ!
海里さんのこの寝室と同じくらいの広さのワンルームに暮らさせるなんて、とんでもない。
ホテル住まいも海里さんが費用負担するとか言いそうだが、容認できない!

「ここで、いいです……」
「じゃあ、決まり♪」

初日から、まさかの同棲スタートだ。
空いている部屋をそのまま俺の部屋として使わせてもらい、服などを運んできた。
寝室は一緒。
緊張して眠れないかと思ったが、怒涛の展開に初日からぐっすりだった。
それからも、約束通り一緒に眠りはするが、手は出されない。
数日は警戒していたが、そんな雰囲気すら流れず、毎日人肌を感じながら眠り、起きる。

朝、海里さんは早く、いつも俺が起きる時には朝食の準備がされている。
二人でその朝食を食べ、俺の出勤を見送ってくれる。

家事炊事は基本的に海里さん。
いや、家賃も払えない俺がやると言ったが、打ち合わせや取材などの特別な仕事が入らない限り在宅で小説の執筆をしている海里さんが全てやってしまっている……不甲斐ない。
食後の後片付けくらいやると言ったが、海里さんはそれよりも側にいて欲しいという……。
俺の家での仕事は、夕食後に食器をキッチンまで運び、二人で飲むコーヒーを入れること。
そのコーヒーを飲みながら、寝るまで二人で会話を楽しむのがいつもの流れだった。

「タロ、今日は何したの?」
海里さんは広いソファーで俺にピッタリ寄り添いながらコーヒーを飲んでいる。
俺がちょっとでも隙間を空けるとすぐにつめてくる。
「今日は打ち合わせもなく、デスクワークです」
「そう。僕もちゃんと書いてるからね?」
「はい」

会話は別に甘くないが、海里さんの顔が甘い!
醸し出す雰囲気が甘い!

仕事がある日はいつもこんな感じでまったりと過ごし、休みの日は出かける。

先週は小さなプラネタリウムに出かけた。
100席ほどのプラネタリウムは日曜にも関わらず半分も埋まっておらず、回りに誰もいない状態でゆっくりと堪能した。

暗闇の中、海里さんがそっと俺の手を握る。
俺も握り返した。
まるで、心まで繋がっているような不思議な気持ちになる。
一ヶ月の期間限定の恋人なのに。

俺は今後、この行き場のない気持ちを抱えて、今まで通りの日常を過ごすことができるのだろうか。
星を見ながら、この手を離す時のことばかり考えていた。


もう、その一ヶ月が迫っている。
いつその話になるのか……。
最初は一週間くらいで平凡な俺のことなんか飽きるんじゃないかと思っていた。
手を出さないと言いながら、性処理として扱われるのかも、とも思っていた。

それが、本当の恋人のように過ごした一ヶ月。
海里さんのような誰しもが望む人が俺を好きだと隠しもせず、大切に大切にされた一ヶ月。

いつもの夕食後のコーヒーを飲みながら、ソファーでまったりと過ごしていると海里さんが少し居住まいを正し、俺と向き合う。

「タロ。約束の一ヶ月になるよね。答え、聞かせてくれる?」
「え……俺の?海里さんのは」

海里さんは心外だな、という顔をして
「僕は最初からタロが好きだって言ったよね?タロのための恋人期間でしょ?僕は一緒に過ごして、もっとずっとタロのことが好きになったよ。小説ももうラストまで書き上がってる。僕はハッピーエンドを書く?それとも、失恋?」

俺の答え……。

「ハッピーエンドに、なりますか?βとΩで……もしかしたら、運命の番が海里さんと出会うかもしれないのに……こんな、自信のないβで……繋ぎ止める何も持ってないβで……ハッピーエンドに、なれますか?」

止められずに、涙が次から次へと溢れる。
海里さんは俺の手を取ると、強く握った。

「僕の運命の人は君だ。僕がそう決めた。本能が決めた運命の番に、心が決めた相手が勝てないなんて、あるわけないよ」

海里さんが俺の涙にちゅっちゅっと唇で触れる。
「タロ。可愛い。僕のこと、泣くほど好きになってくれた?」
「最初から、好きですよ!海里さんのこと好きにならない奴なんかいない!なのに、βの俺なんか何もっなくて、今でも冷めてしまうんじゃないかって」
「タロ……嬉しい。僕はもう、離してあげられないよ?タロが僕のことを嫌になっても、他の人を好きになっても、僕はもうタロを離せない。だから、離れていく時は、僕を殺してね?」

海里さんは本当に嬉しそうな顔で怖いことを言う。

「じゃあ、海里さんが離れていく時は俺を殺してくれるんですか?」

何で、俺が離れていく方なんだ!
離れていくのは、海里さんの方だろ!
俺は挑戦的な目で睨む。
海里さんは一瞬驚いた顔をしたが、すぐ蕩けるような笑顔に変わった。

「僕がタロから離れるなんてあり得ないけど、その時はちゃんとタロも連れていくよ。僕は殺してでも誰にもタロを渡さない」

背中をゾクゾクと何かが走る。
天使のような顔で、俺に優しく口付ける。
「タロ。恋人同士になれたんだから、抱いていいよね?」
俺は魅入られたように、頷いた。


「あっ、も、やっ、あっあぁっ」
背後から激しく俺を穿つ。
久しぶりに受け入れるはずの俺の後孔は、海里さんにすがり付くように吸い付く。
「タロ。きもちーね?中でイってるの?ずっときゅうきゅうしてるね」

久しぶりだからと、時間をかけて後孔を解されている間に何度も射精し、俺の陰茎はもう勃ち上がらず、海里さんに腰を打ち付けられる度にポタポタと雫だけを溢す。
「タロ。首、噛んでいい?僕のだって印つけたいっ」
意識も朦朧とする中、俺も印をつけて欲しくて何度も頷く。

「いっっ」

奥を強く穿つと共に背後でガリッと音がした。
海里さんの熱が後孔に広がっていく感覚と首元がズクズクと痛む。

海里さんは荒い息を吐きながら、首元に優しく舌を這わす。

「これで、僕のものになればいいのに。それなら、こんなに不安にならないのにね」

海里さんも不安なんだな。
俺と同じだ。

「かい、りさ、かお、見たいっ」

俺の言葉を聞いて、最後にうなじにチュッと口付けすると、ゆっくりと俺の中から陰茎を引き抜く。
萎えてなお存在感があるソレに声が漏れる。
「あっあっ、んんっ」
「可愛い声出すと、また勃っちゃうよ?いいの?」

無理言うな!!

「僕の顔を見たかったんでしょ?」
海里さんは背後から俺の横に移動してきて、愛しそうに俺の顔を見ると頬に軽く口付ける。
「思いっきり噛んじゃって、ごめんね」
「大丈夫です。あの、まだ、俺も不安、なんです。だから、跡つけてもらって、嬉しいです」

海里さんがベッドに突っ伏し、突然手足をバタつかせる。

「あー!可愛い。もう、タロが可愛くてヤバい」
海里さんの顔が赤い。
そんなに照れるようなことを言った覚えはないのだけど……。

「タロ、僕は重いよ。タロが思ってるよりずーっと。もし、今日断られたら監禁しようと思って、手錠とか準備しちゃってるから。本当は、仕事も辞めて僕の側にずっといて欲しいけど、それはしないって決めてる。タロに嫌われたくないから。でも、僕の根っこはそんな奴だよ」

なんとなく、海里さんのその束縛する性質は一ヶ月過ごしてみて気づいた。
仕事以外の時間は全て把握したがったし、仕事も新規で誰かと会うことを嫌がっていた。
でも、自分に自信がない俺はそんな海里さんに安心している所があった。
まだ、好きでいてくれている、と。

「大丈夫です。俺、嫌いになる前にちゃんと怒りますから。我慢しません。一生、一緒にいるために」

海里さんの美しい瞳からぽろぽろと涙が零れる。

「一生、一緒に」

お互いがお互いに誓うように、そっと口付けた。
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