運命なんていらない

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打ち合わせ~奏&太郎~

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ピンポーン

部屋のモニターで来客を確認し、コンシェルジュに了解の旨を通知する。
前は特に確認もせず解錠していたから、蒼にめちゃめちゃ怒られた。
誰も来なかったから、ついつい知っている相手だと思って開けていた。
今は蒼のマンションでもあるので、記者とかだと大変なことになる。
俺たちの関係はまだ公にはしていない。
蒼はしたいとうるさいが、超人気俳優の蒼の相手がこんなのってマジでない。
もう、俺自身が恥ずかしすぎる。
とりあえず、当分の間は同居人ってことにしてもらっている。

そもそも、ココは蒼が誕生日プレゼントで買った高級マンションなので、蒼の関係者も知っている。
と言っても、事務所の一部の人だけだが。
たまに、マネージャーさんが蒼の忘れ物を取りに来たりすることもある。

俺も担当さんにだけは教えている。
今日は、その担当さんが打ち合わせに来ることになっていた。

ピンポーン

次は玄関のチャイムだ。
一応ここでも確認する。
間違いない。

俺は玄関の扉を開けつつ、久しぶりに会う担当さんに破顔する。
「お邪魔します」
「どうぞ」

リビングに招きながら、初めてこのマンションに自分の知り合いを呼ぶのでドキドキした。

「わぁ~すごいマンションだねぇ。エントランスからして豪華だったけど、中も贅沢だなぁ。眺めもいいね」
「こんな豪華なのじゃなくて良かったんですけどね……なんかセキュリティとか厳しめの所を探してたらこうなったみたいで……」
「まぁ、人気俳優だからねぇ」

リビングのソファーに案内した所で手土産にお菓子を渡される。
「カヌレだよ。今、人気らしくて」
「へぇ~ありがとうございます。じゃあ、コーヒー淹れてきますね!」
「あぁ、ありがとう」

コーヒーを準備している間に、カヌレを皿に移す。
小さいのに重い……食べるのが楽しみだ。
俺はカフェオレ、担当さんは少し砂糖のミルクなし……もう好みも分かっている。

コーヒーとカヌレを持って、リビングに戻る。
それぞれの前に起き、改めて顔を合わせる。

「なんか、久しぶりな気がしますね」
「まぁ、実際に前の喫茶店が最後だから、久しぶりだよね?」

そうか。
話を聞いていたし、メールでのやり取りはあったけど、対面はあの時以来か。
あの時はまさか……

「あの、打ち合わせの前に、まず、ウチの海里さんがいろいろと申し訳ない。俺のスマホを使って連絡取ったりとか……もう絶対しないようにキツく言ってあるから!」
「い、いえ、むしろ、海里さんにいろいろ後押ししてもらったってことにもなる、ので……こちらこそ、なんかいろいろ山中さんのこと聞いてしまってすみません」
「え、いろいろって……」
「あっ……」

お互い、赤面する。

「ま、まずは、打ち合わせしよう!」
「そうですねっ」

気を取り直して、打ち合わせをする。
新しい作家さんの子供向けの絵本の挿し絵という依頼だった。
その原稿を読ませてもらう。

少年が星座になりたい猫と大冒険をする、というお話だった。
二人で、いろんな困難を乗り越え、やがて神様に認められて星座になる時に、猫が星座になりたかった理由を知る。
それは少年と一緒にいられるのは長くてもあと十年で、星座になれば少年が生きている間は見上げれば存在を感じてもらえるからだと。
でも、少年は温かい猫を抱き上げて、お空で長く見ているよりも、こうして側にいて抱きしめられる時間を大切にしたい、と涙を流す。
猫は少年の気持ちを知り、星座になるのをやめ、二人で猫が死ぬまで仲良く
暮らす、という内容だった。

俺はボロボロ泣いた。
二人の思いがとても、純粋で。
俺に、このお話の挿し絵がつとまるのか……世界観を壊さないか……。

「どう?引き受けてもらえる?」
「自信はないです。でもぜひ、やりたいです」
「うん。作者から、君にお願いしたいって言われてるんだ」
「え?」

新人作家なのに、俺を指名って……まさか。

「そうだよ。別のペンネームだけど、才谷海里がこの作者」
「えぇっ」

驚いた。
こんな絵本なんて書くのか。

「はぁ……才能ってすごいですね」
「ホントにね」

二人でクスクス笑う。
「才谷先生の方は出版を急いでいないから、奏くんの好きなように……って言いたいんだけど、とにかく早く世に出したいんだよね?俺が。だから、締め切り厳しめだけど、お願いできるかな?」
山中さんから、担当さんの顔になった。
「やらせて下さい」
「よし」
日程や挿し絵のページ数などの相談をする。
次はまたある程度のラフ絵などで海里さんとも相談しようということになった。
忙しくなるな!

「じゃあ、改めてお茶にしましょうか。お代わり持ってきます」
「うん」
また、担当さんから山中さんに雰囲気が変わる。

さっきと同じ、淹れたてのコーヒーを持っていくと、山中さんはすでに顔が赤らんでいた。

「あの、俺のこと、いろいろ聞いてるって言うのは……」
「えっ……いやっ、その……」
山中さんが海里さんに抱かれる側だとか、うなじがぐちゃぐちゃだとか、言えない!

「お二人が付き合ってるって……」
言えて、ココまで!

「あ、あぁ。そうなんだ。一応、作家と編集だから対外的には良くないかなって思うけど、編集部のみんなには伝えてるから極秘ってほどじゃないんだ。奏くんと蒼くんの所の方がそこは大変だよね」 
ちょっと山中さんは安心した風だ。
ごめんなさい……言えない!

「蒼は隠す気がないから、こっちが大変です」
「分かる!」
「へ?」
いきなり山中さんが身を乗り出してきた。
「ウチも海里さんが隠す気がないんだよ……。付き合ってるし、同棲もしてるって言いたくて仕方ないみたいで。なんとか、新しい人の担当にはならないって条件で押さえてるんだけどね?俺とのことなんてマイナスにしかならないのに……ファンも多いから、こんなのが相手って残念すぎるよ……」
「分かります!」
「え?」
次は俺が乗り出す番だ。
「なんか、めちゃめちゃ褒めてきたりするんですけど、はぁ?って思うんですよ……。もっと俺が可愛かったり、美人なら自信持てるのかもしれないんですけど、どうしようもないし。束縛してくるのも、いや、こんなの誰も相手にしないだろって。自分の方がモテるし心配なのに……」

山中さんが何度も首を縦に振る。

「本当に一緒だ!自分がモテてきたからって、こっちも同じだと思ってるよね?そんなはずないし。誰にも告白なんてされたことないよ。それなのに、毎日心配だって意味が分からないよね?まだ奏くんは若いし、俺からすれば可愛いから自信持っていいと思うけど……」
「えー、そんなこと言えば、山中さんの方がシュッとして仕事もバリバリしててカッコいいじゃないですか!俺なんて引きこもりですよ?」

お互い、褒め殺しみたいになってきた。

「ホント、山中さんは俺的にカッコいいです!めちゃめちゃ抱かれてるって聞いて驚きましたから!」
「えっ……」
「あっ……」

言ってしまったーーー!
山中さんの顔が瞬時に真っ赤に染まる。
「あ、あの……」
「……コーヒー、ご馳走。カヌレには手をつけてないから、二人で食べてね。またメールするね」

そそくさとリビングから玄関へ去る。
「あのっ、すみませんっ」
追いかけて、とりあえず謝罪した。
「いや、奏くんは何も悪くないよ。悪いのは……じゃあね」
顔が怒ってる。
海里さん……怒られるんだろうな……。

まぁ、俺でもいない所でいろいろ言われるの嫌だし。
心の中で、これから修羅場を迎えるであろう海里さんにそっと手を合わせた。
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