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第1話
010. 始まったらしい3
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朝だ。
目を叩くエッジの利いた日差しも、冷やりとする空気も、なんなら耳に届く小鳥のさえずりも、すべてが全力で一日の始まりを教えてくれている。
親切なことに、皆さんが教えてくれる朝だけど。
「おはよう、ございます……」
ボクの声にその朝にふさわしい爽やかさはなかった。
昨晩の女神・エリィとのやり取りのせいでどうにも寝付けなかったんだよ。
確かに?
ボク自身には何の力もないけど、それにしたって異世界転生した先の女神が与えた職業が「観客」だなんて……
大体、観客ってなんだよ。
見てるだけ?
普通、与えるのはチート能力とかスキルとか、そういうんじゃないのか?
そんなことを思っていると、考えが睡魔を追いやってしまった。
生き物が必要とする睡眠休憩に頭が切り替わったのは朝方近くだった。というわけだ。
「やぁ、おはよう」
そんな夢と現実の境目にいるようなボクに、朝陽を浴びながらてきぱきと食事の支度をするハクさんは一層、まぶしく写ったわけだ。
小さくなった種火に薪をくべて火をおこし、飯盒で湯を沸かしながら苦も無く作業を進めている。
あぁ、こういう人に毎日、朝ご飯を作ってもらえたらなぁ。
地べたに腰を下ろしてそんな風にみとれていると、ハクさんの周りに小鳥が寄ってきたのが見えた。
彼女もそれに気づいて、手にしていたドーナツ型のカンパンを小さくむしり取って小鳥のそばに投げて与えた。
やっぱり、優しい人って誰にでも優しいんだな。
小鳥たちは嬉しそうに地面のカンパンをついばんでいる。
さらにハクがカンパンのくずを放る。その整った顔は慈愛に満ちた優しげな表情そのものだ。
うんうん。
小鳥たちも、朝ご飯にありつけて嬉しそうだ。
次の瞬間、ハクの右腕が無造作に振り抜かれた。
パシッ。
そこにいた小鳥が二羽、朝食をとっていた最中であったにもかかわらず、いない。
「朝ごはんのおかず♡」
ボクに向かって、にこりと笑うハク。
その笑顔は例えるなら町の食堂に行って、そこのおばあちゃん店主からカラアゲを一個おまけしてもらった時の少年のソレだった。
左肩まで振り抜かれた右手の指の間からは、さっきの小鳥の緑とオレンジの羽が見える。
そして――
軽い、数本束ねたつまようじの様な細いものが折れる音がペキペキと聞こえた。
ハクの身体に隠れて、見えなかったが。
「いただきます」
その後、ハクが出してくれた朝食は昨日と同じカンパンと、水を沸かしただけの白湯、それと、小鳥の串焼きだった。
羽を毟り、毛を炙って、小さな内臓を処理したソレはそのままの姿で小枝を削って作った串に刺さった、実に野性味あふれる朝食のメインだ。
頭はそのままで、なんなら目が合っているような気もする。
ボクはさっきまで動いて、餌を食べていたヤキトリを口に運ぶことが出来ずにいた。
「食べないの?」
ハクはゆっくりと白湯をすすると、ボクに声をかけてきた。
「ちょっと、朝は食欲がなくて……」
実際、朝からガッツり食べるタイプではなかったけど、さすがにコレはキツイって。
そう、と応えたハクは火で炙っているもう一串に手を伸ばした。
そしてその、多分オレンジ色だったほうを頭から齧った。ボリボリと音を立てながら噛み砕くと、白湯で流し込む。
「世の中には朝食を食べない人もいるけど、腹に何か入れたほうが日中動けるわよ」
うん。
ボクにはそう答えることしかできなかった。
そうだよな。
食わないと生きていけない世界だもんな。
それでも、ボクは手に持っていた串を、緑の方を、口に持っていくことはできなかった。
そのまま、火のそばに小枝のままの方を刺して、カンパンをモソモソと噛んでいた。
目を叩くエッジの利いた日差しも、冷やりとする空気も、なんなら耳に届く小鳥のさえずりも、すべてが全力で一日の始まりを教えてくれている。
親切なことに、皆さんが教えてくれる朝だけど。
「おはよう、ございます……」
ボクの声にその朝にふさわしい爽やかさはなかった。
昨晩の女神・エリィとのやり取りのせいでどうにも寝付けなかったんだよ。
確かに?
ボク自身には何の力もないけど、それにしたって異世界転生した先の女神が与えた職業が「観客」だなんて……
大体、観客ってなんだよ。
見てるだけ?
普通、与えるのはチート能力とかスキルとか、そういうんじゃないのか?
そんなことを思っていると、考えが睡魔を追いやってしまった。
生き物が必要とする睡眠休憩に頭が切り替わったのは朝方近くだった。というわけだ。
「やぁ、おはよう」
そんな夢と現実の境目にいるようなボクに、朝陽を浴びながらてきぱきと食事の支度をするハクさんは一層、まぶしく写ったわけだ。
小さくなった種火に薪をくべて火をおこし、飯盒で湯を沸かしながら苦も無く作業を進めている。
あぁ、こういう人に毎日、朝ご飯を作ってもらえたらなぁ。
地べたに腰を下ろしてそんな風にみとれていると、ハクさんの周りに小鳥が寄ってきたのが見えた。
彼女もそれに気づいて、手にしていたドーナツ型のカンパンを小さくむしり取って小鳥のそばに投げて与えた。
やっぱり、優しい人って誰にでも優しいんだな。
小鳥たちは嬉しそうに地面のカンパンをついばんでいる。
さらにハクがカンパンのくずを放る。その整った顔は慈愛に満ちた優しげな表情そのものだ。
うんうん。
小鳥たちも、朝ご飯にありつけて嬉しそうだ。
次の瞬間、ハクの右腕が無造作に振り抜かれた。
パシッ。
そこにいた小鳥が二羽、朝食をとっていた最中であったにもかかわらず、いない。
「朝ごはんのおかず♡」
ボクに向かって、にこりと笑うハク。
その笑顔は例えるなら町の食堂に行って、そこのおばあちゃん店主からカラアゲを一個おまけしてもらった時の少年のソレだった。
左肩まで振り抜かれた右手の指の間からは、さっきの小鳥の緑とオレンジの羽が見える。
そして――
軽い、数本束ねたつまようじの様な細いものが折れる音がペキペキと聞こえた。
ハクの身体に隠れて、見えなかったが。
「いただきます」
その後、ハクが出してくれた朝食は昨日と同じカンパンと、水を沸かしただけの白湯、それと、小鳥の串焼きだった。
羽を毟り、毛を炙って、小さな内臓を処理したソレはそのままの姿で小枝を削って作った串に刺さった、実に野性味あふれる朝食のメインだ。
頭はそのままで、なんなら目が合っているような気もする。
ボクはさっきまで動いて、餌を食べていたヤキトリを口に運ぶことが出来ずにいた。
「食べないの?」
ハクはゆっくりと白湯をすすると、ボクに声をかけてきた。
「ちょっと、朝は食欲がなくて……」
実際、朝からガッツり食べるタイプではなかったけど、さすがにコレはキツイって。
そう、と応えたハクは火で炙っているもう一串に手を伸ばした。
そしてその、多分オレンジ色だったほうを頭から齧った。ボリボリと音を立てながら噛み砕くと、白湯で流し込む。
「世の中には朝食を食べない人もいるけど、腹に何か入れたほうが日中動けるわよ」
うん。
ボクにはそう答えることしかできなかった。
そうだよな。
食わないと生きていけない世界だもんな。
それでも、ボクは手に持っていた串を、緑の方を、口に持っていくことはできなかった。
そのまま、火のそばに小枝のままの方を刺して、カンパンをモソモソと噛んでいた。
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