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第1話
049. 初めての街です18
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「こいつは……誰かやりたい奴はいるか?」
バンディのクマのように黒い毛の生えそろった指が一枚の依頼書を突いた。
黒熊では受けた依頼を壁に備え付けたボードに張り出し、それを見て選ぶことが出来た。
そして、その中には不人気ゆえになかなか受ける手の上がらないモノもあった。
「確か、採集と……調査?だっけ
うーん。
採集はこの前やったからできそうだけど、調査ってのがなぁ」
ボクはボリボリと後ろ頭をかいて、ボードの前に立っていた。
メガネのレンズをまるで虫眼鏡のように字を拡大してみていたが、文字に書いてあること以上の情報は読み取ることはできない。
「それじゃあ、アタシが」
のほほんとした声と共に手が上がった。
ガシャ。
同時に、壁に掛けてあった鹿の剥製の首が大きく動いた音がした。
「あ、ごめんなさい」
「いいんだ。
そんなところに大きく角伸ばしてる方が邪魔なんだ。
それじゃあ、オレもついていくよ」
そういって対比的にラギの大腿部ほどの高さにも、手が――イヤ、肉球が上げられていた。
「ジャコが付いてきてくれるなら、やりやすそうね。
それじゃあ~
もう一人、イツキくんは今日の予定はなにかある?」
あ、いや。
間抜けな返事が思わず口を突いたが、渡りに船とはこのことだった。
「まだ、なにもないよ。
ラギちゃんとジャコさんについていっていいかな?」
「もちろんです」
ぱぁっと晴れ渡るような笑顔のラギに対して、黒猫の顔は曇り気味であった。
「あの、おねがいします……」
「まぁ、いいけどさ」
ボクの申し出を渋い顔で了承してくれたジャコはそのまま準備に取り掛かった。
「なにかしらね。
お前、嫌われてるんじゃないの?」
「嫌なこと言わないでよ。
ボクもちょっと、苦手なんだから……」
今日の依頼も、無事には済まないのかなぁ。
◇ ◇ ◇
「ここはー」
「今日の依頼の場所ですよ。
街の近くの丘にある、薬草の群生地で薬草の収集と、その生育状況を調査するっていうのがアタシたちの仕事です。
それじゃあ、始めましょうか」
マグとピクニックをしてイノシシにサンドイッチをあげた例の草原。
何ならその時に火を起こしたかまどの跡もまだある。
「またここか。
でも、ここならそんなに危険はないだろうし……」
「ほらほら、くっちゃべってないで。
仕事するんだよ」
ハイ! と反射的に背筋をただした。
見れば、すでにジャコは肉球と爪先で器用に薬草を摘み始めている。
「すげー……」
ただ、速度がボクやマグのそれとは比較にならない。
目で見ているのか、何か他の感覚を使っているのか。
ボクがジッと見つめて、選別して、そして丁寧に摘み取る作業をものすごい速さでこなしている。
なんなら、ボクより早いと思っていたマグの倍はある。
「速いなー。
もうあんなところまで移動してる」
はたから見れば、うずくまった黒猫がゾゾゾと効果音が現れるほどの速さで後退しているのだ。
仕事をしているという前提がなければ、何かの魔物に見えるかもしれない。
「あ、ラギちゃんは……」
「ここですよー」
彼女も彼女ですごかった。
草原に片膝を立てて座り込んでいるが、体格が体格なので彫像のようにも見る。
片手にもった虫眼鏡で、草原に生えている薬草を観察し、何かをブツブツとつぶやきながら膝に置いたノートにペンを走らせていた。
兜を被っていない彼女の姿は、ふんわりとした衣に先の折れた大きな帽子を背中に紐で下げた、異世界風味満載の美少女だ。
ただし、目算で身長は2メートルオーバー。
それでもやはり美少女の顔立ちなのは間違いないので見とれてしまう。
「そっか。
やっぱりかわいいんだものね」
「なんですかー?」
「いや、なんでもないよっ。
ボクも採集しなくっちゃ」
言葉を濁して横目で見るが、今までに出会った人たちの中でも彼女の周りにはひと際大きなヤオの粒が何個も周回しているように感じた。
「彼女も、見える人なのかな?
確か、見えたり、声を聞く人たちの言う事を聞きやすいってマグが言ってたよね」
「ジロジロみてると危ない人にみられるんじゃないの?」
「そんなんじゃありませーん。
ボクはエリィとちがって興味本位で人を見たりしませーん」
エリィのいう、危ない人であって堪るか。
「黙ってみているのが危ないなら……」
そう呟いてから、ボクは彼女に声をかけた。
「ねぇ、ラギちゃんっていくつくらいなの?」
世間話のつもりだった。
黙っているのがまずいなら、会話すればいい。
「えっと、十四歳です……」
「そうなんだー。
とてもそんな風には見えないね」
当たり障りのない会話のつもりだった。
彼女ほどの背丈で、その齢か……
何食べたらそんなに身長のびるんだろう。
そんな風に思っていると、遠くからジャコの声が聞こえた。
いつものように不機嫌そうな声でボクの名前を呼んでいる。
「ちょっと、行ってくるね」
「ハイ」
ボクはラギに申し出ると、数メートル離れた場所にいた黒猫の元に歩いて行った。
バンディのクマのように黒い毛の生えそろった指が一枚の依頼書を突いた。
黒熊では受けた依頼を壁に備え付けたボードに張り出し、それを見て選ぶことが出来た。
そして、その中には不人気ゆえになかなか受ける手の上がらないモノもあった。
「確か、採集と……調査?だっけ
うーん。
採集はこの前やったからできそうだけど、調査ってのがなぁ」
ボクはボリボリと後ろ頭をかいて、ボードの前に立っていた。
メガネのレンズをまるで虫眼鏡のように字を拡大してみていたが、文字に書いてあること以上の情報は読み取ることはできない。
「それじゃあ、アタシが」
のほほんとした声と共に手が上がった。
ガシャ。
同時に、壁に掛けてあった鹿の剥製の首が大きく動いた音がした。
「あ、ごめんなさい」
「いいんだ。
そんなところに大きく角伸ばしてる方が邪魔なんだ。
それじゃあ、オレもついていくよ」
そういって対比的にラギの大腿部ほどの高さにも、手が――イヤ、肉球が上げられていた。
「ジャコが付いてきてくれるなら、やりやすそうね。
それじゃあ~
もう一人、イツキくんは今日の予定はなにかある?」
あ、いや。
間抜けな返事が思わず口を突いたが、渡りに船とはこのことだった。
「まだ、なにもないよ。
ラギちゃんとジャコさんについていっていいかな?」
「もちろんです」
ぱぁっと晴れ渡るような笑顔のラギに対して、黒猫の顔は曇り気味であった。
「あの、おねがいします……」
「まぁ、いいけどさ」
ボクの申し出を渋い顔で了承してくれたジャコはそのまま準備に取り掛かった。
「なにかしらね。
お前、嫌われてるんじゃないの?」
「嫌なこと言わないでよ。
ボクもちょっと、苦手なんだから……」
今日の依頼も、無事には済まないのかなぁ。
◇ ◇ ◇
「ここはー」
「今日の依頼の場所ですよ。
街の近くの丘にある、薬草の群生地で薬草の収集と、その生育状況を調査するっていうのがアタシたちの仕事です。
それじゃあ、始めましょうか」
マグとピクニックをしてイノシシにサンドイッチをあげた例の草原。
何ならその時に火を起こしたかまどの跡もまだある。
「またここか。
でも、ここならそんなに危険はないだろうし……」
「ほらほら、くっちゃべってないで。
仕事するんだよ」
ハイ! と反射的に背筋をただした。
見れば、すでにジャコは肉球と爪先で器用に薬草を摘み始めている。
「すげー……」
ただ、速度がボクやマグのそれとは比較にならない。
目で見ているのか、何か他の感覚を使っているのか。
ボクがジッと見つめて、選別して、そして丁寧に摘み取る作業をものすごい速さでこなしている。
なんなら、ボクより早いと思っていたマグの倍はある。
「速いなー。
もうあんなところまで移動してる」
はたから見れば、うずくまった黒猫がゾゾゾと効果音が現れるほどの速さで後退しているのだ。
仕事をしているという前提がなければ、何かの魔物に見えるかもしれない。
「あ、ラギちゃんは……」
「ここですよー」
彼女も彼女ですごかった。
草原に片膝を立てて座り込んでいるが、体格が体格なので彫像のようにも見る。
片手にもった虫眼鏡で、草原に生えている薬草を観察し、何かをブツブツとつぶやきながら膝に置いたノートにペンを走らせていた。
兜を被っていない彼女の姿は、ふんわりとした衣に先の折れた大きな帽子を背中に紐で下げた、異世界風味満載の美少女だ。
ただし、目算で身長は2メートルオーバー。
それでもやはり美少女の顔立ちなのは間違いないので見とれてしまう。
「そっか。
やっぱりかわいいんだものね」
「なんですかー?」
「いや、なんでもないよっ。
ボクも採集しなくっちゃ」
言葉を濁して横目で見るが、今までに出会った人たちの中でも彼女の周りにはひと際大きなヤオの粒が何個も周回しているように感じた。
「彼女も、見える人なのかな?
確か、見えたり、声を聞く人たちの言う事を聞きやすいってマグが言ってたよね」
「ジロジロみてると危ない人にみられるんじゃないの?」
「そんなんじゃありませーん。
ボクはエリィとちがって興味本位で人を見たりしませーん」
エリィのいう、危ない人であって堪るか。
「黙ってみているのが危ないなら……」
そう呟いてから、ボクは彼女に声をかけた。
「ねぇ、ラギちゃんっていくつくらいなの?」
世間話のつもりだった。
黙っているのがまずいなら、会話すればいい。
「えっと、十四歳です……」
「そうなんだー。
とてもそんな風には見えないね」
当たり障りのない会話のつもりだった。
彼女ほどの背丈で、その齢か……
何食べたらそんなに身長のびるんだろう。
そんな風に思っていると、遠くからジャコの声が聞こえた。
いつものように不機嫌そうな声でボクの名前を呼んでいる。
「ちょっと、行ってくるね」
「ハイ」
ボクはラギに申し出ると、数メートル離れた場所にいた黒猫の元に歩いて行った。
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