柳兎学園・江戸文化作法研究会 ~サムライ部での青春のワンシーン~

花山オリヴィエ

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「やっぱり! 
 外国はそういうのは進んでるってよく聞くけど、エミィさんは……」

 ワキミズの心の声を代弁するかのような声を遮ったのは、先ほどからエミィのそばに立っていた黒服の少年。いや、正確には子供と言った方がしっくりくるような背格好であった。 
 入学式の挨拶の時、エミィの発言に修正を入れていたのは彼だが、壇上で見るよりはるかに小さいその子どもらしさ。仕立てのよさそうな黒いスーツに身を包んではいるが、その袖と裾の丈は明らか着ている本人の四肢の長さにはあっておらず、まるで小さな子供がそうするように手首と足首でまくってあり、本来「オトナ」が着るものであるスーツの年齢印象を大幅に繰り下げていた。
 銀色の堅そうな頭髪とは真逆の柔らかそうな金色の瞳。更には顔で一番注目すべき八の字眉毛は普段からの気苦労からだろうか。
 そうして、スーツに『着られている』少年はエミィの周りの人だかりに気押されながらも彼女にアセアセと声を掛ける。

「お、オジョウさま?
 ダメですよー……
 ディープブルー家のご息女ともあろうお方が、そんなにあけっぴろげに色々とお話されては……」

 エミィとしてはいつもこの少年に口うるさくされているらしく、それでもあっけらかんと答える。

「あら、いいじゃないメィリオ。こうして皆さんとお話をして、お友達になっていただけるのであれば、何の問題も無いはずよ?」

 このもっともらしい反論にぐうの音も出ないメィリオと呼ばれた少年は、苦し紛れに主、エミィをこの場から移動させようと、こんな発言をしてみる。
「そ、そうだ! そうですよ。お嬢様、クラブ活動はどうなさいますか? 
 この学園には色々なクラブが存在するそうです。まずは見学に行ってみてはいかがでしょうか……?」

 それとなく状況を打開せんとしての提案ではあったが、まだまだ芸能人の記者会見よろしく、質問を浴びせ足りない周りの学生たちからはメィリオに非難の声が上がる。

「エー? 
 なんだよそれ!
 もっとエミィちゃんと話させろよぉっ!」

 先ほどの金髪の似合わない学生が語気を荒げると、臆病な提案者であるメィリオはたじろいでしまう。周りからも不満の声があがる中、ポンとそのたわわな胸の前で手を打ち、エミィは目を輝かせる。

「クラブ活動!
 そうですねぇ、ジャパンの高等学校なら楽しそうなところもあるでしょうし、私もやってみたいです」

 ――いっちゃうの~!?
 一同が揃えて不服の声を上げる。すっくと立ち上がり、彼女は続ける。
「モチロン、皆さんも一緒に行ってみましょう」

 曇り始めていたその場に、再び日の光が差し込まれる。
 エミィを先頭に、一団がぞろぞろと教室を出ていくと、
「オ、オレも……!」
 一歩どころか三歩ほど遅れてワキミズもこれについて行った。焦った彼が、教室を出る際に出入り口近くにあった椅子に蹴つまずいたのも、ワキミズの日常性を語る上では外せなかったのは言うまでもない。

「ナァ、知ってる?」
「ん? 
 なんだよ」
「新しい一年で、留学生っていたじゃん。アレ、スッゲー可愛いらしいよ?」
「マジで?
 見てみてぇー!」

 ――コラー、そこ!
 無駄口叩いてんじゃネーヨ!!
 グラウンドで、パスの練習をするサッカー部員たちに、その部長の檄が飛ぶ。
 学園内では入学式から間もないにも関わらず、このような話がアチコチでなされていたのであった。
 校舎の別棟、二階では華道部の部室の入り口付近に黒山の人だかりができていた。これは噂の主人公、エミィが見学をするにあたって付いてきたギャラリーが部室の中に収まりきらず、外に溢れてしまった結果である。

「ン~、確かにファンタスティックではありますが……私には心打たれるものがありませんね」

 まるでモーゼが海を真っ二つに割るかのように人だかりを割って部室から出てくるエミィと、その後を追うメィリオ、さらに割れた海に見立てられる学生たちは更にその後に尾を引く。
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