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「どうしたんだよ、エミィちゃん。
あんな奴に声を掛けるなんてさ。
ホラ、俺たちの野球部のマネージャーのこと、考えてくれた?
一緒に甲子園に行こうぜ」
「おい、なにいってんだよ。エミィちゃんはサッカー部にだな……」
――いや、我らが剣道部にこそ!
――いや、卓球部に!
あーでもない、こーでもないと取り巻きたちはエミィを得んとケンカを始める。
まぁ、ケンカといっても本人、エミィの意思とは全く関係のないところで進んでいる話であるところがまた、切ないのだが。
「スミマセン、私は入部するところを既に決めたんです。ネ、ワキミズさん」
この留学生の屈託のない笑顔は、ワキミズの顔を苦笑いに引きつらせる。
「どこどこ? エミィちゃんが入るならワタシも!」
「うんうん。でも、まさか、もしかして? 昨日の……?」
ぱぁっと明るく、お天道様に向かう向日葵のように笑顔を咲かせてエミィは答える。
「えぇ、そうです。江戸文化作法研究会です!」
エェェ!?
マジ?
それまでエミィを取り囲んでいた者たち、どよめきと共に一歩ずつ後退する。
ワキミズのひきつった顔には、嫌な予感が当たったと苦笑いの上に冷や汗が伝う。
後退した生徒たちは、ごくりと生唾を飲み込んだ後、エミィを問いただす。
「ホンキ!?
あんなワケわかんなくて危ないとこ……考え直しなって!」
「そうだよ。アタシ達、昨日は怖くなって逃げちゃったけど……
けど、他にもいいところがいっぱいあるって、ネ?」
口々に己の事を棚に上げた挙句、戸棚にしまってしまうほどのご都合主義な言葉を並べ立てるも、エミィの決心を揺らがせるには至らなかった。
すっくと席を立った。
「さぁ、ブカツ~、ブカツ~、ブカツしましょう♪」
そういって、エミィは出入り口付近で固まっていたワキミズの腕をとり、鼻歌交じりに一年七組の教室を後にする。
その際のワキミズの思考はこうだ。
(あぁ、やっぱり良いニオイだ。それにムネ!
そのたわわなおムネが腕に当たってますよ?
エミィさん!)
以上、ワキミズの心の声は年相応、若者らしいリビドーにあふれる心の声。更にその二人、(一人が一人を強引に引っ張っていると言うのが正しい姿なのだが)の後を黒服、メィリオがパタパタと追いかける。
「お、おじょうさま~……」
「オ? 逃げずに来たな」
よく分からないが、英語らしき歌を歌いながら校舎の裏にある竹林の中、人一人を引きずってきたエミィと、引きずられてきたワキミズ。更にその後を追ってきたメィリオ。
この三人を屋敷で迎えたのは昨日、手裏剣や爆弾の飛び交う地獄絵図の中、忍者らしき相手に舞うように戦っていた氷色の髪をした美人だった。彼女はいわゆる「着流し」というようなゆったりとした紺というか灰色の、そう、分かりやすく言えばステレオタイプの着物であった。
化粧をしているのか、口元や目じりに紅が差してあり、顔全体も皮膚の色というより、薄くファンデーションの様なものを塗ってあるようだった。
にっこりと笑って、エミィが深々と頭を下げた。
「『フツツカものですが、よろしくおねがいします』で、いいんでしたっけ?」
「なにが?」
「ジャパンのマナー的に」
「あぁ、上等ダヨ。んじゃあ、改めて説明するけどさ、ウチ、江戸作法文化研究会では、現代では失われてしまっている江戸時代の文化や、生活方式なんかを伝えていく――てぇのを目的にしてるわけだ。まぁ、サムライ部って言われてるわけだが、おおまかにはそんなもんさ」
この説明にエミィを更に目を輝かせ、ワキミズは具体的な活動を想像できず小首をかしげるばかりであった。
ここでコホンとひとつの咳を挟む。
「私は当面、アンタ方の指導に当たる雪白だ。テキトーにユキシロ先輩とでもなんでも、呼んでおくれや」
「あの~、スミマセン……」
あんな奴に声を掛けるなんてさ。
ホラ、俺たちの野球部のマネージャーのこと、考えてくれた?
一緒に甲子園に行こうぜ」
「おい、なにいってんだよ。エミィちゃんはサッカー部にだな……」
――いや、我らが剣道部にこそ!
――いや、卓球部に!
あーでもない、こーでもないと取り巻きたちはエミィを得んとケンカを始める。
まぁ、ケンカといっても本人、エミィの意思とは全く関係のないところで進んでいる話であるところがまた、切ないのだが。
「スミマセン、私は入部するところを既に決めたんです。ネ、ワキミズさん」
この留学生の屈託のない笑顔は、ワキミズの顔を苦笑いに引きつらせる。
「どこどこ? エミィちゃんが入るならワタシも!」
「うんうん。でも、まさか、もしかして? 昨日の……?」
ぱぁっと明るく、お天道様に向かう向日葵のように笑顔を咲かせてエミィは答える。
「えぇ、そうです。江戸文化作法研究会です!」
エェェ!?
マジ?
それまでエミィを取り囲んでいた者たち、どよめきと共に一歩ずつ後退する。
ワキミズのひきつった顔には、嫌な予感が当たったと苦笑いの上に冷や汗が伝う。
後退した生徒たちは、ごくりと生唾を飲み込んだ後、エミィを問いただす。
「ホンキ!?
あんなワケわかんなくて危ないとこ……考え直しなって!」
「そうだよ。アタシ達、昨日は怖くなって逃げちゃったけど……
けど、他にもいいところがいっぱいあるって、ネ?」
口々に己の事を棚に上げた挙句、戸棚にしまってしまうほどのご都合主義な言葉を並べ立てるも、エミィの決心を揺らがせるには至らなかった。
すっくと席を立った。
「さぁ、ブカツ~、ブカツ~、ブカツしましょう♪」
そういって、エミィは出入り口付近で固まっていたワキミズの腕をとり、鼻歌交じりに一年七組の教室を後にする。
その際のワキミズの思考はこうだ。
(あぁ、やっぱり良いニオイだ。それにムネ!
そのたわわなおムネが腕に当たってますよ?
エミィさん!)
以上、ワキミズの心の声は年相応、若者らしいリビドーにあふれる心の声。更にその二人、(一人が一人を強引に引っ張っていると言うのが正しい姿なのだが)の後を黒服、メィリオがパタパタと追いかける。
「お、おじょうさま~……」
「オ? 逃げずに来たな」
よく分からないが、英語らしき歌を歌いながら校舎の裏にある竹林の中、人一人を引きずってきたエミィと、引きずられてきたワキミズ。更にその後を追ってきたメィリオ。
この三人を屋敷で迎えたのは昨日、手裏剣や爆弾の飛び交う地獄絵図の中、忍者らしき相手に舞うように戦っていた氷色の髪をした美人だった。彼女はいわゆる「着流し」というようなゆったりとした紺というか灰色の、そう、分かりやすく言えばステレオタイプの着物であった。
化粧をしているのか、口元や目じりに紅が差してあり、顔全体も皮膚の色というより、薄くファンデーションの様なものを塗ってあるようだった。
にっこりと笑って、エミィが深々と頭を下げた。
「『フツツカものですが、よろしくおねがいします』で、いいんでしたっけ?」
「なにが?」
「ジャパンのマナー的に」
「あぁ、上等ダヨ。んじゃあ、改めて説明するけどさ、ウチ、江戸作法文化研究会では、現代では失われてしまっている江戸時代の文化や、生活方式なんかを伝えていく――てぇのを目的にしてるわけだ。まぁ、サムライ部って言われてるわけだが、おおまかにはそんなもんさ」
この説明にエミィを更に目を輝かせ、ワキミズは具体的な活動を想像できず小首をかしげるばかりであった。
ここでコホンとひとつの咳を挟む。
「私は当面、アンタ方の指導に当たる雪白だ。テキトーにユキシロ先輩とでもなんでも、呼んでおくれや」
「あの~、スミマセン……」
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