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チュン……チチュン……
スズメの鳴き声が竹林の中、サムライ部の屋敷に届く。春と言ってもまだまだ肌寒い早朝。時刻は五時を少し回ったところであろうか。竹と竹の合間から漏れる暖かな日差しと、ヒンヤリとした空気が心地いい爽やかな朝。
「クワーーーーー!!」
――撤回。
その爽やかな朝に似つかわしくない奇声が響く。この魔声というか、オタケビに屋敷の周りにいた若いスズメもパタパタと跳び立っていく始末である。
「だーかーらー。そうじゃないって」
「そうって言われても、分かんないっすよ!」
屋敷の土間からは、ワキミズとツクモのこんなやり取りが聞いて取れた。
「んだもんで、こうやるだろ?
んで、こう。そんでこう。
――ハイ。んじゃ、やってみ?」
ワキミズの目の前には如何にも古めかしい、時代劇でしか見たことのないような、カマドがあった。
「じゃ、じゃあ……」
そういってワキミズは再度、手渡された火打石を打つ。正確には火打石の「石の部分」とそれを打つ「金属の部分」。
カッ……カッ……
軽い、ある程度の硬度があるモノ同士がぶつかる打音。
「こ、こうですよね?」
「あぁ、それをこっちの火口(ほぐち)に移す」
ここでいう「火口」とは、火打石で打ちだした火花を抱かせる綿の様なもので、ここに移した火花に息を吹きかけることで火種とするものである。ワキミズはこの作業がなかなか上手く行かずに、先ほどから作業工程が止まったままなのであった。
「んじゃぁ、仕方ない。エミィ、やってみ?」
先程からワキミズのやっている未知の所作に釘付けになっていた彼女は、ハイ、と一言を置き、取りかかる。
カッカッ……
――そう、そうして息を吹きかけて、種火にする。
フゥ……フゥ……
何度かやっていると、火花は彼女の吹きかける息に合わせて紅くなる。
「ぃよしッ!」
すかさずツクモが木端を差し出す。
「こりゃあ、付け木といってな、木片に硫黄を塗りつけてある。これに火をつけて、いわゆるマッチの形にするわけだ」
……ボォゥ。
火の揺らめく音に思わずワキミズが溜息をもらす。
「フゥ――。これでようやく、いつも見ている『火』の形になったわけですか」
失敗ばかりであったが、彼は彼なりに感銘を受けているようであった。
「ほら、さっと次に火を移さんと、消えちまうぜ?」
ハイハイと、次に燃料となる藁へと火を移す。
「よかったなぁ、これで飯が炊けるぞ」
それまで何度となく失敗していたワキミズにとっては、居心地の悪い流れであった。
「……そうですね」
「んじゃ、さっき洗った米を羽釜に入れ、水は米と同量。水を含ませる時間は、まぁ、今の時期だったら四半刻くらいかなぁ」
このツクモという忍者、金髪アフロにアロハシャツという実にファンキーな見た目からは想像できないのだが、こと炊事に関してはこの屋敷の誰よりも精通しているようであった。先ほどからもワキミズとエミィ、メィリオは的確なアドバイスの下、火のおこし方や飯の炊き方を指導されていた。
「んで、蓋をして……っと」
「おぉ……」
この段階でやっとワキミズもマンガや時代劇なんかでよく見る、木のフタをしたオカマ一式が整った。
「んでは、これから飯を炊くわけだが……ワキミズ、『ハジメチョロチョロ――』って知ってるか?」
「え~っと……聞いたことはあるんですけど……」
苦し紛れにアタマをポリポリと書いているワキミズに、疑問符をアタマの上に浮かべるエミィ。ここで脇に抱えていたバインダーから紙を取り出し、ベラベラとめくり出した。
「それって、火加減のことですよね?
『ハジメチョロチョロ』、つまり最初は弱火で始まり、続いて『ナカパッパ』、これは中火の事で、更に続くは『アカゴナイテモフタトルナ』。
これは赤子、つまり小さな子どもがお腹をすかせて泣いてせがんでも蓋をとってはいけない。最後の蒸らしがどれほど大切なものかということを比喩した表現です」
――ンフー。と息を吹き出し、一息に説明を終えるメィリオ。
「おぅ、正解。まぁ、最初のうちだからカンニングも、点数の内だわな」
「そ、そんな……カンニングとは失礼な。先ずもってワタクシはお嬢様のためにここにいるわけで、ワタクシ自身は部活をするためにここにいるわけではないのですからして――」
「まぁ、そのくらい火加減が大事だってことなのさ」
ワキミズとエミィが感嘆の息を漏らし、メィリオもまた満更ではない様子だった。
「んが、今はマキでやるわけではないんで、それもチト当てはまらないんだなぁ」
三人は一昔前のコント番組のキャラクターのように肩を落とす。いわゆる「コケる」というやつだ。ツクモは続ける。
「よく、火吹き竹でゴーゴーと燃やしてる雰囲気があるんだろうが、ワラでやってしまえば火加減も割と楽なのよ」
「ハァ……でも、ワラでなんて火加減云々の前に、すぐ燃えちゃって弱すぎたりしないんですか? こう……それこそチョロチョロってかんじで……」
んじゃあ、と一区切りを置いた。
「オレが見せてやんよ」
スズメの鳴き声が竹林の中、サムライ部の屋敷に届く。春と言ってもまだまだ肌寒い早朝。時刻は五時を少し回ったところであろうか。竹と竹の合間から漏れる暖かな日差しと、ヒンヤリとした空気が心地いい爽やかな朝。
「クワーーーーー!!」
――撤回。
その爽やかな朝に似つかわしくない奇声が響く。この魔声というか、オタケビに屋敷の周りにいた若いスズメもパタパタと跳び立っていく始末である。
「だーかーらー。そうじゃないって」
「そうって言われても、分かんないっすよ!」
屋敷の土間からは、ワキミズとツクモのこんなやり取りが聞いて取れた。
「んだもんで、こうやるだろ?
んで、こう。そんでこう。
――ハイ。んじゃ、やってみ?」
ワキミズの目の前には如何にも古めかしい、時代劇でしか見たことのないような、カマドがあった。
「じゃ、じゃあ……」
そういってワキミズは再度、手渡された火打石を打つ。正確には火打石の「石の部分」とそれを打つ「金属の部分」。
カッ……カッ……
軽い、ある程度の硬度があるモノ同士がぶつかる打音。
「こ、こうですよね?」
「あぁ、それをこっちの火口(ほぐち)に移す」
ここでいう「火口」とは、火打石で打ちだした火花を抱かせる綿の様なもので、ここに移した火花に息を吹きかけることで火種とするものである。ワキミズはこの作業がなかなか上手く行かずに、先ほどから作業工程が止まったままなのであった。
「んじゃぁ、仕方ない。エミィ、やってみ?」
先程からワキミズのやっている未知の所作に釘付けになっていた彼女は、ハイ、と一言を置き、取りかかる。
カッカッ……
――そう、そうして息を吹きかけて、種火にする。
フゥ……フゥ……
何度かやっていると、火花は彼女の吹きかける息に合わせて紅くなる。
「ぃよしッ!」
すかさずツクモが木端を差し出す。
「こりゃあ、付け木といってな、木片に硫黄を塗りつけてある。これに火をつけて、いわゆるマッチの形にするわけだ」
……ボォゥ。
火の揺らめく音に思わずワキミズが溜息をもらす。
「フゥ――。これでようやく、いつも見ている『火』の形になったわけですか」
失敗ばかりであったが、彼は彼なりに感銘を受けているようであった。
「ほら、さっと次に火を移さんと、消えちまうぜ?」
ハイハイと、次に燃料となる藁へと火を移す。
「よかったなぁ、これで飯が炊けるぞ」
それまで何度となく失敗していたワキミズにとっては、居心地の悪い流れであった。
「……そうですね」
「んじゃ、さっき洗った米を羽釜に入れ、水は米と同量。水を含ませる時間は、まぁ、今の時期だったら四半刻くらいかなぁ」
このツクモという忍者、金髪アフロにアロハシャツという実にファンキーな見た目からは想像できないのだが、こと炊事に関してはこの屋敷の誰よりも精通しているようであった。先ほどからもワキミズとエミィ、メィリオは的確なアドバイスの下、火のおこし方や飯の炊き方を指導されていた。
「んで、蓋をして……っと」
「おぉ……」
この段階でやっとワキミズもマンガや時代劇なんかでよく見る、木のフタをしたオカマ一式が整った。
「んでは、これから飯を炊くわけだが……ワキミズ、『ハジメチョロチョロ――』って知ってるか?」
「え~っと……聞いたことはあるんですけど……」
苦し紛れにアタマをポリポリと書いているワキミズに、疑問符をアタマの上に浮かべるエミィ。ここで脇に抱えていたバインダーから紙を取り出し、ベラベラとめくり出した。
「それって、火加減のことですよね?
『ハジメチョロチョロ』、つまり最初は弱火で始まり、続いて『ナカパッパ』、これは中火の事で、更に続くは『アカゴナイテモフタトルナ』。
これは赤子、つまり小さな子どもがお腹をすかせて泣いてせがんでも蓋をとってはいけない。最後の蒸らしがどれほど大切なものかということを比喩した表現です」
――ンフー。と息を吹き出し、一息に説明を終えるメィリオ。
「おぅ、正解。まぁ、最初のうちだからカンニングも、点数の内だわな」
「そ、そんな……カンニングとは失礼な。先ずもってワタクシはお嬢様のためにここにいるわけで、ワタクシ自身は部活をするためにここにいるわけではないのですからして――」
「まぁ、そのくらい火加減が大事だってことなのさ」
ワキミズとエミィが感嘆の息を漏らし、メィリオもまた満更ではない様子だった。
「んが、今はマキでやるわけではないんで、それもチト当てはまらないんだなぁ」
三人は一昔前のコント番組のキャラクターのように肩を落とす。いわゆる「コケる」というやつだ。ツクモは続ける。
「よく、火吹き竹でゴーゴーと燃やしてる雰囲気があるんだろうが、ワラでやってしまえば火加減も割と楽なのよ」
「ハァ……でも、ワラでなんて火加減云々の前に、すぐ燃えちゃって弱すぎたりしないんですか? こう……それこそチョロチョロってかんじで……」
んじゃあ、と一区切りを置いた。
「オレが見せてやんよ」
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