柳兎学園・江戸文化作法研究会 ~サムライ部での青春のワンシーン~

花山オリヴィエ

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「昨日のイトウ先生ったらさ~」
 日の昇る前からの練習、その後の炊事にも慣れ始め、笑い話をしながら登校するという、実にチャラけた朝を迎えるワキミズ。その顔は健康的に締り、健康的に日に焼けていた。
 男子と女子では下足箱の位置が若干違うので、一度エミィとは離れる。
 ワキミズが下足箱にスニーカーを入れると、クラスメイトの一人が声を掛けてくる。数少ない友人であるマツダだった。其の姿は見るままに十代のオタクっぽく、野暮ったい黒の天然パーマのかかった頭髪に、そのような店に行けばいくらでもあるはずのおしゃれとは無縁なメガネ。身長は少しワキミズより高い位だが、猫背のためか、部活で姿勢も矯正されてきたワキミズと同じくらいの目線であった。

「なぁ、ワキミズ氏。サムライ部って何してるんですか?」
「ナニって……そりゃあ色々さ……なんてーの? 『日本人としての在るべき姿』其の追求と存続とか?」

 ふーん……そんなものなのか。という意思をのせて鼻から息を抜くマツダ。
 モチロン、この日本人としての~、というのはセンパイ達の弁であったが、この若造は、さも自慢げに口にした。若干、自分の世界に陶酔しているようでもあった。

「って言っても、サムライ部の人なんて有名人ばかりですものなぁ。ユキシロ先輩にツクモ先輩。校則で行ったら明らかにアウトな髪の色ですよね。なんで大丈夫ナンスカ」

 苦笑交じりに問う友人に、

 ――マァ確かに。と同調する。

「それにハク部長さん? あの人、かなりスタイルがイイですよね」
「そう、そうなんだよ。着物の上からでも分かるくらいに、イイ胸してるんだよ!」
「おぉ、ワキミズ氏もキョヌー派でしたか」

 グフ、グフフと爽やかな朝にそぐわぬ、生臭い話をしている二人。

「部長がどうかしましたか?」

 ワキミズ達が意識を向けていない横から、ピョコンと顔を出すエミィ。

「イヤ、ナンデモナイヨー?」

 大きく動揺する二人。そのうちの一人、マツダは「ソレジャ!」と、さっさと逃げていき取り残される形となった少年がひとり。

「イヤ、ホラ、部長ってキレイダネーって、話をしてて――ってんじゃダメカナ……」
「確かに、部長さんは綺麗ですよね。他の皆さんもですが、部長はあのいつも変わらない表情がミステリアスというか……それにバストが、何を食べたらあんなに特盛りになるのでしょうか?」

 エミィはカバンを脇に挟み、両の手を己の胸にあてる仕草をする。

 (イヤイヤ、貴女のムネも、相当なトクモリですよ)

 彼の其の視線は嫌がおうにもYシャツの下存在している二つの桃に向かってしまう。

「あ、そろそろ、ホームルーム始まりますよー」

 いつの間にか二人は教室の前まで至り、そそくさとそれぞれの席に着く。しかし、少年の頭部には、まだ見ぬ女性の白き肌、たわわな桃、鼻腔をくすぐるであろう芳香が大半を占め、若干前かがみになりつつあったところで、神経質そうな教師が壇上で挨拶を始めた。

 その夜の屋敷。自分の部屋で座して本を読んでいたのはユキシロであった。彼はその氷色の瞳を灯りで揺らしながらひとり呟く。

「まぁ、基本はアタシが教えればいいんだけど……」

 それと時を同じくして、庭に呼び出されていたのは、一年の三人。

「なんだろ……?」
「なんでしょうね、こんな時間にレンシューですか?
 メィリオ、何か先輩から聞いてる?」
「いえ、お嬢様。今夜はツクモ先輩からの呼び出しだ、としか……」

 などと、三人が顔を見合わせていると、ボムッという軽い炸裂音とともに白い煙が立つ。

 ――!

 その方向、ワキミズにとっては背後へと意識と視線を向けると、そこには金髪をこんもりとしたアフロに仕立てたものの、身長はメィリオよりも低いツクモが現れた。

「今宵は拙者が忍びの、忍術の基本をお教えいたす。――なんてな」

 と、おどけて見せる。
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