柳兎学園・江戸文化作法研究会 ~サムライ部での青春のワンシーン~

花山オリヴィエ

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 二人を窘(たしな)めるどころか、ノリノリのセンパイ。悪魔の様な笑い方をし、ワキミズとエミィをユートピアへといざなってゆく。

 カポーン。
 今時、こんな音がするのかどうか、これはワキミズの妄想による幻聴なのか。それはさておき、一同は部長ハクが入浴中であろう浴室の上にやってきていた。

(んじゃ、この専用の忍(しのび)錐(きり)で穴をあけるんだが……)
(ワタシがやります!)

 下にいるであろうハクに気配を悟られないよう、自然と声をひそめての会話。

(お、おじょうさま~、やっぱりやめておきましょうよ~)
(しっ、もうちょっとだから……空いた!)

 覗き穴をあけられたことに歓喜し、顔を上げたそのとき、彼女の目の前に来客があった。

「チュウッ」
 !? 
 突如として目の前に現れた客に、エミィは仰け反る形で頭を振り上げ、同時に錐を手から落としてしまった。

(マズイ! 声が――)

 ワキミズは思わず手に汗を握った。しかし、その一瞬でツクモは落とした錐を音がしないように空中で捉え、エミィの口に手を当て、仰け反った頭が屋根裏の天井にぶつからない様に押さえたのだった。そう、まるで――

(あれ? いま、右手で拾って、左手で押さえて……ん?)

 ワキミズは今のツクモの動きに頭ひねっていた。
 少しの間、軽いパニックに陥ったエミィと、それを制止しようとするツクモとメィリオ。

(おっと、今のうちに部長のキョヌーを拝んで……アレ、湯気でよく見えないな……)

 彼らを横目に、覗き穴から浴室で身体を洗っている部長ハクを覗くも、湯気で遮られ、肝心の裸体がよく見えない。尚も其の姿を凝視していた。

(お、見えてきた……)

 視線がその秘境に集中したそのときであった。

「クセモノッッ」

 ハクは気合いと共に浴室にまで持ち込んだ白木の木刀を掴み、そのまま天井の覗き穴を突きあげた。

 ッドカァッッ!
 ――!!

 これにはそれまで、その穴に目を当てていたワキミズが跳び退った。
 すんでのところで、その目を潰されずに済んだ。

「ヤバイ!
 撤収!」

 ツクモの指示の下、四人はその場を後にした。

 「逃げたか……」

 水滴のみを身に纏ったハクは、そのいつもの無表情に少し、少しだけ眉をひそめた。

「見られたか?
 だとしたら……」

 次の日の昼休み。ワキミズはエミィ、メィリオと友人マツダの四人で、共に机を囲み昼食をとっていた。

「しかし、ワキミズ氏。いつもそのお茶を飲んでますが、そんなに美味しいのですか?」
「ん~?
 フツーに美味いよ。飲んでみる?」

 これにはメィリオが押しとどめた。

「すんごく苦いんですよ?
 ホントに、ナニ入ってるか分からないくらいヒドイんですから。やめた方がいいですよ?」
「ヒドイ? まぁ、慣れてないとちょっと苦いかもね。
 なんだったかな、緑茶を元に、薬草というか、漢方というか、まぁ、色々入ってて昔から飲んでるんだよ。これってうちだけなのかな」

 コクコクと揃って首を縦に振るエミィとメィリオ。

「そ、そうですか。じゃあ、そのお茶は置いておいて……
 ワキミズ氏達のところの部員さん方、お美しいですなぁ。スラリとした美人のユキシロ先輩。ファンキーというかひょうきんですが可愛らしいツクモ先輩」
「いや、ユキシロ先輩もツクモ先輩も男だし……可愛いかなぁ……」
「そして、なんといっても部長さんのハク先輩!
 あの胸もそうですが、和服美人って言うのもナカナカの萌えポイントですなぁ」

「……湯冷めか?」

 ブルッと、その身を震わせるも、昨日の一件からその身に纏う、張り詰めた空気を隠そうともせず、ハクは廊下を歩いていた。その、いつにもまして近寄りがたい彼女に、同じ三年の男子生徒ばかりか、女子生徒まで目を奪われている。

「いつもいつも、きっちり着物着てゴクローさん」

 歩を強め、ハクに追いつき隣を歩くのは同じ部活のユキシロだった。そう、ハクは部活の時だけではなく、学舎の中でも和服で通していたのだ。一方、ユキシロは白を基調としたyシャツと学生ズボンという、この学園の夏服そのままであった。

「しかし、あれだなぁ。昨晩の騒ぎはツクモ達の仕業だろう?」
「分かっている……」
「カーッ、まったくいつもながら、話しかけがいの無いことだねぇ。それはそうとハク、アンタもそろそろ一年共にケイコ付けてやってもいいんじゃないか?」
「分かっている……」

 二度目の承知の言葉を残し、ハクは歩を進め、何処かへと向かって行った。
 その先は……
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