上 下
75 / 222

75. チンチン

しおりを挟む
 
 俺達は、姫と冒険者さんや騎士さん達が選んだデーモンメイド達に連れられて、地下王宮から1階王宮カジノに移動した。
 どうやら『ミノ1番モフウフ本店』は、王宮の外に有るらしい。

 姫がデーモンメイドを引き連れて、王宮カジノの来る事は珍しいらしく、お客や従業員、『漆黒の森』が運営している王宮ダンジョンに来ている冒険者達が、俺達から少し離れた場所からジロジロ見てくる。

 決して近ずいてこないのは、姫の恐ろしさを知っているからだろう。

 当の姫はというと、俺にデレデレで、必死にメイドに扮して、『ミノ1番モフウフ本店』の案内を、先頭を切って買って出ているのだ。

「姫様、カジノを出て、『ウルフデパート』を越えて、右側の区画に『ミノ1番モフウフ本店』がございます」

 姫の隣には、超美人な巨乳のメイドが付き添っており、姫に『ミノ1番モフウフ本店』の場所を教えている。

 どうやら、姫は自分が支配している街の超有名店の場所も知らないようだ……

 多分、巨乳のメイドさんは、姫お付のメイドなのだろう。

 他のデーモンメイドより風格があり、1人だけメイド服の装飾が違うのだ。

「マスター! 『ミノ1番モフウフ本店』は、『ウルフデパート』を越えて、右側の区画にあるのです!」

 姫は巨乳メイドさんに、教えられたまま俺に道案内をする。

 聞こえてたし! とは言わない。

 姫は『漆黒の森』の女王なのだ。
 女王が、下々がいくお店など知らなくて当然なのだ。

 俺は4歳児だが、紳士の嗜みとして、姫と巨乳メイドとの話は聞いてない体を装い、無言で頷く。

『ミノ1番モフウフ本店』は5階建ての建物で、入り口には行列が出来ている。

 入り口に着くと、初老のダークエルフが出てきて、俺に挨拶してきた。

「私は『ミノ1番』のオーナーのナンコー·サンアリでございます。
 これはこれは、エリスさんの息子さんのアレン様でございますね!
 それからこちらは、噂のアリスちゃんですか!
 姫様の子供の時に瓜二つですね!
 まるで、姫様の妹君と言っても誰も疑いません」

 ナンコウ·サンアリは、温和な笑みを浮かべてアリスに話しかける。

「サンアリ! アリスちゃんは私の本当の妹なのです!」

 アリスは、いつの間にか姫の妹になってしまったようだ。

 確かに俺が姫と結婚すれば、アリスは姫の妹という事になるのだが、俺は姫と結婚する気などは更々無い……

「勿論、承知しております!
 それではアレン様。アリス様!
 どうぞこちらへ!
 VIP席を御用意しておりますので!」

 サンアリは姫の話を華麗にスルーし、そのまま俺達を席に案内する。

「わ……妾はガブリエルの妹などではないのじゃ!
 ガブリエルは、妾の倒すべき目標なのじゃ!
 妹などになったら、ガブリエルと闘えぬではないか!」

 どうやらアリスは姫の身内になってしまうと、姫と闘えなくなってしまうかもしれない事が、とても心配みたいだ。

「大丈夫なのです! アリスちゃん!
 私はいつでも、アリスちゃんとの勝負を受け付けているのです!」

 姫が、アリスに魅力的な提案する。

「そうなのか?そしたら妾は、ガブリエルの妹で良いのじゃ!」

 アリスは、あっさり姫が自分のお姉さんになる事を受け入れてしまった。

「アリスちゃん! 正気なの?
 ガブリエルは、エリスさんを殺そうとしていた人なのよ!」

 ジュリは必死になって、アリスに詰め寄る。

「多分、母様は気にしていないのじゃ!
 シャンティの話によると、母様はゴトウ·サイトに助けられた事があって、それが原因でゴトウ·サイトが死んでしまったのじゃろ!
 それでガブ姉が、母様を恨んでいたと。
 しかし、ゴトウ·サイトの生まれ変わりの兄様を母様が産んだ事により、ガブ姉は兄様に嫌われないように、母様を許したと。
 この時点で、この話は完全に丸く収まって居るではないか!
 さてはジュリ。お主、兄様にヤキモチを焼いているのではないのか?」

 アリスが核心をついてしまったようだ。

「えっ! そんな事ないよ!
 私はただ、ガブリエルがエリスさんを殺そうとしてた事が許せないだけで!」

 ジュリは、アリスにヤキモチを焼いていると言われて戸惑っている。

「シャンティ。母様は、ガブリ姉を恨んでおったのか?」

 アリスは、シャンティ先生に問いかける。

「エリス奥様は、姫様を全く恨んでおりません!
 そもそもエリス奥様には、恨むという感情がありませんので!」

「そういう事じゃ! 本人同士が憎しみ合っていないのに、部外者が騒ぐのは良く無いと思うのじゃ!」

 まさか歳下のアリスに諭されるとは思っていなかったのか、ジュリは黙り込んでしまった。

 アリスはアホだが、実際は前の世界での記憶もあるので、実質1000歳オーバーなのだが……

 俺達はサンアリに案内され、魔道式エレベーターで5階VIP席に到着した。

 VIP席は座敷席のようで、既に人数分のミノタウロスの心臓の刺身と、キムチのような物とサラダが用意されており、俺達の到着に合わせて、よく冷えたエールが運び込まれてくる。

 俺達、お子様組のジュースも用意されており準備万端に整っているようだ。

「それでは今回の集まりは、ガリム王国のレイドの決起集会と聞いておりますので、ネム王子にお言葉を頂けますか?」

 サンアリが音頭を取り、ネム王子が挨拶する事になり、皆、立ち上がる。

「折角の冷えたビールが温くなってしまうと、準備してくれた方に失礼になってしまうので、挨拶は無しでチンチンしましょう!」

 ネム王子が、ジョッキを掲げる。

「それではチンチン!」

 ネム王子がチンチンする。

「「「チンチン!」」」

 続けて、騎士さんや冒険者さん達もエールの入ったジョッキを掲げチンチンする。

 一応言っておくが、『チンチン』とは、この世界での乾杯の事である。

 チンチンすると、シャンティ先生やアレックス、冒険者さんや騎士さん達が、エールを一気に飲み干す。

 俺もジュースを1口飲んで座敷に座ろうとすると、姫に両脇を抱えられ、そのまま姫のももの上に乗せられてしまった。

「ええと……姫さん?」

「マスター! 何ですか?」

「この体勢は、おかしいですよね……」

「マスターは、私の事が嫌いなのですか?」

「好き嫌いで言われたら、嫌いではないかな……」

「そしたら、何も問題ないですね♡」
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

目覚めたら公爵夫人でしたが夫に冷遇されているようです

恋愛 / 完結 24h.ポイント:16,438pt お気に入り:3,115

夫の愛人が訪ねてきました

恋愛 / 完結 24h.ポイント:90,155pt お気に入り:729

姉妹チート

恋愛 / 完結 24h.ポイント:7pt お気に入り:35

名言

現代文学 / 連載中 24h.ポイント:597pt お気に入り:2

裏庭ダンジョン

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:7pt お気に入り:95

【完結】貴方の望み通りに・・・

恋愛 / 完結 24h.ポイント:866pt お気に入り:687

グラティールの公爵令嬢

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:14,605pt お気に入り:3,343

「お前の席ねーから」とパーティーを追放された俺、幼い聖女の守護騎士になる

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:21pt お気に入り:877

処理中です...