続 必ずイカせる！異世界性活～二度目の異世界は主役でした

１３６. 一撃

　
「その勝負、ちょっと待った!!
　我が名は、アナ·アナシア！
　剣神ビクトル·クロムウェルに敗れた、元フレシア王国騎士団長、アナル·アナシアの娘だ！
　剣神ビクトル·クロムウェル！
　今この場で、我が父の仇を取らして貰う！」

　アナは、剣神ビクトル·クロムウェルと、赤い子龍の間に割って入る。
　赤い子龍や、周りのギャラリーも、突然の事に、呆気に取られて固まっている

　剣神ビクトル·クロムウェルは、アナにとって完全なる格上の相手だ。
　長期戦は不利である。
　先手必勝！
　一撃でキメる。
　アナは、全身から雷と風の闘気を纏い、目にも止まらぬ速さで、剣神ビクトル·クロムウェルの懐に飛び込む！

　この一撃に、己の全てを賭けるのだ。

　今までの思い出が、走馬灯のように蘇る。
　父が、初めて、剣の稽古をつけてくれた時の事。
　自慢だった父が、ビクトル·クロムウェルに負けてから、人が変わったように無気力になってしまった事。
　父と母が亡くなり、借金を返す為に、学校を辞めて冒険者になった事。
　夜逃げのように、神聖フレシア王国から逃げ出した事。
　自信をなくしてた頃、エーサクと出会い、また生きる気力を取り戻した事。
　メリル師匠との、血反吐が出るような修行。

　オエッ!!

　メリル師匠との修行の日々を思い出したら、嗚咽が込み上げてきた。

　そんな思い出が、僅か0.02秒の間に、アナの頭に駆け巡る。

　アナは、気持ち悪さを抑えて、愛刀『白虎』の鞘を、強く握りしめる。

　そして、現在、アナ·アナシアが出せる一番の必殺技である居合い技、『一撃』を、炸裂させた。

　『一撃』の発動から0.01秒後、
　剣神ビクトル·クロムウェルも、アナ·アナシアに合わせるように、剣を抜く。
　そして、0.000002秒後には、剣神ビクトル·クロムウェルの剣先は、アナの喉元、薄皮一枚に到達していた。
　その時、アナの愛刀『白虎』は、やっと鞘から出た所であった。

『負けた』

　アナは、死を覚悟した。
　次元が違い過ぎる……

　パシッ！

　誰かが、アナの喉元薄皮一枚だった、剣神ビクトル·クロムウェルの剣を止めた。

　ゴクリ。

　アナは思わず、唾を呑み込む。
　唾を飲み込み喉が動くと、剣神ビクトル·クロムウェルの冷たい剣先が、喉に当たった。

　額から生暖かい、汗が流れる。

「お前達、何をしているのじゃ？
　冒険者ギルドでは、刃傷沙汰は禁止じゃぞ」

　花魁風の着物を着た、貫禄がある銀髪の狼耳族の女性が、氷のような冷たい目をして、アナ·アナシアと剣神ビクトル·クロムウェルを叱りつけた。
　アナ·アナシアの刀と剣神ビクトル·クロムウェルの剣は、狼耳族の女性に、二股に分かれた尻尾で受け止められている。

「フン。俺は、勝手につかかってきた、その女から身を守る為の正当防衛だ」

　剣神ビクトル·クロムウェルは、身に覚えがない事で因縁つけられて、辟易しているといった表情をして、狼耳族の女性に、身の潔白を訴える。

「キッ……貴様ぁ！」

　アナ·アナシアは、父の事をまるで覚えていない態度の剣神ビクトル·クロムウェルに、はらわたが煮えくり返り、気付いた時には、ビクトル·クロムウェルに斬りかかっていた。

　パチン！

　冒険者ギルド本部3階エントランスに、何かを弾いたような、乾いた音が響く。

　何かがアナの額に、ヒットしたような気がした。

　ズダダダダダダダダダ……ン!!

　それと同時にアナは、転がるようにエントランスの壁まで吹っ飛ばされた。

　そしてそのまま、アナ·アナシアは、意識を失った。