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20. 鑑定スキル再び

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 エドソンの死や、グラスホッパー領の兵士の死、そして妹ナナが、トップバリュー男爵の性奴隷なってしまったのも、全てヨナンのせいだと、アスカに断罪されて何年が経っただろう。

 ヨナンは、アスカの奴隷にされてからというもの、アスカに散々コキ使われて、トップバリュー商会に金を生み出し続ける道具として扱われた。
 たまに、アスカの肉椅子、オナペット、ストレス発散のサンドバッグ、はたまた、妹ナナが、男爵に犯されてる所を見せつけられたり、人とは思えない扱いをされ続け、もう死にたいとさえ思う事も多々あったが、その度に、アスカの魅了スキルでメロメロになり、アスカの足を舐め回して昇天し、死にたいのを忘れてしまうのであった。

「もう、死にたいです!だけど、アスカ様の臭い足も舐めたいです!」

 今日も、得意の独り言を、冷たい石床に向かって絶叫する。

「本当、もうヤダ……死にたい。死にたいよぉーー!」

 ヨナンの普段の生活は、狭い牢獄に押し込められ、ずっと寄木細工のカラクリ箱を作り続ける日々。

 何も代わり映えのない日々に、退屈で、退屈で、退屈で、死にたいのだ。
 せめて、喋り相手がいれば、この退屈な日々も耐えられたかもしれないけど、ヨナンには喋り相手は疎か、友達も居ない。

 というか、友達なら居た気もする。
 僅か、数ヶ月の間だったが、ヨナンにも友達が居た。それも、何でも話せる親友と言える友達が。

「鑑定スキル……」

 ヨナンは、楽しかった当時思い出し、名前?を呟く。

『ご主人様、やっと僕を呼んでくれましたね! ずっと、待ってたんですよ!
 だから、言ったんですよ! あの女はダメだって!』

 久しぶりの懐かしい声。

「鑑定スキルぅぅぅ……」

『何、泣いてるんですか! 鑑定スキルぅぅぅ……て、自分のスキルに泣く人なんか、普通いませんよ!』

「だって、寂しかったんだよぉぉぉぉぉ……」

『本当に、ご主人様は、僕が居ないとダメダメですね!
 とっとと、こんな生活から脱出しますよ!』

「それは出来ない」

 ヨナンは、ハッキリと拒絶する。

『ん? ご主人様、何を言ってるんですか? こんな無駄な生活に、なんの未練があるというのですか?』

「俺だけが、この糞みたいな日常から逃げ出す事なんてできないって、言ってんだよ!」

 ヨナンは、再び、寄木細工のカラクリ箱作りに没頭する。

『ご主人様……もしかして、エドソンさんや、お兄さん達、それから元グラスホッパー領の領民、そして妹さんのナナさんの事を気にしてるんですか?』

「……」

 ヨナンは、鑑定スキルの問い掛けにも押し黙り、モクモクと作業を続ける。

『そんなの全て、ご主人様のせいじゃないのに』

「……」

『ご主人様、返事して下さいよ!アレは、ご主人様のせいじゃないですって!全て、性悪女のアスカのせいでしょ!』

「例え、そうかもしれないが、俺が調子に乗って動かなければ、アスカの戯言に耳を傾けなければ、こんな結末にならなかったんだよ!」

『だからって、ご主人様が、ずっと懺悔し続ける必要なんてないですよ!
 ご主人様が、この生活を続ける事は、即ち、ご主人様達をこんなふうにした、アスカと、トップバリュー男爵家の私腹を肥やさせる事に繋がるんですよ!』

「だからって、俺にはどうする事も出来ないんだよ!懺悔する事でしか、死んじまったエドソンにも、妹にも顔向けできねーんだよ!」

『だから、僕が居るんじゃないですか!
 ご主人様がピンチになったら、僕が必ず助けると言ったでしょ!』

 鑑定スキルは、熱く語る。

「助けるたって、俺一人だけ助かっても意味ねーんだよ!
 死んだエドソンや、兄貴達は戻ってこねーし!
 ナナだって、例え助け出したとしても、どうやっても心の傷なんが癒えないだろうが!
 だから、俺はここで、寄木細工のカラクリ箱を作り続けて、死ぬまで懺悔するしかないんだ!」

 ヨナンは、鑑定スキルに、自分の心の丈をぶつけると、再び、何事も無かったように寄木細工作りに没頭し出す。

『ご主人様。もしもですよ。もし、今までの事が、全て無かった事に出来るとしたら、どうしますか?』

「そんな事、出来る訳ないだろ……」

『そう思いますよね。だけど、今の僕には、それが出来ちゃうんですよ』

 鑑定スキルは、ドヤ顔で語りだす。

「お前、何言ってんだ?人生やり直しなんか出来る訳ないだろ?」

『ご主人様、覚えてますか?ご主人様には、木工スキルと、鑑定スキルLv.2、そしてユニークスキルがあった事?』

「知ってるが、それがどうしたよ?」

『僕、ご主人様と喧嘩して黙ってろと言われた後、それでも、何かご主人様の役に立てる事はないかと、ずっと謎だった、ご主人様のユニークスキルを鑑定し続けてたんです。
 それも、何十万、何十億、そして何兆回も、そして、ついに、1週間程前、鑑定回数の条件が指定回数に到達して、僕、ついに鑑定スキルLv.3になったんです!
 そしたら、僕の封印されてたデータベースが解放されて、ついに、ご主人様のユニークスキルが分かるようになったんです!』

「そうなのか?」

『反応悪くないですか?』

「だったら、直ぐに教えろよ!」

 ヨナンは、流石に気になり質問する。

『ふふふふふ。驚かないで下さいよ! な、何と、死に戻りスキルです!』

 鑑定スキルは、ドヤ顔をして胸を張る。
 スキルなので、顔も無いし、胸も無いけど。

「何だそれ?死に戻りスキルって、死に戻っても、また、アスカに騙されて同じ人生送るのが関の山だろ?」

 ヨナンは、死に戻りスキルと聞いて、猛烈にがっかりする。だって、どう考えても同じ人生を辿るとしか思えないし。同じ人間が何度人生やり直そうとも、人の行動が変わるとは思えないし。

『チッチッチッチッ。ご主人様の死に戻りスキルは、何と、記憶を持ったまま死に戻り出来るんですよ!』

「何だそれ? そんなチートスキルが、この世に存在するかよ……」

『それが有るんてすよね! しかも、このスキルは、実は、ご主人様が女神ナルナー様に、自ら交渉して得たスキルでも有るんです!』

「お前、本当に何言ってんだ?どこの世界に女神ナルナーと会った事はがある人間が居るんだよ?」

『あっ! そうそう、もう1つ、鑑定スキルLv.3になって分かった事がありました!
 ご主人様は、何と、異世界転生者です!』

 鑑定スキルが、また、素っ頓狂な事を言い出した。

「異世界転生者? 何だそれ?」

『因みに、アスカも異世界転生をして、女神ナルナーと会った事が有りますね!
 そこで、異世界転生特典として、女神ナルナーから、チートスキルの魅了と、隠蔽Lv.2を貰って、しかも、地球の記憶を持ったまま、この世界に異世界転生して優位に人生を送ってたようですね!』

「もう、お前が何言ってんのか分かんないんだけど……」

 ヨナンは、全く鑑定スキルの話について行けない。

『兎に角、ご主人様は、大好きな【リターン0】というアニメの主人公が持つ、死に戻りスキルを、女神ナルナーに寄越せと交渉したんです。
 ですが、完全版の何度でも死に戻りできるスキルは、女神ナルナーにも与えるのが難しかったらしく、1回限り、しかも、本来貰える筈だった地球からの記憶を持って転生できる特典も、こちらの世界で、死に戻りスキルを使った時に行使する事にしたのです!』

「どういう事だ?」

『だから、本来、地球からこちらに異世界転生する特典である、地球の記憶を持ったまま異世界転生する特典を、ご主人様は、こちらの世界で死に戻りスキルを使う時に回したんですよ!』

「それって、得なのか?この世界に異世界転生した時、アスカみたいに、地球とかという記憶を持ってた方が良かったんじゃないのか?」

『その辺の事も、ご主人様は異世界転生する時に、女神ナルナー様と交渉してます。
 僕が、鑑定Lv.3になったら、僕のデータベースに、女神ナルナーと交渉した情報とか、ご主人様が地球で記憶してた情報も引き出せるようにと』

「俺が地球とかいう世界の記憶がなくても、鑑定スキルLv.3になったお前が、俺の代わりに記憶を呼びだせるって事か?」

『その通り! なので、早く、ご主人様死んでしまいましょう!』

「一応、なんとなく理解はしたけど、いきなり死ねって言われてもな……」

『ご主人様! エドソンと、また会いたくないんですか!』

「そりゃ会いたいけど……」

『そして、ご主人様が死に戻れば、ナナさんがトップバリュー男爵の性奴隷になる前の時代に戻れるんです! 
 ご主人様だけの為じゃないんです!
  アスカのせいで人生狂わされた、みんなの為でもあるんです!』

「俺だって、もう一度、人生やり直してーよ!」

『だったら、早く死んで下さい』

「死ねって……お前、そう簡単に死ねる訳ねーだろ!
 俺にも、心の準備があるんだよ!
 それに、お前が言った事が、本当かどうかも分かんねーだろうが!」

『あの、ご主人様。僕、何回も言ってますが、鑑定スキルは嘘付けないんです』

「それは、知ってるけど……」

『ご主人様は、もう懲りてる筈ですよね?
 誰を一番信用するべきか?』

 鑑定スキルが、真実は何か?誰がいつも正しい事を言ってるのか念を押す。

「ああ。あの時は悪かった。お前を疑ってしまって……お前が一番、俺の事を心配して忠告してくれてたのにな……」

『そうですよ! 僕がこの世界で、一番、ご主人様の事を思ってるんですから! そして、僕が一番、ご主人様の事を大好きなんです!』

「だな」

『ですから、早く死んで、死に戻りスキルを使っちゃいましょう! そしてついでに、アスカに、ザマーしましょうよ!』

「何それ?ザマーって?」

『ん?これはご主人様の地球の記憶で、異世界転生モノのラノベの知識みたいですね』

「異世界転生モノのラノベ? 何だそれ?」

『兎に角、ご主人様は、地球時代、異世界転生モノのラノベを、たくさん呼んでいて、その中で大好きだった【リターン0】の主人公だった死に戻りスキルが、異世界転生した時、一番優位だと考えたんですよ!
 何せ、初めて経験する異世界転生を失敗しても、もう一度やり直せる訳ですから!
 そして、酷い事をされた相手を、死に戻ってザマーするのが、ご主人様の壮大な計画の全貌だったんです!』

「死に戻ってザマーするまでが、俺の計画だったのかよ……」

 なんか、ヨナンは、自分自身が考えたであろう計画に呆れる。

『だから、早く死にましょうよ!』

「分かってんよ! だけど死ぬの滅茶苦茶怖いんだよ!」

『ご主人様、いつも死にたい死にたいと呟いてたじゃないですか?
 いつも石床に向かって、念仏のように……アレ、流石に僕も怖かったですからね』

「確かに死にたいとは言ってたけど、だからって、死に方分かねーし、痛い死に方は嫌なんだよ!」

 ヨナンは、いざ死のうと思っても、流石に怖くて二の足を踏む。

『それなら、僕のデータベースに痛くない死に方、たくさん記述してますから、それを一つずつ試してきましょうね!』

「何度も試すって……それって、1回で死ねない前提じゃねーかよ!」

 こうして、ヨナンは、結局、一番苦しくなさそうな練炭自殺で死んだのであった。

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