転生チートで夢生活

にがよもぎ

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第1章

第009話

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♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎

「ゼェーッ、ゼェーッ、ゼェーッ…」

「…………お帰りなさいませ」

「い、依頼完了…です…。手続き…お願いします…」

指輪と特大袋をカウンターに置く。冷徹な目をしたミリィが特大袋を抱えると、裏へと向かって行った。

「……ハァッ、ハァッ。……ふぅーーーーっ…」

呼吸を落ち着かせ懐中時計を見る。時刻は9時5分前。ギリギリで間に合ったようだ。

「お待たせしました。こちらが報酬金と討伐報酬です。………指輪をお返ししますね」

「…はい。ありがとうございます」

皮袋をポケットに突っ込み、小声でミリィに話しかける。

「……酒場に居るからね」

「はい」

こちらを見ずにミリィは返事をする。その態度でこの後の事を悲観しながら空いている席へと座る。少ししてから、後ろから声とともに肩を殴られる。

「いてっ!!」

振り返ると無表情のミリィが立っていた。

「……ほら、行くよ」

「はい…」

トボトボとミリィの後を付いていき外へ出る。

「もぉー!!遅いよっ!!」

出た瞬間にミリィから怒られてしまった。

「じ、時間には間に合ったじゃんか!」

「あんまりにも遅いから予約したお店に伝えちゃったじゃない!!」

「それは…………すいませんでした!」

深々と謝罪する。確かに待ち合わせ時刻まで来なかったら、お店にキャンセルを入れるよな…。

「ふんっ!!謝っても遅いんだから!!」

「ごめんって!………今度埋め合わせするから許してよ…。ね?」

あまりの怒り様に前世での記憶が蘇る。この場合は誠心誠意謝りつつ、相手側にゴマをするのが正解だと俺は思う。

「………それほんと?」

「ほんとほんと。時間を守らなかった俺が悪いんだから」

こういう場合は『自分が悪い』と言った方が効果的だ。全面的にこちらに非があると明確にした方が後々楽になる。

「言ったからね!じゃあ許してあげる!」

……ほらね?チョロいぜミリィさん…。

まぁ、ぶっちゃけると『ギャルゲー』の知識なんだけどね。アレ、選択肢間違えると好感度が秒で下がるからなぁ。お気に入りを狙う時は苦労したよ…。

いや俺だってね?本心は『間に合ったから別に良いじゃん!』って思ってるよ?『なんでそこまで怒る必要あるの?』って思ってるよ?…けどさ、それを言ってしまうとバッドエンドな訳よ。ヤンデレだったら刺されるパターンなんだよ。

『ギャルゲー』の経験がここで生きるとは思いもしなかったが、俺の謝罪スキルにより命の危機は去った様だ。

「じゃ、さっさとお店に行くわよ!」

「…え?どこのお店?」

機嫌が良くなったミリィが首を傾げる。

「どこって……予約したお店に決まってるじゃない」

「え?断ったんじゃないの?『伝えた』ってさっき言ってたよね?」

2人とも互いに首を傾げるが、何かに気付いたミリィが呆れた様に口を開く。

「…馬鹿ねぇ、断る訳無いじゃない!『時間に』って伝えたの!」

「…は?」

「アルスさんが勝手に勘違いしたんでしょー?…ほら、そんな事はどうでもいいから早く行こっ?」

前言撤回。ギャルゲーの知識は役に立ちませんでした。全くの無駄知識でした!!!……ダメだ!!やっぱりギャルゲーみたいに選択肢が見えた方が良いよ!!

ミリィは狼狽する俺の手を掴むと、予約したお店へと連れて行くのであった。

♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎

「3340Gになります」

「…………はい」

ミリィに連れられ入ったお店は、シンプルで小綺麗にされており、店の雰囲気も落ち着いているお店だった。…いわゆる前世での『お高いお店』だった。

会計--この店は後払い方式--を済ませ外へ出る。空気は冷たく、酒で火照った体には丁度良い温度だった。

「美味しかったねー!このお店、評判良いから気になってたの!」

「……高いところを奢らせるなよ。俺『駆け出し』なんだぞ…?」

料理は確かに美味かったし料金が高いのも納得出来る。しかし、知っているなら先に言って欲しかった。

「昨日、バドワールさんから報酬金たっぷり貰ったでしょ?『言い値で払う』って聞いてたんだから!」

そういや、その依頼書を作成してたのはミリィだったな…。………ハッ!!コイツ!それを知ってるから奢らせたのか!!

「貰ってねーよ!」

俺は事実をミリィに伝える。しかし、計算高いミリィには通用しなかった。

「またまたー。そんな嘘は良いって!だったら店の代金払えるはず無いでしょー?」

……ぐぬぬ。確かにそうだけど…。

何も言い返せず無言が続く。金は持ってるけど、それを言ったら話がややこしくなりそうだ。

「でも…ご馳走してくれてありがとね、アルスさん!」

---そこに女神がいた。
月明かりがミリィを照らし、それに映えるような天真爛漫な笑顔を浮かべ、ミリィは御礼を言ってくれた。その笑顔の美しさに、しばしの間、俺は見惚れてしまった。

「お…おぅ…」

あまりの美しさに俺は言葉を見失い、ただただ頷きを返す事しか出来なかった。

「ま、まぁ…料理は美味しかったし、楽しかっ---
「でも、アルスさんも私みたいな可愛い子と食事できて嬉しかったでしょ?」

台無しだよ!!!今の言葉でさっきの笑顔が台無しだよ!!!!

無邪気な笑顔を浮かべるミリィに返す言葉が見つからず、ただただ呆れるだけであった。

「…はぁ。まぁ可愛いのは認めるけどさ…。自分で言ったらダメだろ…」

「ッ!…ま、まぁ可愛い子と食事出来るんだから安いもんだよねー!」

「あのなぁ…!それはお前が『奢れ』って言うから奢ったんだぞ!」

「えー!?私が言わなかったら奢ってくれなかったの??」

「……それは場合による」

「なら、今回も別に奢ってくれてもいいんじゃない?」

「いや、だから……。………はぁ、まぁ楽しかったからそれでいいや…」

「ふふーん!素直じゃないんだからー!アルスさんはっ」

俺を小馬鹿にするようにながら、ミリィは楽しそうにはしゃいでいる。

「あーもー!つつくのやめろって!」

「あはははっ!冒険者たる者がこんな攻撃で悲鳴をあげるのかー?ほれほれー!」

「あげるかっ!!…イテッ!」

ミリィの手を跳ね除けようとすると、ミリィはそれを避けようとした。すると偶然、その手が俺の顔に当たってしまった。ミリィは少し驚いた顔をした後、その場から走り去った。

「あっ!こら待て!」

「あはははっ!鬼さんこーちらー!」

「てんめぇー!!待てやゴルァ!!」

楽しそうに逃げるミリィを追いかける俺。第三者から見れば確実に『案件』だが、奇跡的にその場には誰も居なかった。

しかし、軽やかに走るミリィだが一向に差が縮まらない。加減して走ってはいるがそれでも少しも縮まらないのは奇妙だ。

「お見送りご苦労様ーっ!今日はありがとねっ!それじゃっ!」

「え?あっ、おいっ!」

ミリィは建物の前で振り返りこちらへ言葉を投げかけると、中へと入っていった。俺はミリィが入っていった建物を見上げながら、先程の言葉を思い返していた。

「……『お見送り』?…ニャロー!そういう意味か!!」

俺の推測ではあるが、わざと俺を怒らせ自分の家まで送らせたのだろう。別にそんな回りくどい事をしなくても、普通に送り届けたのに…。ハッ!!もしかして、俺が不細工だからこの様な方法を取ったんじゃないか?!確かにこの世界の人と比べたら、そりゃ不細工かも知んねーけどさぁ…。そもそも平均値が高すぎるんだよ!!

久々にネガティブな感情が姿を見せ、その場に立ち尽くしてしまう。……ま、世間がどう思おうと俺は普通だ。普通の顔なんだ!

自分を浅い考えで慰め宿屋への帰路につく。『明日にでも姿見作ろっと…』と心に傷を負いながら、トボトボと帰って行くのであった。

♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎

---翌日。平穏な朝はとある男の叫び声で打ち壊される。

「なっ…なっ、なんじゃこりゃああああああ?!」

男の叫び声に窓で休んでいた小鳥達が一斉に羽ばたく。宿の近くを通っていた通行人も『何事か?!』と周囲を見上げるが、『なんだ。宿屋からか…』と気にしないままに通り過ぎて行く。

そんな当たり前無い様でそれが当たり前の光景は『ここは異世界だ』と思わせる。

そんな異世界での波乱な1日が、再び始まるのであった。

♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎

朝早くに目が覚め、いつも通り顔を隅っこで洗う。その時ふと思い出した。

「……あ、そういや風呂入ってねぇな」

風呂に限らず、歯磨きも髭剃りもしていない。タバコを吸うのに歯磨きをしないなど『歩く災厄』だ。

「…まずは歯磨きからだな…」

『創造』で『歯ブラシセット』と『手鏡』を作り出す。コップで水をすくい、歯磨き粉を付け歯を磨く。ちなみにだが、俺は歯を磨く時は左の奥歯からだ。

手鏡を見ながらしっかりと磨く。電動歯ブラシも良いが普通の歯ブラシの方が『磨いてる感』がある。歯磨きを終え口をゆすぎ、手鏡で確認する。

「イーーー………ん??」

ふと、綺麗になった歯を見ながら違和感を感じた。

「んん??」

その違和感をじっくりと調べる。しかし、手鏡が小さくその違和感をしっかり見ることができない。

「…もうちょいデカイの作るか」

今度は大きめの鏡、姿見を作り出す。

「これで良し。……暗くてよく見えないな」

ちょうどその時、窓から陽射しが室内へと差し込む。

「おぉ…ナイスタイミング」

姿見を下側から、そして全体を照らす。その時、違和感の正体が明らかとなった。

「なっ…なっ、なんじゃこりゃああああああ?!」

姿見に写った自分顔を直視する。鼻の穴に指を突っ込んだり、変な顔をしたりするが、鏡の中の人物はまるで自分の顔の様に同じ動きをする。

「……おいおいおい、嘘だろ……?」

顔を触り確認する。………間違いない。鏡に写っているのはだ!

目の前の出来事に驚くのは無理はない。姿見に写っているのは全くの別人の顔だからだ。

美男子…いや、美青年と言った方が良いだろうか。各パーツは整っており瞳の色はウグイス色、髪は短めで黒色であった。

「これが…俺…なのか…」

前世とは違う顔立ちに呆然としたが、徐々に笑いが込み上げてきた。

「ふふふっ……ふはははっ、アーハッハッハ!」

イケメンスマイルを直視し姿見に語りかける。

「うひょー!!イケメンじゃねーか!!!ヤベーー!!カッコいいー!!」

あまりのイケメンさに狂喜乱舞する。姿見へモデルポーズを取ったり、どの角度が更にカッコよく見えるかを確認する。

「さようなら、過去の俺。こんにちは、新しい俺」

鳥肌どころでは済まされない気持ちが悪すぎる言葉を吐くが、その場には誰も居ない。

「いやー、こんな顔だったのか!もうちょっと早く見ればよかった!そしたら、劣等感なんて感じなくて済んだのに!」

それからの行動は早かった。素早く身支度を済ませ、鎧も剣も新調--『鋼の鎧』と『鋼の剣』だ--し、意気揚々と外へ出る。

イケメンスマイル--自分で思っているだけだが--を浮かべながら、ギルドへと足を運ぶ。中に入り掲示板へと向かい依頼を吟味する。

「うん…。これが良いな」

討伐系の依頼を剥がし、受付へと持って行く。いつもの受付嬢の前に依頼書を提出する。

「おはようミリィ。今日も素敵な笑顔だね!」

「え………キモっ…」

その一言で、ガラスのハートが砕けるのが分かった。

「どうしたんですかアルス様?いつもと違って…その…」

「いや…大丈夫です。自分でも気持ち悪いなって思いますから…」

所詮ハリボテの船は海を渡れない。いくら見た目が変わろうとも、中身は『玉田 広志』そのままなのである。

「そう…。気付いてるなら良いですけど…」

「……はい。すいません…」

ミリィは少し俺と距離を保ちながら、依頼書と指輪を受け取る。

「…『小鬼ゴブリン』の討伐ですね。依頼主は………『ダダ村』からですね。アルス様、村の場所はご存知ですか?」

「ダダ村……あぁ、はいはい。南東にある小さな村ですよね?」

脳内マップを展開しダダ村の位置を確認する。

「はい。ではアルス様は『討伐系』の依頼は初めてだと思いますので説明させていただきます」

ミリィは業務連絡を伝えるような声で、分かりやすく教えてくれた。

『討伐系』の依頼は倒して終わり!と言うことでは無く、討伐後に1泊して魔物の襲撃が無いことを確認してから帰還しなければならない。

また、『魔物の群れ』にはボスがいるらしくそれを討伐しなければならない。群れのボスはその魔物の上位種が指揮を取ってる場合が多く、その討伐部位を持って来なければ依頼完了にはならないとの事だった。

簡単にまとめると、『ボス』を倒して『安全かどうか』を宿泊して確認して帰ってこい!と言う事であった。

「討伐依頼については以上になります。ただ…」

ミリィは言い辛そうに言葉を濁す。『はっきりと教えて欲しい』と伝えると、しぶしぶだが口を開いた。

「……ただ、この依頼はパーティ向けとなっておりソロで行動しているアルス様には難しいかと…」

「…なるほど。確かに討伐となると敵の数が分からないので、パーティを組んでいた方が良いですもんね…」

「…他の依頼を受けるか、パーティメンバーを見つけてから受注してはどうでしょうか?」

ミリィの言っていることは正論だ。依頼を失敗したとなればギルドの信用問題にも関わる。しかも、失敗した場合は村の人々が犠牲になるかもしれないのだ。安全性を考慮した上で、パーティを組む事を勧めるのは正しい事だ。

「話に割り込んでもよろしいかな?」

依頼をどうするかを悩んでいると、後ろから声がかかった。

「バ、バドワールさん…」

声の主はバドワールさんであった。予想外の人物の登場に、ミリィと俺は目が点になった。

「会話を遮ってしまって申し訳ない。ただ…少しミリィさんに伝えておこうと思ってね」

「わ、私にですか?」

急に名指しされドギマギするミリィ。俺も何故こうなったのかが分からなく、2人をキョロキョロと交互に見ている。

「あぁ。……まぁ先に言っておくが、2人の会話を聞いててね。…いや、そういうつもりでは無かったんだが…偶然耳にしてしまったんだよ」

「は、はぁ…」

「どうやらアルス君は小鬼の討伐依頼を受けるみたいだね?しかし、アルス君の実力を知らないミリィさんは止めたようだね」

「はい。規則ですから」

「あぁ、別にそれを責めるつもりもないし、とやかく言うつもりもない。ただ、提案があってね」

「提案…ですか?」

ミリィは怪訝な顔をする。それとは対照的にバドワールさんの表情は真剣そのものだ。

「アルス君がパーティを組まなくても、討伐は容易に出来るだろう。しかし、『駆け出し』という状態ではギルドも許可は出せない。……ならば、私の弟子を貸し出そう」

「「………は?」」

よく分からない話が舞い込んでくる。バドワールさんと話していると無駄に頭が疲れるんだよなぁ…。

意味が分からないのはミリィも同様で、美しい顔に軽くシワが寄っている。

「元々、アルス君にこの話をしようと探しに来たんだがね。ちょうど良いタイミングだし、パーティを組んで依頼を受けてはどうだね?」

「ち、ちょっと待ってください!あー……色々聞きたい事が有るんですけど…、えと、その弟子というのは誰なんでしょう?」

「ふむ。その質問はごもっともだな。私から説明しても良いのだが、本人と直接話した方が良いだろう。……もうそろそろ来る頃だとは思うが……あぁ、来たみたいだね」

バドワールさんは入口へと目を向ける。俺もバドワールさんにつられるように入口へ目を向けると、こちらへ走ってくる男性が見えた。

「ハァ…ハァ…。お、お待たせしました!遅くなり申し訳ありません!」

「あれ?ハインさんじゃん」

こちらへ走ってきたのはハインさんだった。薄汚れた前掛けは着ておらず、魔法使いかと思える青色のローブを着ていた。

「おはようございますアルスさん!」

「5分の遅刻だハイン。時間を無駄に使うのは大きな損失となる。しかと覚えておけ」

「す、すいません師匠…」

ハインさんとバドワールさんが並ぶと、『教師と生徒』という構図になる。話してる内容もピッタリだ。

「あのぅ……どういう事なのか教えて頂いても…?」

おずおずとバドワールさんを見ながらミリィが尋ねる。

「はい!それは僕から説明させていただきます!」

ミリィの問い掛けに答えたのはハインさんであった。

「昨日の晩にですね、ある実験を考えまして師匠に相談した所、『アルス君と共に依頼を受ければ良い』と言われたんです!」

自信満々に答えるハインさんだが、ちっともさっぱり分からなかった。だからこそ、俺は尋ねる。

「……うん。出来ればもうちょっと詳しく話してくれませんか?」

「あ、すいません…。それでですね、僕はまだ『冒険者登録』をしていなかったので、今日受けようと思ってギルドに来たんです。その時にミリィさんにアルスさん宛ての言伝を頼もうと思ってて…」

「……うん。それで?」

「僕、魔法に関しては自信があるのですが、恥ずかしいことにこの歳になってもまだ魔物と戦った事が無いのです…。しかし、実験には魔物の素材が必要でどうしたものかなーと考えていた所、アルスさんと一緒に行動すれば良いんじゃないか?と思いまして!」

「……ん?つまり…俺と一緒に依頼を受けるって事ですか?」

「はい!ただ、一緒に依頼を受けるとなると僕も登録をしないといけませんので、朝早くに登録してアルスさんを待っとこうと考えてたんです!」

……あー、はいはい。何となーく分かった気がする。つまり『魔物の素材が欲しいから俺と一緒に依頼を受けたい』って事ね。

「でもですよ?別に俺に討伐の依頼を出せば良いんじゃないですか?」

別に一緒に行かなくても、頼めばいいだけの話じゃないか?と、思っていると少し恥ずかしそうにハインさんは口を開いた。

「…さっきも言ったんですけど、討伐の経験が無くてですね…。師匠もどうにか僕に経験を積ませようとしてたんですが、1人じゃ怖くてですね…」

「ああ、そういう理由ですか」

「あと…『名指し』の依頼になるとお金がかかりまして…」

「あー……確かに『名指し』だとお金がかかりますからねぇ。……わかりました。付いていくかはギルマスの判断に任せるとして……

「ドーラには私から話をしておくから大丈夫だよ」

「…………ちょっとバドワールさん。ギルドの規則を捻じ曲げる様な事はしないでくださいよ…」

「大丈夫だよミリィさん。アルス君はかなりの手練れだ。ハインを任せても良いくらいのね」

「…化大茸マタンゴを討伐してきたのは知ってますけど…。根拠はあるんですか?」

「いや?そんな物は無いよ。…ただの勘だよ」

呆れた表情を見せるミリィ。しかし、少し間を置いてから納得した様な表情に変わる。

「…わかりました。ではギルマスにはバドワールさんに任せるとして…。ハインさん、まずは登録を済ませましょう。私に着いて来てください」

ミリィはハインさんを連れ、隣の部屋へと入っていった。バドワールさんと2人っきりで残された俺はある疑問を尋ねた。

「バドワールさん、1つ聞いても良いですか?」

「ん?……任せられると『言い切った』事かね?」

「はい、その通りです」

「簡単な事だよ。小鬼を倒したあの魔法は、駆け出しが使えるレベルでは無いのだよ」

「…と言いますと?」

「必要最低限の魔力で高威力の魔法を使うなど、『王宮術師』以外に私は見た事が無いんだ」

「…そうなんですか。でもたまたまですよ?」

俺の言葉にバドワールさんは鼻で笑うと、思案しながら口を開いた。

「たまたま…か。私でも魔物の接近には気付かなかったのだがね。…それにいとも簡単に討伐してきた君の事を(たまたま』と言う言葉で片付けて良いのかね?」

「……」

「まぁ、それだけでは説得力に欠けるがね。それでも私の勘は、アルス君が強いと言っているんだよ。……長年王宮に勤めていた経験もあるんだけどね」

「まぁ…強いのは認めますけど、そんなに強くないですよ?」

「アルス君の強さがどのくらいか分からないが、ハインを守りながら戦うぐらいは余裕だろう?」

「……多分」

「ま、死なせたりしたら許さないがね?」

朗らかな笑みは正反対のモノへと変わり俺を見つめる。

「……それは命に代えても守りきらなきゃヤバそうですね…」

「ハハハッ!まぁ、この国で生きていけないくらいなだけだ。そう悲観する事はない」

……いやいやいやいや。充分ヤベーじゃねーか!!変な汗かいちゃったじゃん!

ダラダラと背中に汗が流れる。……あの目は本気マジだ!

蛇に睨まれた蛙の様に、バドワールさんから離れる事が出来なかった。すると、空気を和らげる様に少し間延びした声が届いた。

「お待たせしましたぁー!」

声の方へ目を向けると、部屋から出てくるハインさんとミリィが居た。

「お帰りなさい」

「『冒険者登録』って簡単に出来るんですねぇ。僕、魔物と戦うのかと思ってましたよ!」

「俺も最初はそう思ってましたけど、意外とあっさりですよね」

「手を付くだけで出来るんだったら、早めに作っておけば良かったなぁ」

子供の様にはしゃぐハインさんの耳には、シンプルなピアスが付いていた。

「あ、ハインさんはピアスにしたんですか?」

「はい!指輪やネックレスだと実験の邪魔になりますし、ピアスならオシャレにもなるかな?って…」

少し照れた様に顔を赤くしモゴモゴとハインさんは、耳を隠した。

「とても似合ってますよハインさん」

「えっ…?あ、ありがとうございます!」

俺の言葉に更に顔を赤くしうつむく。

「よし、ハインも登録が終わった様だし早速アルス君と一緒に依頼を受けなさい。丁度アルス君はダダ村からの依頼を受けるみたいだし、それに着いて行きなさい」

バドワールの言葉に、俺は疑問を抱いた。

「え?ハインさんはHランクですよね?Fランクの依頼は受けれないはずじゃ…」

「アルス様、パーティで依頼を受注する際は適正ランクが人数の半分居れば可能ですよ?」

「え?そうなの…そうなんですか?」

「流石にEランクの依頼をHランクが受ける事は出来ませんが…『初級ランク』なら可能です」

「……すいません、その『初級ランク』って何ですか?」

新たな疑問が生まれミリィに尋ねる。一瞬だけ『マジかこいつ?』という表情を浮かべたが、営業スマイルに戻り説明してくれる。

「『初級ランク』と言うのは『HからFランク』を指します。所謂いわゆる、『駆け出しの冒険者』になります。『EからD』で『一人前の冒険者』と認められ、それからC、B、Aの『上級冒険者』となっていきます。………説明を受けたと思われますが?」

「…初耳なんですけど」

「聞き逃したのでは?これらは、最初に説明するのが義務になっていますので」

…え?そうなの?全然覚えてないんだけど…。

『知らないよ?』などと言う水掛け論に発展しそうな台詞は言わず、素直に『そうなんですね。忘れてたみたいです』と言って、話を締めた。

「ではアルス君、ハインの事をよろしく頼むぞ。私はドーラに話をしに行かなければならないからな」

そう言うと、バドワールさんは階段へと進んでいき階段の手前でこちらへと振り返った。

「アルス君、さっき言った事は本当だからな?怪我もさせないでくれよ?」

それだけ言うとバドワールさんはスタスタの登っていく。言葉を投げかけられた俺は少し身震いした。

「あの…アルスさん、師匠は何て言ったんですか…?」

「アルス様、どういう事ですか?」

不思議に思った2人が俺に尋ねる。

「『ハインさんを守る』って約束したんだよ…」

脅された事は伝えず言うと、その言葉に納得したのか薄く笑顔になるハインさん。

「師匠ったら…」

「ハインさんは大事にされているんですね。私もそういう男性と巡り会いたいですよ」

「師匠の場合は『過保護』気味なんですけどね…。それよりもアルスさん、サクッと依頼を受けましょう!」

ハインさんと共に受注を済ませ、酒場でこれからの事を話す。

ハインさんは『森の狼フォレストウルフ』の素材が必要らしく、小鬼ゴブリンを討伐した後に探そうと言うことになった。ただ、無理に探しに行くのでは無く、『ダダ村とカイジャの往復で痕跡が見つかったら』という話になった。

「でも、探さなくて良かったんですか?」

「はい。村に行けば素材があるかもしれませんし、僕はアルスさんに守ってもらう立場ですからね…。ワガママなんて言う権利は無いですよ」

「別に俺は気にしないですけどね。…じゃ、そういう流れでよろしくお願いします。……すぐに向かおうと思うんですが、準備するものはありますか?」

「いえ!しっかり準備してきました!……泊まりだとは思ってなかったですけど、1日くらいなら下着変えなくても大丈夫ですし…」

「……下着類持って行きます?」

「大丈夫です!必要な時はダダ村で買いますから!」

それから互いの情報--どの魔法が使えるかなど--を交換し、ギルドを出る。外は人通りが多く、懐中時計を見ると0時を指していた。

「ご飯食べてから村に向かいますか」

「はい!どのお店で食べるんですか?」

「俺そんなに店知らないんですよね…。ハインさんのオススメの店を教えて下さいよ」

「僕のですか?……うーん…。アルスさんは辛いの大丈夫ですか?」

「大好きですよ!」

「なら激辛のお店があるんです。そこにしませんか?」

「はい!そうしましょう!」

ハインさんの後に続き店へと向かうのであった。
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