34 / 346
第3章 王宮学園 -前期-
第033話
しおりを挟む
「……なんじゃこりゃ?」
俺の目の前には『街』が広がっている。奥には城のような物が建っており、他の建物は綺麗に並べられている。
「……これが学園だって?嘘だろ?」
「なかなか広いだろう?あそこに見える城が『校舎』だ。右側に見えるのは『職員寮』だ。アルス君が住む住居だな」
城の右にはビルのような建物が建っている。あの建物は城よりは低いが、他の建物よりは大きい。
「はぇー。こんな所に住むのかぁ……。そりゃ金がかかるのも分かるなぁ」
「学園内には武器屋もあるぞ?まぁ、武器や防具は有料だが、生徒達が作った作品もある。暇な時にでも見るといい」
窓から顔を引っ込めて車内へと戻る。『門』から学園までの道はしっかりと整備され、カコカコと蹄の音が聞こえる。
「……全校生徒合わせて何人いるんですか?」
「うーむ……そうだなぁ……ざっと見積もっても千は居るだろうな。職員を合わせれば二千は超えるだろう」
「……そんなに貴族の子供達が居るんですか?」
「居るとも。アルス君は知らないのか?貴族となると『側室』持ちになるという事を」
「本で読んだことはありますけど……それにしても多くありませんか?」
「あぁ、貴族といってもフルールに住むだけが貴族では無いよ?エルフやドワーフ、獣人族の子供達も入学している。……ヒエラルキーについては理解しているな?」
「はい。…確か俺の学年に結構居るんですよね?」
「稀に固まる時があるのだが、運が無かったな。各国の重鎮の子供達が2学年に固まっているぞ。……まぁ、私が命令したのだが」
「? なんか言いました?」
「いや、何でもないよ。……まぁ、大変な学年を受け持ったという事だ。しかし、担任などにならなくて良かったな」
「…ホントですよ。副担任とかになったら俺辞めてましたよ」
「流石に非常勤講師には担任は任せられないからな。…アルス君が正規職員となったら分からないが」
「…勘弁してください。例え正規になったとしても俺は逃げ続けますよ」
「そろそろ学園内に入ります。『通行証』のご準備を」
ラティスさんの声が聞こえ、『通行証』を出す。窓から外を見ると、重厚な門が俺達の前に立ち塞がっていた。
門の前にいる兵士--おそらくだが冒険者--に『通行証』を見せ、学園内へと入る。
「うぉーっ!!これが学園かよぉ?!」
『学園』と言われなければ街だと思っただろう。色とりどりの街並みが俺の眼に映る。
「ここら一帯は生徒達の寮となっている。城に近づくにつれて、権力を持っている生徒が住んでいるぞ。ま、門の近くは大体が新興貴族か一般生徒の寮だな」
ジルバさんの説明を受けながら、窓から顔を覗かせる。外には制服を着た生徒らしき人達がうじゃうじゃと歩いていた。
「へぇー。制服があるんですね。教師にもあるんですか?」
「もちろんあるとも。アルス君のはラティスが準備しているはずだ」
流石ラティスさん。出来る男だぜ。
「くふふふふ。懐かしいですねぇ…」
「ん?懐かしいって?」
外の光景にリンドールさんが笑みを見せる。
「僕もここに通ってたんだよ。……まぁ、卒業は出来なかったけどね?」
「……となるとリンドールさんは貴族の子供だったんですか?」
「いや。僕は一般だよ。戦闘能力を買われて入学したんだ。……3学年の時に魔物討伐にドップリとハマっちゃってね…。進級出来なかったから辞めたんだ」
「……うへぇ…。なんか簡単に想像がつきますね…」
「まぁ座学は嫌いだったし、冒険者で生きていけばいいやと思ってたんだけど、ジルバ様に拾って頂いてね。それで今に至るって訳さ」
「へぇー。……ジルバさん、どこが気に入ったんですか?」
「なに、純粋な戦闘力だよ。ギルドでリンドールは有名になっていてね。これは良い物を見つけたと思って、スカウトしたんだ」
「……マジか。でも、最初から言う事聞いたんですか?」
「躾の意味で騎士団に所属させたんだ。そこからはちゃーんと言う事を聞くようになったよ」
「……くふふふふ。あれは良い体験でした。私の実力が浮き彫りになりましたからね」
「ドーラの所に入れたのが正解だったな。コテンパンにしてやってくれと言ったら、物の見事にリンドールを躾けてくれたよ」
「ん?ドーラさんが??なんでですか??」
「おや?聞いてないのかね?ドーラは昔、第4師団の隊長をしていたんだよ」
「……は??隊長??」
「そうだ。魔法はからっきしだったが、純粋な武力はピカイチだったよ」
「くふふふふ。ドーラ様には大変お世話になりましたよ。あそこまで実力差を感じたのは初めてでした」
「は?え??……そんなに強いんですか?」
「現役の頃はね?…まぁ、今でも充分強いと思うが、今ではリンドールと互角じゃないかな?」
「そうですね。私もアルスに熱い手解きを受けましたから、現役の頃のドーラ様には近づいたと思います」
…ドーラさんが隊長だって?!初耳だし、信じられないんだけど?!
「間も無く到着します」
外を見ながらソルトさんが俺達に知らせてくれた。窓を覗くと城の近くまで来ていた。
「ソルト、私はアルス君と学園長達に挨拶をしてくる。リンドールと一緒に荷物を運んでいてくれ」
「かしこまりました」
「リンドール、私からの追加の荷物があるからそれを取って来てくれ。……あぁ、アルス君の部屋にそれは運んで置いてくれ」
「承知しました」
馬車が止まり、ラティスさんが扉を開けてくれる。外に出ると目の前には『職員寮』がそびえ立っており、首を90度にしなければ全貌が見えなかった。
「さて、アルス君。私と一緒に挨拶に行くぞ。……ソルト」
「はい。手土産はこちらに準備しております」
「ふむ。あとでアルス君に例の物を」
「そちらも準備しております」
「???」
何の会話なのか分からないが、先に行くジルバさんについていく。『職員寮』には入らず、城--校舎--へと入って行く。中に入るとまず迎えてくれたのは大きなホールであった。その真ん中に石碑が置かれ、文字が彫ってあった。
石碑を素通りし、ジルバさんはスタスタと進んで行く。すれ違う生徒達がジルバさんに恭しく挨拶をしてジルバさんも爽やかに挨拶を交わす。俺も小さな声ではあるが挨拶をして先に行くジルバさんを追っかける。沢山の魔法陣に乗り、恐らく最上階であろうフロアへと到着し、また歩く。やがて、とある大きめのドアの前で立ち止まる。
「失礼するよ」
軽くノックをしてから返事を待たずに部屋へと入る。俺も挨拶をしてから部屋に入る。
「いらっしゃいジルバ。こっちに座りなさいな」
部屋の中には初老であろう白髭を生やした男性とサイドダウンの緑色の髪色をした若い女性がいた。女性がジルバさんを呼び、ソファーに腰を下ろす。
「ジル、一緒に来た子が例の子かい?」
ソファーに座ったジルバさんに初老の男性が問いかける。
「ええ。私やドーラ、バドワール様が推薦するアルス君です」
「ふぅん…?かなり若い子ですが、アナタたちが推薦するなら実力は確かなものなのでしょうね」
「そうだよ『マクネア』。非常に才能に溢れていて有望な青年だ」
マクネアと呼ばれた女性がソファーから立ち、近づいてくる。どこぞのパーティーに参加するようなヒラヒラのドレスで、露出も激しい。目のやり場に困った為、視線を女性の足元へとずらす。
「こんにちはアルス。私の名前はマクネア。この王宮学園の学園長をしております」
「は、初めまして!アルスと言います!よろしくお願いします!!」
マクネアさんは俺の前に立つと柔らかな声で挨拶をする。慌てて俺も深々と挨拶を返す。
「フフフ。さぁ、どうぞアルス」
マクネアさんに手を引っ張られ、ジルバさんの横に座る。マクネアさん自らが紅茶を用意してくれ、目の前に置かれる。
「アルス君。あちらにいらっしゃるのが、理事長の『ミネルヴァ』様だ。アルゼリアル王国の『三大公爵家』でもある御方だ。本当にほんとぉーーーに失礼の無いように!」
ジルバさんが念入りに俺へと伝える。見たことの無い表情をしていたので、『あ、これはガチなやつだ』と悟った。
「ふぉっふぉっふぉっ。儂は引退した身。そこまで脅す必要も無いじゃろうて」
「いえ。アルス君は少し馴れ馴れしい部分がございますので、しっかりと教えていなければなりません」
「…頭の固い男じゃのう。儂は時と場合を考えれば気にしないがのぅ?」
「ミネルヴァ様に馴れ馴れしく話すなど、畏れ多いですよ…」
…こんな焦るジルバさんは初めて見た。確か『三大公爵家』って言ったっけ?前、本で読んだ記憶が……。
記憶を遡り目当ての記憶を引き出す。
--『三大公爵家』。アルゼリアル王国の建国時から存在する由緒正しき家柄。王族を除き、この『三大公爵家』には名字が振られている。『フォーク家』『レノックス家』『デヴォン家』、この3つの公爵家は前世でいう『三権』を担当している。
『フォーク家』は司法を、『レノックス家』は立法を、『デヴォン家』は行政を王から任命されている。ただ、面白い事にこの『三大公爵家』は後継者がゴミクズな場合、養子を迎える事になっている。他の貴族は大体が世襲なのだが、この公爵家は違う。ほんの少しでも経歴に汚れが付いた場合、すぐに後継者候補から外される。それらを建国時から続けているので、重圧は尋常では無い。
本で読んだ内容を思い出していると、横から声をかけられた。
「どうかされましたか?」
「い、いえ……。『三大公爵家』って何だったかなーと思い出していました…」
「あら?アルスは私達の事を知らなかったのですか?」
「あ…俺…じゃなくて私は辺境の村出身で……知識が全然無くてですね……」
言葉を選びながらマクネアさんに理由を話すと、彼女は少し目を丸くした後笑い出した。
「うふふふふ。面白い子ね?……でも、自分の国の事ぐらいはしっかりと知っていた方がいいわよ?ここは私達のような貴族が集う学園。知らないのは致命的なものとなりますよ?」
「す、すいません……。ちゃんと勉強します…」
「まぁまぁ、そう言うなマクネア。アルス君の村までしっかりと教育が届いてないという事は、儂らの責任でもあるのだから」
「…そうですね。もう一度しっかりと根本から見直した方が良さそうですね」
「頼りにしておるよマクネア」
それからはミネルヴァ様主導で話が進んでいった。話し始める前にジルバさんが手土産を2人に渡していた。お茶請けも用意しており、ソルトさんに頼んでいたのはこの事だったのか!と理解した。
「そういえばアルス君。君はエドと知り合いと聞いておるのじゃが?」
「エド……ああ!錬金術師のエドワードの事ですか?」
「そうじゃ。彼女とフランツから君の事を少し聞いておっての。学園の案内は彼女に任せておるのじゃが、良かったかね?」
「はい!ありがとうございます!」
「ならこれからはエドを頼ると良い。分からないことがあったらエドに聞いておくれ」
ラッキー!そういやエドが居たんだった!これで楽が出来るぞ!……初対面の人に案内されるのって何か緊張するもんね?
「お爺様、私もご一緒に案内してもよろしいでしょうか?」
「おや?どうしたんだね?」
「いえ……。私も一緒に案内をすれば、生徒達の事を教えれるかと思いまして…」
「…そうじゃな。アルス君はまだ仕組みを知らぬかもしれんな。……よろしい。そこら辺の事はマクネアがしっかりと教えなさい」
「ではアルス。今からエドワードを呼ぶので少し待ってなさい」
そう言うとマクネアさんはポーチから宝石のような物を取り出すと、その宝石に喋りかけた。
「エドワード?アルスが来ているわ。案内をするので至急理事長室に来なさい」
喋り終えるとポーチにしまう。『今のは何だろう?』と思っていると、その視線に気付いたマクネアさんが教えてくれた。
「…あぁ、これはね『魔水晶』と言うの。中に魔法陣が刻印されているんだけど、主に連絡用で使うものよ」
「ますいしょう…?」
「えーっとね……ドワーフ国で取れる水晶の事なんだけど、それは知ってる?」
「…はい。……本で読んだことがあります」
「その水晶に『通信』の刻印をしているの。あの魔法は媒体を経由しないと機能しないからね」
「あー……なるほど。理解出来ました」
「頭の回転が速いのね。魔水晶なら持ち運びも便利だし、自動で魔力を集めてくれるから持ってこいなのよ。……あ、後でアルスにも渡されると思うわ。貰ったら必ず自分の魔力を一回流してね?そうしないと使用出来ないからね?」
……ふむふむ。そんな便利な魔法があったのか!!そっち系の魔法は興味無かったなぁ…。後でステータス調べとこ。
「その魔水晶は、誰にでも連絡出来るんですか?」
「学園内なら職員全員と連絡する事が出来るわ。もちろん、私やお爺様にも」
「……例えばそれでジルバさんやバドワールさんに連絡を取れたりは?」
「それは出来ないわ。学園には多重の結界魔法を張ってあるの。外でなら出来ると思うけど、学園内からの通信出来ないわ」
「…ありがとうございます。勉強になります!」
マクネアさんの説明が終わると同時にノック音が聞こえた。
「どうぞ」
「し、失礼ひましゅ!!」
「あらエド。早かったわね?」
「し、至急って言われたので……」
エドをよく見ると、肩で息をしており全力疾走で来たのがわかった。
「それじゃお爺様。エドも来た事ですし、私達は案内をしてきますわ」
「しっかりと教えるんじゃぞ。いってらっしゃい」
「さ、アルス。部屋から出ましょう」
「え?あ、はい」
マクネアさんに手を引っ張られ、肩で息をしているエドを回収して部屋を出て行くのであった。
俺の目の前には『街』が広がっている。奥には城のような物が建っており、他の建物は綺麗に並べられている。
「……これが学園だって?嘘だろ?」
「なかなか広いだろう?あそこに見える城が『校舎』だ。右側に見えるのは『職員寮』だ。アルス君が住む住居だな」
城の右にはビルのような建物が建っている。あの建物は城よりは低いが、他の建物よりは大きい。
「はぇー。こんな所に住むのかぁ……。そりゃ金がかかるのも分かるなぁ」
「学園内には武器屋もあるぞ?まぁ、武器や防具は有料だが、生徒達が作った作品もある。暇な時にでも見るといい」
窓から顔を引っ込めて車内へと戻る。『門』から学園までの道はしっかりと整備され、カコカコと蹄の音が聞こえる。
「……全校生徒合わせて何人いるんですか?」
「うーむ……そうだなぁ……ざっと見積もっても千は居るだろうな。職員を合わせれば二千は超えるだろう」
「……そんなに貴族の子供達が居るんですか?」
「居るとも。アルス君は知らないのか?貴族となると『側室』持ちになるという事を」
「本で読んだことはありますけど……それにしても多くありませんか?」
「あぁ、貴族といってもフルールに住むだけが貴族では無いよ?エルフやドワーフ、獣人族の子供達も入学している。……ヒエラルキーについては理解しているな?」
「はい。…確か俺の学年に結構居るんですよね?」
「稀に固まる時があるのだが、運が無かったな。各国の重鎮の子供達が2学年に固まっているぞ。……まぁ、私が命令したのだが」
「? なんか言いました?」
「いや、何でもないよ。……まぁ、大変な学年を受け持ったという事だ。しかし、担任などにならなくて良かったな」
「…ホントですよ。副担任とかになったら俺辞めてましたよ」
「流石に非常勤講師には担任は任せられないからな。…アルス君が正規職員となったら分からないが」
「…勘弁してください。例え正規になったとしても俺は逃げ続けますよ」
「そろそろ学園内に入ります。『通行証』のご準備を」
ラティスさんの声が聞こえ、『通行証』を出す。窓から外を見ると、重厚な門が俺達の前に立ち塞がっていた。
門の前にいる兵士--おそらくだが冒険者--に『通行証』を見せ、学園内へと入る。
「うぉーっ!!これが学園かよぉ?!」
『学園』と言われなければ街だと思っただろう。色とりどりの街並みが俺の眼に映る。
「ここら一帯は生徒達の寮となっている。城に近づくにつれて、権力を持っている生徒が住んでいるぞ。ま、門の近くは大体が新興貴族か一般生徒の寮だな」
ジルバさんの説明を受けながら、窓から顔を覗かせる。外には制服を着た生徒らしき人達がうじゃうじゃと歩いていた。
「へぇー。制服があるんですね。教師にもあるんですか?」
「もちろんあるとも。アルス君のはラティスが準備しているはずだ」
流石ラティスさん。出来る男だぜ。
「くふふふふ。懐かしいですねぇ…」
「ん?懐かしいって?」
外の光景にリンドールさんが笑みを見せる。
「僕もここに通ってたんだよ。……まぁ、卒業は出来なかったけどね?」
「……となるとリンドールさんは貴族の子供だったんですか?」
「いや。僕は一般だよ。戦闘能力を買われて入学したんだ。……3学年の時に魔物討伐にドップリとハマっちゃってね…。進級出来なかったから辞めたんだ」
「……うへぇ…。なんか簡単に想像がつきますね…」
「まぁ座学は嫌いだったし、冒険者で生きていけばいいやと思ってたんだけど、ジルバ様に拾って頂いてね。それで今に至るって訳さ」
「へぇー。……ジルバさん、どこが気に入ったんですか?」
「なに、純粋な戦闘力だよ。ギルドでリンドールは有名になっていてね。これは良い物を見つけたと思って、スカウトしたんだ」
「……マジか。でも、最初から言う事聞いたんですか?」
「躾の意味で騎士団に所属させたんだ。そこからはちゃーんと言う事を聞くようになったよ」
「……くふふふふ。あれは良い体験でした。私の実力が浮き彫りになりましたからね」
「ドーラの所に入れたのが正解だったな。コテンパンにしてやってくれと言ったら、物の見事にリンドールを躾けてくれたよ」
「ん?ドーラさんが??なんでですか??」
「おや?聞いてないのかね?ドーラは昔、第4師団の隊長をしていたんだよ」
「……は??隊長??」
「そうだ。魔法はからっきしだったが、純粋な武力はピカイチだったよ」
「くふふふふ。ドーラ様には大変お世話になりましたよ。あそこまで実力差を感じたのは初めてでした」
「は?え??……そんなに強いんですか?」
「現役の頃はね?…まぁ、今でも充分強いと思うが、今ではリンドールと互角じゃないかな?」
「そうですね。私もアルスに熱い手解きを受けましたから、現役の頃のドーラ様には近づいたと思います」
…ドーラさんが隊長だって?!初耳だし、信じられないんだけど?!
「間も無く到着します」
外を見ながらソルトさんが俺達に知らせてくれた。窓を覗くと城の近くまで来ていた。
「ソルト、私はアルス君と学園長達に挨拶をしてくる。リンドールと一緒に荷物を運んでいてくれ」
「かしこまりました」
「リンドール、私からの追加の荷物があるからそれを取って来てくれ。……あぁ、アルス君の部屋にそれは運んで置いてくれ」
「承知しました」
馬車が止まり、ラティスさんが扉を開けてくれる。外に出ると目の前には『職員寮』がそびえ立っており、首を90度にしなければ全貌が見えなかった。
「さて、アルス君。私と一緒に挨拶に行くぞ。……ソルト」
「はい。手土産はこちらに準備しております」
「ふむ。あとでアルス君に例の物を」
「そちらも準備しております」
「???」
何の会話なのか分からないが、先に行くジルバさんについていく。『職員寮』には入らず、城--校舎--へと入って行く。中に入るとまず迎えてくれたのは大きなホールであった。その真ん中に石碑が置かれ、文字が彫ってあった。
石碑を素通りし、ジルバさんはスタスタと進んで行く。すれ違う生徒達がジルバさんに恭しく挨拶をしてジルバさんも爽やかに挨拶を交わす。俺も小さな声ではあるが挨拶をして先に行くジルバさんを追っかける。沢山の魔法陣に乗り、恐らく最上階であろうフロアへと到着し、また歩く。やがて、とある大きめのドアの前で立ち止まる。
「失礼するよ」
軽くノックをしてから返事を待たずに部屋へと入る。俺も挨拶をしてから部屋に入る。
「いらっしゃいジルバ。こっちに座りなさいな」
部屋の中には初老であろう白髭を生やした男性とサイドダウンの緑色の髪色をした若い女性がいた。女性がジルバさんを呼び、ソファーに腰を下ろす。
「ジル、一緒に来た子が例の子かい?」
ソファーに座ったジルバさんに初老の男性が問いかける。
「ええ。私やドーラ、バドワール様が推薦するアルス君です」
「ふぅん…?かなり若い子ですが、アナタたちが推薦するなら実力は確かなものなのでしょうね」
「そうだよ『マクネア』。非常に才能に溢れていて有望な青年だ」
マクネアと呼ばれた女性がソファーから立ち、近づいてくる。どこぞのパーティーに参加するようなヒラヒラのドレスで、露出も激しい。目のやり場に困った為、視線を女性の足元へとずらす。
「こんにちはアルス。私の名前はマクネア。この王宮学園の学園長をしております」
「は、初めまして!アルスと言います!よろしくお願いします!!」
マクネアさんは俺の前に立つと柔らかな声で挨拶をする。慌てて俺も深々と挨拶を返す。
「フフフ。さぁ、どうぞアルス」
マクネアさんに手を引っ張られ、ジルバさんの横に座る。マクネアさん自らが紅茶を用意してくれ、目の前に置かれる。
「アルス君。あちらにいらっしゃるのが、理事長の『ミネルヴァ』様だ。アルゼリアル王国の『三大公爵家』でもある御方だ。本当にほんとぉーーーに失礼の無いように!」
ジルバさんが念入りに俺へと伝える。見たことの無い表情をしていたので、『あ、これはガチなやつだ』と悟った。
「ふぉっふぉっふぉっ。儂は引退した身。そこまで脅す必要も無いじゃろうて」
「いえ。アルス君は少し馴れ馴れしい部分がございますので、しっかりと教えていなければなりません」
「…頭の固い男じゃのう。儂は時と場合を考えれば気にしないがのぅ?」
「ミネルヴァ様に馴れ馴れしく話すなど、畏れ多いですよ…」
…こんな焦るジルバさんは初めて見た。確か『三大公爵家』って言ったっけ?前、本で読んだ記憶が……。
記憶を遡り目当ての記憶を引き出す。
--『三大公爵家』。アルゼリアル王国の建国時から存在する由緒正しき家柄。王族を除き、この『三大公爵家』には名字が振られている。『フォーク家』『レノックス家』『デヴォン家』、この3つの公爵家は前世でいう『三権』を担当している。
『フォーク家』は司法を、『レノックス家』は立法を、『デヴォン家』は行政を王から任命されている。ただ、面白い事にこの『三大公爵家』は後継者がゴミクズな場合、養子を迎える事になっている。他の貴族は大体が世襲なのだが、この公爵家は違う。ほんの少しでも経歴に汚れが付いた場合、すぐに後継者候補から外される。それらを建国時から続けているので、重圧は尋常では無い。
本で読んだ内容を思い出していると、横から声をかけられた。
「どうかされましたか?」
「い、いえ……。『三大公爵家』って何だったかなーと思い出していました…」
「あら?アルスは私達の事を知らなかったのですか?」
「あ…俺…じゃなくて私は辺境の村出身で……知識が全然無くてですね……」
言葉を選びながらマクネアさんに理由を話すと、彼女は少し目を丸くした後笑い出した。
「うふふふふ。面白い子ね?……でも、自分の国の事ぐらいはしっかりと知っていた方がいいわよ?ここは私達のような貴族が集う学園。知らないのは致命的なものとなりますよ?」
「す、すいません……。ちゃんと勉強します…」
「まぁまぁ、そう言うなマクネア。アルス君の村までしっかりと教育が届いてないという事は、儂らの責任でもあるのだから」
「…そうですね。もう一度しっかりと根本から見直した方が良さそうですね」
「頼りにしておるよマクネア」
それからはミネルヴァ様主導で話が進んでいった。話し始める前にジルバさんが手土産を2人に渡していた。お茶請けも用意しており、ソルトさんに頼んでいたのはこの事だったのか!と理解した。
「そういえばアルス君。君はエドと知り合いと聞いておるのじゃが?」
「エド……ああ!錬金術師のエドワードの事ですか?」
「そうじゃ。彼女とフランツから君の事を少し聞いておっての。学園の案内は彼女に任せておるのじゃが、良かったかね?」
「はい!ありがとうございます!」
「ならこれからはエドを頼ると良い。分からないことがあったらエドに聞いておくれ」
ラッキー!そういやエドが居たんだった!これで楽が出来るぞ!……初対面の人に案内されるのって何か緊張するもんね?
「お爺様、私もご一緒に案内してもよろしいでしょうか?」
「おや?どうしたんだね?」
「いえ……。私も一緒に案内をすれば、生徒達の事を教えれるかと思いまして…」
「…そうじゃな。アルス君はまだ仕組みを知らぬかもしれんな。……よろしい。そこら辺の事はマクネアがしっかりと教えなさい」
「ではアルス。今からエドワードを呼ぶので少し待ってなさい」
そう言うとマクネアさんはポーチから宝石のような物を取り出すと、その宝石に喋りかけた。
「エドワード?アルスが来ているわ。案内をするので至急理事長室に来なさい」
喋り終えるとポーチにしまう。『今のは何だろう?』と思っていると、その視線に気付いたマクネアさんが教えてくれた。
「…あぁ、これはね『魔水晶』と言うの。中に魔法陣が刻印されているんだけど、主に連絡用で使うものよ」
「ますいしょう…?」
「えーっとね……ドワーフ国で取れる水晶の事なんだけど、それは知ってる?」
「…はい。……本で読んだことがあります」
「その水晶に『通信』の刻印をしているの。あの魔法は媒体を経由しないと機能しないからね」
「あー……なるほど。理解出来ました」
「頭の回転が速いのね。魔水晶なら持ち運びも便利だし、自動で魔力を集めてくれるから持ってこいなのよ。……あ、後でアルスにも渡されると思うわ。貰ったら必ず自分の魔力を一回流してね?そうしないと使用出来ないからね?」
……ふむふむ。そんな便利な魔法があったのか!!そっち系の魔法は興味無かったなぁ…。後でステータス調べとこ。
「その魔水晶は、誰にでも連絡出来るんですか?」
「学園内なら職員全員と連絡する事が出来るわ。もちろん、私やお爺様にも」
「……例えばそれでジルバさんやバドワールさんに連絡を取れたりは?」
「それは出来ないわ。学園には多重の結界魔法を張ってあるの。外でなら出来ると思うけど、学園内からの通信出来ないわ」
「…ありがとうございます。勉強になります!」
マクネアさんの説明が終わると同時にノック音が聞こえた。
「どうぞ」
「し、失礼ひましゅ!!」
「あらエド。早かったわね?」
「し、至急って言われたので……」
エドをよく見ると、肩で息をしており全力疾走で来たのがわかった。
「それじゃお爺様。エドも来た事ですし、私達は案内をしてきますわ」
「しっかりと教えるんじゃぞ。いってらっしゃい」
「さ、アルス。部屋から出ましょう」
「え?あ、はい」
マクネアさんに手を引っ張られ、肩で息をしているエドを回収して部屋を出て行くのであった。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
4,874
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる