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第3章 王宮学園 -前期-
第037話
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♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎
----とある一室にて。露出が多い服を着た女性が書類に目を通している。しばらく留守にしていたが、その間は有能な部下が大体の決裁をしていた。その働きぶりに『早急に昇給、あるいは役職を与えなければ』と思う程であった。
その有能な部下が残した、自分にしか判断出来ない書類にハンコを押していると
部屋のドアをノックする音が聞こえた。
「どうぞ」
「失礼します」
ドアをノックした人物は、その有能な部下であった。容姿端麗、頭脳明晰。王都に居てもおかしくない人材が部屋へと入る。
「おや?ミリィじゃないか。どうしたんだい?」
この部屋の主、ドーラはミリィへと話しかける。
「ドーラ様にお願いがありまして」
「お願いだぁ?あたしに直接?」
「はい」
「…珍しい事もあるもんだ。どれ、こっちに座りな」
ドーラはミリィをソファーへ座るよう促し、お茶の準備をする。お茶をミリィと自分の前に置くと、再度ミリィへと尋ねる。
「で?お願いって?」
『辞めるとか言わないよね?』と思えるほど深刻な表情を浮かべたミリィへと言う。
「………長期休暇を貰いたくて」
「…長期休暇?」
「はい」
思っていた言葉と違った事でドーラは脱力する。安堵と共にドーラは暫し熟考してから発する。
「……うん。新しく人も雇ったし、1ヶ月ぐらいなら大丈夫だよ」
用意したお茶を飲みながら、ドーラは答える。
ドーラが居ない間に、人事が数名ほど新しく雇い、しっかりと一人前として考えられるほど成長していた。もちろん、教育係はミリィであった。
「……出来れば2ヶ月程頂きたいのですが…」
「?!」
危うく飲んだお茶を噴き出しそうになった。冷静に口の中の液体を胃に流し込んでから深呼吸し、再度問う。
「に、2ヶ月だって?!」
「はい。無理を承知で」
「………2ヶ月ね」
ドーラは自分の予定と照らし合わせながら熟考する。
「………うん。ちと厳しいけど、あたしも重要な用事は特に無いし、まぁ大丈夫だろ。…許可はするけど、皆には説明しているのかい?」
「はい。あとはドーラ様から許可を貰うだけです」
用意周到。しっかりと周りに言っている辺り流石だ。という事は、周りを納得させられる理由があるという事だ。
「……で?理由はなんだい?」
「実家に帰ろうと思いまして」
「………は?!」
予想外過ぎる理由に、ドーラは言葉を失う。頭の中ではグルグルと思考の渦が発生する。
「皆には別の実家の事を話してあります」
「別の?……って事はあっちに戻るのかい?!」
「はい」
「……戻りたくないって言っていたじゃないか」
「…これを機に完全に決別しようと思いまして」
「決別?!…何かあったのかい?」
「はい」
「あー……ミリィ。昔と同じ口調で良いから教えてくれないかい?出来れば全部」
「…わかったわ。それじゃ説明するね--
ミリィの口から出た言葉は予想外のものであった。しかし、あの人ならやりかねない。自分以外を駒だと思っているあの人なら。
ミリィの感情がこもった説明を全て聞き終え、ドーラは冷静な判断をする。
「……理由は分かった。まぁ、ミリィがそうしたいのならそうすればいい。……けどどうするんだい?あの人の事だ。無理にでもミリィを追っかけてくるんじゃないか?」
「おそらくそうね。……けど、頼れる人はいる。………受け入れてくれるかどうかは分かんないけど」
「??? 誰だい?その頼れる人って?」
「………アルス」
「はへっ?!」
先程から想定外過ぎる物が多すぎて、ドーラは慌てふためく。
(なんでアルスが出てくるんだい?!…いや、まぁミリィの感情は知っているけどさ……)
一旦落ち着く為、お茶を一気に飲む。気付け薬の代わりにはならないが、先ほどよりかはマシだ。
「……なんでアルスなんだい?」
「神のお言葉を頂いたので」
「……神?それはどっちのだい?」
「私達の方ではなく、この国の神からです」
「………頭が痛い話だね。ミリィの能力も知ってるけど、それに従うのかい?」
「ええ。『正直に話せば納得する。アルスは騙されることが嫌いみたいだから』と言われたので」
「……うーん。まぁアルスなら大丈夫そうだけど……。だとしたらどうするかねぇ?ウチじゃ匿いきれないし………ジルの所にでも行くかい?」
「……ジルバ様は私の事を?」
「んにゃ、知らないよ。ミリィの事を知っているのはあたしだけだ」
「そう…。その時はジルバ様に応援を頼むしか無さそうね」
「…うーん………。こっちもこっちで問題を抱えているし、出来れば穏便に済ませたいんだけどねぇ……」
「そちらの問題はわからないけど、『成るように成る』よ?ドーラ」
「…確かそっちの言葉だっけ?そんな言葉だけじゃ馬の餌にもなりゃしないよ」
「あら?ならドーラの心配を餌にすれば良いじゃない。全ては神のみぞ知る。ドーラもたまにはお祈りしに行きなさいよ」
「……そうだねぇ。その時が来たらしようかねぇ」
「……それじゃ2ヶ月の休暇は貰っても良いのね?」
「…うん。あんな話をされた後じゃ断れないし。……良いよ!」
「ありがと----
「ただし!」
「……何よ?」
「どっちに転んだとしても、一度はウチに帰ってくる事。一応ジルには話を通しておくからさ」
「……助かるわ。ありがとうドーラ」
「………聞いておきたい事があるんだけど良いかい?」
「ええ。良いわよ?」
「ミリィの能力は知っている。それは目の当たりにしたから理解出来るけど、何でアルスなんだい?」
「…さぁ?理由は知らないけど、『アルスを頼れ』と神様からの御告げだったからよ?」
「うーん……。確かにアルスが強いのは分かるけど……何で神様がアルスの事を言ったんだろうね?」
「……神様だからじゃない?」
「はっ。神様ってのは偉大だねぇ……。あたしも神様とお喋り出来たらなぁー」
「ふふふっ……。ならしっかりとお祈りをしに行く事ね。心から祈れば喋れるかもよ?」
「そうかいそうかい。なら、たぁーくさんお金と供え物を準備してお祈りしなくちゃね」
「……それじゃ、私はもう行くわ」
「もうかい?…準備なんかは……」
「もう済ませてあるわ。ドーラが断るはずないって知ってたから」
「……ほんと用意周到だねぇ。…ま、ミリィの事だ。引継ぎも終わらせてるだろうし、何か必要なものはあるかい?」
「……そうね。『転移結晶』があると嬉しいんだけど」
「…あるっちゃーあるが、ミリィは出来るだろう?」
「片道だけはね?魔力を回復させるには最低でも3日はかかるし、その間あんな所に居たくないもの」
「……ちょっと待ちな」
ドーラは自分の机へ移動するととある操作を行う。そうすると、隠してあった引き出しがガチャリと解錠し中から『転移結晶』を取り出す。
「一応2つ渡しておく。自分の魔力はいざという時の為に取っておきな」
「ありがとうドーラ」
「なぁに。ちゃんと返してくれれば問題ないよ」
ドーラはミリィへと『転移結晶』が入った小袋を手渡す。受け取ったミリィは大事に胸ポケットへしまう。
「それじゃ私行くわね」
「気をつけてね。…もし何かあったら連絡しな。すっ飛んで迎えに行くから」
「ふふふ。ありがとドーラ。…それじゃ、またね」
「ああ、いってらっしゃい」
ミリィは小さく手を振り部屋から出て行く。その姿を見送った後、ドーラは盛大に息を吐く。
「……面倒事が増えちまったね…。バドとジルに伝えとくか」
『魔水晶』を手に取り語りかける。
「バド、今大丈夫かい?ちょっと相談したい事があってね。……うん。なら今すぐにあたしの部屋に----
♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎
「---こんな感じで大丈夫ですかね?」
「うん。良いんじゃないかな?後はゆっくりと喋るぐらいね」
空き教室にて、マクネアさん相手に授業のシミュレーションをしていた。基礎部分に遅れが生じているので、初回は復習を兼ねた授業をする予定だ。ここで大半の生徒が『どういう事?』という状態になったら最初の1週間は復習に当てるつもりだ。その事をマクネアさんに伝えると、『そんなに遅れてたの……。ごめんね?』と謝られた。
2パターンの授業を行い、マクネアさんからは高評価を貰った。とりあえず、生徒達がどれほど理解しているかで授業が変わるので、2回目の授業が終わったら報告をして欲しいとの事だった。
「アルスは教えるのも上手なのね。ジルから聞いていたけど、バドワール様から直々に教えて貰ったって本当?」
「ええ。本当ですよ」
「凄いわね。あの方の講義…学院の頃受けた事があるけど、中々難しかったわ」
「座学しか教えてもらって無いですけどね?実験の方はてんでダメだと思いますけど」
「まだ2学年はしないはずだから、大丈夫よ。…そういえばアルスは実験をするって聞いたけど?」
「暇ができたらするつもりです。…当分の間は出来そうに無いですけど」
「…ああ、そう言えば『戦闘訓練』もするみたいだったわね。……そういやジルがしつこく勧めていたなぁ…」
「…やっぱりですか。怪しいと思ってました」
「そういう所が好まれないって言ってるんだけどね…。ま、しばらくの間は『薬学』に専念しなさい。私から担当者には伝えとくわ」
「お願いします」
「模擬授業はこれで終わり?」
「はい」
「そっ。なら私は用があるから帰るわ。…アルス、緊張すると思うけど生徒達のことよろしく頼むわよ?」
「が、頑張ります…」
手をヒラヒラさせ、マクネアさんは教室から出て行く。マクネアさんに言われた事をメモしながら、後片付けをし教室を出る。
寮に戻り、アドバイスされた事を元に書き加えていく。昼食の時間を少しズラし、ある程度まとめてから食堂へ行く。
時間をずらしたおかげで、生徒達の姿は無かった。『日替わり』を頼み美味しくいただく。この時、『創造』していた『My箸』を取り出しそれを使用する。かなり久しぶりに箸を握ったが、カラダに染み付いていると言うべきか、若干のぎこちなさはあったが、すぐに使えるようになった。
「ご馳走さまでした!…うん、美味しかった」
食堂のおばちゃん--昨日の女性--に挨拶をしてから本を借りに図書館へ向かう。入ると同時に『あい君』へとスイッチし、肉付けに必要な本を探す。目当ての物を『あい君』が見つけ出し、それを司書の所に持って行き、1週間ほど借りる。それをボックスに入れ図書館を出て、寮に戻る。
部屋に戻り、紅茶の準備をしてから窓の近くでタバコを吸う。これから『あい君』に作業してもらうので吸う必要は無いが、何となく吸いたくなった。
「ふぅーーーー。……よし、あとは任せた」
紅茶を飲み終え、『あい君』とスイッチする。『あい君』は指をポキポキと鳴らせた後、本を広げ紙に記入していく。その間、俺は『あい君』が纏める内容を同時に理解していく。点と点を繋げ、どう説明していくかを考える。『基礎が足りない場合』と『足りている場合』の2パターンを作成し休憩を取る。商店に甘いお菓子を買いに行き、再び戻る。『あい君』が作ってくれた資料に目を通しながらイメージしていく。
それを何度か繰り返し、夕食の時間となる。エドを誘い、授業の仕方を教わる。『あい君』が作った資料にエドは驚愕していたが、『もう少し簡単に説明した方が良いかも』とアドバイスをもらい、夕食を食べながらメモしていく。
それを翌日も繰り返し、いよいよ明日が本番となる。何度も何度も資料を読み、部屋でイメトレをしながら、夜となる。
「……よしっ!!備えは万全だ!あとは覚悟を決めるだけだな!」
念入りにカラダを洗い歯を磨く。発声練習を軽くした後、ベッドに入る。
「うぅ……やっぱ緊張するなぁ。……ヤバイヤバイ!明日は8時には校舎に居ないとダメだ!早く寝よう!!」
ベッドの中で羊を数えながら、無理矢理眠ろうとする。羊の数が4桁を数える頃、ようやくアルスは夢の世界へと旅立てるのであった。
----とある一室にて。露出が多い服を着た女性が書類に目を通している。しばらく留守にしていたが、その間は有能な部下が大体の決裁をしていた。その働きぶりに『早急に昇給、あるいは役職を与えなければ』と思う程であった。
その有能な部下が残した、自分にしか判断出来ない書類にハンコを押していると
部屋のドアをノックする音が聞こえた。
「どうぞ」
「失礼します」
ドアをノックした人物は、その有能な部下であった。容姿端麗、頭脳明晰。王都に居てもおかしくない人材が部屋へと入る。
「おや?ミリィじゃないか。どうしたんだい?」
この部屋の主、ドーラはミリィへと話しかける。
「ドーラ様にお願いがありまして」
「お願いだぁ?あたしに直接?」
「はい」
「…珍しい事もあるもんだ。どれ、こっちに座りな」
ドーラはミリィをソファーへ座るよう促し、お茶の準備をする。お茶をミリィと自分の前に置くと、再度ミリィへと尋ねる。
「で?お願いって?」
『辞めるとか言わないよね?』と思えるほど深刻な表情を浮かべたミリィへと言う。
「………長期休暇を貰いたくて」
「…長期休暇?」
「はい」
思っていた言葉と違った事でドーラは脱力する。安堵と共にドーラは暫し熟考してから発する。
「……うん。新しく人も雇ったし、1ヶ月ぐらいなら大丈夫だよ」
用意したお茶を飲みながら、ドーラは答える。
ドーラが居ない間に、人事が数名ほど新しく雇い、しっかりと一人前として考えられるほど成長していた。もちろん、教育係はミリィであった。
「……出来れば2ヶ月程頂きたいのですが…」
「?!」
危うく飲んだお茶を噴き出しそうになった。冷静に口の中の液体を胃に流し込んでから深呼吸し、再度問う。
「に、2ヶ月だって?!」
「はい。無理を承知で」
「………2ヶ月ね」
ドーラは自分の予定と照らし合わせながら熟考する。
「………うん。ちと厳しいけど、あたしも重要な用事は特に無いし、まぁ大丈夫だろ。…許可はするけど、皆には説明しているのかい?」
「はい。あとはドーラ様から許可を貰うだけです」
用意周到。しっかりと周りに言っている辺り流石だ。という事は、周りを納得させられる理由があるという事だ。
「……で?理由はなんだい?」
「実家に帰ろうと思いまして」
「………は?!」
予想外過ぎる理由に、ドーラは言葉を失う。頭の中ではグルグルと思考の渦が発生する。
「皆には別の実家の事を話してあります」
「別の?……って事はあっちに戻るのかい?!」
「はい」
「……戻りたくないって言っていたじゃないか」
「…これを機に完全に決別しようと思いまして」
「決別?!…何かあったのかい?」
「はい」
「あー……ミリィ。昔と同じ口調で良いから教えてくれないかい?出来れば全部」
「…わかったわ。それじゃ説明するね--
ミリィの口から出た言葉は予想外のものであった。しかし、あの人ならやりかねない。自分以外を駒だと思っているあの人なら。
ミリィの感情がこもった説明を全て聞き終え、ドーラは冷静な判断をする。
「……理由は分かった。まぁ、ミリィがそうしたいのならそうすればいい。……けどどうするんだい?あの人の事だ。無理にでもミリィを追っかけてくるんじゃないか?」
「おそらくそうね。……けど、頼れる人はいる。………受け入れてくれるかどうかは分かんないけど」
「??? 誰だい?その頼れる人って?」
「………アルス」
「はへっ?!」
先程から想定外過ぎる物が多すぎて、ドーラは慌てふためく。
(なんでアルスが出てくるんだい?!…いや、まぁミリィの感情は知っているけどさ……)
一旦落ち着く為、お茶を一気に飲む。気付け薬の代わりにはならないが、先ほどよりかはマシだ。
「……なんでアルスなんだい?」
「神のお言葉を頂いたので」
「……神?それはどっちのだい?」
「私達の方ではなく、この国の神からです」
「………頭が痛い話だね。ミリィの能力も知ってるけど、それに従うのかい?」
「ええ。『正直に話せば納得する。アルスは騙されることが嫌いみたいだから』と言われたので」
「……うーん。まぁアルスなら大丈夫そうだけど……。だとしたらどうするかねぇ?ウチじゃ匿いきれないし………ジルの所にでも行くかい?」
「……ジルバ様は私の事を?」
「んにゃ、知らないよ。ミリィの事を知っているのはあたしだけだ」
「そう…。その時はジルバ様に応援を頼むしか無さそうね」
「…うーん………。こっちもこっちで問題を抱えているし、出来れば穏便に済ませたいんだけどねぇ……」
「そちらの問題はわからないけど、『成るように成る』よ?ドーラ」
「…確かそっちの言葉だっけ?そんな言葉だけじゃ馬の餌にもなりゃしないよ」
「あら?ならドーラの心配を餌にすれば良いじゃない。全ては神のみぞ知る。ドーラもたまにはお祈りしに行きなさいよ」
「……そうだねぇ。その時が来たらしようかねぇ」
「……それじゃ2ヶ月の休暇は貰っても良いのね?」
「…うん。あんな話をされた後じゃ断れないし。……良いよ!」
「ありがと----
「ただし!」
「……何よ?」
「どっちに転んだとしても、一度はウチに帰ってくる事。一応ジルには話を通しておくからさ」
「……助かるわ。ありがとうドーラ」
「………聞いておきたい事があるんだけど良いかい?」
「ええ。良いわよ?」
「ミリィの能力は知っている。それは目の当たりにしたから理解出来るけど、何でアルスなんだい?」
「…さぁ?理由は知らないけど、『アルスを頼れ』と神様からの御告げだったからよ?」
「うーん……。確かにアルスが強いのは分かるけど……何で神様がアルスの事を言ったんだろうね?」
「……神様だからじゃない?」
「はっ。神様ってのは偉大だねぇ……。あたしも神様とお喋り出来たらなぁー」
「ふふふっ……。ならしっかりとお祈りをしに行く事ね。心から祈れば喋れるかもよ?」
「そうかいそうかい。なら、たぁーくさんお金と供え物を準備してお祈りしなくちゃね」
「……それじゃ、私はもう行くわ」
「もうかい?…準備なんかは……」
「もう済ませてあるわ。ドーラが断るはずないって知ってたから」
「……ほんと用意周到だねぇ。…ま、ミリィの事だ。引継ぎも終わらせてるだろうし、何か必要なものはあるかい?」
「……そうね。『転移結晶』があると嬉しいんだけど」
「…あるっちゃーあるが、ミリィは出来るだろう?」
「片道だけはね?魔力を回復させるには最低でも3日はかかるし、その間あんな所に居たくないもの」
「……ちょっと待ちな」
ドーラは自分の机へ移動するととある操作を行う。そうすると、隠してあった引き出しがガチャリと解錠し中から『転移結晶』を取り出す。
「一応2つ渡しておく。自分の魔力はいざという時の為に取っておきな」
「ありがとうドーラ」
「なぁに。ちゃんと返してくれれば問題ないよ」
ドーラはミリィへと『転移結晶』が入った小袋を手渡す。受け取ったミリィは大事に胸ポケットへしまう。
「それじゃ私行くわね」
「気をつけてね。…もし何かあったら連絡しな。すっ飛んで迎えに行くから」
「ふふふ。ありがとドーラ。…それじゃ、またね」
「ああ、いってらっしゃい」
ミリィは小さく手を振り部屋から出て行く。その姿を見送った後、ドーラは盛大に息を吐く。
「……面倒事が増えちまったね…。バドとジルに伝えとくか」
『魔水晶』を手に取り語りかける。
「バド、今大丈夫かい?ちょっと相談したい事があってね。……うん。なら今すぐにあたしの部屋に----
♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎
「---こんな感じで大丈夫ですかね?」
「うん。良いんじゃないかな?後はゆっくりと喋るぐらいね」
空き教室にて、マクネアさん相手に授業のシミュレーションをしていた。基礎部分に遅れが生じているので、初回は復習を兼ねた授業をする予定だ。ここで大半の生徒が『どういう事?』という状態になったら最初の1週間は復習に当てるつもりだ。その事をマクネアさんに伝えると、『そんなに遅れてたの……。ごめんね?』と謝られた。
2パターンの授業を行い、マクネアさんからは高評価を貰った。とりあえず、生徒達がどれほど理解しているかで授業が変わるので、2回目の授業が終わったら報告をして欲しいとの事だった。
「アルスは教えるのも上手なのね。ジルから聞いていたけど、バドワール様から直々に教えて貰ったって本当?」
「ええ。本当ですよ」
「凄いわね。あの方の講義…学院の頃受けた事があるけど、中々難しかったわ」
「座学しか教えてもらって無いですけどね?実験の方はてんでダメだと思いますけど」
「まだ2学年はしないはずだから、大丈夫よ。…そういえばアルスは実験をするって聞いたけど?」
「暇ができたらするつもりです。…当分の間は出来そうに無いですけど」
「…ああ、そう言えば『戦闘訓練』もするみたいだったわね。……そういやジルがしつこく勧めていたなぁ…」
「…やっぱりですか。怪しいと思ってました」
「そういう所が好まれないって言ってるんだけどね…。ま、しばらくの間は『薬学』に専念しなさい。私から担当者には伝えとくわ」
「お願いします」
「模擬授業はこれで終わり?」
「はい」
「そっ。なら私は用があるから帰るわ。…アルス、緊張すると思うけど生徒達のことよろしく頼むわよ?」
「が、頑張ります…」
手をヒラヒラさせ、マクネアさんは教室から出て行く。マクネアさんに言われた事をメモしながら、後片付けをし教室を出る。
寮に戻り、アドバイスされた事を元に書き加えていく。昼食の時間を少しズラし、ある程度まとめてから食堂へ行く。
時間をずらしたおかげで、生徒達の姿は無かった。『日替わり』を頼み美味しくいただく。この時、『創造』していた『My箸』を取り出しそれを使用する。かなり久しぶりに箸を握ったが、カラダに染み付いていると言うべきか、若干のぎこちなさはあったが、すぐに使えるようになった。
「ご馳走さまでした!…うん、美味しかった」
食堂のおばちゃん--昨日の女性--に挨拶をしてから本を借りに図書館へ向かう。入ると同時に『あい君』へとスイッチし、肉付けに必要な本を探す。目当ての物を『あい君』が見つけ出し、それを司書の所に持って行き、1週間ほど借りる。それをボックスに入れ図書館を出て、寮に戻る。
部屋に戻り、紅茶の準備をしてから窓の近くでタバコを吸う。これから『あい君』に作業してもらうので吸う必要は無いが、何となく吸いたくなった。
「ふぅーーーー。……よし、あとは任せた」
紅茶を飲み終え、『あい君』とスイッチする。『あい君』は指をポキポキと鳴らせた後、本を広げ紙に記入していく。その間、俺は『あい君』が纏める内容を同時に理解していく。点と点を繋げ、どう説明していくかを考える。『基礎が足りない場合』と『足りている場合』の2パターンを作成し休憩を取る。商店に甘いお菓子を買いに行き、再び戻る。『あい君』が作ってくれた資料に目を通しながらイメージしていく。
それを何度か繰り返し、夕食の時間となる。エドを誘い、授業の仕方を教わる。『あい君』が作った資料にエドは驚愕していたが、『もう少し簡単に説明した方が良いかも』とアドバイスをもらい、夕食を食べながらメモしていく。
それを翌日も繰り返し、いよいよ明日が本番となる。何度も何度も資料を読み、部屋でイメトレをしながら、夜となる。
「……よしっ!!備えは万全だ!あとは覚悟を決めるだけだな!」
念入りにカラダを洗い歯を磨く。発声練習を軽くした後、ベッドに入る。
「うぅ……やっぱ緊張するなぁ。……ヤバイヤバイ!明日は8時には校舎に居ないとダメだ!早く寝よう!!」
ベッドの中で羊を数えながら、無理矢理眠ろうとする。羊の数が4桁を数える頃、ようやくアルスは夢の世界へと旅立てるのであった。
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