転生チートで夢生活

にがよもぎ

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第3章 王宮学園 -前期-

第041話

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鬱蒼うっそうとした森を抜けると荒野が見える。とある場所から線を引かれたように草木が極端に減っている。自然の力なのか、神がそうしたのかは分からないが、この草木が生えている場所が国境となっている。

国境と言っても処分などは無い。アルゼリアル王国がを認めてくれただけだ。血で血を洗う出来事も過去の話。互いの文明が交流したことで、互いが発展したのだから良いことでは無いか。

「…はぁ。あいも変わらず、不毛な土地ね…」

荒野に足を踏み入れながらポツリと呟く。ザクッ、ザクッ、ザクッ。砂の上を歩いていると何度か靴に砂が入る。悪態をつきながら砂を落とし、再び歩き始める。

「…金なら腐る程あるんだから、道ぐらい作れば良いのに。見栄っ張りなら普通そういう事するでしょ。……カイジャでさえもしっかりとあるっていうのに…」

まだカイジャを出てから1日も経ってない。だが、この景色を見るだけで懐かしく思える。

「『転移結晶』は残り1つ…。やっぱ直接城門に『転移』すれば良かったかなぁ?」

ポケットに入れている『転移結晶』を触りながら、『場所を間違えたかな?』と少し後悔する。

「……ううん。めんどくさいけど、森の入り口で正解だね」

『楽をする』という意味では、城内あるいは城下町に『転移』した方が早い。しかし、捕まってしまう可能性がある。に従っている人が全員敵ではないが、わざわざ危険を犯しに行く必要は無い。

遠目にゴマ粒程度の建造物が見える。長い長い道のりだが、飲み物や軽食もあるし気長に進もう。幸いにも天候は少し曇りがかっているし、日焼けや日射病にもならないだろう。

適度に休憩を挟みつつ、歩く事3時間程。ようやく建造物の姿がはっきりと見えた。高い城壁に囲まれ、突起物の様な物がチラリと見える。前に見た時とそう変わりない。

「…相変わらずダサい建物だね。冷たくて硬い岩よりも花とか緑を植えろって言ってんのに…」

見た目が変わってないという事は、城内も変わってないだろう。成金趣味全開のキンキラキンの調度品が並べてられてるだろうな。

「…そろそろ元に戻るかな」

『解除』と呟き、本来の姿に戻る。頭には耳が生え、お尻からは尻尾が覗かせる。カイジャを出た服装から、地味でダサい格好に着替える。……これを着たのはだ。

どこぞの旅人の様な格好--薄汚れたフード付きローブと短パン--に着替え終え、再び歩き出す。一応、魔物避けの魔法はかけているが警戒する事に越した事はない。

建造物が大きく見える距離になった頃、突如後ろから声を投げかけられる。

「何者だ!」

気配を察知出来なかった事に衝撃を受けるが、戻ったのは久し振りだし、仕方ないだろう。対処法を考えながら、再び声をかけられるまで待つ。

「…何者だと聞いている!両手を頭に当て、ゆっくりとこちらを向け!」

(……バカだなぁ。そんな猶予を与えてたら反撃を喰らうよ?)

声から察するに、あたしに喋りかけているのは男だろう。気配も1人だし、処理するか?

メリット、デメリットを瞬時に判断し、男の命令に素直に従う事にした。ここで反抗したらすぐに捕らえられるだろう。

「…フードを取れ。そのまま両膝を地につけろ!」

大人しく男の指示に従う。振り向くと男が抜剣しているのが見えた。

「………え?」

男は何故か疑問を含んだ声を出した。その声に違和感を感じ、男と目を合わせる。

「……動くなよ?」

男は抜剣しながらゆっくりとあたしに近付く。手荒な真似をされそうになった時の為に魔法の準備をしておく。

「……うぇっ?!まさか?!」

「…何でしょうか」

男は剣が届く間合いで酷く焦り始める。その態度に少し嫌悪感を感じたので、強めに言ってしまった。

「……え……ミ、ミリィ姉ちゃん?!」

男が信じられないモノを見るような目でポツリと言葉を漏らす。その単語で昔の記憶が思い出される。

「……え?ヒーくん?」

「う、嘘だ?!」

目の前の男はあたしの言葉を聞いて狼狽する。あたしだって同じ気持ちになっているんだけど…。

男は筋肉隆々で糸目の吊り上がった目であたしを上から下まで見つめる。口をパクパクとさせ、挙動不審な態度を見せた後呟く。

「…落ち着け。姉ちゃんが居るはずない。姉ちゃんはもう死んだんだ。他人の空似だ…」

「……は?」

聞き捨てならない単語を聞いたので、男を強く睨みつける。すると男はビクッと直立不動になり、あんぐりと口を開ける。

「…少し聞いてもいいかしら?」

「そ、その前に1つ聞いてもいいだろう…でしょうか!」

「…何でしょうか?」

男は直立不動のまま、恐る恐る言葉を発する。

「き、貴様……アナタのお名前をお教えいただきたい!」

「……ミリィです」

「フ、フルネームで!!」

「……………『アヌケト』・『ウプウアウト』・ミリィ」

「ぬ゛っ?!」

先程からあたしの事を『姉ちゃん』だとか言っているから、恐らくあの子だと思う。けれど、昔の記憶と目の前の男は全然違う。癖っ毛で、愛くるしい顔をしていたあの子とは。

「ま、まさか?!……けど、あの名前は……」

「…あたしからも質問していいかしら?」

「ま、待て!!」

「……ヒーくん、

「ハイィィッ!!!」

男は素早く正座をする。これであたしの疑問は確証を得た。……目の前の男はあたしのだ。

「ふふふ…。まだその癖治ってなかったの?…まぁ、小さい頃からしてれば治るはず無いか」

あたしは過去の記憶を思い出しながら小さく笑う。--『アヌケト・イムセティ・ヒースクリス』。あたしの可愛い弟の名前だ。

「ほ、ホントにミリィ姉ちゃん?!」

「本当かは分からないけど、あたしはミリィよ?ヒーくん」

「………死んだはずじゃあ……」

「ヒーくん。さっきも言ってたけど、それどう言う事?」

「ヒィッ?!そ、その目はやめてぇ!!」

ただ普通の目をしていたのだが、ヒーくんはあたしから離れようとカラダだけを仰け反らせる。

「…何でそんなに怯えるのよ。まだあたしだって信じられないの?」

「信じる!信じるから!!その目でボクを見ないでぇ!!」

どうやらという存在はヒーくんにとって恐怖のようだ。……何でだろう?昔は愛情たっぷりに可愛がってあげたのに。

「…それよりも。何もしないからあたしの質問に答えてくれる?」

出来るだけ優しく問いかけるが、ヒーくんは正座のまま後退りする。

「……何だ!…いえ、何ですか?」

「…もー、そんな怯えないでよ。もしなくていいから!…ほら、立って」

ヒーくんは素早く立ち上がると再び直立不動となる。

「はぁ……まぁいいや。ところで、聞きたいんだけどさ。あたしが『死んだ』ってどういう事?」

「……ち、父上からそう聞かされてました」

「チッ……。やっぱか」

「うわぁ……やっぱり姉ちゃんだぁ……」

「まだ信じてなかったの?……それは置いといて、あたしがを教えてくれる?」

「…そ、その前に姉ちゃんだという決定的な証拠--
「おすわりっ!!!」
「ハイィィィ!!!」

……あー、こういう所は本当変わらないなぁ。見た目は違えど、目は昔のままだし………。でもこんな嬉々とした目をしてたかな?

おすわりをしているヒーくんに詳しく説明してもらう。

あたしが後、はすぐに葬儀を開き、民達に隠蔽を行なったそうだ。ヒーくんは遺体もしっかり確認したらしく、あたしのだったそうだ。

それからは、ヒーくんが正式な後継者となり、日々教育を受けたそうだ。『帝王学』やら『思想教育』やらを充分に受けたらしいのだが、あたしというを失ったヒーくんは、酷い失望感のまま今まで過ごしてきたようだ。……まぁ、の事を考えれば想像に難く無い。

今は訓練の帰りらしく、たまたま小汚い格好をしたあたしを見つけ、敵かどうかを確認するつもりだったらしい。あの『思想教育』を受けていれば、そうだろうけど……。

しかし、蓋を開けてみれば小汚い格好をした不審者はの姉に似た人物であり、最初の『おすわり』で姉だと確信に至ったらしい。……なら、あの問答は要らなかったんじゃないかな??

ヒーくん曰く、『愛情たっぷりのは忘れない。ボクの魂に刻まれているからね』と、よく分からない事を言っていた。

あたしが死んでからの状況を詳しく--一部いちぶカミングアウトがあったが--教えてもらい、状況を整理する。そして、をヒーくんに話す。

「ありがと。大体の状況は理解したわ」

「理解?…どういう事?」

「えっとね…長くなるけど、あたしが居なくなったのには--
「待ってミリィ姉ちゃん。…ここじゃなんだから、城で話さない?」

「……ダメ。城だとあたしが逃げれなくなる」

「逃げれなくなる??どういう事??………あー…とりあえずさ、城門に行こう。ボク専用の小屋がそこにあるからそこで話してくれる?」

「…そこは誰もいない?」

「兵士がいるけど……トーマスさん達がいるよ?」

「トーマスさん?……あのひげもじゃの?」

「うん。ボク達を可愛がってくれたトーマスさん」

「……あの人と繋がりは?」

「繋がり?」

「…あの人と仲良いの?」

「……いや。つい最近、喧嘩して酷い降格処分を受けたばっかりだよ。『税が高過ぎる』って父上に直談判して」

「…そう。でもトーマスさんが何故城門近くに?」

「酷い降格処分…兵士長まで落とされたんだよ。……大臣だったのにね」

「…有り得ないわ」

「でも事実だ。最近になって徴税が格段に上がったよ」

「……アンタはそれをボケーっと見てただけなの?」

「いいや。もちろん抗議したさ。……それでボクはで訓練を受けているのさ」

……なるほど。確かに後継者なのに1人で外に居るのはおかしいと思った。慣れているとはいえ、大型の魔物も出てくる。危険だと分かりきっている場所に1人で行かせるわけがない。……となると…。

「ねぇ、ヒーくん。もしかして、を剥奪された?」

「……そうだよ」

「ふぅーん………。じゃ、新しい後継者が居るんだね」

「目星はついているみたいだよ。けど、見た事は無いね」

「どういう事?」

「そのまんまだよ。父上がトーマスさんに言ってたみたい。……名前までは聞いてないけど」

「…怪し過ぎるわ」

「まぁそれが父上でしょ?ボクも後継者を外されて気が楽になったし…」

「そうなの?」

「うん。2ヶ月前ぐらいかな?それからは、何をするにも1人でやんなくちゃいけなかったけど…1人って案外楽しいもんだね!」

ヒーくんの表情は晴れ晴れとしたものであり、嘘偽りなどは一切感じられなかった。

「…でも、一応表向きはまだ後継者だし、それ相応の態度をしないといけないのが面倒だけどね。……そろそろ移動しない?流石のボクでも足が痛くなってきたよ…」

「あ…ごめん」

ヒーくんは立ち上がり、砂を払ってからあたしと一緒に歩く。道中は思い出話に花を咲かせ、時折見せる笑顔は昔のままであった。

「…ミリィ姉ちゃん。そろそろフード被って」

「…待って。このままだとマズイから魔法を使うわ」

「え?」

「--『変装ディスガイズ

城門近くで魔法を詠唱する。すると、カイジャで働いていた『ミリィ』の姿になった。

「うわっ?!…人間だ!!」

「あたし達も人間じゃない…。ヒーくん、門兵には『あたしを保護した』とか言って上手く騙してね?」

「……あーなるほど。そりゃそうか。…わかったよ。大丈夫、ボクに任せて」

ヒーくんの背後に回り後をついて行く。挙動不審に見えるように演技をしながら歩いて行くと、城門前に着く。

「今帰った」

ヒーくんは門兵に声をかける。

「ハッ!……ヒースクリス様、その後ろにいる者は?」

「森の中で彷徨っているのを見つけ保護した」

「保護?森の中?……もしや?!」

「そうだ。『人間』だ」

「……おい、トーマス様を呼んでこい」

門兵はもう1人に声をかけると、ヒーくんに近寄って来た。

「…マズイですって、ヒースクリス様。陛下にバレたりしたら追放物ですよ?」

「…相方は?」

「あぁ、アイツは大丈夫ですよ。どちらかと言えばですから」

「そう…よかった」

「良かったって……。そんな軽々しく物事を考えないで下さいよ…」

「だって出る時にちゃんと確認しただろ?」

「あー……そういえば喋りましたね。……で?なんで『人間』なんか保護したんですか?」

「だって森の中は危ないだろ?」

「ここに連れてくる方が危ないですって!…もぉー、ホントお人好しなんだから…」

門兵はヒーくんと仲良さそうに喋っている。という言葉が気になったが、今は口を聞ける雰囲気では無い。

しばらく門兵から小言をヒーくんが受けていると、城門からひげもじゃの老兵と先ほどの兵士が帰ってきた。

「……ヒースクリス様。『人間』を保護したと兵士から聞きましたが……」

「ああ。森の中でな」

「…いけませぬ。陛下の耳に入ったりしたら、それこそ保護の意味が無くなりますぞ」

「…トーマス、私は部屋へ向かう。お前も着いて来い」

「? かしこまりました」

門兵に黙っておくよう念押ししてから、ヒーくんとトーマスさんはあたしを連れて門横にある建物に向かう。

門には詰所があるが、その裏に小屋があった。ここは昔、兵士の待機所として存在していたが、見た目がしっかりとした物に変わっていた。

「…どうぞこちらへ」

ヒーくんはあたしを丁重に扱い、小屋の中へと入れる。中も昔とは違い、小綺麗な室内へと変わっていた。

「そちらの椅子にお座り下さい。……トーマス。お前もそこに座ってくれ」

先程からヒーくんの口調が威厳なものへと変わってて笑いを堪えるのが大変だ。ヒーくんなりに頑張っているのだろうけど、違和感があり過ぎてお腹が痛い。

机を挟んで椅子に座る。机を挟んだ対面にはヒーくんとトーマスさんが並んで座る。

(……懐かしいなぁ。皺は増えたけど、目つきとか髭とか変わってないなぁ…)

トーマスさんをじっくり見ていると、トーマスさんは訝しげな表情を浮かべる。しかし、あたしと目が合い2回ほど目をパチクリさせると、すぐにヒーくんに語りかけた。

「?! ヒースクリス様!」

「気付いた?」

ヒーくんがあたしと喋るような口調になる。

「え?いや!まさか!?」

「トーマス、少し声を落としてくれ…」

「し、しかし……」

トーマスさんの目は、あたしがヒーくんと出会った時と同じ目をしていた。だからこそ、あたしはにしか伝わらない話を口にする。

「トーマス、あたしがあげたピンクのリボンは大事にしてくれてる?」

「はへっ?!」

「…まさか捨てたりしたんじゃ無いでしょうね?」

「いや、ワシが姫から貰ったものを捨てるはずが……」

「そっ。なら良いわ。…また昔みたいに髭を結んであげようか?」

「ッ?!…王子!?」

「そうだよトーマス。ボクも最初は信じられなかったけど、君が思っている事は本当だよ」

「まっ……まさか?!」

「んもぅ!あたしだってば!!!」

トーマスさんの疑っていた表情が氷解する。あたししか呼ばない名前と、あたししか知らないリボンの事で、トーマスさんは確信したようだ。

「…ま、まさか…本当に姫様なのか?……あぁ、姫様………ワシは……」

「トーマス。信じられないようだけど、目の前の女性はミリィ姉ちゃんだよ。……ミリィ姉ちゃん、さっきの魔法を解除してもらえる?」

「うん。--『解除』」

詠唱すると昔の姿に戻る。トーマスさんはそれを見て涙を浮かべる。

「あぁ………そのお顔…その目は……」

「久し振りね爺や。元気にしてた?」

トーマスさんは唇をキツく結ぶが、目からは涙が溢れる。

「ワシは……ワシは………ッ」

「泣かないで爺や。…まぁ、死んだと聞かされていたら仕方ないだろうけど」

その後はトーマスさんが泣き止むまでヒーくんと2人で慰めた。昔話をしながら無言で頷くトーマスさんを見て、あたしも少し涙が出そうになった。

「………………落ち着いたかいトーマス?」

「ええ…。年甲斐も無く泣きじゃくってしまいました…」

「仕方ないよ。ボクだって同じ気持ちになったんだから」

「そうでしょうとも……」

トーマスさんは涙を拭い、あたしに向き直る。

「…姫様。『姫様は死んだ』と聞かされておりましたが、まさか生きていらっしゃったとは…。爺は嬉しゅうございます」

「うん。…死んだことになっているのは気に食わないけど、あたしはちゃんと生きてたよ」

「……ミリィ姉ちゃん。とりあえず、さっきの話の続きを聞いても良い?」

「あぁ…さっきの続きね?」

「お待ち下さい姫様。出来れば姫様が死んだと言われた時からの話を聞かせていただけませんか?」

「うん。元々その話をするつもりだったよ。ヒーくんにもまだ話してないし」

「あれ?そうだっけ?」

「そうだよ……。本当昔のまんまだねぇ。ヒトの話をしっかり聞かない所は」

「ふふっ…」

「それじゃ、説明するわね?結構長くなると思うけど、質問は後にしてね?」

そう前置きして、あたしは『家出』した時の話を2人に聞かせるのであった。
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