転生チートで夢生活

にがよもぎ

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第3章 王宮学園 -前期-

第055話

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「…ちょっと待って?……ケビン、どうやらアルスはかなり高度な『マナスキン』を使用しているみたいよ?」

「…やはり。となると…ワタシの仮説は…」

「正しいかも知れないわね。やっとアルスが使用しているのが分かったぐらいだから…」

どうやら伸び縮みをしているのをマクネアさんに見られたみたいだ。…が、俺はただ『マナスキン』とやらを試しただけなのに、マクネアさん達は俺にとって都合の良い方向に勘違いをし始めた。

…しかし、俺みたいに『鑑定』がある訳じゃないのにどうやってマクネアさんは見れたのだろうか?

「…あのー…
「これで謎が解けたわね。ケビンのスキルは高度な『マナスキン』を使用されると効果が無いみたいね」

「…みたいですね。帰ったら研究してみましょう。今回は知らなかったとは言え、ワタシのスキルも完璧なものでは無いと理解しましたから」

話を切り出すタイミングが悪かった。俺の声に被せるように2人は喋り出し、内容をまとめた。

「……じゃ、アルス。もう色々と話を聞かれちゃったし、質問があったら可能な範囲で答えてあげる」

会話を聞かれたからなのか、諦めたのかは分からないが、マクネアさんはいつもの笑みを浮かべて、俺へと向き直る。

(質問って言われてもなぁ…………。色々ありすぎるんだよ…)

何から聞いた方が良いのかを迷っていると、ケビン君が口を開く。

「…アルス様、先にワタシの事からお伝えしましょう。くれぐれもワタシの事はご内密にお願いします」

「…あ、はい…」

「先も尋ねられておりましたが、ワタシは『ケビン』で間違いありません。…詳しく伝えると、気の弱い方が『演技』でこちらが『本性』でございます」

「ふぁっ?!」

さらりと重大発言を言われたが更にケビン君の話は続く。

「…先ほどの話を聞かれたので隠す必要はありません。…ワタシは『暗部』の1人なのです」

「は?…は???『あんぶ』??何それ??」

ちょっと考えが追いつかんよー。…ますは詳しくそこから説明してくれよ…。

俺の考えが顔に出ていたのか、ケビン君は軽く笑った後、説明をしてくれる。

「…『暗部』とは公には知られてない秘密機関です。アルゼリアル王国に危機が迫る前に対処をする、言わば『暗殺・拷問』等を専門とする者たちの事です」

「は?暗殺?!……えーと…って事でいいのかな?」

「ええ。建国当初は『御庭番衆』と言われておりましたが、今は『暗部』と名称が変わっております」

…あー、はいはい。時代物のドラマに出てくる忍者みたいな奴って事ね?…ふむふむ。つまり俺的に納得するならばFBIとかKGBみたいな人間って事か。……何それ格好いい!!

「…ん?でもなんでそんな裏の人間がここに居るの?」

素朴な疑問ではあるが、ケビン君が表情を少し変えたのを見逃さなかった。

「…あー…そういやアリスさんが何たらかんたらって言ってたな…。そういう理由?」

「…そういう理由ですね…」

「あと、アルスの監視もね」
「?! ちょっとマクネア様!?」

「えっ?俺の監視?!…どういう事??」

なんで俺が監視されなきゃいけないんだ?俺悪い事何もしてないはずなんだけど……。

ジィーーっとケビン君を見続けると、バツが悪そうな表情を浮かべて、一呼吸した後話始める。

「……はぁ。……実はアルス様がジルバ様と内密な関係という事でしたので、監視対象にさせていただいております」

「はへ??……それだけの理由で??……ってか、なんでジルバさんと仲が良いだけで監視対象なの?」

「それは……」

おいおいおい。そんな下らない理由でヤベー奴等に目を付けられたって事か?勘弁してくれよ……。

怒涛の勢いでケビン君に詰め寄るが、それを見たマクネアさんが堪え切れずに笑い出した。

「アハハッ!ケビンも人が悪いわねぇ!…まぁ、落ち着きなよアルス。それについては私から説明してあげるよ。ま、座って?」

マクネアさんの言葉に素直に従い、ソファーへと腰を下ろす。

「…その前に。ケビン、アルスの反応を見てジルバとの関係性は浅いものだと思わない?」

「……どうでしょう?演技という可能性もありますが…」

「…それは無いわね。魔力のブレが無かったもの。絶対とは言えないけど、アルスは白に限りなく近いわ」

「……マクネア様がそう仰るのならば」

…まーた蚊帳の外だよ。嫌だねぇ大人ってのは。大きくなっても仲間外れなんて事をするなんて……。

「さて、アルス。少し言えない部分もあるけれど、殆どの事を教えてあげるわ?…もちろん、この事は秘密よ?」

「…はぁ。わかりました」

「アルスが監視対象になった理由は主にジルバとの関係性の事があってよ?……信じられないだろうけど、ジルバは『国家転覆罪』の容疑がかかっているの」

マクネアさんの口からまたもや驚愕すべき言葉が発せられた。

「は?へ??……はぁ?!???!」

「ふふっ…反応が面白くて楽しいわ。…けど、ちょっと黙っててね?…………ジルバには色々と昔から問題があったの。リンドールを子飼いにしたり、他の貴族に賄賂わいろを贈ったりしてね」

「……そうなんすか。…まぁ、賄賂は何とも言えねーすけど、リンドールさんを子飼いにしたらダメなんですか?」

「うーん……まずはそこから説明しなきゃいけないかな?……リンドールがどんな人物だったのかは知ってる?」

「えーと……元死刑囚って事とただの戦闘狂と男好きって事ぐらいしか…」

「男好き?!……何それ?初めて知ったんだけど…」

「俺もよく分からんすけど……風呂を一緒に入った時とか、上から下まで舐めるような目で見られてましたし…あと、なぜか俺の下着もセレクトされてましたし…」

「……ちょっとケビン。この事知ってた?」

「……流石に聞いた事ありませんよ…」

「ほ、他に何か知ってたりする?」

「…あとは俺の貞操の危機ぐらいですかね」

「…何それ。面白そうな話--
「マクネア様」

「……ごめんごめん。ちょっと脱線しちゃったわね。後日その話を聞かせてちょうだい」

「はぁ……わかりました」

「……えと、リンドールの性癖はどうでも良いとして……。リンドールの素性から教えた方が良いわね」

そういうと、マクネアさんは机の引き出しから書類を取り出し俺に手渡す。

「これは?」

「大まかに言えば、リンドールの罪状よ」

「罪状??」

「まぁ、読んでみて?」

5枚程度の紙をめくると、リンドールさんの身長からケツの穴のサイズまで書かれている内容が目に入った。

「………え?なにこれ」

「ああ、そこは関係無いわ。次のページを読んで?」

紙をめくると、おびただしい量の文字が書かれていた。

「……あ、これかぁ」

紙の一番上には『タタン一家惨殺事件』と書かれている。アリスさんから聞いた話では確か『身内殺し』って言ってたな…。

「そういや、アリスさんから聞きましたけど、これが身内殺しってヤツですか?」

「詳しく言えば、リンドールは養子だったの。養子だって分からないくらいタタン一家に可愛がられてたそうよ?この事件が起こるまではね」

事件の内容に目を通すと気になる部分が目に入った。

「……ん?『教皇補佐』ってなんすか?」

「タタン家の当主は信仰深い貴族としても有名だったの。でも、やましい事は一切無かったわ。人当たりも良く、民達からも愛されていた人物なの。…で、教皇補佐になってから一月が経った後、この事件が起きた」

次のページをめくると、凄惨な事件だったと理解出来るような文字が羅列していた。

「……うへぇ。全員バラバラにされた挙句、死体を焼かれたんですか…」

「近年稀に見る残酷な事件だったわ。……当主と妻、2人の姉と兄をリンドールが殺したらしいの」

「…?どういう事すか?」

「……当時リンドールは酷く錯乱した状態だったみたい。報告者によると『精神支配』を受けたような状態だったと聞いているわ」

「……リンドールさんが『精神支配』されていた??……想像出来ないっすね…」

「私もそう思うわ。……けど、当時だったリンドールが拘留された翌日、急激に歳を取ったの」

「……………………………は??」

ちょっと待って。一体どういう事なの?!

「…『精神支配』を受けた人間は何らかの不思議な症状が出るの。……ケビンの所でも研究中なんだけど、似たような症例が出てきているわ」

「ちょっと待ってくださいね……。少し整理させて下さい…」

「その必要は無いわ。その書類に書かれているのが事実だから」

書類の内容に目を通し、自分なりに話を整理する。そして、整理する時に浮かび上がった疑問を口にする。

「…『精神支配』を受けたのなら罪は無いんじゃ無いんですか?…黒幕がいるって事じゃあ…」

「………当時、怪しい貴族は全て調べ上げたわ。けど、その時にタタン家の地下から魔道具が見つかったの」

「とある魔道具?……ここには書かれていませんけど?」

「…アルスはアルゼリアル王国の歴史を知っているかしら?」

「本で書かれている事なら大体は…」

「ならこの国のの事は?」

「……エルフとかドワーフ、獣人族の事ですかね?」

「いや、違うの。もっと外の事よ?」

「????」

外の事??何の話??意味が分かんないんだけど……。

俺の表情を見てか、マクネアさんは詳しい説明をしてくれる。

「この国は海に囲まれている…ってのは知っているわよね?」

「ああ…そういう…」

「広く大きな海を渡った向こうには別の国があると言われているの」

ふむふむ。言ってる事は分かったぞ。前世の地球みたいに、他国が存在するって事だな?

「はいはい。わかりました。……つまり、目には見えないけれど他に大陸が存在するって事ですね?」

「そういう事。詳しい事は何も分かってないけど、だいぶ昔に大きな船が漂流してきた事があるの」

「へぇ……」

「もちろんその中には腐った死体しか無かったの。けれど、私達と似たような骨格をしていて、似たような文明が存在すると分かる証拠があったの」

「……それがさっきの魔道具って事ですか?」

「そう。他にも調度品やら何やらで分かったんだけどね。……それで、王国の魔導師が調べた所、その魔道具全てに『呪い』が付与されていたそうなの」

「…それとリンドールさんの事件になんの関わりが?」

「昔の事だから私も分からないけれど、どうやらその魔道具が複数盗難にあったと言われているわ」

「は?!」

「その中の1つがリンドールの事件に使用されたものだと当時話題になったわ」

………待て待て待て。話を整理すると………その難破した船から回収した魔道具が盗難にあって、その中の1つが地下から見つかったって事だよな?……いや、そうなら全然リンドールさんは関係無くね?むしろ、魔導師側に問題があったんじゃ……。

その事をマクネアさんに伝えると、苦い表情を浮かべゆっくりと口を開く。

「……アルスの言う通りなんだけどね……。組織ってのは隠蔽いんぺい体質が存在するのよ」

マクネアさんの言葉で全てを理解した。…要は責任逃れのためにリンドールさんを生贄にしたって事か。……完全なる濡れ衣じゃん。

「…でもね、リンドールが殺した事は事実なの。それに、相手が相手だったからね……」

含みを持たせた言葉に引っかかり、それを尋ねる。

「…当時、リンドールの相手になった…というより、リンドールを凶弾したのは『教会』と『騎士団』だったの」

「は?教会はわかる気がしますけど…なんで騎士団が?」

「タタン家には騎士団の副長が居たの。名前はカルロスって言うんだけど、聞いたことある?」

「いや……」

「カルロスは実力もあったし、仲間達や民達からも愛されていたわ。…その書類には書かれていないけど、カルロスが一番残酷な殺し方をされていたの」

「……意味が分からないっす。それが何で騎士団が凶弾する形に?」

「騎士団にはというものが存在したの。王に忠誠を誓う時、剣を捧げ自分の血で押印する事になっているの」

「はぁ……。それが?」

「…カルロスはカラダの部位という部位が全てバラバラにされたの。…まるで標本みたいにね」

ふむ…。全然分からん。誰か詳しく説明してくれ。

「……質問はしないんで、事細かく教えてくれませんか?」

真剣な表情でマクネアさんに問いかけると、少し間を置いた後口を開く。

「分かったわ。………騎士団は忠誠を誓う時に『剣』と『親指』を使用するの。それが騎士団にとっての『誇り』。リンドールはカルロスの部位を細かく切り分けた後、親指綺麗な状態に残していたわ。……そして、カルロスの使っていた剣で頭を突き刺し、舌を切り取った口の中に親指を入れていたの」

おぞましい内容を聞きながら、何となく理解をした。…つまり、リンドールさんは騎士団に対して『侮辱行為』をしたって事なんだろうな。

「……それで騎士団がキレたって事すか?……こう言うのも何ですけど、そんなにブチ切れる事なんすか?」

「騎士団には暗黙のルールっていうものがあって、人としての尊厳を侮辱する行為はタブーとされているわ」

「あー……はいはい。わかりました。その暗黙のルールとやらを騎士団であったカルロスさんにしちゃったって事なんですね」

「ええ。それと教会勢力も強かったのよね…」

「…教皇補佐を殺されたって事だからですか?」

「もちろんそれもあるけど、何よりの問題は『民達』だったわ。…それもそうよね?愛されていたタタン一家を残虐したのはリンドールだったのだから。…それが裏でどのような事があったとしても、事実は変わらない」

「でも、裏の事を知っているのならリンドールさんは濡れ衣だったんじゃ…」

「…ここからの話は情け無いモノになるけど、暴動を恐れた機関はリンドールを死刑にする事で収めようとしたの」

「は?」

「…仕方ないじゃない。まず漂流した船の中から発見した魔道具やそれが流失した事も極秘。……バレたら王国が崩壊する可能性もあるからね。色んな事を隠す為にリンドールを生贄にしたって事」

「なっ……」

驚愕の事実に口をパクパクとさせる。リンドールさんの過去の話もだが、後ろ暗いドロドロとした事についてもだ。

「……でもっすよ?マクネアさんはリンドールさんが無罪だって知ってるんですよね??なら、今公表しても…」

「……それがね。リンドールは自分がした事を覚えているのよ。次の書類に書かれているけど、当時何があったのかを全てリンドールは理解していたわ。……まだ8歳の子がよ?でも…それが決定打だった。事件現場に駆けつけた騎士団の前で自分がやった事を高らかに話していたそうよ」

マクネアさんが喋り終えると重い空気が漂う。それはそうだ。マクネアさんが話していることは全て事なのだ。今更蒸し返そうとしても無駄であるのは理解している。しかし、納得がいくものではない。

「……どんな理由があろうと、リンドールさんの罪は確定したって事ですね」

「ええ、そうよ。こればかりは後の祭りだったわ…。私が担当してれば違う結果になっただろうけど、には重過ぎた事件だった…」

「父?……マクネアさんのお父さんが何で?」

「…………当時この事件の責任者は父だった。もちろん、隠蔽工作に勤しんでたのも父だったの。……仕方ないわ。国家が揺るぐ可能性がある事があったのだもの。国家と1人の子供を天秤にかけるならば、国家を取るでしょうね。…………けど、その後父は命を絶った。全てを1人で抱えたままね」

「え……なぜ?」

「……『自分がした事による罪悪感』だそうよ。遺書にはそれだけしか書かれてなかった。……それで私が大きくなった時この事件について調べ上げたの。……それがアルスに話した事件の全貌よ」

「…………」

うーん……。ややこしい話になってきたぞぉ?しっちゃかめっちゃか過ぎるなぁ……。

簡単にまとめると、裏でのゴチャゴチャなんやらをリンドールさんに擦りつけて、その罪悪感に耐えきれなくなったマクネアさんのお父さんが自殺したって事だよな。……いや、一種の逃げじゃん。ダメだろ。

「…でも、死刑確定になった時、リンドールに手を差し伸べた人物がいたの」

ポツリと呟くようにマクネアさんは言う。その言葉に顔を上げると、無表情なマクネアさんがいた。

「……ここから先はワタシがお話します。…アルス様、ご質問があれば後からよろしくお願いします」

「…はい」

マクネアさんはうな垂れるように椅子に深々と座る。交代したケビン君が話す内容は驚愕すべき内容ではあったが、本日何度目かも分からないぐらい驚き過ぎた俺は、淡々とケビン君から話を聞くだけであった。
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