転生チートで夢生活

にがよもぎ

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第3章 王宮学園 -前期-

第061話

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♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎

「なんだ?ありゃあ……」

「どうなってるアルス!?」

魔物の集結を覗き込むと異常な光景が飛び込んできた。

「……戦ってる…のか?」

先ほど戦ったリザードマンと別の魔物がわちゃわちゃとしていた。砂煙が舞い、肉眼では詳細には見れない。『鑑定』をしようすると、リザードマンと『鎧ムカデ』、そして『獣人族』という結果が脳内に入り込んできた。

「---ッ!!襲われてるッ!!」

「へっ?!」

気付いた時には体が勝手に動いていた。呆然とするロニキスさんをその場に置いていき、戦闘の中心へと飛び込んでいく。

「伏せろ!!」

上空から大声で獣人族に呼び掛ける。こちらの声に反応したのかは分からないが、獣人族はうずくまっていた。

「---『風龍の咆哮ドラゴン・ロアー』!!」

『高速思考』で範囲を指定し、獣人族に当たらないようスキルを発動する。獣人族を避ける様に暴風が吹き荒れ、取り囲んでいた魔物達を吹き飛ばす。

「---『全回復オールヒール』!大丈夫か!?」

「……イイ。き……ち……よぉ…」

「………おい、無事か?」

獣人族の隣に立ち回復させる。全回復を掛けたのだが獣人族はうずくまったまま動こうとしない。何やらブツブツと言っているが、小さ過ぎて聞き取れなかった。よくよくうずくまっている獣人族を見ると、立派な鎧を装備しており所々凹みが出来ている。ガタイ的に男だとは思う。……何せ腕の太さが俺の倍以上はあるからな。これで女とか言われたら……。いや、なんでもない。

「おい!!」

再度呼びかけるが返事は無い。いや、もぞもぞと腰の部分を動かしているのは確認出来た。獣人族の『無事だ!』というジェスチャーなのだろうか?

そんな事を考えていると、スキルによって吹き飛ばされた魔物達が起き上がり、俺へと襲いかかってきた。

「チッ!」

先程のリザードマンとの戦闘とは違い、今は囲まれている状況だ。しかも、手負いの獣人族を守るという不利な状況でもある。剣を抜き、飛びかかってくる魔物を両断し、迎撃を開始する。

ぜろ!!」

近くにいた魔物5体程度の塊に爆発魔法をぶつけ、今度は反対側の方に移動し薙ぎ払う。

(…チッ。チマチマと面倒だな。ここは一気に殲滅するか!)

そう決めた瞬間に、某錬金術師の如く地面に両手を付け、魔法を唱える。

「『地割れクラック』!!」

『高速思考』で俺のイメージ通りに具現化する。俺と獣人族の男を中心として弧を描く様に地割れを起こす。砂地が割れ、魔物達を全て呑み込む。

「「ギギギギィッ?!」」

断末魔をあげながら魔物達は地の底へと落ちていく。唯一近くにいたリザードマンだけが固定された砂地に手を掛けている。

「ギギャッ!?ギギギギィ!!」

砂地とあって手が滑りそうになるのか、リザードマンはどうにか這い上がろうとする。地面から手を離した俺はリザードマンの希望が残る手の近くに立ち、その手を力強く踏み付ける。

「ギッ?!---イィィィィィイ--………」

踏みつけられ、痛みでリザードマンは手を離してしまう。そのまま重力に引かれるように最後のリザードマンは地の底へと落ちていった。

「……解除」

地割れの魔法を解除すると砂地は何事もなかったかの様に元通りになる。目視で生き残りが居ないかを確認してから獣人族の男の近くへと駆け寄る。

「……大丈夫か?」

「はぁ…はぁ…………へ?」

男の肩を軽く叩くと、男は何故か顔を赤らめていた。

「怪我は……無いか。どうだ、立てるか?」

出来るだけ優しく男へと声をかける。男はキョロキョロと周囲を見渡した後、俺と目を合わせる。

「……あれ?敵は…?」

「ぶっ殺したよ」

「え……えっ?!あの数を?!」

「ああ…。んで?一体何があったんだ?あれだけ取り囲まれてるんだったら何か理由があったんだろ?」

理解が追いつかない男に質問を被せる。男はキョロキョロとしながらも、現状を理解したのかすぐさま立ち上がる。

「うぉっ……」

立ち上がった男を見て俺は驚きの声を上げる。身長は俺よりも高く、ガタイは鎧がパツンパツンに感じるぐらい筋肉隆々であった。

(そのガタイでリンチにあってたのかよ……。素手で魔物を殺せそうな風貌なのに…)

男を見た感想はそれであった。鷹のように細い目をしながら見下され、少し尻込む。

「--助けていただきありがとうございます!!」

「ぬおっ?!」

男が勢いよく頭を下げ感謝を伝える。しかし、あまりにも勢いがあったので攻撃かと思い俺は後ろへと回避した。

「? どうされました?」

後ろに後退しつつもファイティングポーズを取っている俺に男は不思議そうに尋ねる。

「い、いや…。頭突きされんのかと思って…」

「……命の恩人にそんな事する訳ないじゃ無いですかッ!!」

「ごごごめん!!いや、あまりにも勢いがあったからさ!『ヤラレる!!』って思っちゃって…」

「僕はヒトに暴力などは奮いませんよ!むしろ奮われたい方です!」

「…………………………は?」

「あっ………。ゴホンッ!……えーと、とりあえず助けていただいてありがとうございます」

「あ、あぁ…」

「…見た感じ人間の様ですが、ここへは何しに?」

男は冷たい目をしながら、俺へと尋ねる。

「あー…俺達は依頼でこの国に来たんだ」

「俺?……他にも人間が居るのか?」

先程まで物腰が低かった男が高圧的な口調へと変わる。

「ああ。……あっちに俺の先輩がいるんだ。……おーい!!ロニキスさーん!!」

未だ丘の上にいるロニキスさんにこちらへ来る様に呼び掛ける。すると、声が聞こえたロニキスさんは不安定な砂地を軽やかに走って来た。

「えと…こちらが俺の先輩の--
「おい!!アルス!!お前今のはなんだ?!」

砂煙を上げながら登場したロニキスさんは俺が喋っているにも関わらず俺の肩を強く掴んだ。

「うわっ?!」

「アルス!!今何をした?!一体今の魔法はなんだ!?」

「ロロロロロニキスささささんおおお落ち着いてててててて」

ガクガクと俺を揺らしながら問い詰めるロニキスさん。しかし、揺さぶりは激しく俺の頭は前後に大きく揺れる。

「言え!!今のはなんだ!!」

「ちょちょちょちょ--」

ガクガクと揺らすロニキスさんの手を握り無理矢理剥がす。

「……落ち着いてくださいよロニキスさん…」

「………あ、すまん……」

俺が心底嫌な顔をしたのを見てか、ロニキスさんは謝罪をした後、手から力を抜く。

「えと…とりあえず、戦闘については後で話します。その前に……えーと??」

「あ、自己紹介が遅れました。僕…私は『ヒースクリス』と言います」

「俺はアルス。えーと、ヒースクリスさん…?とりあえずこちらが俺の先輩で一緒に依頼を受けたロニキスさん」

「?! そ、そうですか!………どうも」

ヒースクリスと名乗る男はロニキスさんに手を差し出す。

「…こちらこそどうも???」

握手を交わした後、俺はヒースクリスさんに再度尋ねる。

「ところで何があったの?」

「何が……あぁ!えとですね…私はこの周辺の見回りを行なっていまして…鎧ムカデが出現したのを見つけて、駆除しようと思ったのですが仲間を呼ばれてしまいましてね…。鎧ムカデ2匹程度なら余裕なのですが、騒ぎに気付いたリザードマン達が参戦してきまして…。それでああなったという訳です」

「………いや、自殺行為だろ。何で逃げなかったんだ?」

「逃げようとしたんですけどね…。鎧ムカデの麻痺に軽くやられてしまってて…。それが気持ち…じゃなくて、逃げる隙を伺っていたんです」

「…危ねぇなぁ。俺達が助けに来なかったら死んでたかも知れねーんだぞ?」

「ハハハッ!それは大丈夫ですよ。私は体力と防御だけは自信がありましてね!あんな雑魚如きにはやられたりはしませんよ!」

俺の心配をよそに、ヒースクリスは高らかに笑う。

(…やられたりはしないって言ってもよ…あのままじゃ絶対死んでただろ)

先の光景を思い出しながら言葉にしようとすると、ヒースクリスが先に話を切り出した。

「ところで、依頼でこの国に来たと聞きましたが、どんな依頼で?」

にこやかと話すヒースクリスに俺は経緯を説明する。

「…ジルバ様からですか?」

「ああ。どうやら大鬼オーガが群れで出没してるらしいんだと」

「………いえ。私も大鬼オーガが出没したという話は聞いた事がありませんね…。しかし、ジルバ様の依頼となると……」

「ん?ジルバさんの事を知ってんの?」

「……ええ。アルゼリアル国の大貴族の方ですよね?」

「知り合い?」

「…知り合いというか…色々とお世話になってますね」

「へぇー。なら大鬼オーガの情報とか持ってたりしない?」

「……申し訳ありません。私も今初めて聞きましたので、その様な情報は持っていませんね…」

「……そっか。んー……なら荒野にはいないのかぁ」

「……部下に聞いてみましょうか?」

「部下?」

「ええ。私の部下も周辺の警戒に当たっていますので、もしかしたら大鬼オーガの情報を持っているかも知れません」

「……ちょっと待って。部下がいるの?いや…居るんですか?!」

『部下』という単語を聞き焦る。ただの兵士かと思っていたが、『部下持ち=隊長』かもしれないという事を理解してだ。

「ええ…居ますけど?」

「ごごごごめんなさい!そんな地位にいる方だとは思わずタメグチなんか聞いてしまって!」

「タメ口?……タメ口ってなんですか?」

「えーと……その…生意気な口って事です…はい…」

「……アハハハハッ!ああ、そういう事ですか!別に気にしないでくださいよ!私は偉くなんて無いんですから」

「いや本当すいません…」

「気にしないでくださいよ。私は別に気にしてませんから」

豪快に笑うヒースクリスさんはお茶目にウィンクを飛ばしてくる。しかし、風貌が風貌なので安堵は出来なかった。

「……あのよぉ、話し込み中悪りぃが少し良いか?」

ロニキスさんがおずおずと俺達の会話に入ってくる。

「…なんだ?」

「……あんたよぉ、今『ヒースクリス』って名乗ったよな?」

「……あぁ。そうだが?」

「…俺の記憶違いでなければキルリア国の王子だよな?」

「ファッ?!」

ロニキスさんは真面目な表情でヒースクリスを見つめる。俺はというと、ロニキスさんの発言に変な声を上げてしまった。

「……そうだ。だが、私はもう後継者から外された身だ」

「…じゃあ、本人って事でいいんですね?」

「え?なになに?どういう事?王子って何?」

ロニキスさんの話についていけない俺はすぐに2人へ尋ねる。

「アルス、この方はな--
「待て。その話は私の部屋でしよう。……アルスさん、助けていただいたお礼もしたいので私の部屋に来ませんか?」

「……え??」

「お礼がてらアルスさんに話したい事もありますので……」

「へ?」

色々と状況についていけない俺は強引にヒースクリスさん?様?に腕を引っ張られる。

「ちょちょちょ!!」

「悪い様にはしませんから御安心を。…貴方も是非どうぞ」

「王子がアルスに話だって?…何やらキナ臭ぇな…」

「疑うのなら来なくても良いんだぞ?」

「…そう言われてもな。俺だってアルスと一緒に依頼を受けている身なんだよ。黙って連れ去られるのはお断りだよ」

「……ふんっ」

「……だからどういう事なんだよ!!」

俺の抗議は無視され、そのまま連れて行かれる。道中猛抗議をかますが、ヒースクリスさんならは『後で話をしますから』と先延ばしにされ、ロニキスさんからは『黙って従え』と言われ、不本意ながらも渋々と連れて行かれるのであった。





「痛い痛い!自分で歩くから!手を離してぇーーーーーーーー!!」
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