転生チートで夢生活

にがよもぎ

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第3章 王宮学園 -前期-

第065話

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♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎

「はーい。期末試験お疲れ様でした。答案を前に出して退出してください」

生徒達が各々教壇へと答案用紙を提出し教室から出て行く。

「アルス先生、明日はクラブに来るんですか?」

「うん。明日は俺も参加するよ」

「やったぁ!!何時頃に来ます?朝一からですか!?」

「うーん…一応朝からの予定だよー」

「じゃあ明日稽古つけてくださいね!」

「良いよー」

答案を提出しながら生徒達は気さくに話しかけてくる。主にクラブに参加するかどうかの確認であったが。

「せ、先生…ぼぼ僕にも教えて貰えますか?」

最後尾に並んでいたケビン君が提出しながら声をかけてくる。

「ん?もちろんだよ。…でも結構約束しちゃったからなぁ…」

「じじ順番は守ります!お願い出来ますか!?」

「良いよ!…まぁ、もしかしたらまとめて教えるかも知れないけどそれでも良い?」

「はい!」

「…それはわたくしも予約しないといけないのかしら?」

ケビン君の後に声をかけて来たのはアリスさんであった。

「…もちろん。贔屓なんて出来ないからね」

「少しは優遇してくれないかしら?」

「……お前なぁ。そういう所だぞ?アーサーが直せって言ってる部分は」

「……フンッ!」

「器量良しなんだから、もうちょっと性格良くしような」

「余計なお世話ですわ!…ケビン!行くわよ!」

「は、はひぃ!!…そ、それじゃアルス先生、また明日クラブで!」

ケビン君はアリスさんの後を追いかけ、教室から出て行く。誰もいなくなった教室で答案をまとめながら色々と思い出す。

---ジルバさんの話は衝撃というか、あまりにも現実味の無いモノであった。話を聞いた直後も俺はジルバさんにひたすらに質問責めをおこなった。休日の全てを使い、納得が行くまで説明を受けたが、やはり未だ信じれない。

「……はぁ、マジでどうなってんだよ…。…てか、何でそんな事に巻き込まれたんだ?」

ジルバさんから何度も聞いた話を思い出しながら呟く。まぁ、俺が聞かなければ良かった話なのだが、どの道巻き込まれていたという事だし、遅いか早いかの違いしかなかった。

「…ま、まだ実行には移さないって言ってたし、あの口振りだとまだまだ時間はかかりそうだな」

答案を紐で束ね、教室から出て行く。そのまま非常勤室へと戻り中へ入る。

「おう、お疲れさん!さっきの授業で終わりだろ?」

「……ロニキスさん。なんで、アナタが俺の時間割を知っているんですかねぇ…」

「ガハハッ!机に貼ってあったぞ?」

俺の席にはロニキスさんが座って待っていた。そのまま自分の席へと移動すると、机の上に答案の束を置く。

「そのままマクネア様の所に向かうのか?」

「ええ。そのつもりでした」

「んじゃ、俺も行かなきゃな」

ジルバさんの話の時、俺はを頼まれていた。寮に帰った後、ロニキスさんにラティスさん特製の『草団子』を渡し、話は通していた。

「…あれ?テストはもう終わりなんですか?」

「おう!昨日の時点で全て終わりだ。昨日アルスに言いに来ようと思ったが、机の上に時間割が貼ってあったからな。なら、今日で良いやと思ってね」

「助かります。俺から呼びに行くつもりでしたから」

「んじゃ、さっさと行くとするか」

ロニキスさんが椅子から立ち上がり、外へと出て行く。俺もその後に続き、マクネアさんの部屋へと移動する。

「こんにちは!アルスです」

マクネアさんの部屋の前に着き、ドアをノックする。あらかじめ、マクネアさんには連絡を入れておいた。

「どうぞー!」

「失礼します」

中から返答があり、ドアを開け入る。奥には大量の紙の山に囲まれたマクネアさんが目に入った。

「ごめーん!少し時間がかかりそうだから、ソファーで少しくつろいでて!」

こちらに顔を向けず、マクネアさんは紙の山に手をつけていた。俺はスタスタとソファーへと移動し、腰を下ろす。ロニキスさんも俺の隣に座り、マクネアさんの仕事が終わるまで談笑しながら待っていた。

「申し訳ないけどお茶は自分達で用意してね?お菓子はカップの棚に入っているから」

「はーい。…マクネアさんも要りますか?」

「…無糖でぬるめのを淹れてくれるかしら?」

「ロニキスさんは?」

「俺は要らないぜ」

お茶の準備をし、マクネアさんの分を邪魔にならないところに置く。ソファーに戻り、かなり甘くした紅茶を一口飲む。それから15分ほどロニキスさんと喋っていると、マクネアさんが悲鳴を上げた。

「もうやだああああ!!なんでこんなに決裁が多いのよおおおお!!」

突然の悲鳴に俺とロニキスさんはビクつく。

「だ、大丈夫ですか…?」

「大丈夫な訳ないじゃない!…もういい!これは明日に回す!!お爺様にも手伝って貰うわ!」

机から顔を上げたマクネアさんは紅茶を一気に飲むと、溜息をつく。

「---ふぅ。……あれ?アルスは何で来たんだっけ?」

「昨日言ったじゃないですか…。ジルバさんからの大事な話があるって」

「……だったっけ?」

「はい。……お代わり要ります?」

「……ん。今度はかなり甘ーいのをお願い」

マクネアさんのカップを取りに行き、俺が飲むぐらいの甘い紅茶を淹れる。机に持っていくとお礼を言われた後、話に入る。

「ありがと。……あれ??何でロニキスも一緒にいるの?」

「それも言ったじゃないですか…。ロニキスさんと俺がキルリア国に行ったって」

「…………ああ!そうだったそうだった!……ごめんごめん。忙しくて忘れてたわ…」

「……これだけあれば大変ですよね。暇な時にまたお邪魔しましょうか?」

ソファーに戻りながら、マクネアさんの状況を気遣う。

「そんな気遣いは無用よ。一気に処理した方が楽だから」

「…なら良いですけど…」

「それじゃ、まずは全てを聞かせてくれるかしら?……確かジルの依頼でキルリア国に行ったのよね?」

「はい。結末から話すと-----

マクネアさんに休日に起きた話を伝える。ロニキスさんがちょこちょこと補足しながら、どういう経緯でどのような事が起きたかを全て話す。

「---まぁ、結果的にはジルバさんの依頼は嘘だったんですけどね」

「………………は?ち、ちょっと待って??アルスがになったって???」

「みたいですね…。最初は意味分かんなかったんですが、ジルバさんの話を聞いたら納得したというか……」

「えぇ……?全然信じられないんだけど…」

「マクネア様、嘘のような話ですが事実です。俺もこの耳と目でその状況を体感しましたから」

「……でもアルスが後継者候補よ??ただの貴族になるってのとは全然違うのよ??」

「そのお気持ちはお察しします。…けど、ヒースクリス様達の態度を思い出すと事実だと俺は考えます」

「……頭が痛いわ。アルス、紅茶のお代わりを頂戴」

マクネアさんは両手で頭を抱え、今の話を整理しているようだ。もう少し甘めに紅茶を淹れ、マクネアさんに手渡す。

「ありがと。……………で?アルスはどうするつもりなの?」

「お断りしましたよ。……だってただの田舎モンがいきなり王になれって有り得ない話じゃないですか」

「…そうよね。でも、ガランドール様の事だから諦めはしなかったでしょ?」

「…はい。他に有能な人物を見つけるまではだと言われました」

「……だよねぇ。はぁー…………………。となると、アルス以上の人材が見つからなければアルスはキルリア国の王になるのかぁ…」

「ぜってぇーお断りです。なんでそんな役目を貰わないといけないんですか!!」

「…そりゃあ、ガランドール様が決めちゃった事だからよ。獣人族は『力こそ正義』の理念を生まれながらに持っているからね…」

「別にヒースクリスさんが継げば良いと思うんですけどね」

「………アルスの後継者候補の話にも驚いたけど、私的にはヒースクリス様と仲良くなっている事にも驚きよ…」

「いやぁ…それはたまたまと言うか…。向こう的には接点を持つつもりだったようですけど……」

「………ま、いいわ。それは後で整理しておくわ。………それで?ジルからの話って?」

「はい。それはですね--
「ロニキス、申し訳ないけど少し外に出てて貰えるかしら?」

「へ??………ああ、そういう事ですかい。マクネア様、俺はアルスからその話は聞いていますぜ。ジルバ様も俺に話して良いって言ったみたいですよ」

「……そうなの??」

「はい。『ロニキス君は偶然とはいえもう部外者では無い。ある程度知っていても構わない』と言われてます」

「………そう。ここじゃ遠いし、私もそちらへ移動するわ」

マクネアさんは椅子から立ち上がると、俺達の対面のソファーへと移動する。

「…それじゃ聞かせてくれる?」

「はい。………ジルバさん曰く、『私の事を疑うのは構わないがシロである事を忘れるな。私の忠誠はこの国に捧げているのだから』との事です」

「……へ??それだけ??」

「…あと、言えば分かると言われたんですけど……『祈りが全て通じるものではない。どこにでも祈りのは出てくる。穴好きな害虫はそこに巣を作るぞ』………と。どういう事なんですかね?」

ジルバさんから言われた言葉をありのままに話す。ジルバさんの言葉を聞いたマクネアさんは顎に手を当てしばし無言になる。

「??? なんだぁ?俺も聞いて良い話みたいだが、チンプンカンプンだぜ…」

「俺もですよ…。でもこれ以上は教えてくれなかったんですよね……」

ロニキスさんと俺は2人してジルバさんの言葉を考える。だが、何を言っているのかさえ分からないので、答えは出る事は無かった。

「………………そう。大体は理解したわ」

マクネアさんが口を開くと、スッキリしたような表情をしていた。

「え?理解したんですか?」

「ええ……。それ以外には何も言ってなかった?」

「はい……。ただ、これだけ伝えとけと…」

「……そう。ならアルスにはまだ早いって事ね」

「? 早いって??」

「こっちの話。………しかし、バレていたとは…。ジルも中々手強てごわいわね…」

1人納得しているマクネアさんに聞きたかったが、これ以上は話を引き出せなかった。

「話は理解したわ。……それでなんだけど、アルスは思った?」

唐突に尋ねられ、その裏にある言葉を考える。『高速思考』のお陰でマクネアさんが何を言いたいのかが理解出来た。それに答える前にとある事をしておく。

「…………ああ。その事ですか」

「…相変わらず聡いわね。ジルが気にいる理由が分かるわ」

「買い被り過ぎですって…。そうですね……俺はジルバさんはまだグレーだと思ってます」

「……私もそう考えるわ。…直接聞いた訳じゃ無いわよね?」

「ジルバさんはお見通しだったみたいですよ?俺がマクネアさん側に揺れている事も知ってましたし…」

「?! ジルは一体どうやって知っているのかしら…」

「さぁ?それは俺でも分かりません。……ただ、ジルバさんは『国家転覆』などは一切考えていませんよ。むしろ、この国の事を考えて行動してます」

「?!! アルス!?」

マクネアさんは俺が発した言葉に敏感に反応しロニキスさんの様子を伺う。

「ああ、大丈夫ですよ。今は俺マクネアさんしか動けませんから」

「? どういう事?」

「…ケビンが使用したスキルを真似て魔法を使用してます。この場で今動けるのは俺とマクネアさんしか居ません」

「……………は?」

「ケビンが使用したヤツって『時間を止める』ヤツですよね?その魔法は俺も使えたんで、ちょっとやってみました」

「……ち、ちょっと待って?!…一体何の話をしているの?!」

「そのままの話ですけど……。今から重要な話をしようと思ったのでロニキスさんには悪いですけど、部外者になってもらいました」

「…………頭が痛いわ。一体全体何がどうなってやるのやら……」

マクネアさんは今の状況を理解しつつも認めたく無いようだった。だが、俺なりにヴァルの話をまとめ、強引な手法ではあるが今しかないと思い話を切り出す。

「…………マクネアさん。今から話す事はジルバさん以外知りません。他言無用でお願いします」

「……それほどの話って事かしら?」

「それ以上の話ですね。今から話す事は信じられないかも知れませんけど、事実です」

「聞かせて貰えるかしら?」

「先程、ジルバさんはグレーだと言いましたが、実際には完全にシロです。マクネアさんが探りを入れているのも気付いていましたし、それは仕方ないと諦めてました」

「…………」

「前に、ケビンの時に俺の話をしたのを覚えてます?」

「……確かヴァルキューレ様と話が出来る…だったかしら?」

「そうです。………俺の事を話すとややこしくなり理解出来ないと断言出来ますが、ジルバさん曰く『神の使徒』だと思えば考えやすいと言っていました」

「……? 全く意味が分からないわ…」

「極端な話、俺はヴァルから使命を受けています。その見返りと言っては何ですが、この世界に存在する魔法は全て使えることになってます」

「?!?!」

「その使命って言うのがまたややこしいんですが、どうやらこの世界の『信仰心』が失われつつあるのです」

「……ごめん。もう少しゆっくり目に説明してくれないかしら?全然ついていけないわ……」

「………俺の事を『神の使徒』だと思って下さい。そうすれば少しは理解しやすいかと…」

「…それが意味不明だから困ってるのよ……」

「じゃあ、俺がヴァルと繋がっているってのは信じれますか?」

「…………そうね。その事なんだけど………アルスから聞いた後、ケビンから報告があったわ。こちらに取って大変有益な情報を持ち帰ってきた」

「……それで?どうですか?」

「半分半分ってところかしら?ケビンはかなり信用しているみたいだけど…」

「それで構いません。……単刀直入に言いますが、俺の味方になってくれませんか?」

「味方??」

「はい。俺はどうしても『教会』について調べなければなりません。…しかし、それには単品の俺なんかじゃ時間もかかるし、出来ない事だと思ってます」

「…………なるほど。『潜入』したいと考えているのかしら?」

「それが出来れば手っ取り早いですが、それにはやっぱり権力者が後ろ盾に居ないと…」

「………少しは理解出来たわ。けど、1つ聞いていいかしら?……なぜ教会を調べようと思ったの?ヴァルキューレ様の神託だとしても、理由ぐらいは聞いているのよね?」

「………それは話せません。色々とややこしい事情になっていますので」

「……そんなに複雑な事なの?」

「複雑というか……時期が来たら話せるとは思います。ただ、何にせよ俺は敵では無いし、悪巧みもしてない。味方が欲しいだけなんです」

「…………………」

マクネアさんは目を瞑り、天井を見上げる。しばし静寂が続いた後、マクネアさんが口を開く。

「……それは今すぐに答えないといけないかしら?」

「出来れば今すぐが良いですけど…。まぁ、早めに答えを貰えたら助かります」

「……そう。とりあえず、当面は協力してあげる。どーせジルは全面的に味方になったんでしょ?」

「いえ……。ジルバさんは『ギブアンドテイクな関係で』と言ってました。『決定的なものが無ければ信じれない』と」

「ふふ…ジルらしいわね。………分かった。なら私もジルと同じ立場になってあげる。……答えるのはアルスが完全に信用出来ると確信してからね?」

「! ありがとうございます!!」

「まだ確定した訳じゃ無いけど……ま、少しは信じてあげる。その代わり……こちら側の手伝いもしてくれる?」

「ギブアンドテイクですね?もちろんお手伝いしますよ」

マクネアさんに手を差し出すと、クスリと笑ってから俺の手を握る。完全に味方になってないのは残念だが、それは地道に信頼を築いていくしか無い。

「それじゃ魔法を解除します。…適当に口裏を合わせてくださいね?」

「あら?もう密会は終わり?」

「ええ。あとは信用を得るだけですから」

「…そうじゃないんだけど……。ま、良いわ」

「? それじゃ解除します」

魔法を解除し今まで静かであった空間に音が戻る。

「……あ、そうそう。アルス達に伝える事があったわ」

「? なんですか?」

「ロニキス、アナタにも関係する事なんだけど、少し聞いてくれるかしら?」

「え?…俺もですかい?」

「ええ。…前にも言った通り『貴族会議ドゥーマ』が開催されるのは知っているわよね?」

「はい。それで俺がてんやわんやなりましたけどね…」

「過ぎたことは仕方ないじゃない?……それでなんだけど、今1つのもよおし物が上がっているの」

「? なんですか?催し物って…」

「『闘技祭とうぎさい』についてよ」

「『闘技祭』??」

また知らない単語が出てきて、おうむ返しで尋ねる。だが、マクネアさんが答えるよりも先に口を開いたのはロニキスさんであった。

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