転生チートで夢生活

にがよもぎ

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第4章 王宮学園--長期休暇編--

第083話

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「お待たせして申し訳ありません」

サラダも残り少なくなって来た頃、店員さんが料理を持ってきた。それぞれの前に料理を置き、『以上でお揃いですか?』と確認したあと、店員はその場から離れていく。

「凄い美味しそうね!」

「そうですね。早速食べましょ!」

『季節のパスタ』には肉などは一切入っておらず、本当に野菜だけのパスタであった。調味料で味付けがしっかりとされており、薄味では無かった。『根菜の丸ごと煮』は茶色い色をしており、口に入れるとホロリと崩れる。『煮物』のような物だと想像していたが、どちらかといえば洋風な味付けであった。コトコト煮込んだ野菜スープと言えば想像しやすいだろうか?

「んーっ!このキッシュ、とっても美味しいっ!」

マクネアさんも自分のチョイスが成功だったのか、舌鼓をうちながら次々と口へ運んでいく。令嬢ともあって食べ方か恐ろしいほど綺麗だった。

「ねぇアルス。そのパスタ一口頂戴!」

黙々と食べていると、マクネアさんが喋りかける。

「ええ、いいですよ。じゃあ取り皿を……

マクネアさんの前にある取り皿を取ろうと手を伸ばした時、目を疑う光景が目に入った。

「あーん」

なんとマクネアさんは目をつぶり、『ここに入れろ』と言わんばかりに口を大きく開けていた。

「ほへっ?!」

マクネアさんの謎行動に動きを一瞬止め、慌てて取り皿を取ろうとする。だが……

「ちょっと!早く頂戴よ!」

「いや……行儀悪いですって…」

「別に公式な場所じゃないからいいじゃない。……ほら、後ろの人達も同じ事してるわよ?」

振り返ると後ろの席には年頃の男女が座っており、男が女に『あーん』をしていた。

「いやいやいや…。アレは恋人同士だからしてもいいヤツっすよ?」

マジマジと見るのは失礼だと思ったので、一瞬だけ見た後にマクネアさんに告げる。

「でもアレだったらすぐに食べれるじゃない。取り皿に分けてもらってからまた食べるなんて面倒だと思わない?」

「思わないっすよ……。それが普通でしょ?」

「効率が良いと思うんだけどなぁ…。ま、いいから早く頂戴よ。あーん…」

再度目をつぶり口を開けるマクネアさん。キョロキョロと周囲を見回すが、近くにいる人達は暖かい目で俺達を見ていた。

(…おいっ!!どうすりゃいいんだこれ?!…いややる事は分かってんだけどさ…良いのか?!相手は三大貴族の御令嬢だぞ?!)

断ろうにもマクネアさんは既に準備を終わらしている。俺に出来ることは2つしかない。『強く断る』か『素直にするか』だ。

だが悲しいかな。正直、俺はこの行為に憧れていた。……だってさぁー、公の場でイチャイチャするって凄くない?恋愛漫画とかでは良くある光景だけど、コレをすれば凄く仲が良いって伝わるじゃん。でも、それは妄想の中だけで俺が現実にする事は絶対に無いと思っていたよ…。ましてや相手は超が3つ以上は付く美人だぜ?そんな人が目をつぶって口を開けて俺の行動を待っているんだぜ?…………おっと。違う妄想をしそうになったわ。イカンイカン。

「…………ゴクリッ」

生唾を飲み込み、震える手でパスタを一口分フォークに巻き、周囲の視線を感じながら恐る恐るマクネアさんの口へと運ぶ。

「あ、あーん………」

口に届くと同時にマクネアさんは『パクッ』と口を閉じる。そのまま顔を下げフォークだけがその場に残る。

「…………んーっ!コレも美味しいっ!」

頬っぺたに手を添えながら、モグモグと口を動かすマクネアさん。

「……フフッ。顔が赤いけどどうしたのかしら?」

パスタを飲み込んだマクネアさんがニヤケながら話し掛けてくる。

「…恥ずかしいからに決まってるでしょ?」

「……そうなの?これが恥ずかしい行為になるの?」

キョトンとした顔で首を傾げるマクネアさん。……クゥーッ!!破壊力がありますねぇ!

「そ、そりゃそうですよ……」

「…………なんで?」

「へ?」

「なんで食べさせる行為が恥ずかしい行為になるの?」

キョトンとしたままマクネアさんは尋ねる。その顔には『?』しか浮かんでなかった。

「え、えーっと……」

子どもの『なんで?』みたいな質問に俺は頭を悩ます。

(……つか、マクネアさんはこの行為の意味を知らないのか?それともこの世界では普通の事なのか??……後者だった場合、俺はただの勘違い野郎じゃねぇか……)

「あの……特別な関係の男女でしかこんな行為はしちゃいけないと思うんですよ…」

「………………どういう意味?」

「えっ……とそのぉ…………こ、恋人かんけぃ………の男女で………」

尻すぼみになりながら言葉を発する。きっと俺の顔はさっきよりも赤くなっているだろう。

「………そうなの?」

「お、俺の中ではそういう位置付けであって……」

未だキョトンとしているマクネアさん。つい口にしてしまったが、『普通の事だよ?』と言われたら、俺は穴に入れる自信がある。

ドキドキしながらマクネアさんの言葉を待っていると、マクネアさんはキョトン顔から満面の笑みになった。

「あー…そういう事!私は別に気にしないわよ?」

俺の意図が伝わったのか、マクネアさんは少し笑いそうな顔へと変化する。

「いや…俺が気にするんすよ…」

「…………………………知っててやらせたんだけどね……」

「? 何か言いました?」

「いいえ?何も?……アルスがそんな事を気にしてるだなんて、意外な一面もあるのねぇ。…ウフフフッ」

「そりゃ俺だって恥じらいぐらいはありますよ…」

「ゴメンゴメン。別にアルスは気にしないだろうなぁーって思ってたからね」

「しますよ……」

「でもさぁー……それって私をそういう風に意識したって事?」

「…ふへっ?!」

小悪魔的な笑みへと変わったマクネアさんが、楽しそうに質問する。

気付いていなかったけど、アルスは気付いてたって事よね?」

「そ、それは……」

「どんな風に意識したの?教えてよぉー」

「…………わかってて聞いてますよね?」

「さぁー?なんのことやらー??」

……絶対に理解してて言ってるな。何て女だ……。

わざと過ぎる演技に乗るつもりは無く話を変えようと口を開くが、瞬時に元の話へと戻される。

「……ま、アルスはそんな目で私を見てたんだねぇ」

「そんな目でって……。普通こんななったら意識しますって…」

「アルスは女性に興味は無いとばっかり思ってたわ?ジルから聞いてたけど、ソルトやラティスと仲よかったみたいだし、こっち学園ではアーサーやロニキスと仲良しだもん。男好きだと思ってた」

「ちょっ?!な、なんで?!」

「だってアリスさんとは喧嘩ばっかりしてるでしょ?エドとは仲良しみたいだけど…なんか兄妹みたいに見えたし……」

「お れ は !ノーマルですって!ロニキスさんやアーサーと仲良いのは男同士だからですよ!」

「浮いた話も無いしさぁ…。男好きなんだろうなぁってジルと話してたのよ」

「そういうのやめて下さいよ……」

「でもよかったぁ。ちゃんとアルスも男の子だったんだね?」

「そりゃそうですよ……」

「言っちゃなんだけど、アリスさんもエドもだけど、アルスの周りって綺麗で可愛い人ばっかりじゃない?そういう気持ちは持たないの?」

「…持つわけ無いっすよ。エドは仲良い同僚ですし、アリスさんは生徒っすよ?」

「でも綺麗だとは思わなかったの?」

「そ、それは…思った事はありますけど…」

「……ふぅん。じゃあ私のことは?」

「は?」

「私のことはどう思ったの?」

「へ?…へ??」

「ちょっと聞かせてよぉ」

「い、いや……流石に本人の前じゃ……じゃなくて、言えるわけないじゃないすか!」

「えー?それどういう意味ー??」

子どものようにニコニコとしているマクネアさん。だが俺にはわかる。この人は俺をからかって遊んでいるだけだと。

………………よろしい。ならば俺も遊んでやろうじゃないか!

「そりゃあ、のとても綺麗で愛嬌もある人が『あーん』なんて真似したら誰だって意識しちゃいますよ。……………とまぁ、からかうのはここら辺で----

俺もニヤニヤとしながら言葉を返してみると、マクネアさんが一瞬で朱に染まった。

(……あれ?なんでそんな反応すんの?……もしかして…怒らせた??)

失言かと思い慌てて言葉を繋ごうとする。だが、それよりも早くマクネアさんが会話を打ち切った。

「お、おおおお世辞がじ上手なのねアルスは!も、もうこの話題は終わり!さっさとご飯食べちゃいましょう!」

顔を赤くしながら、マクネアさんは食事を再開する。言葉を挟む隙が無かったので俺も目の前の料理を食べる事にした。黙々と料理を食べ、食後の飲み物を飲んでから会計を済ませる。俺が冗談を言った後から会話は一切なかった。

店の外に出てから恐る恐る顔色の戻ったマクネアさんへと話しかける。

「……あの…マクネアさん?」

「……なにかしら?」

少し冷たく感じる返事であったが、次どこに行くか知らない俺は聞くしかなかった。

「…飯食べ終わりましたけど、この後はどうするんですか?ギルドに向かいます?」

「……うーん…そうねぇ…」

腕組みをしながら悩むマクネアさん。正直、俺としてはすぐにギルドにでも行って用事を済ませて帰りたい気分なのだが…。

「ちょっと買い物して向かいましょうか。私、新しい普段着が欲しくて…」

「か、買い物…すか?」

「あ、アルスも欲しい?…仕方ないなぁー。が選んであげるわよ」

「い、いや…別に俺は必要無----
「良いから!とりあえず買いに行きましょう!」

有無を言わせずに、半強制的に腕を引っ張られ、商店通りへと連れて行かれるのであった。
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