転生チートで夢生活

にがよもぎ

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第4章 王宮学園--長期休暇編--

第133話

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ダダ村の朝は早い……はずであった。

だが、今日はいつもの時間には誰も畑へと出ていなかった。ダダ村の住人は勤勉であり、『自分の働き=村の存続』に直結していると理解しているからこそ、毎日の畑仕事は欠かさない。

しかし、現に朝日が昇りきっても誰一人村人の姿は無い。住居はあれど、廃村のような印象を受ける。

「ココココ、コケーッ!!ココココケーッ!ココッコー!」

村の飼育所--ハインの提案で造ったもの--にいる雄鶏がけたたましく鳴く。すると、1つの家から小さな女の子がカゴを持って出てきた。

「んふふーっ!今日も元気にタマゴをうんでるかなぁー?」

女の子は飼育所に入ると鶏達--鶏と言ったが鶏に近い魔物である--の巣に近寄り卵を回収していく。

「……わぁ!今日は…えーと……む、むつ……むっつもうんでる!」

女の子は嬉しそうに数を数えながら飼育所から出て行く。

「おにいちゃーん!おねえちゃぁーん!今日はね!6つも…………」

家に帰り普段はいる兄と姉に報告しようと思ったが、言っている途中で居ないことに気付く。

「あ……。そっか、おにいちゃんたちはまたカイジャに行ってたんだった…」

いつもの癖で卵を多めにとってしまった。自分の分であれば1つで充分なので、巣に戻そうと飼育所へと戻る。

「お!おはようティナちゃん!」

「あ、おはよーナオエおじちゃん!」

飼育所に戻ると、ナオエと遭遇した。ティナと同じくナオエもカゴを持っており、中には4つほど卵が入っていた。

「? どうしたんだ?もう卵は持ってるみてぇだが…」

「おにいちゃんたちの分まで取っちゃって……」

「あー……そういや、ガガ達はカイジャに行ってるもんな…」

「うん……」

「………よし!ティナちゃん。今日の朝ごはんは俺と一緒に食べようか!………いや、せっかくのだから村のみんなでワイワイ食べるのもいいな」

「あっ!そうだね!!」

ナオエの提案にティナは嬉しそうに頷く。

ナオエが『休日』と言ったが、村で生活する上で基本的には『休み』などは存在しない。だが、それを良しとしないハインの提案で、週に一回休みを設けたのであった。

ハインの提案に村人達は最初反対した。1日仕事をしないという事は村の生活が苦しくなるという事を思ったからだ。だが、ハインは『そんな毎日世話しなくても大丈夫な作物を育ててるし、 体を休めるってのは大事なんだよ!』と村人達を説得していた。しかし、それだけでは納得出来ない村人達にハインはある言葉を伝えた。

『もし、新しく住む人達が移住してきたら垣根を感じるかもしれない。そういった人達に村のルールや交流を深める時間に当てよう。……ダダ村は助け合って生活していくのが好きでしょ?』

ハインの提案には先の事が含まれていた。その提案にいち早く反応したのはナオエであり、『ハインちゃんの言う通りだ。ダダ村はこれから人が増えるはず。仲が悪いと思われたら移住は増えねーぞ?』と村人達を納得させた。

事実、新村長となったガガは移住者獲得の為努力をしている。そして、今の村の生産状況は『圧倒的な人手不足』に陥っている。食糧は今の村人の人数に対して過剰であり、このままであれば腐らす事になってしまう。その状況を理解してか、村人達は『……だな。だったら、練習だと思って休日ってのをやってみるか』と受け入れたのだった。

……まぁ、最後まで納得しない村人には『…将来の村長の嫁の言う事は聞いてた方がいいぜ?』というナオエの言葉に笑顔で返していたが…。

「じゃあ、皆が起きてくるまで朝食の準備をしとくか」

「うん!」

ナオエはティナを連れ、村の中央にテーブルと調理器具を準備する。村中央の広場は『貯蔵庫』の前にあり、各家庭が朝食を準備する際、必ず通る場所だ。ナオエ達が準備をしていると女性達が家から出てきて、ナオエの提案を聞かされていた。

「あらー!それは良いわね!」

「だろ?これがハインちゃんが言ってた『素敵な休日の過ごし方』だと俺は思うんだが…」

「確かにそう言われればそうね。それに、皆で作れば負担も大きくないし……早速声を掛けてくるわ!」

「よろしく頼むよ。俺達は食材を準備しとくよ」

「はぁーい!……あ、ちゃんと怪しい物から持ってくるんだよ!」

「分かってるって。腐らすのなんて以ての外だからな」

他の住人の説明を女性に任せ、ナオエとティナは貯蔵庫へ向かう。貯蔵庫には大きなカゴが置いてあり、ティナと手分けして腐りそうな作物をカゴへと入れていく。

「ウェッ……おじちゃん…これくちゃーい!」

「…腐っちまったか……。ティナちゃん、それは畑の肥料にするから外に出しててくれ」

「……ふぁーい!」

時期的に少し暑くなってきた為か、食材が腐り易くなってきた。『飯を食ったら貯蔵庫の整理整頓を皆でするか』とナオエは考えながら腐る手前の食材をドンドン入れていく。

「おじちゃーん!みんな起きてきたよー!」

「へぇーい!……ティナちゃん、悪りぃーんだが何人か連れてきてくれ。俺とティナちゃんだけじゃ運びきれん」

「わかったぁー!」

元気よく返事をしたティナは広場へと向かい、女性を3名ほど連れてくる。

「あらあらあらあら。こんなに腐りかけてるの?」

「ああ……。飯を食ったら貯蔵庫を綺麗にしねーとヤバイな。ティナちゃんが腐った食材を見つけたよ」

「ゲゲーッ!!じゃあもう腐ってるモノがあるんじゃないのさ!パラパ、アンタんとこの旦那も連れてきてよ!」

「ウチの亭主はまだグッスリ寝てるよ…。まぁ、ご飯の時には起きてくるからその時に言うよ」

「……あ、そっか。昨日は畑の見張りだったもんね」

ガガが一度カイジャから戻ってきた時、農機具と武器、魔法陣をいくつか持って帰ってきた。それらは畑の周りに置くであり、バドワールが魔物の被害を警戒しての事だった。薬草畑の周囲は厳重に罠が仕掛けられ、他の畑にも魔法陣を埋め込んでいる。だが、魔法陣の数は圧倒的に足りず、毎晩村の男達が交代制で作物の見張りをしていた。

「村の周りに柵を作れれば良いんだけど……お金も掛かるし、人手も足りないからねぇ…」

「まぁそういうなパラパ。いずれは解消する悩みだ」

「ガガが頑張ってくれてるもんね……。ああーーーっ!早く移住者が来ないかしらぁー!!」

パラパと呼ばれた女性が大袈裟な演技をすると、周囲は笑いに包まれる。ひと笑いした後、ナオエ達は食材を精査しながら、カゴへと入れていく。

「あれまぁ!……こんなに腐りかけがあるだなんて……」

「…思ってたよりも多いな」

大きなカゴ3つ分ほどに腐る手前の食材が入っていた。

「……こりゃ早急に対策しなくちゃな…」

「食材の調理も大変だよ………。パラパ、お昼の分まで作っちゃおうか」

「そうね……。この量だと朝食には多過ぎるわね…」

「料理の事はパラパ達に任せる。朝食を済ませたら男どもで貯蔵庫の整理整頓をするよ」

「お願いするわナオエ。たんまりお昼ご飯作るから、精一杯働いてくんな」

「あたしも何かお手伝いするー!!」

「あんらぁー!…じゃあティナちゃんはオバちゃん達とご飯の準備をしましょうねぇー!」

「はぁーい!!」

朝食後の予定も決まり、ナオエ達は広場へと戻る。村人達の大半が広場には集まっており、テーブルや椅子を準備していた。女性達は調理の準備を始め、男性達はナオエが集合をかけ、貯蔵庫の整理整頓について話をする。

「……じゃあ、一回森に入ってツルや枝を集めてこねぇとな。山盛りにしてるから腐るのが早いんじゃねぇか?」

「つーことは棚を作るって訳か……。だがよ、おれぁー思うんだがもう一つ小さな小屋を作っても良いんじゃねぇか?」

「? どういう事だ?ダイン」

「いやよ…葉物と別々に分けた方が良くないか?葉物方が早く足が来るしよ…」

「……ダイン、オメーが言ってることは、別々の貯蔵庫を作るって事か?」

「いや、そんな簡単に作れるもんじゃねぇだろ。…ただ、風通しが良い小さな小屋みたいなのを立てようと思ってさ」

「……絵が浮かばねぇな。どんなんだい?」

「オレも昔、商人から聞いたやつだけどよ……」

ダインと呼ばれた男が落ちている枝を取り、地面へと自分が想像している小屋の絵を描く。

「こんな感じなんだが………これだったら、一々貯蔵庫に入んなくても取りやすいと思ってな」

「………なんだこれ?ナオエ、お前コレ分かるか?」

村人達はダインが描いた絵を見るが、自分の知らない形をしていた。物知りであるナオエなら知っているのでは…と思い村人が尋ねる。

「………こりゃあ、シュピー共和国にある『販売所』だな…」

「あ、そうそう!さすがナオエだな!確か商人がそんな事言ってた!」

ダインが描いた絵は、前世でいう『無人販売所』の様なものであった。それは木を打ち付け箱型にするだけで、外に置いておける優れものであった。通気性も良く、基本的に影ができる為日光を浴びたり、熱がこもったりすることは無い。

「これなら簡単に作れるし、誰かが貯蔵庫に入って腐りそうなもの見つけたらコレに乗せておけば随分楽になるだろ?」

「……確かに。貯蔵庫に棚を作って、収穫した順に並べていけば、日にちが経った食材は分かりやすくなるな…」

「けどよぉ、コレどんくらいの大きさなんだ?あんまりデカイと置く場所がねぇぜ?」

「……俺の知っている大きさはそこまでデカくない。大体……子どものジャイアントボアの大きさぐらいか?」

「……意外と小さいな」

「あんまりデカイと作るのが大変だろ?…それに、ダインが言ったヤツは別の使い道があるかも知れねぇし、ちょうど良いんじゃねぇかな?」

「……んなら、コレをいくつぐらい作るか?オレら男だけでやるとすれば………5は出来るんじゃねぇか?」

「……とりあえず2個作って試してみよう。使い勝手が良ければ数を増やす……それで良くないか?」

「………だな。ナオエの言う通りだ。ナオエは見たそぶりがあったが……ダイン、オメーさんは見たことあるのか??」

「…すまねぇ。聞いたことしかねぇよ…」

「んだよ!!……じゃあナオエ、すまねぇけどオメーさんが1つ作ってくれねぇか?オレらはそれ見て覚えるからよ」

「…分かった。んじゃ飯食ったら外に出るからな」

「「「あいよ!!!」」」

「おーい!!アンタ達!運ぶの手伝っておくれよぉー!!」

パラパの声が聞こえ、男達は配膳の手伝いをしに行く。誰がどこに座ると言うのは決まってないが、基本的にまとまって食べるようになっていた。中でもティナの隣は人気で、女性も男性もティナが何処に座るのかを観察していた。

「んー…………あたしはここー!!」

ティナは先に座っていたナオエの隣に座る。すると反対側にはパラパ、向かい側にはダインが素早く着席した。

「……お前らまだそんな事してんのか?」

「うるせぇ!ティナちゃんと一緒に食べると尚更飯が美味いんだよ!」

「そうよそうよ!ティナちゃんはダダ村のお姫様なのよ!!」

「お姫様って…………。まぁ気持ちは分からんでもないが…」

パラパの言葉にナオエはほんのちょっとする。しかし、2人…いや、村人達がティナを可愛がっている事は事実。それはまさに姫であるかの様な振る舞いを見せていたのだ。

しかし、ティナは当然そんな事に気付いていない。ティナからすれば全員がであり、全員の事が大好きだった。

「おじちゃん!このスープあたしが手伝ったんだよー!」

「おお、そうかい……。…………んんっ!!こりゃあスゲェ美味い!!」

「もう!!おじちゃん口が悪いよ!!『スゲェ』じゃなくて、『凄い』でしょ!」

「すまんすまん!……ティナちゃん、コレ凄い美味いぞ!」

「えへへっ……」

「テ、ティナちゃんは将来料理が上手な奥さんになるなぁ!」

「おくさんかぁー!………あたしはアルスおにいちゃんのお嫁さんになるんだー!」

「……………アルス?」

「うん!!ガガおにいちゃんのおともだち!」

「そ、そんなぁ……。おじちゃんと結婚してくれないのか……」

「ダイン……。お前まさかティナちゃんを狙ってるのか?」

騒がしくも楽しい朝食の時間が過ぎて行く。ダインはティナが作ったというスープを何度もお代わりをし、パラパに怒られていた。席が離れていても、村人達は誰彼構わずに大声でその人物を呼び、距離のある会話をしていた。その都度女性陣から『うるさい!』と怒鳴られていた。

朝食が終わり、女性陣に後片付けを頼みナオエは男性陣を招集する。

「それじゃ今から森に行くが……全員で行くと村の守りが手薄になる。何名か残ってて欲しいんだが……」

「ウップ………。ナオエ…ちょっと食べ過ぎたみてぇで………オレ村に残ってても良いか?」

「………だから食べ過ぎだってパラパに怒られてただろ?……ったく。それじゃダインは残るとして……」

「んじゃ俺も残るよ」
「あ、オメーが残るなら俺も残るぜ」

「……じゃあ、3人に村の守りを任せる。そんなに時間はかからねぇが……」

「大丈夫だってナオエ。ダインは使えねぇけど、俺らなら大丈夫」

「ガガが買ってきた武器もあるしな!」

「ウップ……。そ、それに攻撃用の魔法陣もあるからよ……」

「…じゃあ何かあったら『例のアレ』を鳴らしてくれ。直ぐに戻ってくる」

「あいよ。…作る時は参加するからな」

村の警備をダイン達に任せ、ナオエ達は森へと向かう。男達は手斧とカゴを持ち、魔物と遭遇しない様充分に警戒しながら森の中へと進んでいくのであった。
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