転生チートで夢生活

にがよもぎ

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第5章 王宮学園 -後期-

第162話 -波乱の前触れ 2-

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キルリア国の下方にある森の中にて。アーサーを先頭にし、俺とクロノス達3人は横に広がりながらアーサーの行動を見守っていた。

「……アルス…様と呼んでも良いのか?」

森の中を歩いているとアーサーの召喚獣、サタナキアから話しかけられた。

「アルスで良いよ。俺は偉くとも何とも無いから。……あ、あと、堅苦しい口調はしないでね。俺もこんな感じで話しかけるから」

「……………」

サタナキアはチラリとクロノスを窺う。

「アルスがそう言っているのなら良いのではないか?我にも気さくに話しかけても良いのだぞ?」

「そんなことしたらサタン様に叱られてしまいますよ…」

「別に世界が違うのだから良いと思うがな?……まぁアヤツは悪魔の癖に妙に礼儀正しいからな…」

(だから悪魔が礼儀正しいとかやめろって!悪魔のイメージが崩れるだろ!)

もうね、ファンタジーなんだけどファンタジーじゃない感じがして、ちょっと頭が痛くなってきた。

「ではアルスよ。私からの質問なのだが、アルスは私の契約者の実力を疑っているのか?」

サタナキアが少し声を落としながら問い掛ける。

「疑ってないよ。ただ現段階でどこまで強いのかを知りたい。俺が教えた技も出来るようになってるか気になるからね」

「確か…『はやぶさぎり』だったか?出来ているはずだが……」

「実戦で使えるかどうかの話。まぁ偉そうな事を言える立場じゃないけど、使えなかったら無駄だからね」

「アルスもそこまで戦闘経験は無いものな」

「まぁね……。まぁ余裕で戦えるとは思うけど、普通に考えたら怖いもん」

「アルスよ。死はそこまで怖いものでは無いぞ?」

「……まぁ一度は死んだから分かるけどさ。やっぱり怖いもんは怖いんだよ。よく戦えるよなー、冒険者って」

「……私には理解出来そうにないな。恐怖を乗り越えてこそ戦士では無いのか?」

「言っとくけど、俺はそんな厳しい世界で生きた事は無いから。金さえあれば生きていける裕福な生き方をしてたんだよ」

「…………金が無かったらどうするのだ?」

「そりゃ働けば良いんだよ。それか親のすねをかじるか」

「……情け無い。そんな戦士がアルスの世界には居たと言うのか?」

「居たっちゃー居たと思う。けど全員が全員じゃないからな?極一部ってだけだぞ?……あと戦士じゃないから」

そんな会話をしていると先頭にいるアーサーの動きが止まる。

「……先生。魔物の気配を感じます」

「何匹いるか分かるか?」

「…………………3匹ですかね」

(ふぅん………。ということはアーサーが探知出来るのは大体このくらいの範囲って事か)

アーサーの動きが止まった直後に脳内地図を展開し、周囲の魔物を探した。今は囲まれては居ないが、前方に3匹。左右に2匹ずつ居るのが分かった。左右はこちらに気付いておらず、あさっての方向へ進んでいるが、前方の魔物はこちらへと向かっていた。

「……どうしますか?」

「うーん……どうしますかって聞かれても倒すしか無いだろ?」

「わかりました」

「ちょうどその3匹がこっちに向かってるから奇襲して倒せ。出来るだけ迅速に、尚且つ目立たないように」

「目立たないように?……何でですか?」

「ロニキスさん達から習わなかったのか?囲まれるからに決まってるだろ?」

「……んじゃぁ、隠密にってことすか?」

「そうだよ。……ま、危なくなったら助けに入るからちょっとやってみろよ」

アーサーにそう伝えると、クロノス達に喋りかける。

「クロノス、アーサーの事見ておいてくれるか?」

「何故我が?アルスがすれば良いのでは?」

「俺だとすぐ助けちゃいそうだからさ」

「ならサタナキアにさせれば良い。……出来るか?サタナキアよ」

「勿論ですとも。普段通り見守れば良い…という事ですね?」

「……ああ、そっか。アーサーと契約してるもんな。…なら任せても良い?」

「任せろ。私は戦闘に関しては厳しいと自負しておるからな。鍛えてこよう」

「よろしく。……ならクロノスは俺と待機ね」

サタナキアがアーサーの後に続き、俺とクロノスはその場で待機しておく。ただ立っておくのも無駄なので、周囲の警戒範囲を広げ、どこに巣があるのかを探す。

「ギギィッ!!」

調べていると前方から鳴き声が聞こえた。そして金属音が聞こえ、草木が折れる音も聞こえてきた。しかし、鳴き声はそれ以降聞こえず、前方から血一つ付いてないアーサーが戻ってきた。

「早かったな」

「背後から攻撃したので。あと沈黙サイレントも使ったんで」

「頭いいな。……で?内容的にはどうだった?」

「そこまで強く無かったですね。……つか、先生が見ててくれるんじゃ無いんですか?」

「俺より適任が居たからね。俺は巣を駆除する時に見る事にするよ」

「アーサー。魔法と併用するのは良いが、木の葉を踏む音まで最新の注意を払わなければダメだぞ。沈黙サイレントを使用するのであれば、自分自身にも使え」

俺達の元に辿り着くと、サタナキアがアーサーへとアドバイスをする。厳しいと言ってた割には、分かりやすい説明でとても丁寧だ。

「んな事したら魔法が使えなくなるだろ?」

「アルスから教わっただろう?部分的に沈黙サイレントを使用すれば魔法は詠唱出来る。まぁこの辺り一帯に使用すれば別に良いのだがな」

「……それは無理だって。消費が多過ぎる」

「奇襲とは必ず成功させなければならない。失敗は死ぬ事と一緒だぞ?……まぁ出来るように稽古を積んでいくんだな」

「……だったらサタナキアの魔法を使わせてくれよ」

「ん?何の話だ?」

「アルス先生が言ってたぞ?契約した召喚獣の魔法を使えるようになったって」

「?! あぁ……うん……えーと……その………まぁあれだ。アーサーにはまだ器が準備されてないという事だ。稽古次第では私の魔法も出来るようになるさ」

「ちぇっ………オレも転移とか使ってみたいなー」

サタナキアに一瞬睨まれたが、ジェスチャーだけで謝っておいた。それを見たクロノスが鼻で笑うと、小声で耳打ちをする。

「……変な嘘をつくとサタナキアに怒られるぞ?」

「……すまんとは思ってる」

まぁしょうがないさ。クロノスっていう良い言い訳が出来たんだもん。俺がすることなす事はクロノスの力だって言っておけば大体は納得するでしょ。

「部位の剥ぎ取りは終わらせた?」

先ほどの戦闘についてサタナキアと話し込んでいるアーサーへと話しかける。

「終わらせましたよ。先に進みますか?」

「じゃあ、ちょっと右側に移動しよっか」

「? 何でですか?」

「右側にも魔物がいるんだよ。そいつらの後をつけよう」

「……分かりました」

再びアーサーを先頭にし俺の指示で森の中を歩く。巣の場所は脳内地図のお陰で分かっているのだが、敢えて遠回りをした。今のは奇襲をさせたのだが、今度は対峙した時にどう対処するかを確認しようと思ったからだ。それに周囲の魔物を片付けていた方が、巣を駆除している時に横槍が入らないからね。シンボルエンカウントはコレが出来るから良いよね。無限にポップするわけでも無いし……。ゲームの様な現実ってのはとっても楽だ。

俺の考え通り、巣の周囲を散策するとリザードマン達と遭遇する。だがアーサーは複数相手でも難なく討伐し、時間も掛けることは無かった。それらを見ての感想は『コイツマジでえげつねぇ…』というものだった。何でかって言うと、アーサーは魔物の気配を察知するとすぐさま襲いかかり、首を刎ねる事を優先していたからだ。それが失敗しても足を切断したり、胴体を真っ二つにしたりと一撃を狙っていた。お陰でリザードマン達は俺達に気付いた時にはこの世からオサラバしているか、苦痛を一瞬味わってオサラバするかの二択であった。

「あー………ヤベ。刃が欠けちった……」

リザードマンの首を刎ねた後、アーサーがポツリと呟く。

「どうした?」

「…当てどころが悪かったのかちょっと刃が欠けちゃいました…」

「手入れは大事だと言っていただろう?」

「出発前にもしたよ。……けど寿命だったんかなぁ?」

見た所そこまで欠けては無いと思うのだが、それは素人目線での話だ。戦士としてはアーサーの方が数段も上なので、素人目には分からない何かがあるのだろう。

「予備武器は持ってきてねーの?」

「今日は忘れちゃって……。まさか壊れるとは思わなかったんで…」

「その為の予備なのだが……」

サタナキアが呆れた顔をして、アーサーに説教をしようとする。

「んじゃ俺の剣を貸すよ」

「え?でも……」

「大丈夫大丈夫。俺武器なら何本でも準備してるから。それに、これはアーサーのテストみたいなもんだからな。最後までやって欲しいし」

そう言ってから皮袋に手を入れ剣を掴む。そしてそれを取り出そうとした時、動きが止まる。

(………そういやアーサーは武器が欲しいとか言ってたな。依頼で貯めた金で買うとか言ってたけど………丁度良い機会だし、良いもんを渡すか。プレゼントって事にすれば良いんじゃね?)

掴んでいた『はがねのつるぎ』を手放し、もう一度皮袋の中をゴソゴソと漁る。そして目的のモノを掴むと中から引っ張り上げる。

「アーサー。この剣を貸そうと思ってたんだけど……譲るよ」

「えっ?」

「いや、アーサーが『剣を買う』とか言ってたのを思い出したからさ。丁度良い機会だし、アーサーの初の依頼を受けた時の記念としてプレゼントしようかなって」

「……いやいやいや!そんなの良いですよ!自分で買いますって!」

「いーからいーから。俺も沢山武器持ってても使うことがねーんだよ。だったら使ってくれる人にあげた方が剣も嬉しいだろ?」

「………そう…なんすかね?」

「……まぁとりあえず使ってみろよ。気に入ったらあげるし、違和感感じたら新しいの買いな」

そう言ってアーサーへと剣を渡す。

「え………なんすかこの剣……」

「これ?これは俺のオススメのルビ……えーと……『女神のつるぎ』だ。どう?格好いいだろ?」

そう言って某ゲームの剣を手渡す。女神の名前を冠しているので、装飾はとても煌びやかだ。だが、性能は最高。ヴァルの所為で特殊能力は使えないが、斬れ味ならば文句無しだ。特にってのが唆られるよね。やったことがある人は分かるだろうけど。

「……………………」

アーサーが『女神のつるぎ』を手に取り、数度空を斬る。クロノスやサタナキアも興味津々な様子でアーサーを見ていた。

「………なんすかコレ……。滅茶苦茶使い心地が良いんですけど………つーか、もう馴染んでる……」

「そう?なら良かった。気に入ったらあげるし、壊れても良いから思う存分使ってくれ」

まぁ壊れても創造すれば良いだけの話なんだけどね。特殊能力が使えないだけだし、威力だけならそこら辺のモノよりかは上だしね。

「いやいやいやいやいやいやいや!!!やっぱり要らないですって!!」

アーサーが慌てて剣を俺へと渡そうとする。

「え?気に入らなかった?」

「気にいるとかの問題じゃないですって!!……これホイホイあげれるような品物じゃ無いですよ?」

「そうなの?」

「いや……普通にどこぞの国宝とかじゃないんですか?つか、先生どーしてこんなの持ってるんですか……」

(あ、ヤベ…)

俺としては良い武器をあげようと思っただけなのだが、その後の事を全く考えてなかった。しかもなんか国宝とか言い出すし……いつもの『俺の村での名工が』が使えないぞ……。

必死にそれっぽい言い訳を考えているとクロノスが口を開いた。

「アーサーよ。それは我の力が少し注がれている剣だ。アルス以外がどう扱えるのかを見てみたいので、使ってみてはくれまいか?」

(ナイスだクロノス!!)

「へ?……クロノスが力を注いだ…?」

「ああ。だからその様なオーラを感じるのだろうよ。だが、それは元々ただの安い剣なのだよ」

「……なるほど。クロノスはそんなことも出来るんだ……」

「実験的な意味合いだがな?量産するつもりも無いので、感想を聞かせて欲しい」

「……分かった。ならこの依頼の間は使わせてもらうよ」

クロノスの機転のお陰で無事何事も無くその場を切り抜けられた。……『念話』で同時に怒られたのは秘密だけど。

「そ、それじゃ巣に向かうとするか!周囲の魔物は片付いたからね」

「え?…先生巣の場所分かるんですか?」

「探知の範囲が広いからな。最初から知ってたよ」

「なら最初から向かえば……」

「それは違うぞアーサー。周囲の敵を殲滅するという事はだな----

サタナキアが俺の意図をアーサーに説明してくれる。その説明はもっと分かりやすいもので、教師に向いてるんじゃねーのかな?と思ったほどだった。

「……なるほど。そういう戦い方もあるのか…」

「一つ勉強になったな。戦術は持てるだけ持っていた方が良い。無論、臨機応変な対応を求められるので、戦略も必要だがな」

「……難しいな戦いって」

そんな当たり前の事を呟きながら、俺達はリザードマンの巣へと向かうのであった。
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