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第6章 王都動乱編
第207話 -やっと俺のターン 4-
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♢♦︎♢♦︎♢♦︎
「『あい君』、その反応はどこから?」
(前方にある巨石の下から反応があります。反応は2つです)
「…あそこね!ウラァッ!!邪魔じゃボケェ!!」
防壁から飛び降りた俺は魔物達を斬り伏せながら進む。ミリィと来た時と違い、魔物達は俺に襲いかかってくる。しかし、戦力差がありすぎるため俺には傷一つ付かずただただ死骸が増えていくだけであった。
巨石へと斬り伏せながら進んで行くと、魔物の質が変わった。どう変わったかと言われると、筋肉質な魔物が文字通り壁となっていたからだ。
「はいはいちょっと退いてくださいな」
風魔法を付与した剣で横一線に斬りかかる。筋肉質な魔物は一瞬で下半身とお別れをし絶命する。
「グググググ………ドウヤラ手ダレノ---
「『聖なる剛射』」
肉塊となった魔物の後ろにある大岩へと魔法を放つ。聖なる矢が大岩へと10本以上降り注ぐ。
「『コア・トリクエ』」
「ん?」
魔法を放った瞬間に何やら声が聞こえた。そこに注視すると聖なる矢が着弾する前に掻き消えるのが目に入った。
「……なんだ今の?」
(…わかりませんが、魔法が消えたという事は無効化の魔法かも知れません)
「なるほどね。……じゃあさっきの奴かもな」
(おそらく)
「適当な魔法を唱えたけどそれを防ぐって事は………そこそこ強い奴かもな。となると……」
剣を再び握りその場で回転し、斬撃を飛ばす。周囲に居た魔物達が邪魔になると思った俺はある程度のスペースを確保する為に放ったのだ。
「『コ・アトリクエ』」
魔物達の断末魔と共に再び同じ詠唱が聞こえた。すると大岩の後ろ側は全くの無傷であり、『あい君』の言った通り無効化の魔法かも知れない。………しかし。
(…つーことは魔法も剣技も無効化出来るって事だな。結構強いのかもしんないな)
俺だってゲームをやりこんでいたから、今の情報だけで対策は練れる。あとは相手の実力がどれほどかを調べれば完璧だな。
「………そこに隠れてる奴出て来いよ」
大岩へと声をかけるが反応は無い。目に魔力を込め、同時に『鑑定』を使い警戒する。もし、敵が透明化などの魔法を使用していた場合を踏まえてだ。
「『エエ・カトル』」
「---障壁!」
不明な詠唱が聞こえたので瞬時に物理と魔法防御の障壁を展開する。すると『バチンッ』という音が聞こえ障壁の耐久値が少し削れたのが分かった。
「……ホウ?今ノ魔ヲ防グカ」
「良いからさっさと出て来いよ。こっちは時間ねーんだよ」
ドラマやアニメなどでこの様な演出が良くあるが、実際に体験すると面倒だなと思う。もし次何か言ってきたら無視しようっと。
「グググ………矮小ナ存在ノクセニ勇マシイナ」
「わいしょう?………何わいしょうって?股間---
(違います。ちっぽけなと言う意味です)
『あい君』から『わいしょう』の意味を教えてもらい、『……ああ、ちっぽけな存在って事ね!』と理解する。俺はてっきり息子の事を指摘されたのかと思ったよ。
一人納得していると、大岩から手が出て魔物が顔を覗かす。
「………ん??」
徐々に岩から顔が現れる。獣の様な顔で顔周辺にはフサフサと毛が生えている。しかし顔の大きさと地面との距離にもの凄い違和感を感じる。しかしもう片方の手が見え、顔の反対側に1本の細いのが顔を覗かせる。そしてゆっくりと全貌が見えた事で俺は何なのかを悟った。
「………合成獣?」
顔が大きく見えたのはこの魔物が四足歩行であったためだ。そして、手だと思ったモノは前足であり、後ろから生えているモノは尻尾であった。その尻尾はクネクネと動いており、注視すると尻尾の先から何かチラチラと出ていた。
「我ノ名ハ『ヨロトル』。神ノシモベデアル」
「ッ?!!!」
魔物が名を名乗った後の言葉で俺の警戒は最大限に上がる。その警戒が功を制したのか、キマイラから飛来する何かを避ける事が出来た。
「……ホウ?今ノヲ避ケルカ…」
俺の背後から苦しそうな声が聞こえ、振り返ってみると魔物の体がドロっと溶けているのが目に入ると『あい君』が忠告する。
(おそらく酸、または溶解液の様なものかと)
「…つーことはあの尻尾からの攻撃かな?」
尻尾をよくよく見てみると蛇のカラダをしており、俺を見ながらクネクネと動いていた。
「…キマイラとか名前は良く知ってるけど、何が正解なのかは分からねぇな…」
俺の知っているキマイラとは顔がライオンで尻尾が蛇というモノだった。だから目の前の敵を見てそう思っただけだ。
「……あれ?『あい君』、岩陰の反応って2つだったよね?」
(はい。……目の前の敵から反応が2つあります)
「という事は……ライオンみたいな顔と尻尾は別々の動きをするって事だな」
前後で反応出来るという事は厄介な相手と言える。脳味噌が2つあるという事だからね。1つしか無ければ倒しやすいと思うけど、簡単にはいかないな。
「しかし……神のシモベねぇ……?」
神と言うのであれば強敵だと言える。そこら辺にいる雑魚とは差があり過ぎるだろう。攻撃力や防御力も高いだろうし、強化は必須だな。
「貴様ノ名ハ?」
ヨロトルと名乗ったキマイラが俺に名前を尋ねてくる。
「アルスだ」
「……アァ、貴様ガアルスカ。貴様ノコトハ聞イテオルゾ」
「…誰からだい?その神って奴かい?」
「サァナ?今カラ死ヌ者ニ言ッテモ意味ハ無イダロウ?」
「死ぬ相手だったら尚更言ってもいいんじゃねーかと思うけど……まぁいいや。とりあえずお前を弱らしてから聞き出せば良いもんな」
「グハハッ!中々ニ面白イ事ヲ言ウデハ無イカ!」
キマイラはそう言い終えるといきなり口から炎を吐き出してきた。
「あぶねっ!!!」
炎を跳躍して避けるとキマイラは更に炎を吐き出してくる。宙に浮かんだままの俺はそのまま剣で炎を薙ぎ払う。
「ムッ?」
吐き出した炎が横に外れたのを理解したキマイラは蛇の口から先程の溶ける液体をシュッシュッと放ってくる。だが、強化をしている俺にとっては遅く映り、剣で左右へと受け流す。恐らく当たったであろう魔物の呻き声が聞こえるが、そんな事は知っちゃ事じゃない。
(マスター。小手調べも十分ですので急ぎましょう)
「そうだね!」
「グハハッ!今ノヲ防グトハ!流石---
「ケモノ斬り!!」
キマイラ相手に一瞬で距離を詰めて剣技を放つ。油断していたのかキマイラは慌てて剣技を回避するが剣先がキマイラの耳を削いだ。
「グゥッ!!」
「チッ。避けられたか」
もう一度距離を詰め今度は横に剣を振るが、尻尾の蛇がソレを許さず溶解液を飛ばしてきた。回避するのも無駄だと思い溶解液を蛇へと弾き返す。しかし、クネクネと動く蛇には当たる事は無かった。
「…一度受けるってのもありだな」
(危険だと思われますが)
正直過信している部分もある。チート能力を持っているのであればダメージは入らないはず。しかし、敵の攻撃を避けたり受け切ったりするのも面倒なのが本音だ。
「強化は最大限にしておく。それなら大丈夫だろ」
無詠唱で最大限まで強化し武器も交換する。持っていた武器ーーおうじゃの剣--を離し新たに剣を創造する。
「……今ノハ?」
キマイラが問うてきたが答える義理は無い。新たに創造した剣を握り尻尾を切断しようとする。しかし、それをキマイラも黙ったまま受け入れる筈なく、何かを詠唱した。
「『ハプー・ナナトゥン』」
尻尾の蛇が巨大化し三股に変形する。三ツ頭に増えたので狙いが狂い本体側の蛇の頭を刎ねる。『もう一つ』とそのまま振り抜こうとした時、獅子側から炎が飛んでくる。その炎はブワッとした広がる物では無く、直線的に吐き出されるもので視界が炎で埋め尽くされる。しかし、その炎如きではダメージが入る事はなくそのまま剣を振り下ろすが、剣は地面へと当たる感触がした。
「---グハッ!?」
横から衝撃を受けタタラを踏む。炎が消えた事で視界はクリアになり状況が掴めた。どうやらキマイラは炎で隠した瞬間に尻を引き、突進をしていたようだ。タタラを踏んだ俺にまた距離を詰め大きな口で噛みつこうとしてくる。流石に立派な牙を見ると恐怖心が出るので回避を選択する。だが、前足を器用に使い俺が避けた方向に引っ掻き攻撃をしてくる。結局大幅に回避する事を迫られた俺は後方へと跳躍する。そしてすぐさま自分の状態を調べる。
(特に異常等はありません。ダメージも負っておりません)
「『あい君』的には受けきる事は可能だと思う?」
(…今の状態ですと大丈夫かと。テミス様ほどの実力であれば紙同然ですが)
「なら攻撃特化で良いな。…引き続き分析頼んでも良い?」
(喜んで)
細かな部分は『あい君』に丸投げし、キマイラへと魔法を飛ばす。鋭く尖らせた氷の氷柱がキマイラへと襲い掛かるがキマイラは炎でそれを打ち消そうとする。キマイラが炎を吐いた瞬間に思いっきり跳躍する。俺が跳躍した事に尻尾の蛇が反応し追撃する様に溶解液を放って来るが上昇速度が速い為当たる事は一切無い。
「『審判の十字架』」
宙で静止し、キマイラへと剣技を放つ。これは俺が創造した剣技でただの十字斬りだ。素早く剣で十字を斬ると剣の斬撃がキマイラへと恐るべき速度で襲い掛かる。
「『コア・トリクエ』」
キマイラも詠唱し防御を固める。ガチンッという音が聞こえると斬撃がキマイラへと着弾する。斬撃は地面へと大きく爪痕を残したが、キマイラのいる場所だけは爪痕が残って居なかった。となると、キマイラが使用した魔法は中々堅い守りなのだろう。
「このまま宙で待機しておくか…」
創造で『浮遊』という魔法を創り出す。俺の体はそのまま宙に浮かび続けとある魔法を詠唱してみようとする。だがその目論見は少し遅く、地面から大きく広がった炎が俺の視界を再び覆う。
「チッ!器用な事すんなぁ!」
恐らくこの炎には攻撃の意思は無い。どちらかと言うと自分を隠す為の煙幕的なモノだと思う。炎も俺までは届いてないしね。
「……………」
チラリと宙で王城への距離を見る。あっちは護りを固めてるから今から使用する魔法でも損害は無いだろう。
「……やっちゃいますか」
俺は地面へと手を向けコレから放つ範囲をイメージする。……魔力量の管理が難しいが魔力が尽きる事は無い。しかし、全力でやったら間違い無くヤバいことになるのは安易に想像出来る。
「……『あい君』。地形が変わると思う?」
(……マスターの記憶通りで有れば確実になるでしょう)
「……ま、もしそうなったらクロノスに頼む事にするわ」
クロノス本人が近くに居たらきっと憤慨しているだろう。しかし、アルスの中ではクロノスは神であり、ヴァルキューレと同等の存在であると思っている。そうであれば天地創造は簡単で有るとアルスは簡単に思って彼の名を出したのだった。
「…おっと。そんな事は後に回していいな…」
クロノスが拒んだとしてもテミスさんやサタナキア、食い物を使って操ればいいからね。それは追々やるとして先ずはこの場を終わらせる事が早急だな。
「……魔法名は言わない方が良いな」
足元に手を向け魔法をイメージする。その魔法は創造の物であり色などは無いが特徴を言うなれば魔力を暴走させるという事だろう。無詠唱ながらもイメージ通り手に魔力が集まるのを感じる。そして極力地形や王城に被害が出ないように配慮しながら魔力を地面へと放つ。
---その瞬間、キルリア国は白色の世界へと包み込まれた。…いや、包まれたと言うより覆われたと言った表現の方が良いだろう。そして間髪入れずに地鳴りが響き暴風が王城へと届く。ナイル達は目の前の白に目を閉じる事は無かったが、暴風によって目を瞑ってしまう。王城にはアルス自身によって護りの結界が張られているが、それを突き抜けたということだ。しかし、それは暴風のみで有り城壁が崩壊、或いは倒壊する事は一切無かった。
暴風が止み、ナイル達が再びアルスの方へと目を向け言葉を失う。目の前の光景を受け入れる事が出来ず、頬をつねったり叩く者も居た。
『夢では無いか』と思うのも無理は無い。ナイル達の目には大きな穴が地面に空いており、先程まで大地を黒色に染めていた魔物達の姿が一切無くなったからだ。魔物達を倒したのなら理解出来る。だが居なくなったと言うのは流石のナイル達も飲み込めなかった。普通ならば死骸や血が滲んでいるのを見れるはずなのに、目の前には穴が空いているだけだ。ナイルはこの状況を作り出したのはアルスだと直感的に思ったが、これほどまでの魔法は聞いたことも書物でも読んだ事は無い。
「……………アレは魔法の所為なのか?」
ナイルの呟きに誰一人答えれる者は居ない。他の兵士達もナイルと同じ事を思っていたが、その考えに自信を持つ事は出来なかった。………だが、ナイルは自分の疑問に自分で答えを見つけた。それはヒースクリスに忠義を捧げている彼ならではの納得の仕方であった。
「……なるほど。ヒースクリス様が仰っていた事は本当の様だな」
『アルスさんの邪魔はしない、口を出さないってのを守ってね?彼はこの計画のキモなんだから』
ヒースクリスが話していた内容が脳裏を過ぎる。アルスの事を重要だと言われていたが、ここまでの実力を持っているのであればキモと言われてもおかしくない。むしろ敵に回す方が恐ろしい。
「……しかし、あれ程の強者をどうやって味方につけたのだろうか」
ナイルの呟きは砂漠に吹く風に乗り、誰にも聞かれる事なく流されるのであった。
「『あい君』、その反応はどこから?」
(前方にある巨石の下から反応があります。反応は2つです)
「…あそこね!ウラァッ!!邪魔じゃボケェ!!」
防壁から飛び降りた俺は魔物達を斬り伏せながら進む。ミリィと来た時と違い、魔物達は俺に襲いかかってくる。しかし、戦力差がありすぎるため俺には傷一つ付かずただただ死骸が増えていくだけであった。
巨石へと斬り伏せながら進んで行くと、魔物の質が変わった。どう変わったかと言われると、筋肉質な魔物が文字通り壁となっていたからだ。
「はいはいちょっと退いてくださいな」
風魔法を付与した剣で横一線に斬りかかる。筋肉質な魔物は一瞬で下半身とお別れをし絶命する。
「グググググ………ドウヤラ手ダレノ---
「『聖なる剛射』」
肉塊となった魔物の後ろにある大岩へと魔法を放つ。聖なる矢が大岩へと10本以上降り注ぐ。
「『コア・トリクエ』」
「ん?」
魔法を放った瞬間に何やら声が聞こえた。そこに注視すると聖なる矢が着弾する前に掻き消えるのが目に入った。
「……なんだ今の?」
(…わかりませんが、魔法が消えたという事は無効化の魔法かも知れません)
「なるほどね。……じゃあさっきの奴かもな」
(おそらく)
「適当な魔法を唱えたけどそれを防ぐって事は………そこそこ強い奴かもな。となると……」
剣を再び握りその場で回転し、斬撃を飛ばす。周囲に居た魔物達が邪魔になると思った俺はある程度のスペースを確保する為に放ったのだ。
「『コ・アトリクエ』」
魔物達の断末魔と共に再び同じ詠唱が聞こえた。すると大岩の後ろ側は全くの無傷であり、『あい君』の言った通り無効化の魔法かも知れない。………しかし。
(…つーことは魔法も剣技も無効化出来るって事だな。結構強いのかもしんないな)
俺だってゲームをやりこんでいたから、今の情報だけで対策は練れる。あとは相手の実力がどれほどかを調べれば完璧だな。
「………そこに隠れてる奴出て来いよ」
大岩へと声をかけるが反応は無い。目に魔力を込め、同時に『鑑定』を使い警戒する。もし、敵が透明化などの魔法を使用していた場合を踏まえてだ。
「『エエ・カトル』」
「---障壁!」
不明な詠唱が聞こえたので瞬時に物理と魔法防御の障壁を展開する。すると『バチンッ』という音が聞こえ障壁の耐久値が少し削れたのが分かった。
「……ホウ?今ノ魔ヲ防グカ」
「良いからさっさと出て来いよ。こっちは時間ねーんだよ」
ドラマやアニメなどでこの様な演出が良くあるが、実際に体験すると面倒だなと思う。もし次何か言ってきたら無視しようっと。
「グググ………矮小ナ存在ノクセニ勇マシイナ」
「わいしょう?………何わいしょうって?股間---
(違います。ちっぽけなと言う意味です)
『あい君』から『わいしょう』の意味を教えてもらい、『……ああ、ちっぽけな存在って事ね!』と理解する。俺はてっきり息子の事を指摘されたのかと思ったよ。
一人納得していると、大岩から手が出て魔物が顔を覗かす。
「………ん??」
徐々に岩から顔が現れる。獣の様な顔で顔周辺にはフサフサと毛が生えている。しかし顔の大きさと地面との距離にもの凄い違和感を感じる。しかしもう片方の手が見え、顔の反対側に1本の細いのが顔を覗かせる。そしてゆっくりと全貌が見えた事で俺は何なのかを悟った。
「………合成獣?」
顔が大きく見えたのはこの魔物が四足歩行であったためだ。そして、手だと思ったモノは前足であり、後ろから生えているモノは尻尾であった。その尻尾はクネクネと動いており、注視すると尻尾の先から何かチラチラと出ていた。
「我ノ名ハ『ヨロトル』。神ノシモベデアル」
「ッ?!!!」
魔物が名を名乗った後の言葉で俺の警戒は最大限に上がる。その警戒が功を制したのか、キマイラから飛来する何かを避ける事が出来た。
「……ホウ?今ノヲ避ケルカ…」
俺の背後から苦しそうな声が聞こえ、振り返ってみると魔物の体がドロっと溶けているのが目に入ると『あい君』が忠告する。
(おそらく酸、または溶解液の様なものかと)
「…つーことはあの尻尾からの攻撃かな?」
尻尾をよくよく見てみると蛇のカラダをしており、俺を見ながらクネクネと動いていた。
「…キマイラとか名前は良く知ってるけど、何が正解なのかは分からねぇな…」
俺の知っているキマイラとは顔がライオンで尻尾が蛇というモノだった。だから目の前の敵を見てそう思っただけだ。
「……あれ?『あい君』、岩陰の反応って2つだったよね?」
(はい。……目の前の敵から反応が2つあります)
「という事は……ライオンみたいな顔と尻尾は別々の動きをするって事だな」
前後で反応出来るという事は厄介な相手と言える。脳味噌が2つあるという事だからね。1つしか無ければ倒しやすいと思うけど、簡単にはいかないな。
「しかし……神のシモベねぇ……?」
神と言うのであれば強敵だと言える。そこら辺にいる雑魚とは差があり過ぎるだろう。攻撃力や防御力も高いだろうし、強化は必須だな。
「貴様ノ名ハ?」
ヨロトルと名乗ったキマイラが俺に名前を尋ねてくる。
「アルスだ」
「……アァ、貴様ガアルスカ。貴様ノコトハ聞イテオルゾ」
「…誰からだい?その神って奴かい?」
「サァナ?今カラ死ヌ者ニ言ッテモ意味ハ無イダロウ?」
「死ぬ相手だったら尚更言ってもいいんじゃねーかと思うけど……まぁいいや。とりあえずお前を弱らしてから聞き出せば良いもんな」
「グハハッ!中々ニ面白イ事ヲ言ウデハ無イカ!」
キマイラはそう言い終えるといきなり口から炎を吐き出してきた。
「あぶねっ!!!」
炎を跳躍して避けるとキマイラは更に炎を吐き出してくる。宙に浮かんだままの俺はそのまま剣で炎を薙ぎ払う。
「ムッ?」
吐き出した炎が横に外れたのを理解したキマイラは蛇の口から先程の溶ける液体をシュッシュッと放ってくる。だが、強化をしている俺にとっては遅く映り、剣で左右へと受け流す。恐らく当たったであろう魔物の呻き声が聞こえるが、そんな事は知っちゃ事じゃない。
(マスター。小手調べも十分ですので急ぎましょう)
「そうだね!」
「グハハッ!今ノヲ防グトハ!流石---
「ケモノ斬り!!」
キマイラ相手に一瞬で距離を詰めて剣技を放つ。油断していたのかキマイラは慌てて剣技を回避するが剣先がキマイラの耳を削いだ。
「グゥッ!!」
「チッ。避けられたか」
もう一度距離を詰め今度は横に剣を振るが、尻尾の蛇がソレを許さず溶解液を飛ばしてきた。回避するのも無駄だと思い溶解液を蛇へと弾き返す。しかし、クネクネと動く蛇には当たる事は無かった。
「…一度受けるってのもありだな」
(危険だと思われますが)
正直過信している部分もある。チート能力を持っているのであればダメージは入らないはず。しかし、敵の攻撃を避けたり受け切ったりするのも面倒なのが本音だ。
「強化は最大限にしておく。それなら大丈夫だろ」
無詠唱で最大限まで強化し武器も交換する。持っていた武器ーーおうじゃの剣--を離し新たに剣を創造する。
「……今ノハ?」
キマイラが問うてきたが答える義理は無い。新たに創造した剣を握り尻尾を切断しようとする。しかし、それをキマイラも黙ったまま受け入れる筈なく、何かを詠唱した。
「『ハプー・ナナトゥン』」
尻尾の蛇が巨大化し三股に変形する。三ツ頭に増えたので狙いが狂い本体側の蛇の頭を刎ねる。『もう一つ』とそのまま振り抜こうとした時、獅子側から炎が飛んでくる。その炎はブワッとした広がる物では無く、直線的に吐き出されるもので視界が炎で埋め尽くされる。しかし、その炎如きではダメージが入る事はなくそのまま剣を振り下ろすが、剣は地面へと当たる感触がした。
「---グハッ!?」
横から衝撃を受けタタラを踏む。炎が消えた事で視界はクリアになり状況が掴めた。どうやらキマイラは炎で隠した瞬間に尻を引き、突進をしていたようだ。タタラを踏んだ俺にまた距離を詰め大きな口で噛みつこうとしてくる。流石に立派な牙を見ると恐怖心が出るので回避を選択する。だが、前足を器用に使い俺が避けた方向に引っ掻き攻撃をしてくる。結局大幅に回避する事を迫られた俺は後方へと跳躍する。そしてすぐさま自分の状態を調べる。
(特に異常等はありません。ダメージも負っておりません)
「『あい君』的には受けきる事は可能だと思う?」
(…今の状態ですと大丈夫かと。テミス様ほどの実力であれば紙同然ですが)
「なら攻撃特化で良いな。…引き続き分析頼んでも良い?」
(喜んで)
細かな部分は『あい君』に丸投げし、キマイラへと魔法を飛ばす。鋭く尖らせた氷の氷柱がキマイラへと襲い掛かるがキマイラは炎でそれを打ち消そうとする。キマイラが炎を吐いた瞬間に思いっきり跳躍する。俺が跳躍した事に尻尾の蛇が反応し追撃する様に溶解液を放って来るが上昇速度が速い為当たる事は一切無い。
「『審判の十字架』」
宙で静止し、キマイラへと剣技を放つ。これは俺が創造した剣技でただの十字斬りだ。素早く剣で十字を斬ると剣の斬撃がキマイラへと恐るべき速度で襲い掛かる。
「『コア・トリクエ』」
キマイラも詠唱し防御を固める。ガチンッという音が聞こえると斬撃がキマイラへと着弾する。斬撃は地面へと大きく爪痕を残したが、キマイラのいる場所だけは爪痕が残って居なかった。となると、キマイラが使用した魔法は中々堅い守りなのだろう。
「このまま宙で待機しておくか…」
創造で『浮遊』という魔法を創り出す。俺の体はそのまま宙に浮かび続けとある魔法を詠唱してみようとする。だがその目論見は少し遅く、地面から大きく広がった炎が俺の視界を再び覆う。
「チッ!器用な事すんなぁ!」
恐らくこの炎には攻撃の意思は無い。どちらかと言うと自分を隠す為の煙幕的なモノだと思う。炎も俺までは届いてないしね。
「……………」
チラリと宙で王城への距離を見る。あっちは護りを固めてるから今から使用する魔法でも損害は無いだろう。
「……やっちゃいますか」
俺は地面へと手を向けコレから放つ範囲をイメージする。……魔力量の管理が難しいが魔力が尽きる事は無い。しかし、全力でやったら間違い無くヤバいことになるのは安易に想像出来る。
「……『あい君』。地形が変わると思う?」
(……マスターの記憶通りで有れば確実になるでしょう)
「……ま、もしそうなったらクロノスに頼む事にするわ」
クロノス本人が近くに居たらきっと憤慨しているだろう。しかし、アルスの中ではクロノスは神であり、ヴァルキューレと同等の存在であると思っている。そうであれば天地創造は簡単で有るとアルスは簡単に思って彼の名を出したのだった。
「…おっと。そんな事は後に回していいな…」
クロノスが拒んだとしてもテミスさんやサタナキア、食い物を使って操ればいいからね。それは追々やるとして先ずはこの場を終わらせる事が早急だな。
「……魔法名は言わない方が良いな」
足元に手を向け魔法をイメージする。その魔法は創造の物であり色などは無いが特徴を言うなれば魔力を暴走させるという事だろう。無詠唱ながらもイメージ通り手に魔力が集まるのを感じる。そして極力地形や王城に被害が出ないように配慮しながら魔力を地面へと放つ。
---その瞬間、キルリア国は白色の世界へと包み込まれた。…いや、包まれたと言うより覆われたと言った表現の方が良いだろう。そして間髪入れずに地鳴りが響き暴風が王城へと届く。ナイル達は目の前の白に目を閉じる事は無かったが、暴風によって目を瞑ってしまう。王城にはアルス自身によって護りの結界が張られているが、それを突き抜けたということだ。しかし、それは暴風のみで有り城壁が崩壊、或いは倒壊する事は一切無かった。
暴風が止み、ナイル達が再びアルスの方へと目を向け言葉を失う。目の前の光景を受け入れる事が出来ず、頬をつねったり叩く者も居た。
『夢では無いか』と思うのも無理は無い。ナイル達の目には大きな穴が地面に空いており、先程まで大地を黒色に染めていた魔物達の姿が一切無くなったからだ。魔物達を倒したのなら理解出来る。だが居なくなったと言うのは流石のナイル達も飲み込めなかった。普通ならば死骸や血が滲んでいるのを見れるはずなのに、目の前には穴が空いているだけだ。ナイルはこの状況を作り出したのはアルスだと直感的に思ったが、これほどまでの魔法は聞いたことも書物でも読んだ事は無い。
「……………アレは魔法の所為なのか?」
ナイルの呟きに誰一人答えれる者は居ない。他の兵士達もナイルと同じ事を思っていたが、その考えに自信を持つ事は出来なかった。………だが、ナイルは自分の疑問に自分で答えを見つけた。それはヒースクリスに忠義を捧げている彼ならではの納得の仕方であった。
「……なるほど。ヒースクリス様が仰っていた事は本当の様だな」
『アルスさんの邪魔はしない、口を出さないってのを守ってね?彼はこの計画のキモなんだから』
ヒースクリスが話していた内容が脳裏を過ぎる。アルスの事を重要だと言われていたが、ここまでの実力を持っているのであればキモと言われてもおかしくない。むしろ敵に回す方が恐ろしい。
「……しかし、あれ程の強者をどうやって味方につけたのだろうか」
ナイルの呟きは砂漠に吹く風に乗り、誰にも聞かれる事なく流されるのであった。
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