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第二章 共鳴の輪郭
8.黒波燦の爆発
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律ちゃんの様子がおかしい。
メッセージを送ってもろくに返ってこない。電話しても素っ気ない。
だから俺は今日を心待ちにしていた。仕事とはいえやっと直に律ちゃんと会える。
けれど久しぶりに会えた彼は、嬉しそうな顔をするどころか視線すら合わせてくれなかった。
近づくと、身体ごと避ける。表情だって、不自然なこわばった顔をしているのだ。
こんな状態でうまく歌えるわけがない。なのに押し切って練習を始めようとするから、さすがに俺もカチンときた。
「待てよ。そんな態度で来られちゃこっちも集中できないよ。ねえ、説明してくれ。最近冷たいのはなんで?」
いつものスタジオだけど、今日はもうすぐ透子さんが来る。無理やり物陰に引っ張り込んで、壁に押し付け問い詰めた。けれどやっぱり彼は俺から逃げるように顔をそむける。
「あんたは関係ない。俺の問題だ」
「関係ないわけない、君と俺との問題だ!! それとも俺が忙しくて時間が取れないから飽きた? 好きな人ができた!?」
壁際に追いやられた彼が、弾かれたように俺を見上げる。
「そんなわけないだろう!? 燦、俺はあんたが……っ」
ああ、だめだ。彼が必死に訴えてくる瞳はどうしようもなく魅惑的。たまらず口づけた。久しぶりに触れる彼の温度。あっという間に気持ちが熱くなってしまった。
「律ちゃん……」
「これ以上はだめなんだ、燦、ああ、くそ、頼む」
唇と唇の隙間で会話する。彼の口と身体が全然違うことを言った。彼の腕が俺の腕を掴んでいる。彼の手のひらはほら、こんなに熱い。
「だめって、俺のこと嫌いになった?」
「嫌じゃない、好きだ。ずっと好きだ」
「じゃあどうして」
俺を睨みつけてるはずなのに、彼の瞳は今にも泣きだしそうだ。なぜだ? なんでそんなに悲しい目を俺に向ける?
「あんたが好きだから、俺は……」
「俺も好きだよ」
「違う、だめだ。あんたは」
一度彼の瞳が揺らぐ。俺の愛する黒茶の瞳だ。一度目を閉じてから、ゆっくり瞼を開いて俯く。
「あんたは、あんたと釣り合う人間と付き合ったらいいんだ」
力のない言葉は、俺の耳に届くのに時間がかかった。
「あんたはスターで、俺は、……ただのその辺のフリーターだ。よく見てみろ、あんたの周りにはキラキラした人間たちばかりだ、俺は全然違う。俺なんかと一緒にいたら、きっとあんたを堕落させて、あんたの足を引っ張る。だから……」
「は!?」
一瞬で視界が真っ白になった。
ひっぱたいてやろうか。何を言い出すんだろう? 触れ合って、何度も繋がって、理解し合えたと思っていたのは俺だけだったのか? 記憶がぐるぐる回る。あの時も、あの時も?
たまらず叫んだ。
「キラキラだって? 好きな子から素っ気なくされて落ち込んだり、ちょっと声が聞けただけで舞い上がったり、君の声をお守りみたいにして持ち歩いてる俺が!?」
「な!?」
驚いたらしい彼が見開いた目を合わせてきた。ああ、こんな時でも君は可愛い。
「言っただろう、俺は普通の男だ! それどころか君の前じゃダメでだらしなくて馬鹿みたいな男になる!! 世界に向けて格好つけてるくせに、世界で一番格好つけたい人の前では、世界一情けなくなるんだ!」
こんな声を出したら喉を傷める。でも、止められるわけがない。
「けど君はそんな俺を、好きだとか格好いいとか最高だとか、そんな言葉で全部許してくれるじゃないか、あれはお世辞じゃないだろう!?」
「ッ、燦、」
「受賞式の後のあの日だってそうだ、誰も立ったことがないところに立たされた俺がどれほど孤独で、怖くて、そのあとの仕事がプレッシャーで、それをどれほど君に癒されたのか、救われたのか、わかりもしないで」
彼の肩を掴んだ手が震えた。正直、まだ怖い。でも君がいるから逃げずに立っていられる。
「受賞式のあと?」
「釣り合うってなんだい? 俺からしたら君より俺の方がずっと情けない。周りの声に振り回されてばかりで、君みたいに超然と構えてられたらどんなに楽か!! 俺、……ッ」
がちりと歯が当たる。
荒っぽいキスだった。今度は俺が引き寄せられてキスされたのだ。
「……こうしないとおしゃべりなあんたを黙らせられないからな。燦、あんたそんな風に思っていたのか?」
はあ、と吐息が絡み合う。
「そんな風って、君は何も聞いてくれないし、何も言わない」
彼からのキスに気持ちがもっていかれる。キスの続きがしたい。離れた彼の唇を追うと、やんわりと彼の指が俺の唇に触れた。
「その通りだ。すまなかった。俺は少しあんたを誤解していたようだ。俺の話を聞いてくれるか?」
「だめ」
彼の指を取り上げて、もう一度口づける。触れたところが温かくて、気持ちが蕩けていく。
だけど、長くは続かなかった。
「オラ!!」
「うわ」
「えっ」
視界が焼けた。物陰に隠れていたつもりだったのに、真っ白い光が一瞬ぶち込まれたのだ。
「悪いけどあんたたち、恋人同士のあれそれは終わってからにしてもらえないかなあ。こう見えてあたしは結構忙しいんだ」
チカチカした視界の先で、スマホのLEDライトが俺たちに当てられていた。
彼とのやりとりに夢中になっていて全く気が付かなかったけど、元スーパースター天音透子さんが、いつの間にか俺たちの真横に立っていたのだった。
メッセージを送ってもろくに返ってこない。電話しても素っ気ない。
だから俺は今日を心待ちにしていた。仕事とはいえやっと直に律ちゃんと会える。
けれど久しぶりに会えた彼は、嬉しそうな顔をするどころか視線すら合わせてくれなかった。
近づくと、身体ごと避ける。表情だって、不自然なこわばった顔をしているのだ。
こんな状態でうまく歌えるわけがない。なのに押し切って練習を始めようとするから、さすがに俺もカチンときた。
「待てよ。そんな態度で来られちゃこっちも集中できないよ。ねえ、説明してくれ。最近冷たいのはなんで?」
いつものスタジオだけど、今日はもうすぐ透子さんが来る。無理やり物陰に引っ張り込んで、壁に押し付け問い詰めた。けれどやっぱり彼は俺から逃げるように顔をそむける。
「あんたは関係ない。俺の問題だ」
「関係ないわけない、君と俺との問題だ!! それとも俺が忙しくて時間が取れないから飽きた? 好きな人ができた!?」
壁際に追いやられた彼が、弾かれたように俺を見上げる。
「そんなわけないだろう!? 燦、俺はあんたが……っ」
ああ、だめだ。彼が必死に訴えてくる瞳はどうしようもなく魅惑的。たまらず口づけた。久しぶりに触れる彼の温度。あっという間に気持ちが熱くなってしまった。
「律ちゃん……」
「これ以上はだめなんだ、燦、ああ、くそ、頼む」
唇と唇の隙間で会話する。彼の口と身体が全然違うことを言った。彼の腕が俺の腕を掴んでいる。彼の手のひらはほら、こんなに熱い。
「だめって、俺のこと嫌いになった?」
「嫌じゃない、好きだ。ずっと好きだ」
「じゃあどうして」
俺を睨みつけてるはずなのに、彼の瞳は今にも泣きだしそうだ。なぜだ? なんでそんなに悲しい目を俺に向ける?
「あんたが好きだから、俺は……」
「俺も好きだよ」
「違う、だめだ。あんたは」
一度彼の瞳が揺らぐ。俺の愛する黒茶の瞳だ。一度目を閉じてから、ゆっくり瞼を開いて俯く。
「あんたは、あんたと釣り合う人間と付き合ったらいいんだ」
力のない言葉は、俺の耳に届くのに時間がかかった。
「あんたはスターで、俺は、……ただのその辺のフリーターだ。よく見てみろ、あんたの周りにはキラキラした人間たちばかりだ、俺は全然違う。俺なんかと一緒にいたら、きっとあんたを堕落させて、あんたの足を引っ張る。だから……」
「は!?」
一瞬で視界が真っ白になった。
ひっぱたいてやろうか。何を言い出すんだろう? 触れ合って、何度も繋がって、理解し合えたと思っていたのは俺だけだったのか? 記憶がぐるぐる回る。あの時も、あの時も?
たまらず叫んだ。
「キラキラだって? 好きな子から素っ気なくされて落ち込んだり、ちょっと声が聞けただけで舞い上がったり、君の声をお守りみたいにして持ち歩いてる俺が!?」
「な!?」
驚いたらしい彼が見開いた目を合わせてきた。ああ、こんな時でも君は可愛い。
「言っただろう、俺は普通の男だ! それどころか君の前じゃダメでだらしなくて馬鹿みたいな男になる!! 世界に向けて格好つけてるくせに、世界で一番格好つけたい人の前では、世界一情けなくなるんだ!」
こんな声を出したら喉を傷める。でも、止められるわけがない。
「けど君はそんな俺を、好きだとか格好いいとか最高だとか、そんな言葉で全部許してくれるじゃないか、あれはお世辞じゃないだろう!?」
「ッ、燦、」
「受賞式の後のあの日だってそうだ、誰も立ったことがないところに立たされた俺がどれほど孤独で、怖くて、そのあとの仕事がプレッシャーで、それをどれほど君に癒されたのか、救われたのか、わかりもしないで」
彼の肩を掴んだ手が震えた。正直、まだ怖い。でも君がいるから逃げずに立っていられる。
「受賞式のあと?」
「釣り合うってなんだい? 俺からしたら君より俺の方がずっと情けない。周りの声に振り回されてばかりで、君みたいに超然と構えてられたらどんなに楽か!! 俺、……ッ」
がちりと歯が当たる。
荒っぽいキスだった。今度は俺が引き寄せられてキスされたのだ。
「……こうしないとおしゃべりなあんたを黙らせられないからな。燦、あんたそんな風に思っていたのか?」
はあ、と吐息が絡み合う。
「そんな風って、君は何も聞いてくれないし、何も言わない」
彼からのキスに気持ちがもっていかれる。キスの続きがしたい。離れた彼の唇を追うと、やんわりと彼の指が俺の唇に触れた。
「その通りだ。すまなかった。俺は少しあんたを誤解していたようだ。俺の話を聞いてくれるか?」
「だめ」
彼の指を取り上げて、もう一度口づける。触れたところが温かくて、気持ちが蕩けていく。
だけど、長くは続かなかった。
「オラ!!」
「うわ」
「えっ」
視界が焼けた。物陰に隠れていたつもりだったのに、真っ白い光が一瞬ぶち込まれたのだ。
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チカチカした視界の先で、スマホのLEDライトが俺たちに当てられていた。
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