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ときめき2

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 そこでヴィオラは……

「無理などしていません。むしろ、物足りないくらいです。
殿下は私を見くびっているのですか?」
そう焚き付けた。

「そうではないっ。
しかし、決して楽ではなかったはずだ」

「それを見くびっていると言うのです!
違うとおっしゃるのなら。
勿体ぶらずに、さっさと次の公務を教えてください」

 そう言われては、教えないわけにはいかず……

「……わかった。
ならば後ほど、また部屋に行く」

 と、ヴィオラの誘導は功を成したのだった。


 そうして、部屋に戻ると。

ーーはあっ、緊張した!
ちゃんと今まで通りに振る舞えたかしら?
それより殿下、あんなに素敵だったからしらっ?
いえ元々素敵な人だったし、恐ろしく整った顔ではあるけど……
なぜだか今日は、やたらと格好良く見えてしまうっ。
そう脱力するヴィオラ。

 行き帰りはランド・スピアーズが側に居たため、そんな素振りを見せられなかったのだ。

ーーそもそも、どうしてこんなに胸が高鳴るのっ?
ああきっと、久しぶりに会ったせいだわっ。
と、もっとご無沙汰だった時期があったにもかかわらず。
そう言い聞かせるヴィオラ。

ーーだけど殿下は……
相変わらず、微塵も意識してないんですね。

 そう、その表情はいつも通り冷淡で。
その口調も、いつも通り素っ気なかったからだ。

ーーあんなふうに、キスまでしたというのに……
それともあのキスは、泣いていた私を慰めるためにしてくれただけなの?
と、無自覚に落ち込むヴィオラ。

 さらには……
~「ヴィオラのためならどんな時でも、何だってやってあげたいんだ」~
それほど想ってくれながらも。
むしろ、それほど想っていたからこそ。
舞踏会での仕打ちが許せなくて、徐々に気持ちが冷めているのではないかと思い。
胸がズキリと突き刺される。

ーー当然よね、それだけの事をしたんだもの。
それどころか処罰されてもいいくらいなのに、殿下は優しいから……
出来る事なら、今までの無礼も全て謝りたいけど……
そもそも私は、こうなる事を望んでいたんだし。
そうやって愛想尽かされて、離婚を切り出されるために、悪妃に徹してきたというのに……
どうしてこんなに胸が痛いのっ?

「妃殿下っ、どうされました?」
苦しそうに胸を押さえるヴィオラを目にして、リモネが心配そうに声かける。

「っ、なんでもないわ。
ちょっと、胸がつかえた気がしただけよ。
それより。
後でまた、殿下が次の公務の説明に来るから。
その時は皆、席を外してちょうだい」

 前回そうしたため、今回もそうしなければ不自然だと思ったからだ。

ーーとにかく私は、離婚されるまでの間。
少しでも殿下の負担を減らせるように、少しでも罪滅ぼし出来るように、頑張らなきゃ!
ヴィオラはそう切り替えて、サイフォスの来訪を待ち望んだのだった。



 程なくして、やって来たサイフォスは……

「今回は、ここまでの説明をする」
と、前回の半分ほどの量を示したが。
「やっぱり私を見くびってるではありませんか!」とヴィオラに怒られ……
押し切られる形で、前回より多く引き継ぐ事となった。


「……以上だが、何か不明な点はあるか?」

「いえ、問題ありません」

ーーいっそ分からない所が出てくれば、後から聞きに行けるのに。
教え方が上手いから、それすらないんだもの……
そう思って、ハッとする。

ーー待って、何考えてるのっ?
まるで殿下と会いたがってるみたいじゃない!

 勝手に動揺して、チラとサイフォスに視線を向けると。
ヴィオラを見つめていたその瞳と、バチリと目が合い。
互いにドキリ!と、心臓が跳ね上がる。

「っっ、なんですかっ?」

「いやその、今日もとても綺麗だと思って、見惚れていた」

「っっ~~」
サイフォスの気持ちが冷めていると思っていた反動で、胸をきゅううと掴まれるヴィオラ。

「急にそんなっ、取って付けたような事言わないでくださいっ」

「急ではない。
さっき俺の部屋で会った時からそう思って、釘付けになるのを必死に我慢していた。
それと、今日も俺が贈ったドレスを着てくれて、ありがとう」

 そう、ヴィオラは前回の引き継ぎ以来。
サイフォスがいつ来てもいいように、常に化粧を念入りに施しており。
今日はサイフォスの部屋を訪れる予定だったため。
ドレスもまた、プレゼントされたものから選んでいたのだった。
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