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第二章 開いてはいけない手紙

第一話 やっぱり、嫌な女

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「ああ、そっか……。この人だ。……エルンストさん」

 しばらくの間、文通を続けていた相手。

「一回だけ……私の人生で、私を好きと言ってくれた人……。あはは、一回しかないのに、それがもう、ヨゼフじゃないんだ……」」

 向こうは、私を何回か見たことがあるらしい。

 だから、手紙……。

 私は、本当に手紙でしか知らない。

 最初の一通は、友達のヴィエラづてに、渡された。

「絶対に返事を書いてね。……あなたのためにも」

 身分や名前すら明かせないほど偉い人だというから、断るに断れなかった。

 エルンストさん……見た目はもちろん、年齢すら、私は知らない。

「南の方の貴族の人……だと思うけど……」

 とても、文才のある人。

 丁寧だけど、馬鹿丁寧じゃなくて……男の人だけど、とても字は綺麗。

 返事をする私の方が、大変なくらいに。それは……最初だけ。

 いつしか、手紙を書くのは楽しくて、手紙を受け取るのも楽しみになっていた。

 現実逃避……なのかもしれない。

「エルンストさん……結局、どんな人だったんだろ……?」

 けれど……ある日のこと。

 エルンストさんは……一番、大切なことを明かしてくれた。

 つまりは……なんで、私に手紙を書いてくれたのか。

 ”可憐な君のことが、どうしようもなく好きだから”

「もう……1年くらい前のこと……」

 ヨゼフとの婚約が決まったばかりの頃。

 婚約していることをを伝えて……それでも、エルンストさんは返事を書いてくれた。

 私は、その手紙を読まずに、返事も書かなかった。

 どっちにしろ、もうやめるつもりだった。……ヨゼフに、悪いと思っていたから。

「……私、ほんと……嫌な女」

 好きといってくれたのは、嬉しかった。

 けど……どこまで本気なのか、あまり信じていなかった。

 文通をやめるのに、ちょうどいいという思いすら、あった。

「……やっぱり、嫌な女。自分がこの立場になって、初めて気持ちを考えるなんて……」

 理由は、分かる。

 ただ……私が、モテないから。

「妹だったら……アンナだったら……疑いすらしないもの」

 それでいて、男の人には慣れているから、そう簡単にはだまされない。

 妹の方が男の人を手のひらの上で転がすことはあっても……。それこそ、ヨゼフみたいに。

「嫌な女で……嫌なお姉ちゃん……私、結局、嫉妬してる……そんな妹がうらやましいって……本当は、昔から思っていて」

(私は、お姉ちゃんだから、恋愛どころじゃない……。私と、妹の生活をどうにかしないと……)

 そんな言葉は……半分は言い訳って、ちゃんと気づいていたつもりなのに。

 だからこそ……ヨゼフが私を選んでくれて……嬉しかったのに。

「私は、疑り深くて……そのくせ、本心では、実の妹に嫉妬ばかりしていて……そりゃ、妹がむかつくのも、ヨゼフが私のことを全然好きじゃないのも……うう」

 そう思うと、また苦しさがこみ上げてきた。

「私、なんて嫌な女なんだろ……けど、それでも……! 苦しくて……本当に、苦しいんだよお……。うう……ごめん、ごめんなさい。私が悪かったから……誰か、助けてよ……」

 手紙でなら……話くらいは聞いてくれるかもしれない人。

 なのに……私はこの最後の一通を、すぐには開けられない。

「ああ……分かっちゃった」

 違うんだ。
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