黒羽の約束

猫目オテテ

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第23章 選ばなければならない夜

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魔界・王宮 深部

 燃え上がるような赤黒の魔力が空間を満たし、天井の装飾が崩れ落ちていく。

 アルマは膝をついていた。肩からは血が滴り、剣の柄を握る指が震えている。
 目の前に立つのは、第一子にして長女──エリス。威厳に満ちたその瞳は、容赦のない冷酷さを帯びていた。

「弟よ。お前には、もう王の資格はない。私の道を阻む者など、最初から不要なの」

 淡々とした声が、アルマの全身に重くのしかかる。
 彼は息を切らしながらも言葉を紡ぐ。

「……たとえ王位など捨てても……家族を傷つけることだけは、俺には……できなかった」

「だからお前は“弱い”。人間ごときに心を許した代償を、存分に味わうといいわ」

 その瞬間、エリスの手に封印の呪印が浮かび上がった。
 無数の鎖が闇の中から這い寄り、アルマの体を絡めていく。

「──やめろ……!」

 叫びも虚しく、アルマの身体は光の中に封じられていった。
 その瞳に最後に浮かんでいたのは、宗一の微笑みだった。



魔界・別の地

 封印の揺れは、魔界中に轟いた。
 異様な魔力の収束に、各地に散っていた兄弟姉妹たちは皆、異変に気づく。

 そして、その中心にいたのは──ノア。

 人間界の街角の屋上で夜風に身を晒しながら、彼は苦悶の声を漏らした。

「……アルマ……」

 自分を見逃してくれた、あの夜の言葉が頭をよぎる。

 ──「生きろ、ノア。誰も傷つけずに」

 その優しさが、今や彼自身を苦しめていた。
 アルマの封印は、自分の逃避の結果だった──その事実が胸を刺す。

 ノアは風を断ち切るように立ち上がる。そして指を鳴らすと、魔界の空に七色の魔力を放った。

「兄弟たちよ。俺たちはもう逃げている場合じゃない。──王位継承に、向き合おう」

 ノアの瞳は冷静で、しかしその奥には確かな決意が宿っていた。
 かつての放浪者が、いま、自らの意志で戦いの幕を開こうとしていた。
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