陛下、あなたが寵愛しているその女はどうやら敵国のスパイのようです。

ましゅぺちーの

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優しさ

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「で、殿下・・・それは一体・・・」


何かの冗談かと思った。だって私は愛人を何人も囲っている夫にすら相手にされない女なのだから。


私は驚いて上手く話すことが出来なかった。


そんな私を見てグレンお兄様が口を開いた。


「アルバート、カテリーナが困惑しているじゃないか」


「ああ、すまない・・・」


王弟殿下はグレンお兄様の声でハッとなって立ち上がった。


「まずは・・・そうだな・・・説明が先か・・・」


「すまないな、カテリーナ。アルバートは恋愛経験が無いからそういうのが分からないんだ。」


「い、いえ・・・別に気にしていませんが・・・」


目の前にいる殿下は顔を赤くしてしばらく私から目を逸らしていた。


「―カテリーナ」


そして、私を真っ直ぐに見つめて名前を呼んだ。


「は、はい・・・」


私を見つめる彼の目は真剣そのもので、胸が高鳴った。


そんな目を向けられたのは初めてなので、どうすればいいか分からない。私も既婚者とはいえ、夫に全く相手にされていないので殿下と同じく恋愛経験はゼロに近い。


(・・・・・・綺麗)


ふと殿下の顔を見て私は思った。兄である陛下に少しだけ似ているその顔は、この世のものとは思えないくらい美しい。陛下とは違うタイプの美形だ。


そしてしばらくの沈黙の後、殿下は私に向かって口を開いた。


「私は・・・君のことがずっと好きだった・・・」


「えっ・・・」


聞き間違いかと思った。そんなことは初めて知った。王弟殿下とは幼馴染で長い付き合いだけれど、そんなことを言われたことは一度も無かったからだ。


(好き・・・?殿下が私を・・・?)


にわかには信じられなかった。私は愛されないお飾りの王妃だから。


「君は信じられないだろうな・・・」


「はい・・・信じられません」


私が正直にそう言うと殿下はクスリと笑った。


「・・・正直だな。まぁ君が信じられないというのも無理はない。私は今までずっとその気持ちを隠し通してきたのだから」


「殿下・・・」


すると殿下が突然苦しそうに顔を歪めた。


「君は兄上の婚約者だっただろう?だから・・・どうしても気持ちを伝えることが出来なかった」


「・・・!」


私はその言葉で色々なことを理解した。


(そうだ、私はずっと次期国王である王太子殿下の婚約者だった・・・だからなのかしら・・・)


私は幼い頃に陛下との婚約を決められ、婚約者として長い時間を過ごした。陛下は私を愛していなかったけれど、別に仲が悪いというわけでもなかった。だから、きっと夫婦になっても良い関係を築いていけると思っていた―


(・・・・・まぁ、そんなことは無かったけどね)


私は心の中で陛下に恋をしていた頃の自分自身を嘲笑った。


今の自分は別に陛下のことが好きではないから相手にされなくても平気だと思っていた。しかし、実際にはそうでもなかった。たとえ相手を愛していなくとも、夫に愛されない悲しみというのは自然と沸き上がってくるものなのだ。


王弟殿下の言葉を聞いたグレンお兄様が不機嫌そうに言った。


「あいつが王太子っていう地位にいなかったら婚約破棄を突き付けてたところだ。俺はアルバートのお前に対する気持ちを知っていたから余計に苛ついた。何であの男が婚約者なんだと」


「お兄様・・・国王陛下に対して不敬ですわ」


今のお兄様の発言は一国の王に対しては不敬すぎる言葉だ。いくらお兄様が公爵とはいえ、陛下の耳に入ったらただでは済まないだろう。


(・・・けれど)


それを、少しだけ嬉しく思ってる自分がいた。


「・・・そうだな、私も出来ることならカテリーナと兄上との婚約を無かったことにしたかったよ。しかし、王太子という地位に加え父上の寵愛を受けていた兄上と敵対するのはただの王子である私にとっては危険すぎた」


「・・・そうですわよね」


「今思えば、あのとき勇気を出して動いていればよかったな。そうすればカテリーナがこれほど辛い思いをすることも無かっただろうに・・・」


殿下はそう言って悲しそうな顔をした。


「・・・」


お兄様に続いて、王弟殿下まで私のことを思ってくれていると知って心が穏やかになった。


(二人とも・・・それほど私のことを・・・)


二人の優しさに、つい涙が出そうになってしまった。王宮では辛いことばかりだったから、こんな風にされると泣いてしまう。


私は溢れそうになる涙を必死でこらえて殿下に言った。


「ありがとうございます・・・殿下・・・お兄様・・・」


私の言葉に殿下とお兄様はフッと笑った。


「妹のために何かするのは兄として当然のことだろう」


「私は、君を救えなかったことをずっと後悔していた・・・だからこれくらいはさせてほしいんだ」


(ああ、本当に泣いてしまいそう・・・!)


そんな私の様子を察したのか、グレンお兄様が殿下に対して言った。


「アルバート、俺たちはそろそろ行こう」


「え?もう行くのか?」


「カテリーナも突然のことで頭が追い付かないだろうからな。ほら、早く行くぞ」


「あ、おい、グレン!」


グレンお兄様はそう言って殿下の腕を引っ張って無理矢理部屋の外へと連れ出した。


「カテリーナ、何かあったらいつでも俺たちを頼れ。俺たちはいつだってお前の味方だからな。父上と母上も同じ考えだ」


「あ、はい!ありがとうございます、お兄様・・・」


そして、お兄様もそのまま殿下に続いて部屋を出て行った。


一人残された私はというと―


(何だろ・・・一人になったのに全然寂しくない)


不思議な感情になっていた。


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