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舞踏会①

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そしてついに王家主催の舞踏会の日がやってきた。
その日、舞踏会へ行く支度をしていた私に衝撃の知らせが舞い込んできた。


「……何ですって?」
「そ、それが……」


見るからに顔色の悪い陛下の侍従。
彼は何も悪いことなどしていない。
では一体何故そのような顔をしているのか。


それは紛れもなくあの愚王のせいである。


「へ、陛下は……今日の舞踏会ではクリスティーナ様をエスコートなさるとのことです……」
「……」


ハァ、とため息が出そうになった。
いくら愚か者とはいえ、そこまでではないと思っていたのに。
それも私の思い違いだったようだ。


今さら陛下に恋心など抱いていないが、王妃が一人で入場するなど貴族たちに何を言われるか……。
頭を抱えていたそのとき、部屋の扉がガチャリと開いた。


「――カテリーナ」
「……お兄様?」


入って来たのはグレンお兄様だった。


「お兄様、どうしてここにいるの?」
「陛下の愚行を耳にして居ても立ってもいられなくなってな……」
「あ……」


陛下が正妃である私ではなく、クリスティーナ様をエスコートするということは既に広まっているようだ。


「ですが、わざわざこうしていらっしゃるだなんて……大丈夫なのですか?」
「あの愛妾がお前を攻撃しないとも限らないだろ?」
「まぁ、それはそうですが……」


クリスティーナ様はたしかに危険な人だ。
実際に彼女はリリア様を始めとした側妃、愛妾を何人も殺害している。


「だから今日は、俺がお前をエスコートしようと思って来たんだ」
「……!ありがとうございます……」


お兄様の気遣いに、胸が温かくなる。


「こ、公爵閣下!」
「ん?陛下の侍従か?」


そこでお兄様はようやく侍従の存在に気付いたようだった。
しかし、彼はもう完全に私の味方である。


「……良かったです」


侍従はお兄様を見て穏やかな笑みを浮かべた。


「お前もなかなか苦労してるみたいだな。カテリーナから聞いた」
「あ……」


お兄様は労うように侍従の肩をポンポンと叩いた。
侍従は泣きそうな顔になっていた。


「そんなこと言われたの……初めてです……」


(どうやら相当陛下にこき使われていたみたいね……)


一刻も早く彼を解放してあげないと。
それから侍従は部屋を出て行き、私とお兄様は結界の張られた部屋で話し始めた。


「カテリーナ、アルバートから聞いているな?」
「はい」


今日は陛下とクリスティーナ様を断罪する日である。
もちろん私もそれを忘れてなどいない。


「お兄様、大丈夫なのですか?」
「ああ、俺に任せとけ。あの愚王を廃位に出来る材料は揃っている」


お兄様はニヤリと笑った。
昔から変わらない、悪いことを考えているときの笑みだ。


「……お兄様」


何だか昔に戻ったようで懐かしい気持ちになる。
しかし、一つだけどうしても気に掛かることがあった。


「お兄様、王弟殿下は……」
「……」


王弟殿下についてだ。
彼はあの日、私に行き先までは教えてくれなかった。
ただ必ず戻ると言っただけで。
別に殿下を疑っているわけではないが、正直不安である。


「アルバートが心配か?」
「いえ……そういうわけでは……」


私は首を横に振ったが、どうやらお兄様には私の本心を見抜かれていたようだ。


「カテリーナ、アルバートを信じろ」
「お兄様……」


そこでお兄様は私の目をじっと見つめた。


「カテリーナ、お前、好きなんだろ?アルバートのこと」
「……!」


お兄様の言葉に、私はビクリとなった。


「お兄様……どうして……」
「俺が気付いていないと思ったか?何年一緒にいると思ってるんだ。あまり俺を見くびるなよ」


まだ肯定したわけではないというのに、お兄様は確信しているようだった。


(やっぱり……お兄様に隠し事は出来ないのね……)


兄の偉大さを改めて実感した。


「はい、私は王弟殿下のことが好きです。気付けばあの方のことばかり考えてしまっていて……自覚したのはつい最近のことですが」
「そうか」


私の答えに、お兄様は満足げな笑みを浮かべた。
一体いつから私の本心に気付いていたのだろうか。
本人ですら気付いていなかったというのに。


「――なら、信じてやれよ」
「え?」


私と同じ色の瞳が、真っ直ぐに私を捉えていた。


「本当に好きなんだったら、アルバートのことを信じてやれよ」
「お兄様……」


その瞳が、お兄様の言葉が、私の胸に響いた。
私は何かに突き動かされたかのように、こんなことを口にしていた。


「……お兄様の言う通りですね。私はアルバート殿下を信じています。殿下は必ず帰ってきます」
「ああ、そうだな」


それを聞いたお兄様は再びクスリと笑って、私に手を差し出した。


「じゃあそろそろ行くか」
「はい」


私は差し出された手を取って、お兄様と共に会場へと向かった。

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