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84 語られる真実
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レビンストン公爵家で開かれた舞踏会の翌日。
「お嬢様、お客様です」
「私に?」
朝の十時。
部屋で本を読んでいた私の元にそんな知らせが入った。
(こんなに朝早くから……一体誰だろう?)
突然の来客に驚きながらも、私はすぐに応接間へと向かった。
お客様を待たせるわけにはいかない。
「――お待たせして申し訳ありません…………って、ルーク?」
「エミリア」
驚くことに、応接間で座っていたのはルークだった。
しかも何故か正装姿だ。
(どうしてルークが……?私に用があるならいつもみたいに部屋の窓から入ってしまえば良かったのに……)
私はそのことを疑問に思いながらも、彼の正面に腰を下ろした。
こうして見ると、まるでどこかの国の王子様のようだった。
彼の容姿は本当に美しい。
「ルーク、今日はまた何で……」
「――お前に話があって来た」
「……話?」
その瞬間、部屋の中に緊張感が漂った。
(何だろう……?)
彼がこんな風にするだなんて初めてだ。
私たちはもっと気楽に話せる仲だったはずなのに。
視線を少し下に下げたルークが、ゆっくりと口を開いた。
「……俺は、お前にずっと嘘をついていた」
「……嘘?」
「俺は、ただの旅人じゃないんだ」
「……と、言うと?」
ルークは私を真っ直ぐに見つめてハッキリとした声で告げた。
「――俺の本当の名前はルドウィク・セレナイト。元第二王子だ」
「……」
驚きのあまり、私は声を出すことが出来なかった。
しかし、それと同時に彼の告白を聞いてどこか納得した自分がいた。
(驚いたけど……でも……)
気付けば口が勝手に動いていた。
「……なるほど、ようやく合点がいったわ」
「……どういう意味だ」
「いや、私ね!最初ルークのこと見たときにね、あれこの人どこかで見たことあるな~って思ってたのよね。妙な既視感があったっていうか!」
「……」
この場に似つかわしくない明るい口調に、彼が固まった。
「どこかの貴族令息かな?とは薄々勘付いてたけど、まさかの第二王子様だったんだね、ルーク!私よりもずっと身分が高かっただなんて、私不敬罪になっちゃうかな?」
「…………驚かないのか」
「いや、驚いてるよ?すっごく」
「…………軽蔑しないのか」
「軽蔑?」
私がきょとんと首を傾げると、彼は水分とか細くなった声で呟いた。
「……俺の母親は先代王妃陛下では無い。先王が気まぐれで手を出した平民の侍女だ。お前も一度くらいは噂を耳にしたことがあるだろう」
「……」
――第二王子ルドウィク。
彼の母親が王妃陛下では無いということに関しては、それほど貴族たちの噂に関心の無い私でも聞いたことがあった。
知ったのはだいぶ昔、サロンでの貴婦人たちの会話を耳にしたからだ。
『第二王子殿下のお姿をご覧になられましたか?』
『いえ、まだ見ておりませんわ』
『噂によると、国王陛下の黒い髪と青い瞳を受け継いだとても美しい方だそうです』
もう二十年近く前のことだ。
たまたま噂好きな貴婦人たちの近くを通ったときに聞こえた話だった。
『ところで……あの噂は本当なのかしら?』
『まぁ……第二王子殿下が王妃陛下の子供ではないという噂ですか?』
『ええ、その通りですわ』
『ただの噂ではないのですか?』
その質問に、一人の貴婦人がニヤリと笑った。
『それが、案外そうでもないんですのよ』
『それは一体どういう……』
『王宮に勤めている夫が教えてくれましたの。たまたま王子殿下の姿を見たそうですが、両陛下どちらにも似ていないと』
『まぁ……そのようなことが……』
その話を思い出した私は、目の前にいるルークの顔をじっと見つめた。
(……たしかに、先王陛下と先代王妃陛下には似てないわね)
記憶はかなり曖昧だが、ギリギリで両陛下の顔を思い出せた。
だとすると、ルークは母親似ということなのだろう。
(軽蔑か……もしかして、それを心配しているのかな?)
私はそんな彼を安心させるように明るい顔で口を開いた。
「母親が誰であれ、王族の血を引いている以上は王家の人間として尊重されるべきなんじゃないかな?」
「……」
「少なくとも私はそう思うかなぁ。ルークの正体が元第二王子だろうと全然気にならないけど」
「…………やっぱりお前は他のヤツらとは違うな」
そのとき、長い間俯いていたルークがクスッと笑った。
(あ、やっと笑ってくれた)
彼の笑顔を見れたのが嬉しくて、私もニッコリと笑い返した。
ついさっきまで漂っていた重苦しい空気は跡形も無く消えていた。
「お嬢様、お客様です」
「私に?」
朝の十時。
部屋で本を読んでいた私の元にそんな知らせが入った。
(こんなに朝早くから……一体誰だろう?)
突然の来客に驚きながらも、私はすぐに応接間へと向かった。
お客様を待たせるわけにはいかない。
「――お待たせして申し訳ありません…………って、ルーク?」
「エミリア」
驚くことに、応接間で座っていたのはルークだった。
しかも何故か正装姿だ。
(どうしてルークが……?私に用があるならいつもみたいに部屋の窓から入ってしまえば良かったのに……)
私はそのことを疑問に思いながらも、彼の正面に腰を下ろした。
こうして見ると、まるでどこかの国の王子様のようだった。
彼の容姿は本当に美しい。
「ルーク、今日はまた何で……」
「――お前に話があって来た」
「……話?」
その瞬間、部屋の中に緊張感が漂った。
(何だろう……?)
彼がこんな風にするだなんて初めてだ。
私たちはもっと気楽に話せる仲だったはずなのに。
視線を少し下に下げたルークが、ゆっくりと口を開いた。
「……俺は、お前にずっと嘘をついていた」
「……嘘?」
「俺は、ただの旅人じゃないんだ」
「……と、言うと?」
ルークは私を真っ直ぐに見つめてハッキリとした声で告げた。
「――俺の本当の名前はルドウィク・セレナイト。元第二王子だ」
「……」
驚きのあまり、私は声を出すことが出来なかった。
しかし、それと同時に彼の告白を聞いてどこか納得した自分がいた。
(驚いたけど……でも……)
気付けば口が勝手に動いていた。
「……なるほど、ようやく合点がいったわ」
「……どういう意味だ」
「いや、私ね!最初ルークのこと見たときにね、あれこの人どこかで見たことあるな~って思ってたのよね。妙な既視感があったっていうか!」
「……」
この場に似つかわしくない明るい口調に、彼が固まった。
「どこかの貴族令息かな?とは薄々勘付いてたけど、まさかの第二王子様だったんだね、ルーク!私よりもずっと身分が高かっただなんて、私不敬罪になっちゃうかな?」
「…………驚かないのか」
「いや、驚いてるよ?すっごく」
「…………軽蔑しないのか」
「軽蔑?」
私がきょとんと首を傾げると、彼は水分とか細くなった声で呟いた。
「……俺の母親は先代王妃陛下では無い。先王が気まぐれで手を出した平民の侍女だ。お前も一度くらいは噂を耳にしたことがあるだろう」
「……」
――第二王子ルドウィク。
彼の母親が王妃陛下では無いということに関しては、それほど貴族たちの噂に関心の無い私でも聞いたことがあった。
知ったのはだいぶ昔、サロンでの貴婦人たちの会話を耳にしたからだ。
『第二王子殿下のお姿をご覧になられましたか?』
『いえ、まだ見ておりませんわ』
『噂によると、国王陛下の黒い髪と青い瞳を受け継いだとても美しい方だそうです』
もう二十年近く前のことだ。
たまたま噂好きな貴婦人たちの近くを通ったときに聞こえた話だった。
『ところで……あの噂は本当なのかしら?』
『まぁ……第二王子殿下が王妃陛下の子供ではないという噂ですか?』
『ええ、その通りですわ』
『ただの噂ではないのですか?』
その質問に、一人の貴婦人がニヤリと笑った。
『それが、案外そうでもないんですのよ』
『それは一体どういう……』
『王宮に勤めている夫が教えてくれましたの。たまたま王子殿下の姿を見たそうですが、両陛下どちらにも似ていないと』
『まぁ……そのようなことが……』
その話を思い出した私は、目の前にいるルークの顔をじっと見つめた。
(……たしかに、先王陛下と先代王妃陛下には似てないわね)
記憶はかなり曖昧だが、ギリギリで両陛下の顔を思い出せた。
だとすると、ルークは母親似ということなのだろう。
(軽蔑か……もしかして、それを心配しているのかな?)
私はそんな彼を安心させるように明るい顔で口を開いた。
「母親が誰であれ、王族の血を引いている以上は王家の人間として尊重されるべきなんじゃないかな?」
「……」
「少なくとも私はそう思うかなぁ。ルークの正体が元第二王子だろうと全然気にならないけど」
「…………やっぱりお前は他のヤツらとは違うな」
そのとき、長い間俯いていたルークがクスッと笑った。
(あ、やっと笑ってくれた)
彼の笑顔を見れたのが嬉しくて、私もニッコリと笑い返した。
ついさっきまで漂っていた重苦しい空気は跡形も無く消えていた。
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