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36 事件
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「もうすぐ晩餐会です、殿下」
「ああ、そろそろ向かおうか」
しばらく庭園で過ごした後、私たちは晩餐会が行われる会場へと移動した。
「楽しみだな、貴族家で食事をするなんて初めてだ」
「そ、そんなに期待しないでください……お口に合うかどうか分かりませんから」
「毒入りでない限りは平気だ、私はどんなものでも美味しく感じる舌だからな」
「じょ、冗談はやめてください……!」
殿下は焦る私を見てハハハと声を上げて笑った。
慣れていないから、こうやってからかうのはやめてほしいものだ。
(殿下が冗談を言う人だったなんて……)
しかし、彼の意外な一面を見れて嬉しいという気持ちも無いことは無かった。
そして会場に入る前、私たちはある人物と出会った。
「ラウル……?」
「姉さん……………王太子殿下も」
扉の前で立ち尽くしていたのは弟のラウルだった。
(どうして中に入らないのかしら……?)
気になった私が彼に声を掛けた。
「ラウル、貴方一体……」
「――王太子殿下と姉さんが来るのを待っていたんです」
その言葉に、私は驚いてラウルを見た。
「え?私たちを?」
「はい、王太子殿下ともっと親しくさせていただきたいと思っていたので」
「ラウル……」
ラウルはそう言うと、王太子殿下に笑いかけた。
この笑みが本心かどうかなんて分からない。
(ラウル……貴方一体何を考えているの?)
急に私と殿下と仲良くなりたいだなんて。
王太子殿下は探るようにラウルの顔をしばらくじっと見つめていた。
「殿下、改めてご挨拶をさせていただきます。カルメリア侯爵家の長男、ラウルと申します。いつも姉がお世話になっています」
「……ああ」
殿下は素っ気なく返事をした後、私の方を向いた。
「アリス嬢、中に入ろう」
「あ、はい……」
私の腕を掴んで扉に手を掛けたそのとき、ラウルがふいに口を開いた。
「――ところで」
「……?」
後ろを振り返ると、弟が口元に笑みを浮かべてこちらを見ていた。
「今日の晩餐会ではとても美味しい魚料理が出るようですよ」
「……急に何の話だ?」
「いえ、ただ楽しみだなぁと思っただけです」
「……」
ラウルはそれだけ言うと私たちの横を通り過ぎて中へと入って行った。
私はそんな弟の後ろ姿をじっと見つめた。
(何かしら……?何か変だわ……)
今日のラウルはいつもと何かが違った。
***
「アリス、殿下との時間は楽しかったか?」
「はい、お父様」
「そうかそうか、それは良かった!」
晩餐会が始まってすぐ、父が隣に座る私に話しかけた。
「殿下はいかがでしたか?」
「ああ、とても有意義な時間を過ごせたよ」
「本当に良かったです」
それからしばらくして、使用人たちによって料理が運ばれてきた。
私と殿下の前に食事が並べられる。
(殿下のお口に合うか不安だわ……)
そんなことを考えながらハラハラしていたそのとき、晩餐会が始まってからずっと黙り込んでいたラウルが突然口を開いた。
「今日の食事は本当に美味しそうですね、特にこの……」
そこでラウルは私をチラリと見た。
「――お魚とか」
「……」
(それさっきも言ってたけど……ラウルってそんなに魚料理が好きだったかしら……?)
血の繋がった姉弟ではあるものの、私は弟のことをあまりよく知らない。
何を好んで何を嫌うのか、特に興味も無かったから知ろうともしなかった。
「――とても美味しそうなので、僕が先に食べてしまいますね」
そう言ってラウルが魚料理を口に運んだ。
そのときだった――
「ぐっ!?」
突然うめき声を上げたかと思うと、彼の口から真っ赤な鮮血が溢れ出した。
そして椅子から崩れ落ち、仰向けに倒れた。
「ラウル!?」
それを見たお父様が急いで弟に駆け寄って体を揺さぶった。
部屋の隅に控えていた使用人たちも大慌てだ。
私はというと、苦しむ弟の様子をただじっと見つめていることしか出来なかった。
(何が起きているの……!?)
「ああ、そろそろ向かおうか」
しばらく庭園で過ごした後、私たちは晩餐会が行われる会場へと移動した。
「楽しみだな、貴族家で食事をするなんて初めてだ」
「そ、そんなに期待しないでください……お口に合うかどうか分かりませんから」
「毒入りでない限りは平気だ、私はどんなものでも美味しく感じる舌だからな」
「じょ、冗談はやめてください……!」
殿下は焦る私を見てハハハと声を上げて笑った。
慣れていないから、こうやってからかうのはやめてほしいものだ。
(殿下が冗談を言う人だったなんて……)
しかし、彼の意外な一面を見れて嬉しいという気持ちも無いことは無かった。
そして会場に入る前、私たちはある人物と出会った。
「ラウル……?」
「姉さん……………王太子殿下も」
扉の前で立ち尽くしていたのは弟のラウルだった。
(どうして中に入らないのかしら……?)
気になった私が彼に声を掛けた。
「ラウル、貴方一体……」
「――王太子殿下と姉さんが来るのを待っていたんです」
その言葉に、私は驚いてラウルを見た。
「え?私たちを?」
「はい、王太子殿下ともっと親しくさせていただきたいと思っていたので」
「ラウル……」
ラウルはそう言うと、王太子殿下に笑いかけた。
この笑みが本心かどうかなんて分からない。
(ラウル……貴方一体何を考えているの?)
急に私と殿下と仲良くなりたいだなんて。
王太子殿下は探るようにラウルの顔をしばらくじっと見つめていた。
「殿下、改めてご挨拶をさせていただきます。カルメリア侯爵家の長男、ラウルと申します。いつも姉がお世話になっています」
「……ああ」
殿下は素っ気なく返事をした後、私の方を向いた。
「アリス嬢、中に入ろう」
「あ、はい……」
私の腕を掴んで扉に手を掛けたそのとき、ラウルがふいに口を開いた。
「――ところで」
「……?」
後ろを振り返ると、弟が口元に笑みを浮かべてこちらを見ていた。
「今日の晩餐会ではとても美味しい魚料理が出るようですよ」
「……急に何の話だ?」
「いえ、ただ楽しみだなぁと思っただけです」
「……」
ラウルはそれだけ言うと私たちの横を通り過ぎて中へと入って行った。
私はそんな弟の後ろ姿をじっと見つめた。
(何かしら……?何か変だわ……)
今日のラウルはいつもと何かが違った。
***
「アリス、殿下との時間は楽しかったか?」
「はい、お父様」
「そうかそうか、それは良かった!」
晩餐会が始まってすぐ、父が隣に座る私に話しかけた。
「殿下はいかがでしたか?」
「ああ、とても有意義な時間を過ごせたよ」
「本当に良かったです」
それからしばらくして、使用人たちによって料理が運ばれてきた。
私と殿下の前に食事が並べられる。
(殿下のお口に合うか不安だわ……)
そんなことを考えながらハラハラしていたそのとき、晩餐会が始まってからずっと黙り込んでいたラウルが突然口を開いた。
「今日の食事は本当に美味しそうですね、特にこの……」
そこでラウルは私をチラリと見た。
「――お魚とか」
「……」
(それさっきも言ってたけど……ラウルってそんなに魚料理が好きだったかしら……?)
血の繋がった姉弟ではあるものの、私は弟のことをあまりよく知らない。
何を好んで何を嫌うのか、特に興味も無かったから知ろうともしなかった。
「――とても美味しそうなので、僕が先に食べてしまいますね」
そう言ってラウルが魚料理を口に運んだ。
そのときだった――
「ぐっ!?」
突然うめき声を上げたかと思うと、彼の口から真っ赤な鮮血が溢れ出した。
そして椅子から崩れ落ち、仰向けに倒れた。
「ラウル!?」
それを見たお父様が急いで弟に駆け寄って体を揺さぶった。
部屋の隅に控えていた使用人たちも大慌てだ。
私はというと、苦しむ弟の様子をただじっと見つめていることしか出来なかった。
(何が起きているの……!?)
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