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37 真相
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「ラ、ラウル……?」
私は服が血で真っ赤になった弟が運ばれていく様子を呆然と眺めていた。
何が起こったのか未だに理解出来ていなかった。
(ど、どうして急に……まさか、食事に毒が……?)
先ほどのラウルの様子からしてそれしか考えられないが、だとしたら一体誰が毒を。
顔を青くしたお父様が震える声で口を開いた。
「殿下、せっかく来ていただいたのにこのようなことになって申し訳ございません……」
「……別に構わない。それより、犯人を捜すのが最優先ではないか?侯爵令息を毒殺しようとしたんだ。すぐに調べた方がいい」
「はい、その通りでございます」
それからすぐに食事を運んだ侍女が私たちの前に連れ出された。
「わ、私は何も知りません!ラウル様を殺そうだなんて、そんな恐ろしいこと考えるわけがないではありませんか!」
「しらばっくれるのもいい加減にしろ!お前がラウルに毒を盛ったんだろう!」
「私ではありません、旦那様!!!」
「お前、この期に及んで……!」
怒り狂ったお父様が剣を抜き、侍女を切り捨てようとした。
しかし、それを止めたのは殿下だった。
「待て、侯爵」
「殿下……」
「息子に毒を盛られて怒り心頭なのは分かるが、少し落ち着け。私の目には、この者が嘘をついているようには見えない」
「ですが……」
殿下はしゃがみ込んで視線を合わせると、目をじっと見つめて尋ねた。
「おい、お前に食事を運ぶように言ったのは誰だ?」
「じ、侍女長です……」
「そうか……その者を今すぐ連れてこい」
彼女の証言で、今度は侍女長が連れ出された。
「お前がラウルをやったのか!!!」
「だ、旦那様……」
彼女は先ほどの侍女よりも顔を真っ青にして体を小刻みに震わせている。
今回の毒殺事件について何かを知っていることは間違いなさそうだ。
「答えろ!!!」
「あ……あ……」
お父様の圧に耐えられなくなったのか、ついに彼女は泣き出してしまった。
(散々私を馬鹿にしてきた人だけど……何だか少し可哀相ね)
そんな二人を見た殿下がハァとため息をついた。
「――侯爵、そんな風に尋ねれば誰も答えられないだろう」
「殿下……」
殿下は侍女長に一歩近付くと、彼女を見下ろした。
「お前は今回の事件の真相を知っている、そうだろう?」
「は、はい……」
隠し通せないと思ったのか、侍女長は素直に罪を認めた。
「全て包み隠さず話せ、お前が侯爵令息に毒を盛ったのか?」
「私……そんなつもりは……」
「どういう意味だ?」
その問いに、侍女長は再びポロポロと涙を流した。
そして衝撃の真実を語り始めた。
「ア、アリスお嬢様に……毒を盛るようにと……なのに……ラウル様が倒れて……」
「……本当はアリス嬢に毒を飲ませるつもりだったと?」
「……」
彼女は何も答えなかったが、まさにそれが肯定を意味していた。
(え、私……?)
本当のターゲットは私だったのだと知って驚きを隠せない。
殿下が冷たい声で尋問を続けた。
「それを指示したのは誰だ?」
「そ、それは……」
「何だ、言え!王太子殿下の婚約者になるアリスを殺そうとするだなんてどこのどいつだ!」
怒りで顔を真っ赤にした父が叫んだ。
「ラ、ラウルお坊ちゃまです……」
「……………何だと?」
それを聞いた途端、先ほどまで怒鳴っていたお父様の顔が固まった。
「嘘をつくのはよせ……ラウルがそんなこと……」
「い、いいえ!本当です!私はラウル様にアリスお嬢様の皿に毒を盛るように命じられました!何故か毒を飲んだのはラウル様でしたが……」
「冗談だろう……?」
侍女長の証言を聞いたお父様はショックで言葉にならないようだった。
(私に毒を盛るだなんて……でもラウルならやりかねないわね)
弟のラウルはこれまで数多くの悪事に手を染めてきた。
それは当然お父様も知っていることであり、父はそんな弟の悪行を黙認していたのだ。
ラウルがああなったのは間違いなく甘やかしすぎた両親のせいである。
「殿下、少し席を外してもよろしいでしょうか……」
「ああ、かまわない。こんなことがあって複雑な心境だろうからな」
「寛大なお心に感謝致します……」
殿下の許可を得て、お父様は使用人に支えられながら部屋を出て行った。
私は服が血で真っ赤になった弟が運ばれていく様子を呆然と眺めていた。
何が起こったのか未だに理解出来ていなかった。
(ど、どうして急に……まさか、食事に毒が……?)
先ほどのラウルの様子からしてそれしか考えられないが、だとしたら一体誰が毒を。
顔を青くしたお父様が震える声で口を開いた。
「殿下、せっかく来ていただいたのにこのようなことになって申し訳ございません……」
「……別に構わない。それより、犯人を捜すのが最優先ではないか?侯爵令息を毒殺しようとしたんだ。すぐに調べた方がいい」
「はい、その通りでございます」
それからすぐに食事を運んだ侍女が私たちの前に連れ出された。
「わ、私は何も知りません!ラウル様を殺そうだなんて、そんな恐ろしいこと考えるわけがないではありませんか!」
「しらばっくれるのもいい加減にしろ!お前がラウルに毒を盛ったんだろう!」
「私ではありません、旦那様!!!」
「お前、この期に及んで……!」
怒り狂ったお父様が剣を抜き、侍女を切り捨てようとした。
しかし、それを止めたのは殿下だった。
「待て、侯爵」
「殿下……」
「息子に毒を盛られて怒り心頭なのは分かるが、少し落ち着け。私の目には、この者が嘘をついているようには見えない」
「ですが……」
殿下はしゃがみ込んで視線を合わせると、目をじっと見つめて尋ねた。
「おい、お前に食事を運ぶように言ったのは誰だ?」
「じ、侍女長です……」
「そうか……その者を今すぐ連れてこい」
彼女の証言で、今度は侍女長が連れ出された。
「お前がラウルをやったのか!!!」
「だ、旦那様……」
彼女は先ほどの侍女よりも顔を真っ青にして体を小刻みに震わせている。
今回の毒殺事件について何かを知っていることは間違いなさそうだ。
「答えろ!!!」
「あ……あ……」
お父様の圧に耐えられなくなったのか、ついに彼女は泣き出してしまった。
(散々私を馬鹿にしてきた人だけど……何だか少し可哀相ね)
そんな二人を見た殿下がハァとため息をついた。
「――侯爵、そんな風に尋ねれば誰も答えられないだろう」
「殿下……」
殿下は侍女長に一歩近付くと、彼女を見下ろした。
「お前は今回の事件の真相を知っている、そうだろう?」
「は、はい……」
隠し通せないと思ったのか、侍女長は素直に罪を認めた。
「全て包み隠さず話せ、お前が侯爵令息に毒を盛ったのか?」
「私……そんなつもりは……」
「どういう意味だ?」
その問いに、侍女長は再びポロポロと涙を流した。
そして衝撃の真実を語り始めた。
「ア、アリスお嬢様に……毒を盛るようにと……なのに……ラウル様が倒れて……」
「……本当はアリス嬢に毒を飲ませるつもりだったと?」
「……」
彼女は何も答えなかったが、まさにそれが肯定を意味していた。
(え、私……?)
本当のターゲットは私だったのだと知って驚きを隠せない。
殿下が冷たい声で尋問を続けた。
「それを指示したのは誰だ?」
「そ、それは……」
「何だ、言え!王太子殿下の婚約者になるアリスを殺そうとするだなんてどこのどいつだ!」
怒りで顔を真っ赤にした父が叫んだ。
「ラ、ラウルお坊ちゃまです……」
「……………何だと?」
それを聞いた途端、先ほどまで怒鳴っていたお父様の顔が固まった。
「嘘をつくのはよせ……ラウルがそんなこと……」
「い、いいえ!本当です!私はラウル様にアリスお嬢様の皿に毒を盛るように命じられました!何故か毒を飲んだのはラウル様でしたが……」
「冗談だろう……?」
侍女長の証言を聞いたお父様はショックで言葉にならないようだった。
(私に毒を盛るだなんて……でもラウルならやりかねないわね)
弟のラウルはこれまで数多くの悪事に手を染めてきた。
それは当然お父様も知っていることであり、父はそんな弟の悪行を黙認していたのだ。
ラウルがああなったのは間違いなく甘やかしすぎた両親のせいである。
「殿下、少し席を外してもよろしいでしょうか……」
「ああ、かまわない。こんなことがあって複雑な心境だろうからな」
「寛大なお心に感謝致します……」
殿下の許可を得て、お父様は使用人に支えられながら部屋を出て行った。
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