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このことは、内密に。第7話
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「スイ、準備出来た?」
「うん。行こっか」
2人でマスクをして帽子を被り、探偵事務所を出た。
今日の依頼内容は対象者を尾行し、1日の動きを暴くことだった。
最も探偵らしい仕事と言えるかもしれない。
「ターゲットは隣駅にいるんだったよね?」
確認の為に問うとユニは頷いた。
「そう。メインは公園。そこまで栄えてないけどなるべく周りの人に見つからないように気を付けないと」
「了解。見つからないようにするのは得意だよ」
「確かに。あれだけデートして周りにバレてないんだからそうかも」
「ちょっと待って!そんなにデートしてないから!」
慌てて否定する。俺の反応にユニはニヤッと笑った。
ユニのイタズラだということを一瞬で理解した。
「もう。本当最近ユニって俺で遊んでるよね」
「まぁね。だって楽しいんだもん」
「いつかやり返してやるから」
「それはそれで楽しみかも」
他愛ない話をしながら電車を降りる。
ターゲットがいるという公園は駅から5分程度で着くらしい。
事前に調べた情報によるとこの時間はちょうど公園のベンチにいるはずだが、その通りだった。
ターゲットはベンチに座り、サンドイッチを頬張っている。
彼は毎日仕事に行く前この公園で朝ご飯を食べるという事前情報に間違いはなかった。こっそりとその姿を撮影する。
『スイ。食べてる物も映るように撮れる?』
ユニからのテレパシーを受信した俺は小さく頷いて撮影する位置を変えた。
こういう時喋らなくても連絡を取れるのは便利だ。口を動かすことなく意図を伝えることが出来る。
改めて撮影し直し、ユニにテレパシーを送る。
『こういう感じの写真で大丈夫?』
言葉と共に目に映した写真を脳内で見せ、ユニからの返事を待つ。
『うん、大丈夫。そろそろ移動しそう。気付かれないようについて行こう』
『了解』
ターゲットは立ち上がり、身体を伸ばしてから歩き出した。
向かう先は仕事場のようだ。事前情報の通りの道を歩いている。
一定の間隔を空けてついて行く。
ユニは俺から見える範囲にはいない。既に先回りしているのだろう。
大きなビルに入って行ったターゲットを見届ける。
ここから先はユニの仕事だ。
『ユニ。間違いなく入ったよ』
『わかった。じゃあスイはしばらく時間潰してて。昼に合流しよう』
『昼はラーメン屋かファミレスに行くことが多いんだったよね?』
『そう。分かり次第連絡する』
ユニは上手いことターゲットの仕事場に潜むことが出来たようだ。
しばらくはユニに任せることにして、怪しまれないよう俺はカフェに入った。
合流するのは4時間ぐらい先になるだろう。
その間にもうひとつの仕事を済ませようとパソコンを開いた。
次のコンサートに向けて考えることは沢山ある。衣装や曲順、セットのイメージなど出来るだけ俺は自分でこなすようにしていた。
大きな会場になればなるほど考えることは多くなる。
(ま、それが楽しいんだけどね)
アイドルになりたいと考え始めた時からこういった部分にも手を出したいと思っていた。
パソコンの画面上に曲名を並べ、イヤホンで自分たちの歌を聞く。
曲順を決めることは重大な作業だ。
何度も順番を変えて歌を聞き直し、流れを確認する。
ある程度出来上がった所で今度は違うファイルを開いた。
衣装担当のスタッフが送ってくれたもので、衣装のラフ画が描かれている画像だ。今回のコンサートのテーマにピッタリと合っている衣装だが、少し面白味がなかった。
(うーん……)
何かを変えたいがその何かが浮かばない。
ヒントはないかと考えながらスマホをいじって──ピンと来た。
衣装の一部に大きな薔薇の飾りを付け、その薔薇に暗闇で光る細工を施す。
それぞれの歌に合わせて様々な色に変わっていく薔薇の飾り、というものは新鮮で面白そうな気がした。
(悩んだ時っていつも綴くんのおかげで閃くなぁ)
今もそうだ。綴くんとの2ショットにレインボーローズが写っているのを見て閃いた。
ラフ画に薔薇のイラストと細工について書き込む。
それをスタッフに送信した所でユニから連絡が来た。
気付いたらもう4時間以上経っていたらしい。
ファミレスに来るよう言われ、俺は荷物を詰めてカフェを後にした。
「ユニ、お疲れ様。大丈夫だった?」
先に席についていたユニの元へ行き、対面に座る。
「うん。問題なかった。しっかり撮影も出来たし」
「良かった。あ、ターゲットはあそこにいるね。見やすい位置だ」
「そう。いい位置見つけたから店員さんに頼んだんだ。あとで近く通って写真撮らなきゃ」
「それ、俺がやるよ。任せて」
「わかった。お願いする」
2人でメニュー表を開き、パラパラと捲る。
ファミレスには和洋中の他、スイーツにドリンクと美味しそうな物が沢山並んでいる。
「折角だから高い物頼もうか。依頼人さんに請求出来るしさ」
ニシシと笑って言うとユニは苦笑した。
「確かにね。俺はハンバーグ定食にしようかな。スイーツも頼もう」
「あー、ハンバーグもいいなぁ。言われたら気になってきた」
「スイはオムライスでしょ?」
「うっ……バレてて悔しい」
「スイがオムライス好きなんて有名だから。雑誌にも書いてあったよ」
わざとらしくため息をつくユニに俺は何も反論出来なかった。
「まぁね。今日もオムライスにするよ。デザートはチョコバナナパフェで」
「俺は抹茶シフォンケーキかな。注文しといて」
「了解。ドリンクバーもつけとくね」
端末をタップして注文を終える。
ユニに向かって目配せした俺は立ち上がり、ドリンクバーを取りに行くついでにターゲットの方へ向かった。
ターゲットは仲間と一緒にご飯を食べている。運良く通路側の席に座っていた。
近くを通る際、素知らぬ顔でスマホをいじり撮影した。
話に夢中な彼が気付くことはなかった。
ドリンクバーで2人分のドリンクを取って戻るとユニはククッと笑っていた。
「何?」
「よくバレなかったなって思って。知ってる俺からすれば白々しかったよ」
「えっ、嘘!?良かった、バレなくて」
自分としては上手くやったつもりだが、まだまだ甘いらしい。
やはりこういうのは俺よりもユニの方がずっと向いている。
少しでもユニの役に立てたら、と俺も頑張ってはいるのだけれど。
「全然大丈夫だと思うけどね。俺から見たらって話。ドリンクありがとう」
「うぅ……次は気を付けるよ。で、写真これ」
スマホの画面を見せるとユニは「うん、大丈夫」と頷いた。
「これで昼までの写真は集まった」
「でも不思議だよね、今回の依頼人。ターゲットの1日の写真が欲しいなんて」
「会った時に思ったけど重度の心配性みたい。自分が見れない時旦那さんが何してるのかが気になって仕方なかったんだって」
「てっきり浮気の心配してるのかと思ったけどそういうことじゃないんだね」
オレンジジュースを飲みつつユニに目を向ける。
ユニは何故かニイッと笑っていた。
「ど、どうしたの?」
「スイは心配してるのかなって思って」
「浮気のこと?そんな心配してないよ。綴くんは浮気出来るような人じゃないし」
「真面目だもんね。でももしそういうことがあったらどう思う?実はスイよりも好きな人がいるって知ったら嫉妬する?」
「嫉妬かぁ」
腕を組んで思案する。そもそも綴くんが浮気をするということ自体が考えられないけれど、もし仮にそんなことがあったら──自分はどう思うだろうか。
嫉妬よりも怒りよりも寂しいと思うかもしれない。
気持ちがすれ違ってしまったという事実にショックを受けそうな気がする。
「だから感情的には寂しいとか悲しいって感じかな」
「成程。ちなみに俺は綴さんが浮気したら本気でキレるから」
笑みを消して言うユニは本気でキレるだろう。怒っているユニはあまり見たことはないが、相当怖いことは雰囲気でわかった。
「う、うん。わかった」
そう言って苦笑いを返すことしか出来なかった。
午後もユニは仕事場に潜入し、俺は先程とは別のカフェで仕事の続きをしていた。
探偵とアイドルの両立は決して簡単とは言えないが、俺たちは上手くやっていると思う。何より2つの夢を叶えることが出来て俺もユニも幸せだった。
だからこそどちらも中途半端にはしたくない。
どれだけ忙しくても力を抜くことはなかったし、その努力が今に繋がったのだろう。
(探偵業もアイドルも順調で私生活も充実してるなんて夢みたいだ)
ここまで来るのは困難な道のりだった。
けれど今の幸せを思えば苦労したことなどどうでもいいとさえ思える。
(これからも維持出来るように頑張らないとね)
パソコンに衣装について承諾の返信が届いた。
絵が下手な自分の説明で上手く伝わるか心配だったが、衣装担当のスタッフは俺の考えを読み取ってくれたようでほっとする。
曲順もある程度決定し、あとはユニに最終確認をしてからスタッフに送信するだけだ。
一区切りついた所でコーヒーを飲み、身体を伸ばした。
あまり混んでいない店内はのびのびと過ごせてちょうど良い。
気分転換に窓の外を見るとちょうど手を振られているのが見えた。
「あっ!」
驚きで思わず声を出してしまい、咄嗟に自分の口を塞ぐ。
目の前にいたのはここにいるはずのない恋人、綴くんだった。
手招きすると綴くんはカフェの中に入ってきた。
「よっ」
「待って待って!何で綴くんがここにいるの?」
「隣駅だぜ?散歩圏内だ。近くに公園もあるし撮影しに来てたとこ。スイが窓際で真剣に仕事してるみたいだったから近付くか悩んだけどな。ちょっとコーヒー注文してくるわ」
レジに向かう綴くんを見つつも俺はまだ信じられない気持ちでいっぱいだった。
確かに綴くんは近くに住んでいるけれど、偶然出会うなど思いもしなかった。
トレーを持ち、隣の席に座った綴くんは今日もカッコイイ。
「てか俺来ちまって大丈夫だったのか?」
「大丈夫ってかすごく嬉しい。今日は探偵の仕事してるんだけどメインはユニがやってるんだよね。俺は待機中にアイドルの方の事務作業してたんだ」
「大変だな、お前らは」
「大変だけど幸せだよ。綴くんが来てくれたからもっと幸せ」
にっこり笑って言うと綴くんは照れたように目を逸らした。
いつまで経ってもこういう反応をしてくれる綴くんは本当に可愛い。
「ならいいけど。んじゃ、ユニから連絡来るまでここにいるわ」
「本当?ありがとう。今日はどんな写真撮ったの?」
「天気良いから青空中心に撮ってた。あとでキラリがアップすると思うからお楽しみに」
「うん!楽しみにしてる。キラリちゃんはどんどん人気になっていくね」
俺がキラリちゃんの存在を知った時から既に有名ではあった。
けれど最近ますますファンが増えた気がする。
綴くん本人は気にした様子もなく肩を竦めただけだった。
「何でかわかんねぇんだけどな。この頃フォロワー急増して驚いてる」
「だって写真も加工も綺麗だもん。純粋にキラリちゃんの良さに気付いた人が多いんだと思うな」
「スイの言い方、嫉妬っぽい感じだな」
「えっ」
言われてみれば確かにそうかもしれない。先程ユニには綴くんに対して嫉妬することはないと言ったけれど、キラリちゃんに対しては嫉妬心が湧く。
別に自分のモノだと思っているわけではないはずだが、何となく面白くないと思ってしまう自分がいた。
「うーん……やっぱり嫉妬してるのかな、俺」
「そうかもな。まぁでもキラリの秘密知ってんのもスイとユニぐらいだし他のファンより一歩進んでると思えばいいんじゃねぇ?そもそもキラリって奴はいねぇわけだし」
「わ、確かに。じゃあ俺が1番のキラリちゃんファンだ」
ふふっと笑うと綴くんも苦笑していた。
コーヒーを飲み終えた俺はもう一杯注文しに行く。ココアを持って戻ると綴くんが「やっぱり」と呟いた。
「ココアにすると思った」
「そう?」
「昼飯はオムライスか?」
「……綴くんも超能力に目覚めたの?」
「大体スイは好きなもんしか食わねぇだろ。特に外食はな」
「むぅ……確かに」
ユニにも綴くんにもバレてしまう俺は意外とわかりやすい人間なのかもしれない。
『スイ、駅前まで来られる?』
ユニからのテレパシーを受信したのは綴くんと出会って2時間経過した頃だった。
『オーケー。10分で行くよ』
返事をしてから綴くんに説明すると、綴くんは「じゃあ俺も撮影戻るな」と席を立った。
「綴くん、本当にありがとう。楽しかった」
「こっちこそ。スイに会えて良かったぜ。また暇になったら連絡してくれ」
「うん、するする!またデートしようね」
「おぅ。またな」
公園の方へ向かっていく綴くんを見届けてから駅前へ向かう。
壁の前に立つユニを見つけ手を上げると俺の顔を見てニイッと意地悪く笑った。
「いいことあった?」
「聞かなくても分かってるんでしょ」
「何となくそう思っただけ。何があったかまではわからないって」
「偶然綴くんに会ったんだ。一緒に話してた」
「そんな偶然ある?凄いね」
驚いた顔をするユニを久しぶりに見た気がする。何事にも動じないユニにとっても予想外のことだったようだ。
「ね、俺もビックリした。公園で撮影してたんだって。そういえばもう仕事終わりでいいの?」
「うん、大丈夫。仕事終わるまでの写真を撮ることが依頼人の要望だったから。今回も上手くいったね」
「良かった。じゃ、帰ろっか」
「あ、夕飯食べてから帰らない?この前良いお店教えて貰ったんだ」
「誰に?」
疑問に思って尋ねると何故かユニはウインクをしただけで教えてくれなかった。
意味深な仕草は余計に気になってしまう。
最近ユニが特別仲良い人物と言えば──。
「カイラさん?」
「さぁね。お店、こっちだよ」
ユニに腕を引っ張られて確信する。マネージャーであるカイラさんと何かがあったのだと。
「ねぇ、ユニ!お店行ったらカイラさんとの関係教えてよ」
「特に何もないってば。さ、行こ行こ」
明らかに誤魔化そうとしているユニは強引に俺を引っ張っていく。
こうなったら絶対に2人の関係性を暴いてやると決めてお店へ向かったのだった──。
探偵としてもアイドルとしても正直こんなに上手くいくとは思っていなかった。
些細なことも他愛ないことも、今の俺には全てが幸せに感じる。
大好きなユニがいて、綴くんがいて──2人に愛してもらっていて。
これ以上の幸せなんてないから。
この先もずっと、続いていきますように。
「うん。行こっか」
2人でマスクをして帽子を被り、探偵事務所を出た。
今日の依頼内容は対象者を尾行し、1日の動きを暴くことだった。
最も探偵らしい仕事と言えるかもしれない。
「ターゲットは隣駅にいるんだったよね?」
確認の為に問うとユニは頷いた。
「そう。メインは公園。そこまで栄えてないけどなるべく周りの人に見つからないように気を付けないと」
「了解。見つからないようにするのは得意だよ」
「確かに。あれだけデートして周りにバレてないんだからそうかも」
「ちょっと待って!そんなにデートしてないから!」
慌てて否定する。俺の反応にユニはニヤッと笑った。
ユニのイタズラだということを一瞬で理解した。
「もう。本当最近ユニって俺で遊んでるよね」
「まぁね。だって楽しいんだもん」
「いつかやり返してやるから」
「それはそれで楽しみかも」
他愛ない話をしながら電車を降りる。
ターゲットがいるという公園は駅から5分程度で着くらしい。
事前に調べた情報によるとこの時間はちょうど公園のベンチにいるはずだが、その通りだった。
ターゲットはベンチに座り、サンドイッチを頬張っている。
彼は毎日仕事に行く前この公園で朝ご飯を食べるという事前情報に間違いはなかった。こっそりとその姿を撮影する。
『スイ。食べてる物も映るように撮れる?』
ユニからのテレパシーを受信した俺は小さく頷いて撮影する位置を変えた。
こういう時喋らなくても連絡を取れるのは便利だ。口を動かすことなく意図を伝えることが出来る。
改めて撮影し直し、ユニにテレパシーを送る。
『こういう感じの写真で大丈夫?』
言葉と共に目に映した写真を脳内で見せ、ユニからの返事を待つ。
『うん、大丈夫。そろそろ移動しそう。気付かれないようについて行こう』
『了解』
ターゲットは立ち上がり、身体を伸ばしてから歩き出した。
向かう先は仕事場のようだ。事前情報の通りの道を歩いている。
一定の間隔を空けてついて行く。
ユニは俺から見える範囲にはいない。既に先回りしているのだろう。
大きなビルに入って行ったターゲットを見届ける。
ここから先はユニの仕事だ。
『ユニ。間違いなく入ったよ』
『わかった。じゃあスイはしばらく時間潰してて。昼に合流しよう』
『昼はラーメン屋かファミレスに行くことが多いんだったよね?』
『そう。分かり次第連絡する』
ユニは上手いことターゲットの仕事場に潜むことが出来たようだ。
しばらくはユニに任せることにして、怪しまれないよう俺はカフェに入った。
合流するのは4時間ぐらい先になるだろう。
その間にもうひとつの仕事を済ませようとパソコンを開いた。
次のコンサートに向けて考えることは沢山ある。衣装や曲順、セットのイメージなど出来るだけ俺は自分でこなすようにしていた。
大きな会場になればなるほど考えることは多くなる。
(ま、それが楽しいんだけどね)
アイドルになりたいと考え始めた時からこういった部分にも手を出したいと思っていた。
パソコンの画面上に曲名を並べ、イヤホンで自分たちの歌を聞く。
曲順を決めることは重大な作業だ。
何度も順番を変えて歌を聞き直し、流れを確認する。
ある程度出来上がった所で今度は違うファイルを開いた。
衣装担当のスタッフが送ってくれたもので、衣装のラフ画が描かれている画像だ。今回のコンサートのテーマにピッタリと合っている衣装だが、少し面白味がなかった。
(うーん……)
何かを変えたいがその何かが浮かばない。
ヒントはないかと考えながらスマホをいじって──ピンと来た。
衣装の一部に大きな薔薇の飾りを付け、その薔薇に暗闇で光る細工を施す。
それぞれの歌に合わせて様々な色に変わっていく薔薇の飾り、というものは新鮮で面白そうな気がした。
(悩んだ時っていつも綴くんのおかげで閃くなぁ)
今もそうだ。綴くんとの2ショットにレインボーローズが写っているのを見て閃いた。
ラフ画に薔薇のイラストと細工について書き込む。
それをスタッフに送信した所でユニから連絡が来た。
気付いたらもう4時間以上経っていたらしい。
ファミレスに来るよう言われ、俺は荷物を詰めてカフェを後にした。
「ユニ、お疲れ様。大丈夫だった?」
先に席についていたユニの元へ行き、対面に座る。
「うん。問題なかった。しっかり撮影も出来たし」
「良かった。あ、ターゲットはあそこにいるね。見やすい位置だ」
「そう。いい位置見つけたから店員さんに頼んだんだ。あとで近く通って写真撮らなきゃ」
「それ、俺がやるよ。任せて」
「わかった。お願いする」
2人でメニュー表を開き、パラパラと捲る。
ファミレスには和洋中の他、スイーツにドリンクと美味しそうな物が沢山並んでいる。
「折角だから高い物頼もうか。依頼人さんに請求出来るしさ」
ニシシと笑って言うとユニは苦笑した。
「確かにね。俺はハンバーグ定食にしようかな。スイーツも頼もう」
「あー、ハンバーグもいいなぁ。言われたら気になってきた」
「スイはオムライスでしょ?」
「うっ……バレてて悔しい」
「スイがオムライス好きなんて有名だから。雑誌にも書いてあったよ」
わざとらしくため息をつくユニに俺は何も反論出来なかった。
「まぁね。今日もオムライスにするよ。デザートはチョコバナナパフェで」
「俺は抹茶シフォンケーキかな。注文しといて」
「了解。ドリンクバーもつけとくね」
端末をタップして注文を終える。
ユニに向かって目配せした俺は立ち上がり、ドリンクバーを取りに行くついでにターゲットの方へ向かった。
ターゲットは仲間と一緒にご飯を食べている。運良く通路側の席に座っていた。
近くを通る際、素知らぬ顔でスマホをいじり撮影した。
話に夢中な彼が気付くことはなかった。
ドリンクバーで2人分のドリンクを取って戻るとユニはククッと笑っていた。
「何?」
「よくバレなかったなって思って。知ってる俺からすれば白々しかったよ」
「えっ、嘘!?良かった、バレなくて」
自分としては上手くやったつもりだが、まだまだ甘いらしい。
やはりこういうのは俺よりもユニの方がずっと向いている。
少しでもユニの役に立てたら、と俺も頑張ってはいるのだけれど。
「全然大丈夫だと思うけどね。俺から見たらって話。ドリンクありがとう」
「うぅ……次は気を付けるよ。で、写真これ」
スマホの画面を見せるとユニは「うん、大丈夫」と頷いた。
「これで昼までの写真は集まった」
「でも不思議だよね、今回の依頼人。ターゲットの1日の写真が欲しいなんて」
「会った時に思ったけど重度の心配性みたい。自分が見れない時旦那さんが何してるのかが気になって仕方なかったんだって」
「てっきり浮気の心配してるのかと思ったけどそういうことじゃないんだね」
オレンジジュースを飲みつつユニに目を向ける。
ユニは何故かニイッと笑っていた。
「ど、どうしたの?」
「スイは心配してるのかなって思って」
「浮気のこと?そんな心配してないよ。綴くんは浮気出来るような人じゃないし」
「真面目だもんね。でももしそういうことがあったらどう思う?実はスイよりも好きな人がいるって知ったら嫉妬する?」
「嫉妬かぁ」
腕を組んで思案する。そもそも綴くんが浮気をするということ自体が考えられないけれど、もし仮にそんなことがあったら──自分はどう思うだろうか。
嫉妬よりも怒りよりも寂しいと思うかもしれない。
気持ちがすれ違ってしまったという事実にショックを受けそうな気がする。
「だから感情的には寂しいとか悲しいって感じかな」
「成程。ちなみに俺は綴さんが浮気したら本気でキレるから」
笑みを消して言うユニは本気でキレるだろう。怒っているユニはあまり見たことはないが、相当怖いことは雰囲気でわかった。
「う、うん。わかった」
そう言って苦笑いを返すことしか出来なかった。
午後もユニは仕事場に潜入し、俺は先程とは別のカフェで仕事の続きをしていた。
探偵とアイドルの両立は決して簡単とは言えないが、俺たちは上手くやっていると思う。何より2つの夢を叶えることが出来て俺もユニも幸せだった。
だからこそどちらも中途半端にはしたくない。
どれだけ忙しくても力を抜くことはなかったし、その努力が今に繋がったのだろう。
(探偵業もアイドルも順調で私生活も充実してるなんて夢みたいだ)
ここまで来るのは困難な道のりだった。
けれど今の幸せを思えば苦労したことなどどうでもいいとさえ思える。
(これからも維持出来るように頑張らないとね)
パソコンに衣装について承諾の返信が届いた。
絵が下手な自分の説明で上手く伝わるか心配だったが、衣装担当のスタッフは俺の考えを読み取ってくれたようでほっとする。
曲順もある程度決定し、あとはユニに最終確認をしてからスタッフに送信するだけだ。
一区切りついた所でコーヒーを飲み、身体を伸ばした。
あまり混んでいない店内はのびのびと過ごせてちょうど良い。
気分転換に窓の外を見るとちょうど手を振られているのが見えた。
「あっ!」
驚きで思わず声を出してしまい、咄嗟に自分の口を塞ぐ。
目の前にいたのはここにいるはずのない恋人、綴くんだった。
手招きすると綴くんはカフェの中に入ってきた。
「よっ」
「待って待って!何で綴くんがここにいるの?」
「隣駅だぜ?散歩圏内だ。近くに公園もあるし撮影しに来てたとこ。スイが窓際で真剣に仕事してるみたいだったから近付くか悩んだけどな。ちょっとコーヒー注文してくるわ」
レジに向かう綴くんを見つつも俺はまだ信じられない気持ちでいっぱいだった。
確かに綴くんは近くに住んでいるけれど、偶然出会うなど思いもしなかった。
トレーを持ち、隣の席に座った綴くんは今日もカッコイイ。
「てか俺来ちまって大丈夫だったのか?」
「大丈夫ってかすごく嬉しい。今日は探偵の仕事してるんだけどメインはユニがやってるんだよね。俺は待機中にアイドルの方の事務作業してたんだ」
「大変だな、お前らは」
「大変だけど幸せだよ。綴くんが来てくれたからもっと幸せ」
にっこり笑って言うと綴くんは照れたように目を逸らした。
いつまで経ってもこういう反応をしてくれる綴くんは本当に可愛い。
「ならいいけど。んじゃ、ユニから連絡来るまでここにいるわ」
「本当?ありがとう。今日はどんな写真撮ったの?」
「天気良いから青空中心に撮ってた。あとでキラリがアップすると思うからお楽しみに」
「うん!楽しみにしてる。キラリちゃんはどんどん人気になっていくね」
俺がキラリちゃんの存在を知った時から既に有名ではあった。
けれど最近ますますファンが増えた気がする。
綴くん本人は気にした様子もなく肩を竦めただけだった。
「何でかわかんねぇんだけどな。この頃フォロワー急増して驚いてる」
「だって写真も加工も綺麗だもん。純粋にキラリちゃんの良さに気付いた人が多いんだと思うな」
「スイの言い方、嫉妬っぽい感じだな」
「えっ」
言われてみれば確かにそうかもしれない。先程ユニには綴くんに対して嫉妬することはないと言ったけれど、キラリちゃんに対しては嫉妬心が湧く。
別に自分のモノだと思っているわけではないはずだが、何となく面白くないと思ってしまう自分がいた。
「うーん……やっぱり嫉妬してるのかな、俺」
「そうかもな。まぁでもキラリの秘密知ってんのもスイとユニぐらいだし他のファンより一歩進んでると思えばいいんじゃねぇ?そもそもキラリって奴はいねぇわけだし」
「わ、確かに。じゃあ俺が1番のキラリちゃんファンだ」
ふふっと笑うと綴くんも苦笑していた。
コーヒーを飲み終えた俺はもう一杯注文しに行く。ココアを持って戻ると綴くんが「やっぱり」と呟いた。
「ココアにすると思った」
「そう?」
「昼飯はオムライスか?」
「……綴くんも超能力に目覚めたの?」
「大体スイは好きなもんしか食わねぇだろ。特に外食はな」
「むぅ……確かに」
ユニにも綴くんにもバレてしまう俺は意外とわかりやすい人間なのかもしれない。
『スイ、駅前まで来られる?』
ユニからのテレパシーを受信したのは綴くんと出会って2時間経過した頃だった。
『オーケー。10分で行くよ』
返事をしてから綴くんに説明すると、綴くんは「じゃあ俺も撮影戻るな」と席を立った。
「綴くん、本当にありがとう。楽しかった」
「こっちこそ。スイに会えて良かったぜ。また暇になったら連絡してくれ」
「うん、するする!またデートしようね」
「おぅ。またな」
公園の方へ向かっていく綴くんを見届けてから駅前へ向かう。
壁の前に立つユニを見つけ手を上げると俺の顔を見てニイッと意地悪く笑った。
「いいことあった?」
「聞かなくても分かってるんでしょ」
「何となくそう思っただけ。何があったかまではわからないって」
「偶然綴くんに会ったんだ。一緒に話してた」
「そんな偶然ある?凄いね」
驚いた顔をするユニを久しぶりに見た気がする。何事にも動じないユニにとっても予想外のことだったようだ。
「ね、俺もビックリした。公園で撮影してたんだって。そういえばもう仕事終わりでいいの?」
「うん、大丈夫。仕事終わるまでの写真を撮ることが依頼人の要望だったから。今回も上手くいったね」
「良かった。じゃ、帰ろっか」
「あ、夕飯食べてから帰らない?この前良いお店教えて貰ったんだ」
「誰に?」
疑問に思って尋ねると何故かユニはウインクをしただけで教えてくれなかった。
意味深な仕草は余計に気になってしまう。
最近ユニが特別仲良い人物と言えば──。
「カイラさん?」
「さぁね。お店、こっちだよ」
ユニに腕を引っ張られて確信する。マネージャーであるカイラさんと何かがあったのだと。
「ねぇ、ユニ!お店行ったらカイラさんとの関係教えてよ」
「特に何もないってば。さ、行こ行こ」
明らかに誤魔化そうとしているユニは強引に俺を引っ張っていく。
こうなったら絶対に2人の関係性を暴いてやると決めてお店へ向かったのだった──。
探偵としてもアイドルとしても正直こんなに上手くいくとは思っていなかった。
些細なことも他愛ないことも、今の俺には全てが幸せに感じる。
大好きなユニがいて、綴くんがいて──2人に愛してもらっていて。
これ以上の幸せなんてないから。
この先もずっと、続いていきますように。
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死を覚悟して連れてこられた魔王城は、寒くて硬くて、居住性最悪のブラック環境だった!?
「こんなところで寝られるか!」
極限状態で発動したオメガ特有の『巣作り本能』と、神業レベルの裁縫スキルが火を噴く!
ゴミ同然の布切れをフカフカのクッションに、冷たい石床を極上のラグマットにリフォーム。
すると、不眠症で常にイライラしていた魔王ザルドリスが、リノの作った「巣」のあまりの快適さに陥落してしまい……?
「……貴様、私を堕落させる気か」
(※いいえ、ただ快適に寝たいだけです)
殺されるどころか、魔王様に気に入られ、気付けば城中がリノの虜に。
捨てられた生贄オメガが、裁縫一つで魔王城を「世界一のマイホーム」に変える、ほのぼの逆転溺愛ファンタジー!
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