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13・ミッションイン…

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「さてと、ルビィお願い!」

『まかせてぇー!』

部屋に戻ってきた私は、ルビィの予備のメイド服に早速着替える。髪をキュッと結びポニーテールの部分は頭の上でお団子にする。
カチューシャで頭を隠すと意外とばれないものだ。

『さあ、いいわよ。発動させて、』

陽炎フォスキーアセッカ

椅子に向かって呪文を唱えると、蜃気楼の様なモヤがでてくる。しばらく手をかざしていると、徐々に形が作られ、それは椅子に座ったまま前を向いた“私”になった。
どういう仕組みかわからないが、ルビィの力を借りて自分の分身を作り出した。

「よろしくね、オリヴィア2号」

とイタズラに話しかけてみると。

「えぇ、まかせて。行ってらっしゃい」

と的確に答える。同時に頭の中に今の会話が聞こえてきた。幸いにもと言われているから、内側から鍵をかけて窓から脱出する事にした。
シュバルツは普通に周りをうろちょろしているが、人がするとシャッとうまく服の中に隠れてくれる。

そう、私はメイドに紛れてこの屋敷の状況を探ろうとしている。隠密行動は母から叩き込まれているので多少は通用するはずだ。ルビィに案内されてまずは洗濯場にいく。

「おはようございます」

すでに3人程が洗濯をしている。「お手伝いね!ありがたいわ!そこにあるものを干してくれる?」と何も疑われる事なく入り込む事に成功した。

「あーあ、私もアリーナ様付きになりたかったなぁー」

と洗濯をしている若いメイドが呟く。

「あぁ、旦那様の恋人ね」

隣で濯ぎをしていたベテランぽい女性が答える。

「旦那様って惚れっぽいから、そばにいればお手つきしてもらえたかもしれないのになぁー」

「やめときなよ、愛人なんて大変なだけよ。」

「でも、旦那様よ?素敵じゃない!」

「かっこいいし、優しいしね。でも、やめときなさい。ちゃんと自分だけを愛してくれる人と結ばれた方が幸せよ。」

「まぁ、アリーナ様だから奪えるかもって思っちゃってるところあるもんね。みんな。」

「後から来た子、みた?」

こっそり会話を盗み聞いていると、自分の話題が出たため、どきりとした。

「いいえ、でも綺麗な人だったってボーイ達が騒いでたわよ」

「そうそう!アリーナ様付きに選ばれた二人も、あの人が奥様になったら勝てないからアリーナ様を応援するって言ってた!」

「ドレスも入れ替えてやったっていってたわ」

どうやら、ヴィクトール卿のお手つきを狙ってメイド達はメイド達の思惑があるらしい。それにしても、やはりドレスはあちらが私のために用意された物だったらしい。そしておそらく、あの二人は公爵夫人、私付きの使用人だが今は、アリーナに付けられているようだ。

うーん…と考え込んでいると、ルビィが力一杯シーツをバサっとしたため、結構な風と水飛沫が飛んでくる。

「ルビィ!」

と顔を見るとニヤッと笑っている。仕返しに小さめのタオルをバサバサして水飛沫を飛ばす。キャッキャと楽しんでいると、いつのまにか洗濯が終わってしまい、今度はお湯沸かしを頼まれた。
屋敷の裏に廻り、薪を割っている男性の元へ行く。

「おや、新しい子かい?頼むよ」

穏やかな男性で、ニコッと笑うと目の横に深い皺ができる。カンカンと薪をリズミカルに割っている。
割った薪を集めるのを手伝っていると、ゴツゴツとした逞しい手に目が入った。
そこかしこに切り傷ができている。

「これかい?硬くなった皮膚が割れちまってな」

恥ずかしそうに手を隠してしまう。

「まって!ルビィ、ハンドクリームを頂戴!」

『これかしら?それともこれ?』

「木の香りのものがいいわ!ね、おじいさん!」

「なんだいそれは?」

手のひらに収まるほどの薄い缶の蓋を開けると木の香りがほのかに広がる。中にはクリーム状の保湿剤が入っている。それを少し手に取り、手のひらでくるくると温め、おじいさんの手に擦り込む。
同時に少しの回復魔法を混ぜる。気付かれないくらいのほんの少し。これも訓練になるのだ。

「何だか暖かいなぁ…」

不快感はないようで安心する。心なしか手が滑らかになった。「ありがとう、ヒリヒリしないなんて久しぶりだ、」ととても喜んでいた。
それから、大窯のしたに薪を放り込み、火をつける。

『あら、私の得意分野ね!』

「あ!まって!ル…」

高火力で一気に燃やされた薪は、炎を出す事なく一瞬で炭になった。同時に黒い煤も大量にあがり、風をおくろうと窯の入り口に顔を近づけていた私の顔が真っ黒になる。

そんな私を見てシュバルツも、ルビィも大爆笑していた。

「もー!真っ黒じゃない!!」

「おやおや、ほらこのタオルを濡らして顔を拭きなさい。」

近くにある井戸から水を汲み、タオルを浸すふりをしてシュバルツとルビィに水をぶちまける。
巻き込まれておじいさんまで水浸しになってしまった。

みんなで笑って仲良くタオルで顔や頭を拭いていると、突然話しかけられる。

「お前達、なにしてる?」

屋敷の影から顔を出したのは、ヴィクトール・ツーデンその人だった。

『げぇ』「うわぁ」

とルビィと、シュバルツ。

「ぼっちゃん。うるさかったですか?」

と薪割りのおじいさん。
私はパッとタオルで顔を隠して礼をとる。

「いいや、楽しそうな声が聞こえたと思ってね」

随分と穏やかなヴィクトール卿である。イメージがだいぶ違うように聞こえる。

「今度は漏電か?自分の家の中で迷子になったのか?パーティーはこっちじゃねぇぞ。」

とシュバルツが呟くからまた、吹き出しそうになる。
ぎゅむっとエプロンのポケットにシュバルツを突っ込む。
ゆっくりと歩みを進めるヴィクトール卿の足元を凝視する。そのまま通り過ぎておじいさんのところへ行ってくれと願うが叶わなかったらしく、私の目の前で高そうなブーツが足を止めた。

「君、びしょ濡れじゃないか。ほら、風邪を引くよ?」

肩を掴まれて上半身を起こされてしまう。
ヴィクトール卿の顔が思いの外近くにあり、びっくりしたが、それはあちらもそうだったらしく、浅く息を呑む音が聞こえた。
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