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30・黒いウサギとコンラッド

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「何故すぐに呼ばなかったんだ!!」

目の前で、背中に薄いピンクの布を小包の様にして背負って、短めの耳をぴょこんと立てた艶のある真っ黒な毛に深い海の様な濃い青の瞳の小さなウサギが一羽、プンスカと怒っている。

足元には手のひらくらいの魔法陣が敷かれており、毛で覆われたまんまるな足をトントンと動かして忙しなく動き続ける。
隣にはミルクティー色になってしまったシュバルツが、不思議そうにウサギの顔を覗き込む。

「おい!お前はあの黒いにいちゃんか?」

「あぁ、そうだ。魔法陣では小さなものしか移動できないからな。少し窮屈だがこの姿を借りている。」

「コンラッド、とっても…とっても可愛いわ!荒んだ心があらわれるようだわ!!」

ガバッと抱き込んでむぎゅーッと抱きしめると、ウサギさんの口からぐえええっと何かが潰れそうな音がする。

「オリヴィア、うれ、しいが、だめだ。後にしてくれ」

「ごめんなさい、ちょっと心がザワザワしてて…」

「全く、準備なんてしてないでついて行けばよかった。怪我はしていないか?ルビィが守ってくれてよかった。」

『あら、あなたとの約束よぉ。ちゃんと守ったでしょ?だからあなたも私との約束守るのヨォ?』

「わかってる。さてオリヴィア、今はどういう状況だ?」

ウサギが…いえ、コンラッド…ウサギか…短い手を頭の上に目一杯のばして、クルクルと耳と顔を擦っている。正直可愛すぎて話が入ってこない。
どうやら、ヴィクトール卿と一悶着あったことにご立腹らしく、目が若干吊り上がっている。
ベティは気を利かせて、この離れの掃除をしてくれている。もう夜も遅いのに申し訳ない…

「ヴィクトール卿はいよいよ私が必要なくなったみたいなの。屋敷には近づかない様言われたの」

「そうか!それは好都合だ!!」

家を追い出されたというのに、コンラッドは心なしか…いいえ、あからさまに喜んだ。
まだ、魅了の事やアリーナの事で調べたいことがあったが、そう簡単にはいかない様ですこしため息が出る。

「あの男のそばにオリヴィアがいると考えただけで気が狂いそうだった。いま、皇帝の謁見許可を得ているところだからもう少し待ってほしい。」

「えぇ?!そんなものどこからとったの??」

「ちょっとな。っと、誤魔化されないぞ。荒らされたのは部屋だけか?怪我は?」

「大丈夫!まさか室内であんなに大型の魔法を展開するとは思わなかったわ。ヴィクトール卿は本当にどうしちゃったのかしら?」

『ちょっとこれを見て。』

「それは、アリーナからもらっていたネックレス…」

『これ、強力な魅了魔法がかかってるのよ』

「このオレンジの宝石、ヴィクトール卿の机の上に置いてあったわ…」

『アクセサリーと、あのお嬢さん自体が魅了魔法をかけているのかもしれないわ。まえ、オリヴィアが言ってたことが気になってね、念のためもらっておいたのよぉ』

コンラッドがぴょこんとルビィの肩に乗っかって覗き込む。なんだか胸がざわりとしてルビィの手をぎゅっと握らせ、ペンダントを隠す。

『魅了魔法の上にシールドを貼ってあるから大丈夫よ?だいたい、この黒いウサギちゃんにこの魔法は効かないわよ』

「そ、そうなの?」

「オリヴィアがいるのに魅了魔法になんかかかるわけないだろ?安心しろ」

つぶらな瞳のもふもふ可愛いはずの黒兎が、とてもかっこよく見えた。寂しい離れに追い出されたはずが、何だか自分の家に帰ってきた時の様な、ホッとした気持ちになった。

「さぁ、皆さん、準備が出来ました。今日は寝ましょう」

ちょうど掃除を終えたベティが呼びに来てくれた。
湯浴みを終えてベティとシュバルツと一緒にベットにはいる。初めは恐縮していたベティだが、万が一のヴィクトール卿の夜這いに備えて、とコンラッド(ウサギ)がお願いすると快く頷いていた。

今日は討伐に、アリーナのとヴィクトール卿とのトラブルにとたくさんの出来事があった。
布団に入るとあっという間に眠りについてしまった。
次の日、扉に何かをぶつけられる音で目を覚ますまであっという間であった。
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