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「…騎士になりたかったのなら、身体だけでなく心も鍛えなければいけなかった。シリルが、どれだけ恐怖を感じていたか、お前も同じ経験をするといい。」
「は…え?同じ?どういうこと…ですか」
物を返せば許されるとでも思ったのだろうか、カイルはキョトンとした顔で私とアーサーを交互に見やった。
「お前の大事な物を奪ってやるよ。もう、騎士になるのは難しいかもしれないな。大切な物を奪われ、叫んでも誰も助けてくれない中でもがいてみせろ。騎士でなくても人を守ることはできる。」
そう言ってカイルの目の前にあった物の中から公印を取りアーサーに渡す。
「公印の窃盗は重罪。さらに不正使用と横領まであれば、救いようがないですよね。隊長」
「…ま…まってくれ!頼む!!あと1年で…」
私が何を言いたいのか理解したらしいカイルはさぁと顔色を変えた。まだ訳がわかっていないセリアは怒ったような見下したような目でこちらを睨んでいる。
アーサーがニコッと一瞬微笑むと彼女は頬を赤らめてアーサーに釘付けになった。
「まぁ、爵位は剥奪だね。それ以外にも、評判悪いから、ガードナーは。何人もの使用人から嘆願書が届いているよ。それに、領民も。よくぞここまで恨まれたね。」
アーサーがまるで楽しそうに微笑んだままそう告げるとカイルはがくりとうなだれ、セリアは一瞬にして無表情になった。ガードナーだけが慌てふためいてアーサーに縋り付くように転がり出てきた。
「な!!そんなバカな!!ちがう!それは…それはあいつが俺に仕事を押し付けてきたんだ!!俺は仕方なく…横領ではなくちゃんと有効に活用して…」
「あのね、公印はもう随分前に盗難の届が出ている。トラティリアは紛失した罰を受けているよ。それは使い物にならないのだけど、お前はそれを使っていろんなところから金を借りてるよね?その公印、無効だから、ぜーんぶお前の借金だよ?使用人や領民は無理やり手籠にさせられたり、虐待、過重労働を強いられているそうじゃないか。悪いけど、シーラがお前を叩き潰そうとしたもっと前から俺は目をつけていたんだよ。腐った貴族はいらないんだ。」
「ちがう、ちがう!!おれはほんとうは…公爵なんだ!!!だからもっと…」
「そんな…だって…父上は…俺たちは本当は偉いからって。公爵家は本当は我が家なんだと…」
「え?なに?どういう事なの?何言ってるの?」
3人はそれぞれに頭を抱えてその場に崩れ落ちる。ガードナーは騎士によって連行され、カイルとセリアは親戚預かりとなったが、預かるものが誰もおらず、修道院とアカデミーの寮へ預けることとなった。
母親はと、探したが二人ともガードナーがメイドに産ませた子でそのメイドもクビにされどこに行ったかも分からない状態だそうだ。伯爵の領地はとりあえずアーサー預かりとなるが…私をみてニッコリと笑っていたので嫌な予感はしている。
カイルについては、学費を前納していること、私も通う予定であるアカデミーの騎士科であったので、普通科に転向し、私の監視下にて心根を叩き直すことにした。
絶望して顔中の穴から液体を垂れ流していたカイルは、言葉にならない言葉で、ありがとう、すまなかった、すまなかった。と壊れた機械の様に繰り返していた。
「シリルに言え、私に許しを出す権利はない」
と答えると「そう…か…」と言ったきりだまってしまった。
今回の件は確かに、私が仕組んだせいだ。あの日、あの一家がトラティリアを訪ねてきた日にわざと、私の部屋に呼び込んだ。
私の宝石箱に触れさせるために。
万が一の場合に奴らの屋敷に乗り込む名目が欲しかった。
まんまと一番高そうな宝石を盗んでくれた。
なにもなければそっとしておいてやるつもりだったが、どうもきな臭かったのでアーサーに話を通すと、「友達が困っているんだから」と助けてくれる事になったのだ。
まぁ、アーサーから預かった国宝が盗まれたということは事実なので動かざるを得ないのだが。
「アーサー、私に恩を売るふりをして上手く使ってくれたな?」
帰りの馬上でアーサーの隣に馬をつけ、そう声をかけると奴はちょっと怒った顔をした。
「シーラが裏切って結婚するからだろ。」
「裏切ってなどいないだろ、なに言ってんだ。」
「いーや、僕は許さないよ!僕のプロポーズを断っておいてさっさと他のやつと結婚するなんて、裏切り以外の何者でもないね。僕にはおまえしかいないのに。」
「それは、お前がだな…」
そんな風に話していると、いつのまにかトラティリア邸に到着した。ことの顛末を話すためにアーサーはじめ、兵士の者たちをそのまま邸に招く事になった。
公爵は丁寧にもてなしてくれ、兵士達にまで部屋とお茶を用意してくれた。私とアーサーは応接室で公爵に今回のことを説明していた。
一通り話終わり、兵士たちがまつ部屋へとアーサーを案内することにした。
「は…え?同じ?どういうこと…ですか」
物を返せば許されるとでも思ったのだろうか、カイルはキョトンとした顔で私とアーサーを交互に見やった。
「お前の大事な物を奪ってやるよ。もう、騎士になるのは難しいかもしれないな。大切な物を奪われ、叫んでも誰も助けてくれない中でもがいてみせろ。騎士でなくても人を守ることはできる。」
そう言ってカイルの目の前にあった物の中から公印を取りアーサーに渡す。
「公印の窃盗は重罪。さらに不正使用と横領まであれば、救いようがないですよね。隊長」
「…ま…まってくれ!頼む!!あと1年で…」
私が何を言いたいのか理解したらしいカイルはさぁと顔色を変えた。まだ訳がわかっていないセリアは怒ったような見下したような目でこちらを睨んでいる。
アーサーがニコッと一瞬微笑むと彼女は頬を赤らめてアーサーに釘付けになった。
「まぁ、爵位は剥奪だね。それ以外にも、評判悪いから、ガードナーは。何人もの使用人から嘆願書が届いているよ。それに、領民も。よくぞここまで恨まれたね。」
アーサーがまるで楽しそうに微笑んだままそう告げるとカイルはがくりとうなだれ、セリアは一瞬にして無表情になった。ガードナーだけが慌てふためいてアーサーに縋り付くように転がり出てきた。
「な!!そんなバカな!!ちがう!それは…それはあいつが俺に仕事を押し付けてきたんだ!!俺は仕方なく…横領ではなくちゃんと有効に活用して…」
「あのね、公印はもう随分前に盗難の届が出ている。トラティリアは紛失した罰を受けているよ。それは使い物にならないのだけど、お前はそれを使っていろんなところから金を借りてるよね?その公印、無効だから、ぜーんぶお前の借金だよ?使用人や領民は無理やり手籠にさせられたり、虐待、過重労働を強いられているそうじゃないか。悪いけど、シーラがお前を叩き潰そうとしたもっと前から俺は目をつけていたんだよ。腐った貴族はいらないんだ。」
「ちがう、ちがう!!おれはほんとうは…公爵なんだ!!!だからもっと…」
「そんな…だって…父上は…俺たちは本当は偉いからって。公爵家は本当は我が家なんだと…」
「え?なに?どういう事なの?何言ってるの?」
3人はそれぞれに頭を抱えてその場に崩れ落ちる。ガードナーは騎士によって連行され、カイルとセリアは親戚預かりとなったが、預かるものが誰もおらず、修道院とアカデミーの寮へ預けることとなった。
母親はと、探したが二人ともガードナーがメイドに産ませた子でそのメイドもクビにされどこに行ったかも分からない状態だそうだ。伯爵の領地はとりあえずアーサー預かりとなるが…私をみてニッコリと笑っていたので嫌な予感はしている。
カイルについては、学費を前納していること、私も通う予定であるアカデミーの騎士科であったので、普通科に転向し、私の監視下にて心根を叩き直すことにした。
絶望して顔中の穴から液体を垂れ流していたカイルは、言葉にならない言葉で、ありがとう、すまなかった、すまなかった。と壊れた機械の様に繰り返していた。
「シリルに言え、私に許しを出す権利はない」
と答えると「そう…か…」と言ったきりだまってしまった。
今回の件は確かに、私が仕組んだせいだ。あの日、あの一家がトラティリアを訪ねてきた日にわざと、私の部屋に呼び込んだ。
私の宝石箱に触れさせるために。
万が一の場合に奴らの屋敷に乗り込む名目が欲しかった。
まんまと一番高そうな宝石を盗んでくれた。
なにもなければそっとしておいてやるつもりだったが、どうもきな臭かったのでアーサーに話を通すと、「友達が困っているんだから」と助けてくれる事になったのだ。
まぁ、アーサーから預かった国宝が盗まれたということは事実なので動かざるを得ないのだが。
「アーサー、私に恩を売るふりをして上手く使ってくれたな?」
帰りの馬上でアーサーの隣に馬をつけ、そう声をかけると奴はちょっと怒った顔をした。
「シーラが裏切って結婚するからだろ。」
「裏切ってなどいないだろ、なに言ってんだ。」
「いーや、僕は許さないよ!僕のプロポーズを断っておいてさっさと他のやつと結婚するなんて、裏切り以外の何者でもないね。僕にはおまえしかいないのに。」
「それは、お前がだな…」
そんな風に話していると、いつのまにかトラティリア邸に到着した。ことの顛末を話すためにアーサーはじめ、兵士の者たちをそのまま邸に招く事になった。
公爵は丁寧にもてなしてくれ、兵士達にまで部屋とお茶を用意してくれた。私とアーサーは応接室で公爵に今回のことを説明していた。
一通り話終わり、兵士たちがまつ部屋へとアーサーを案内することにした。
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