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歓喜に沸くモアラート王国side 第十六話
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「ちょっと!早くドレスを持ってきて!やっと私に相応しいドレスが着られるわぁー」
王宮の王太子妃用の部屋は、絢爛豪華なドレスや装飾品、靴に髪飾りとあらゆる贅沢品で溢れかえっていた。
アクア・パトリックはモアラート王国の王太子クレイ・モアラートと5歳の頃に婚約をした。宰相である父が縁を結んでくれた。
アリアはそれは大切にガラスを扱うように育てられてきた。自分の欲しいものは何でも手に入れる。かと言って大切にするわけではないのですぐ壊したり、無くしたりする。
それは物だけではなく、人にも同じだった。
あるときは、取り巻き令嬢の兄を気に入りめちゃくちゃに命令して大怪我を負わせたり、下級貴族のメイドの婚約者が欲しくてメイドを首にしたり、手に入らなければ幼女誘拐や様々な犯罪をでっち上げて牢屋に入れたりしてきた。
齢5歳にして、である。
アクアには秘密があった。それは、一度アクアとして過ごしたと言う知識があると言う事。
自分が絶対的な『ヒロイン』であると言う事を知っているのだ。
だから何をしても破滅しないし、失敗もしないし許される。
咎められる事なく、周りが罰せられる事で、『ヒロイン不滅』の意識は悪い方へと育っていった。
「何で前の人生の記憶があるか分からないけど、余裕過ぎて楽しいわ。前回もなかなかだったけど、騎士と結婚したから、今度は王子様にしたのよね」
ツメに小さな宝石を散りばめ、キラキラと輝かせてうっとりと見つめる。
その手は昨日まで、赤黒く醜い塊だった物だ。
時々痛むし、重くなる。まずもう見た目が悪い。最悪だった。
「あの女、前回はクレイと結婚してたけど、何者だったんだろ。悔しかったなぁあれは」
自分じゃない、しかも普通の女が自分より上にいき、みんなにチヤホヤされる。自分は普通に成り下がってしまった。悔しくて、悔しくて旦那や子どもをイジメ抜いた。最後はどうだったか覚えていない。
でも苦労した事もないし、困った事もなかった。私は幸せに暮らしてた。
2回目の人生で、城であの女を迎え入れたときの気持ちよさは忘れられない。お前のものを奪ってやったぞと、そう言ってやりたかった。
「アクア、イイかな?」
開け放たれたドアからクレイが顔を出す。
「クレイ!みて!このドレス、素敵でしょ?ありがとう、プレゼントしてくれて」
くるりと一周してみせる。無邪気に喜ぶ子供のように。
あの女もこんな感じだった。好きなんでしょ?こー言う女が。
「ああ、よく似合ってる。その…腕の調子はどうかな?あの…あの女にその後返されてない?」
「優しいのね、クレイ。ありがとう大丈夫よ。あの女まさか幼い頃呪いをかけた相手が私だなんて思わないでしょうね…」
そう。アクアは“リリーから呪われた”と嘘をついていた。本当は隣国の汚いガキを刺した時の呪いなのだが、その前から呪われていた時に『町外れの、孤児院にいる子に妬まれている』と時々話して聞かせていた。
あの女の特徴、茶色い髪に茶色い目、平凡だけど孤児院のある場所まで全て当たっていたため、クレイは手放しで信じてくれた。
それから、あのガキがあの女に助けられた事、これもまた良かった。傷は治っていたがガキは何故か呪われていた。『彼も呪われたのね!かわいそうに』とでも言えばたちまち信じた。
「あんなに酷い人間がいたなんてね。魅了の魔法を使ってると分かっていても苦痛だったよ」
前回は、それはそれは愛おしそうに大切にしてたけどね。ほら、普通の物なんていくらでも変わりが効くのよ。
「クレイ、あの孤児院は…どうなったの?」
「それが、救出に行ったんだがみんな…いなくなっていたんだ。少し前の…乾いた大量の血痕が残されていたんだ。だから…」
「あぁ…かわいそうに。あの女の追放ではなく、処刑すれば良かった。罪もない人々を救えたかもしれないのに」
「アクア、君のせいじゃないよ」
クレイは優しくアクアを包み込んでくれた。背中をそっとさすり、慰めてくれた。
孤児院を消したのはパパの雇った盗賊だけどね。その後捉えた大物の魔物2匹を離して盗賊までも始末したのよ。
ああ、楽しい。全てうまくいく。
私はこの世界で一番なんだから。
「ところで、あれからシルを見ないんだけど知らない?ヴォルフもいないんだ」
「それは心配ね、シルはあの女といたから。」
あんな、地味で呪われた男さっさといなくなって欲しかった。呪いを軽減できるとか言うからそばで飼ってやったけどもういらないからどうでもイイ。
ヴォルフは黒い鎧のデカい男よね?そっちはちょっともったいないから…探させようかしら。
逞しい身体に抱かれたらどれほど幸せか…
アクアの頭の中はこれから起こるであろう幸せでいっぱいになっていた。
王宮の王太子妃用の部屋は、絢爛豪華なドレスや装飾品、靴に髪飾りとあらゆる贅沢品で溢れかえっていた。
アクア・パトリックはモアラート王国の王太子クレイ・モアラートと5歳の頃に婚約をした。宰相である父が縁を結んでくれた。
アリアはそれは大切にガラスを扱うように育てられてきた。自分の欲しいものは何でも手に入れる。かと言って大切にするわけではないのですぐ壊したり、無くしたりする。
それは物だけではなく、人にも同じだった。
あるときは、取り巻き令嬢の兄を気に入りめちゃくちゃに命令して大怪我を負わせたり、下級貴族のメイドの婚約者が欲しくてメイドを首にしたり、手に入らなければ幼女誘拐や様々な犯罪をでっち上げて牢屋に入れたりしてきた。
齢5歳にして、である。
アクアには秘密があった。それは、一度アクアとして過ごしたと言う知識があると言う事。
自分が絶対的な『ヒロイン』であると言う事を知っているのだ。
だから何をしても破滅しないし、失敗もしないし許される。
咎められる事なく、周りが罰せられる事で、『ヒロイン不滅』の意識は悪い方へと育っていった。
「何で前の人生の記憶があるか分からないけど、余裕過ぎて楽しいわ。前回もなかなかだったけど、騎士と結婚したから、今度は王子様にしたのよね」
ツメに小さな宝石を散りばめ、キラキラと輝かせてうっとりと見つめる。
その手は昨日まで、赤黒く醜い塊だった物だ。
時々痛むし、重くなる。まずもう見た目が悪い。最悪だった。
「あの女、前回はクレイと結婚してたけど、何者だったんだろ。悔しかったなぁあれは」
自分じゃない、しかも普通の女が自分より上にいき、みんなにチヤホヤされる。自分は普通に成り下がってしまった。悔しくて、悔しくて旦那や子どもをイジメ抜いた。最後はどうだったか覚えていない。
でも苦労した事もないし、困った事もなかった。私は幸せに暮らしてた。
2回目の人生で、城であの女を迎え入れたときの気持ちよさは忘れられない。お前のものを奪ってやったぞと、そう言ってやりたかった。
「アクア、イイかな?」
開け放たれたドアからクレイが顔を出す。
「クレイ!みて!このドレス、素敵でしょ?ありがとう、プレゼントしてくれて」
くるりと一周してみせる。無邪気に喜ぶ子供のように。
あの女もこんな感じだった。好きなんでしょ?こー言う女が。
「ああ、よく似合ってる。その…腕の調子はどうかな?あの…あの女にその後返されてない?」
「優しいのね、クレイ。ありがとう大丈夫よ。あの女まさか幼い頃呪いをかけた相手が私だなんて思わないでしょうね…」
そう。アクアは“リリーから呪われた”と嘘をついていた。本当は隣国の汚いガキを刺した時の呪いなのだが、その前から呪われていた時に『町外れの、孤児院にいる子に妬まれている』と時々話して聞かせていた。
あの女の特徴、茶色い髪に茶色い目、平凡だけど孤児院のある場所まで全て当たっていたため、クレイは手放しで信じてくれた。
それから、あのガキがあの女に助けられた事、これもまた良かった。傷は治っていたがガキは何故か呪われていた。『彼も呪われたのね!かわいそうに』とでも言えばたちまち信じた。
「あんなに酷い人間がいたなんてね。魅了の魔法を使ってると分かっていても苦痛だったよ」
前回は、それはそれは愛おしそうに大切にしてたけどね。ほら、普通の物なんていくらでも変わりが効くのよ。
「クレイ、あの孤児院は…どうなったの?」
「それが、救出に行ったんだがみんな…いなくなっていたんだ。少し前の…乾いた大量の血痕が残されていたんだ。だから…」
「あぁ…かわいそうに。あの女の追放ではなく、処刑すれば良かった。罪もない人々を救えたかもしれないのに」
「アクア、君のせいじゃないよ」
クレイは優しくアクアを包み込んでくれた。背中をそっとさすり、慰めてくれた。
孤児院を消したのはパパの雇った盗賊だけどね。その後捉えた大物の魔物2匹を離して盗賊までも始末したのよ。
ああ、楽しい。全てうまくいく。
私はこの世界で一番なんだから。
「ところで、あれからシルを見ないんだけど知らない?ヴォルフもいないんだ」
「それは心配ね、シルはあの女といたから。」
あんな、地味で呪われた男さっさといなくなって欲しかった。呪いを軽減できるとか言うからそばで飼ってやったけどもういらないからどうでもイイ。
ヴォルフは黒い鎧のデカい男よね?そっちはちょっともったいないから…探させようかしら。
逞しい身体に抱かれたらどれほど幸せか…
アクアの頭の中はこれから起こるであろう幸せでいっぱいになっていた。
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