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第四話 雨月の祭り
雨月の祭り 拾壱
しおりを挟む当日、いつも賑やかな町は想像以上に活気に満ちていた。
香果さんは私が神社の拝殿に近くに居るのを見つけると、ニコリと優しく微笑んだ。
彼は真っ白な衣装に身を包み黒い烏帽子を見に包んでいた。初めて見たその恰好は見ているだけで浄化されると思われる程の美しさ、驚いてしまった。
「八雲君、もう直ぐお祭りが始まるよ」
「見学しても良いかな」
「勿論だよ」
「ただ、私はここの主神ということもあり、儀式はすべて藤華に任せていてね」
そういうと彼は後ろに視線をやった。 ひょいと香果さんの後ろから同じように真っ白な衣装が眩しい藤華さんが居た。手には笏を持ってた。
「旦那が良いと言うなら構いやせんがね。しかし八雲さん、お祭りに参列したことあるんですかい」
悪戯を思いついた様な笑みを浮かべていた。
「うっ、な、ないです」
「じゃぁ、オレが教えやすから後ろについてきてくだせえ」
「ありがとうございます」
参列者には妖怪も多くいた。
私は藤華さんのすぐ後を着いて行き、見様見真似で手を清めた後、拝殿の方に進む。
拝殿で正座をすると藤華さんは、大幣と呼ばれる神具でわさわさとお祓いをした。不思議と背筋がピンと伸びる感じがした。拝殿に入るとそこには細かな装飾がされていて、百段の香りがほんのりとした。
藤華さんが一礼をし、それに合わせる。
彼が御扉を開け、お供え物を捧げていた。そして祝詞を奏していた。
「玉串を奉りて拝礼」
するとどこからかきめ細やかで白く美しい肌の女性が出てきて、玉串を配った。その時なぜか私も渡された。その時にふわりと甘く優しい藤の香りがした。
「総代玉串を奉り拝礼」
「商店会一同、玉串を奉り拝礼」
前の人をチラチラ見ながら玉串を持つ。一人一人が順番に玉串を納めいよいよ私の番だと思うと不安で心臓が飛び出そうだった。
私は藤華さに助けを求めると涼しい顔をしていた。しかし、私と目が合うと、ウィンクをして、軽く会釈をした。私もそれに倣い一礼する。小さく笏を九十度時計回しで回すので、私も玉串を同じように回す。その後も彼のアドバイス通りにして、何とか無事に納めることが出来た。
藤華さんは捧げものを取り下げ、御扉を閉める。そして、深く一礼をして祭りの祭典は終わりを迎えた。
皆がぞろぞろと拝殿から出ていくのについていき私は拝殿を出た。儀式の前にはまだ建物達の影が長かったのにもうすっかり短くほとんど見えなくなっていた。外を見るとそこには香果さんが居た。
「お疲れ様八雲君」
「藤華さんが教えてくれたから何とか出来たよ。これで、香果さんの穢れは払えたのかな」
「嗚呼、本当に助かったよ」
「旦那、終わりやしたぜ」
「いつも本当にありがとう。感謝してもしきれないよ」
「取り敢えず旦那とオレは着替えて来やすから、八雲さんも屋敷に戻りやすか」
私はとりあえずここで待っているよと言い、暫く祭りの装飾に彩られた拝殿を外からぼんやりと眺めていた。十分くらいすると藤華さんと香果さんが拝殿に戻って来た。
「さて、旦那。オレは直会の準備してきやすから、どこか八雲さんと遊んできてください」
「いつもみたいにこっそり食べてり、飲んだりしてはいけないよ」
藤華さんは判ってやすと元気に行ってしまった。
「という事だから、八雲君が良ければ一緒に廻ってはくれないかい」
「もちろんだよ」
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